神獣が現れた島とは八丈島だった。
委員会に連絡をとった護堂と祐理は早速とばかりに社用車とチャーターにぶち込まれ一時間ちょっとで八丈島に乗り込んだ訳だが……その間、二人には氷山でもぶち込まれたような冷えきった無言の空間があった。
観光地として名を馳せた八丈島に来たのだからホエールウォッチングでも洒落こむのだろうが、そんなに親しくも色っぽい仲でもない二人は流れ作業のような迅速さで神獣が流れ着いたという海岸に向かっていた。
おそらく正史編纂委員会が指示を出したのだろう。途中、検問が張られ観光客のみならず地元住民すら憤然とした表情で反対側の車道を通っているのが見えた。
そんな検問しらんと突っ切っていくのが護堂たちの乗る車両なのだが。
「えらく物々しいな……」
「はい。神獣があらわれた付近一帯を封鎖しているとお聞きしました。やはり荒ぶる羅刹の王の方々ほどのお力はないとはいえ相手は神獣です。人の身には荷が重い……『王』のご助力を願った委員会の判断は正しく思います」
「そ、そうか」
護堂のつぶやきに、一言一言を吟味した神妙な言葉が返ってきた。そしてその表情は能面である。顔の筋肉が先ほどからピクリとも動いていない。ちょっと前までもう少し打ち解けていた気がするのだが。
気まずい。
これまで何度も祐理と無言状態になってきたが、今が一番気まずい。護堂も軽率にあんなものを受け取ってしまった非があるため強く出られない。
くそっ名波のやつ!
発端は名波から渡された例のブツだ。あのブツは既に祐理の手によって没収され、それ以来祐理はずっとこんな調子だ。明確に引かれている。ドン引きである。
後部座席に並んで座っているわけだが、祐理の方向をからは凄まじい圧力を感じてしまう。無意味にシートに付いている小物入れのチャックをいじったり、ウィンドウの調子を確かめて気を紛らわす。
「到着いたしました」
果たして救世主は現れた。
救世主──運転手さんが先程までの重苦しいやり取りを聞いていたのか生ぬるい苦笑いをしながらドアを開けてくれた。
もういっそ記憶を消してくれ、護堂は顔を覆って外へ出た。
「神獣ってお前だったのか……!」
護堂は叫んだ。
八丈島・底土海水浴場。
一年で一番日の長い夏至の季節とはいえ、そろそろ日も落ちる時間に護堂たちは神獣の待つ地へとやってきた。
底土海水浴場は岩場の海岸が多い八丈島に作られた人工海水浴場だ。
沖合にはサンゴ礁があり、たまにウミガメが浅瀬のほうにも顔を出す。夏季シーズンになると、海水浴客で賑わい堤防ではシュノーケリングや飛び込みをしたり、それ以外のシーズンでも釣りを楽しむ観光客が訪れる。
透明度の高いブルーの広がる美しいビーチだが、今は赤い。
ギチ、ギチ……。その赤い砂浜でオオムカデがとぐろを巻いて佇んでいた。
ムカデの一般的なイメージは最悪だ。普通の人間からしたら嫌悪をおぼえる害虫に違いない。
それに神に連なるものはとびきり美しいか、とびきり異形か、二つに一つだがオオムカは明らかに異形側だ。正史編纂委員会の人間も腰が引けているし、傍らの祐理ですら怯えを隠せていない。
だが護堂は砂を蹴っ飛ばし、水しぶきを立てて駆け寄った。
オオムカデは護堂のよく知る既知の神獣だった。
神獣オオムカデと護堂の付き合いは短い。だが、深い。
なんせ布袋に監禁されている間、ずっと身を寄せあって生きていたのだ。水も食料もないあの洞穴で十日も命を繋げられたのはオオムカデのおかげだった。まるで命尽きようとしていた仏陀に乳粥を供えたスジャータのごとく衰弱し続けていた護堂にとって慈雨そのものだった。
「ごめん。色々あってお前のこと忘れてたんだ。すまなかった、本当に。お前がいなきゃ俺は死んでたのにな」
オオムカデの硬質な外殻の感触が懐かしい。護堂は謝意をあらわすように、その外殻へおでこを付けた。
そして悟った。
「……そうか……お前、もう、長くないんだな…………」
触れてみて分かった。外殻はひび割れ、青い血が流れ出して止まらない。布袋に刺された杭や切断された胴も治癒していない。
生き残るためとはいえ護堂もオオムカデを散々な目に合わせてしまった。鹿島神宮では『雄牛』でズタボロにし、洞穴では『駱駝』で蹴っ飛ばした。聞けばアレクがニライカナイ島を創るのにオオムカデの神力を求め、捕獲されたとも聞いた。
どう考えても長くはない。神獣はカンピオーネやまつろわぬ神ほど頑丈でもないし、蘇りもしないからこれが最期になるのだろう。
種族も違い、言葉もかわせない相手だ。しかし護堂は一抹の寂しさを覚えた。
──ぎ、ぎ……!
