ガゼフに着いていって王国に仕官した単独転移アインズ様   作:万里支店

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本文中の六腕の戦闘は捏造が含まれます。


ラキュース&ティアVS六腕

 

「うふふ、ずいぶんと忙しそうね」

 

 《永続光》に照らされる中、十重二十重に重なる剣戟の音に混ざり、嘲るような女の声が踊った。

 こちらの無様がおかしくてたまらない。そんな口調に、ラキュースは胸中で焦りを募らせた。

――ギン! ギキキ、キィン!

 焦燥の間も鉄の噛み合う音が止まることはない。ラキュースは額に汗を感じているが、エドストレームは優雅に笑う余裕すらあった。

 

 その理由は、ラキュースとエドストレームの間に立つ二人の男。いずれも覆面をつけ、ぞろりとしたローブで体の線を隠している。一方は両手に剣を、一方は両手に細身のカイトシールドを付けていた。

 男の剣が迫る。ラキュースが受け、切り返すと、すかさず盾の男が割り込んできて、金属音。ラキュースの剣は防がれる。そして後方から風鳴り。身をよじり、飛来するシミターを避ける。<浮遊する剣群>で応戦するも、盾やシミターで弾かれた。

 戦闘が始まってから何度も繰り返されてきた光景だ。

 

 エドストレームの余裕の表情も頷ける。自身は浮遊する五本のシミターで攻防万能の補助に徹し、攻撃と防御を完全に分業した部下に担わせる。三人でありながら操る武具は十に及び、部下たちの連携は熟練。ティア・ティナにすら迫るだろう。

 ラキュースの中の、貴族の部分もまた、顔をしかめた。王国は、これほどの人材を取りこぼしている。

 

「射出!」

「させるか!」

 

 剣の男を狙い<浮遊する剣群>六本全てを投じるが、エドストレームのシミターと盾の男に阻まれ届かない。逆に手薄になった自身の四方からシミターが、正面から男の剣が迫ってきた。

 

「くっ……! ティア! こっちに来れない!?」

 

 薄氷の拮抗を破るにはこちらも手を増やすしかないだろう。そう思いティアに声をかけるが、帰ってきたのは怒りの滲む声だった。

 

「こっちもまだ! こいつは潰しておかないと……!」

 

 いつも冷静な彼女らしからぬ様子に驚き、ラキュースはちらと背後に視線をやった。ティアはエドストレームの部下たちと戦闘中である。その中心に立つ皮鎧の女を、ティアは感情が伺えるほどに注視していた。

 

「そいつがいったい……」

「おしゃべりなんて余裕ね!」

「くっ……!?」

 

 横合いから飛来するシミターが頬を掠める。はらりと金の髪が散った。身をかわした先に剣の男が構えている。そちらにキリネイラムを向け直すと、視界の端で盾の男が盾ごと体を押し込んでくるのが見えた。バッシュだ。

 キリネイラムで剣を防ぎ、鉄靴で盾を踏んで後方へ退避。跳んだ先に迫るシミターを<浮遊する剣群>で弾き、避ける。

 

「ハァッ、ハァッ……」

 

 息つく間もない攻撃の連続に、汗と呼吸が否応なく増えていた。

 

 エドストレームはその様子を眺めながら唇に笑みを浮かべ、その実ラキュースを見誤っていたことを悟っていた。

 謹製の手駒とエドストレーム自身。この布陣で負けたことはおろか、苦戦すらしたことはない。同じ六腕が相手だったとて、デイバーノックとゼロ以外には負けないし、その二人を相手だって勝ち筋がある。そう思える布陣だった。

 

 シミターを飛ばしながら斥候の女を見る。その女が執着してる鎧の女を見る。あちらはまだ大丈夫だ。まだ斥候を引き付けておける。

 あの女は『自分に向けられた敵意を増幅する』という《生まれながらの異能》を持っている。囮としてこの上ない能力といえよう。ラキュースも虜になってくれれば背中から刺して終わるものを……。

 とはいえ勝利は時間の問題だ。

 

「すごい汗ね。あんまり粘ると死に顔が醜くなるわよ」

「大きな、お世話よッ!」

 

――ギンッ

――ガギン!

