ガゼフに着いていって王国に仕官した単独転移アインズ様   作:万里支店

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本文中の六腕の戦闘は捏造が含まれます。


ガゼフVS六腕

 クライムが突貫する少し前。ガゼフとぼろ助は自分達が突撃する倉庫の扉脇に控えていた。倉庫への突撃の合図は、小瓶の割れる微かな音だ。

 

「ぼろ助殿」

 

 ガゼフの小声にぼろ助が顔を向ける。

 

「先ほど貴方の指揮権はアインズ殿からラキュース殿に移されていたが、今は俺の指示に従っていただけると思っていいのだろうか?」

 ぼろ助が頷く。

「ありがたい。では簡単な作戦だが、中には六腕が最低ひとり。あとは複数人の部下がいると思われる。この頑丈な扉を素早く破るには、膂力で言ってもぼろ助殿が適任だろうと思う」

 ぼろ助が頷く。

「なので、まずぼろ助殿には扉を破ってもらい、そのまままずは部下の掃討をお願いできないだろうか? 敵もまさかこれほど懐深くまで、強大なアンデッドが侵入してくるとは思っていないはずだ」

 ぼろ助が頷く。

「六腕に当たってもらってもいいのだが、中の六腕が誰か分からない以上、まずは手早く数を減らしたい。それには俺よりずっと体が大きく重い、そして突進力のあるぼろ助殿が適任なように思う」

 ぼろ助が頷く。

「よし。ではぼろ助殿は六腕の部下を抑え次第、俺の加勢に来てくれ。アインズ殿の支援を受けた今、必ず来る加勢を信じて受けに徹するくらいはわけもない」

 ぼろ助が拳で胸を叩いた。金属同士の接触だというのに、不思議と音がしない。これもアインズの支援の効果だった。

 

 方針が決まり、しばし待つ。

 すると、隣の路地から駆け出すクライムが見えた。数瞬遅れて、小さな小さな破砕音。

 ぼろ助はそれを合図に猛然と駆け出し、少しも勢いを殺さずほぼ直角に曲がり、全身で扉をこじ開けた。

――ドゴガゴォォォォン

 そんな轟音を上げながら、外開きの扉は内側に弾けた。

 

「オオオァァァアアアアアアーーー!!」

 

 アンデッドによるウォークライ。扉破壊の轟音と合わせて響き渡るそれは、倉庫内の人間を萎縮させるのに十分な威力を持っていた。騒然とする室内にぼろ助の疾駆する足音と悲鳴、人の撥ね飛ばされる音が連なっている。

 そんな中、ただひとりだけがぼろ助の突進から逃れ体勢を整えていた。髪と手足の装甲が赤い、金糸刺繍を身に纏う貴族のような装いの伊達男だ。

 

「あれは、鎧トゲ丸……? なんで暴れてやがる」

 

 ガゼフはぼろ助を目で追うその男へと斬りつけた。

 

「ぜやぁぁ!!」

「<即応反射>、<回避>!」

 

 視線を取られていたとはいえ死角からの攻撃とはいかず、ガゼフの一撃はすんでのところで避けられた。赤毛の男は仰け反ったまま素早くステップを繰り返し、ガゼフから距離を取った。

 

「今の一撃にその顔立ち……。ガゼフ・ストロノーフか?」

「いかにも。貴様こそ先ほどからの身のこなし。六腕の一角だな?」

「ご明察。字を"千殺"のマルムヴィスト。これから風穴の空く頭に入れておくといい」

 

 赤毛の男……マルムヴィストは優雅にも思える動きで剣を構えた。薔薇の咲くような意匠のレイピアをガゼフへ向け、その剣に隠れるように真半身を取る。これによりマルムヴィストへ向かうすべての物は、まず切っ先を迂回しなければならない。

 ゆらゆらと嘲笑うように揺れる切っ先を、ガゼフは落ち着いた様子で眺めていた。攻め込ませるための誘いだ。それが読めているため、正眼に構えていた剣を下ろす。無論両手は柄から離さない。ガゼフはぼろ助が蹂躙を終えるのを待てばいい。下段に下ろした剣は待ちの意思の表れ。剣を下げることで腕を休めると共に、間合いに入れば手首の操作で素早く剣先を跳ね上げ、股下から切り裂く腹積もり。

 

 状況は自分に不利。マルムヴィストはそう分析した。時間をかければ化け物の暴れる先が自分に向くのは自明。そうなればあの巨躯と分厚い鎧を相手に効果の薄い突きで戦わねばならない。

 生き残るためには速やかにガゼフを殺し、逃げるしかない。

 

「よぉ。どうやってアイツを、トゲ丸を操ってる? ボンクラ王子が積極的に俺たちと敵対するとは思えないが」

 