 

 剣が、鎧が、盾がぶつかり合う音が続く。絶え間ない連携攻撃にラキュースの動きも激しくなる。明らかに体力を削る策だ。

 汗が目に入らないよう手早く拭いながら、ラキュースは手詰まりを自覚していた。

 

 この三人を抜く突破力を、私は持っていない。

 大技を放とうにもその隙はなく、いずれ体力が尽きるか支援魔法が切れれば動きが綻び、あとは絶命までの下り坂。どうすればこの窮地を脱せるか、幾度目かの思案をする。

 

 <浮遊する剣群>を駆使し男のどちらかを一気に叩く。それが出来ないからこうなっている。

 <浮遊する剣群>でエドストレームを狙い、動揺を誘って男のどちらかを倒す。それが出来ないからこうなっている。

 男たちを無視してエドストレームを斬る。それが出来ないからこうなっている。

 

 ぐるりぐるりと頭が空転する。そもそも集中して考えられるような状況ではない。今こうしている間も剣を振り、剣を避け、動き回っている。

 エドストレームの微笑が目についた。こちらは鎧下のギャンベゾンの重さが変わるほどに汗をかいているというのに、格好も相まって涼しげなものだ。

 その様に苛立ちを持って、ふと。

 床に落ちているクナイが目についた。

 当然、ティアのものだ。当然、彼女もいるのだ。

 激しく動き回る中で視界に入ってはいたが、完全に戦場が別れてしまい、意識していなかった。

 ティアは未だに皮鎧の女に拘泥している。眉を寄せ、歯を剥き、技の精緻さは見る影もない。常の怜悧さなど、欠片も見えない。

 

 であれば、今私の斬るべき相手は。

 パーティとして。

 

「ティーア!」

 

 ラキュースの声に、ティアは煮えた頭と無関係に動いていた。幾度も繰り返した連携。呼名のアクセントによる指示。射線を空けろ。

 飛び退くティアの目の前で、皮鎧の女へと<浮遊する剣群>が殺到し、瞬く間に体を串刺しにした。密集陣形で女を守っていた周囲も巻き込まれ、悲鳴が上がる。

 女の死を直視したティアは、急激に冷める頭で自分の仕事を再確認した。

 音もなく忍刀を抜き放つと眼前の生き残りの首へぬらりと走らせた。そうして上がった血飛沫が落ちるより早く、ラキュースの隣へと並び立つ。

 

「終わった。おまたせ」

「私はまだ。でももうすぐね」

 

 自然とラキュースの頬が弛んだ。先ほどまでの息苦しさはもうなく、指先までがほぐれていくのを感じていた。

 敵の誰が動くより速く、ティアの指文字が動く。ラキュースはそれを見ると裂帛の気合いと共に斬り込んだ。

 

「ぜぇぇあああああ!!」

 

 狙いは盾の男。戦況の変化に微かに動揺していたようだったが、すでに持ち直している。ラキュースの大振りにも余裕を持って盾を掲げ構えていた。

 

 その影をティアが踏む。

 

 ぞぶり、と、盾を掲げて空いた脇に、ティアの握る白刃が滑り込んだ。腋窩の動脈を切断しながら食道、気道を刺し貫く。盾の男は覆面の内側に血の泡を吹き、膝をついた。

 

「なっ……!?」

「はぁっ!」

 

 すかさず、ティアは男の体を蹴り、剣の男へと倒れこませた。熟練の連携相手が目の前で死んだ。その事実に動揺した男は一瞬対応が遅れ、そこに振るわれる魔剣キリネイラムによって肩口から心臓までを切り裂かれた。

 

――ガキ、キィン

 

 骸から剣を抜くより早く響いた金属音。ラキュースの首と膝裏に迫ったシミターたちを、ティアが弾いた音だった。

 

「やってくれたわね……!」

 

 怒りの顔と声を作りながら、エドストレームはすでに撤退を決めていた。

 六腕級とは言わずとも、十分に強者の域にあった部下ふたりを抵抗の余地なく殺してのけるなど、完全に予想外だった。

 頭の中で退路を探る。脱出口は正面の扉と、背面の隠し戸。隠し戸の方が近いが、解錠の手間がかかる。部下が生き残っていれば分担できたが、仕方がない。

 エドストレームは六本のシミターのうち二本を手で掴み、蒼の薔薇のふたりと正対した。

 