 トゲ丸。初めて聞く単語だったが、ガゼフには不思議な確信があった。アインズがバルブロに貸し与えた死の騎士のことだろう。

 揺さぶりや情報収集目的の会話であることは明らかだったが、時間をかけて有利になるのはこちらだ。ガゼフは会話に応じることにした。

 

「彼は名をマントぼろ助という」

「……なるほど、別個体か。あれほどのアンデッドを複数体使役できるとなると、終戦の逸話もどこから脚色か分からないな。全く、デイバーノックのやつめ、格好の研究対象がいるってのに」

「不在か」

「野暮用でな」

 

 呆れたように笑うマルムヴィスト。短く返すガゼフ。会話の間にもいくつもの応酬があった。足のにじりで、目の揺らぎで、上体の傾きで……。幾重にもかける誘いの虚実。しかしガゼフは動かない。実力が拮抗するとされる相手のこと、迂闊な誘いに乗っては瞬く間に決着がつくだろう。ガゼフはつとめて心を凪ぎ、待ちの姿勢を崩さなかった。

 

 比して、マルムヴィストには焦りが募る。彼の耳にはおぞましいアンデッドの咆哮が、部下たちの悲鳴が聞こえ続けている。あれが聞こえなくなった時、自分は無惨な死体に成り果てる。

 マルムヴィストの顔貌に決死の覚悟が宿った。やらねば死ぬ状況がそうさせた。やるほかない。

 

 マルムヴィストには今、十人からなる優秀な魔法詠唱者部隊の支援が乗っている。冒険者等級で言えばミスリル級、中にはオリハルコン級の者までいる。

 乱戦となる前から、仕事の備えとしてマルムヴィストが掛けさせたものだ。今の自分はアダマンタイトを超えている。その自負とともに、レイピアを握る右手を引き絞る。手の甲が上向くほどに、これ以上はないほど内旋させ、胸の前まで引き絞る。そうして静かに武技を発動させる。

 

 <能力向上><能力超向上><流水加速><穿撃>

 

 瞬間、左足を残してマルムヴィストの姿が滲んだ。

 爆発的な蹴り出しによる超高速の踏み込みは、柔らかな月光の包みを突破して易々と常人の知覚を突き破る。

 加速する視界の中、マルムヴィストには見えていた。ガゼフの剣先がゆるりと持ち上がるのが。

 

――かかった!

 

 <重撃>

 

 マルムヴィストの真なる奥の手。動作の途中からなる武技の発動。一秒を数十に分割して行われる精緻極まる身体操作。

 これにより、マルムヴィストは体勢も重心も、その一切を変えずにわずかに減速する。敵の迎撃・防御の拍子を外しつつ、細く軽い武器の重さを補う一手。マルムヴィストの踏み込んだ前足を斬るはずだった剣は空を斬り、ならばとレイピアを弾こうにも<重撃>の乗った刺突は容易く弾けるものではない。また、<重撃>であれば鎧貫きも難しくない。

 マルムヴィスト常勝の策である。

 

 加速された中でことさら遅く見えるガゼフの剣先は、今ゆっくりと上がっていく。マルムヴィストの右膝のわずか手前を、虚しく空振っていく。その後、やはり剣はマルムヴィストの手の薔薇を狙って軌道を変えた。バカめ。内心でほくそ笑む。

 

(貴様は武器を弾くのに失敗し、俺は軌道を逸らされても肉を穿つ。それが勝負の分かれ目だ!)

 

 果たして、ガゼフの剣はマルムヴィストの剣を弾くことなく振り上げられ、マルムヴィストに無防備な前面を晒した。

 

 表情の無いガゼフ。

 確信に笑うマルムヴィスト。

 傾ぐ薔薇。

 宙を踊る、三本の指。

 

 驚愕に目を丸めるマルムヴィストは、しかしふっと笑った。

 

「届かねぇか……」

 

 切り返しに振るわれる弐の太刀。無念そうな、満足そうな顔で、マルムヴィストの悪行は清算された。

 身勝手に悪と不幸を振り撒き、身勝手に清々しく死んだ悪党に、ガゼフも義憤を抱かないではないが、今は手の中の感覚を握りしめていた。

 常の自分であれば、ここまでの圧勝はあり得なかったろう。マルムヴィストの一閃は確実に自分の肉を削り、勝てたとて体にいくつも穴が空いていたはずだ。

 そうなっていない理由は明らかだ。

 

「アインズ殿……」

 

 アインズの支援魔法。その強力さを思い知る。それは確かに強く、そしてどこか優しいものだった。

 今の剣には、普段のガゼフにはない繊細な変化があった。

 

 虚実を織り交ぜる駆け引き。 僅かな拍子の乱れ。 精密な刃筋。

 無論、そのどれもガゼフにとって未知のものではない。だが今の戦いでは、それらがかつてない鮮明さで見えていた。

 アインズの支援によって生まれた余裕が、これまで見えていなかった剣の世界を見せてくれていた。

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