 エドストレームは自分の実力を正しく理解してる。単純な剣技ではミスリルからオリハルコン程度だろう。自分が六腕の一角として、アダマンタイトと同格程度に見られているのは、五本のシミターを熟練の戦闘者のそれと同じく操る魔法があってこそのもの。

 それを今両手に二本、宙に四本で構えているのは、相手のふたりが近接戦闘の専門家として自身より上だと認識しているからだった。アダマンタイトの戦闘者がふたり。しかも一方は自分によく似た浮遊剣の使い手でもあるのだ。手数で完全に負けている。

 

「くらいなさいっ!」

 

 エドストレームはふたりの顔目掛けてシミターを飛ばしながら正面の扉へ向けて走りだした。ここを逃げ延びさえすれば生きる道はある。

 

「甘い!」

 

 背後から金属音。顔の前に浮遊させるシミターで背後を映すと、ラキュースは剣で弾き、ティアにはシミターを捕まれている。舌打ちが漏れる。手数がひとつ減った。

 飛来する剣を浮遊するシミターで弾き、手足を浅く裂かれながら逃げる。

 外まではまだ十歩以上距離がある。軽装のエドストレームと鎧を着たラキュース。だというのにラキュースはいとも容易くエドストレームの背に追い付いていた。

 ガシャガシャと鎧の足音に自分の死を感じながら、エドストレームは努めて冷静に機を伺っていた。

 まだ早い。まだ遠い。

 今だ。

 

「え?」

 

 間の抜けたような声。ラキュースのものだ。仕方の無いことだろう。今目の前で背中を向けている獲物が、肩の間接を無視した軌道でシミターを振ってきたのだから。

 すでに握っているシミターを操り、人体にあり得ない軌道で斬りつける。"踊る三日月刀"エドストレームの隠し技。知らぬ者の命を刈り取る秘剣だった。

 

――ドスッ

 

(とった!)

 

 エドストレームは必殺を確信した。

 刀身に映る鏡像ではラキュースの首にシミターが突き立つ。手には深々と肉に食い込む感触がある。

 次の瞬間にも鮮血が噴き出し数秒の後に息絶えることになるだろう。

 もうひとりも動揺は免れまい。今際の一撃には気を付けねばならないが、これで逃げおおせる。

 私の勝ちだ。

 

 エドストレームは、希望を胸にしたまま己の脳髄を晒した。

 

「ふぅ」

 

 ラキュースが息を吐く。エドストレームを唐竹割りにしたキリネイラムを抜き取り、丁寧に血と脳漿を拭った。

 

「ありがとうティア。助かったわ」

「お安いご用」

 

 剣を鞘にしまうラキュース。その首には一筋、血が垂れていた。

 エドストレームの最後の一撃は、確かにラキュースに届いていたのだ。

 

 ティアが屈んで足元のクナイを拾った。そのクナイ、持ち手の輪にシミターの切っ先が食い込んでいる。これだ。これが、エドストレームの手応えとラキュース生存の矛盾の種。

 ティアはエドストレームの攻撃を見切り、その終点にクナイの輪を合わせてみせたのだ。

 針の穴に糸を通させる離れ業と言えよう。

 

「相変わらず無茶をするわね」

「鬼ボスほどじゃない」

 

 ラキュースは視線でクナイを示した。そこには未だにシミターが噛み合っている。

 

「それを合わせる方がむちゃでしょ」

「悔しいけど、ゴウンの支援に助けられた。でも鬼ボスも、斬りに行ってた」

「まあね。なんとかしてくれると思ったし」ラキュースは肩を竦めた。「ならなくても六腕は減らしておかなきゃ」

 

「鬼ボスらしい」

「褒めてるの?」

「半分」

 

 ラキュースは苦笑した。

 

「私も視野が狭くなっていたわ」

「私も」

「ティナに知られたら?」

「面倒」

「ガガーランには?」

「もっと面倒」

「イビルアイなら?」

「ううん……、小言?」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

「内緒にしましょう」

「賛成」




他人に作用するタレントってのが自分でもあまり納得いってませんが、「召喚モンスターを強くする」「穀物の収穫を5日早める」「アイテムの使用制限を無視する」あたりの拡張ということで
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