オオムカデが最後の力で触覚を動かし、外殻の隙間から取り出した”何か”を差し出してきた。
「もしかして、それ──プロメテウス秘笈の残骸か?」
プロメテウス秘笈。護堂がカンピオーネになって以来、ずっと彼の中に潜んでいた偸盗の神具はアレクとの戦いで姿を現し、タタリ神の手によって砕かれたはずだ。
あまりに切羽詰まった状況のなか破片の回収すら許されず撤退する羽目になった。それをオオムカデは拾い集め、護堂が現れるまでずっと待ち続けていたらしい。
神代の叡智が綴られた魔導書に、過日の神々しさはない。でもこの神具は生きている。人類に火を贈った文化英雄神の仄明かりがまだ残っている。
《偸盗の秘石》を両の手のひらに収めた。
じんわりとした熱は人肌ほどの熱さしかないのに護堂の心臓を苛烈に燃え上がらせ、潮騒ではない血潮のごうごうとした音が鼓膜を叩いた。
プロメテウス秘笈は護堂の肌へと溶け出して特徴的な
刺青は面妖なことに独りでに動き出し、やがて護堂の手首にブレスレットを巻くように円を描いた。もう護堂の奥底で隠れひそむ気もないらしい。
「ありがとう」
感謝とともに硬質な触覚を、握る。
唐突に硬質な触覚が、ざらりとした石の触感へと変化した。ぴし、ぴし……護堂の言葉を聞き届けたオオムカデが崩れて消えた。
やれやれ、また抱え込んじまったな。
来るもの拒まずの自覚はあるとはいえ、最近になって自分の身体に巣食うやつらが増えた。ウルスラグナの化身にプロメテウス秘笈、それに神獣オオムカデの残り香も《偸盗の秘石》とともに入居してきた。
もう好きにしてくれ。メゾン・ド・ゴドーはまだまだ入居者募集中だ。
「あの、草薙さん……。先ほどの神獣は……?」
困惑した様子の祐理に応えようとした、その時だった。
──おぎゃあ、おぎゃあ!
「赤ん坊の泣き声……?」
オオムカデの躯体が崩れたのと入れ替わるように、赤ちゃんの高らかな泣き声が砂浜に響き渡った。そして──
カンピオーネ特有のセンサーが起動した。
宿敵の居場所を獣のごとく嗅ぎ分ける。まつろわぬ神の接近を知らせ、その上、戦闘態勢へ強制移行させる魔女パンドラからの贈り物。
気配の根源は崩れ去ったオオムカデの砂の中。あの中にまつろわぬ神がいる。
眼光鋭く、最大限警戒とともに祐理を後ろに控えさせていると砂山が盛り上がった。そして現れたのは──
「──赤ん坊と鷹……?」
赤ん坊を抱えながらオオムカデのいた場所から飛び出してきたのだ。いい加減、でたらめな展開に慣れてきた護堂とはいえ驚きを隠せなかった。
鷹、と言っても体躯は小さい。イーグルではなくホークといったところ。羽色は輝く銀色で、嘴や鉤爪は金色という豪奢な鷹だった。いや……鳥類特有の
そんな鷹が鉤爪に赤ん坊を引っ掛けて飛んでいる。
鷹はそのまま砂となって消えたオオムカデの上で、ゆるく旋回しつづけた。どうやら護堂の気配にも気づいていない。
そして鋭い嘴を開くと……
『そうですか、水と大地の子は旅立ちましたか……』
「鷹が喋った!?」
きゅああん、と鳥の鳴き声とともに若い女性の声が聞こえてきた。祐理も聞こえていたのか大きく目を見開いて呆けている。どうやら間違いないらしい。しかし呆けつづけているのも上手くない。
護堂は恐る恐る、鷹と赤ん坊の奇妙なコンビへと近づいた。
「あんた、いや、あんたたちか。もしかしてオオムカデの中で隠れていたのか?」
『──あら? これはこれは見事な勇士の殿方……オホホ、いえ、なんでもありませんわ。ええ、異形ではあれど優しい子でした。聖秘儀の祭壇に迷い込んでしまった我々を胎内で隠してくれていたのです』
そうか、と口を引き結びながら護堂も呟いた。
どうやらまつろわわぬ神とはいえ、同じ人物? に救われた仲間らしい。手首に触れながら鷹と赤ん坊の神様たちに向き合う。
改めて見ても、なんとも奇妙な組み合わせだ。
鷹と赤ん坊の神話なんてあったか? まつろわぬ神は基本的に神話をなぞるから、似たような神話がないか脳内検索してみるがヒットするものはなかった。
眉間を揉みながら仕方ないので聞いてみる。
「あんたとその赤ちゃん、まつろわぬ神……なのか? 一応、俺の身体が反応してるからさ」
『その物言いやはり神殺し殿でございますか! これも『
「火の神? ……でした、ってことは今はそうじゃないのか?」
元女神らしい牝鷹は羽根をひるがえして護堂の前に止まり、そして牝鷹の抱える赤子は状況を良くわかっていないのか神々の天敵たるカンピオーネへ「あー、ぶーっ!」と無邪気に手を振っている。
「はあ……。また厄介なのと巡り合わせたもんだな……とりあえず自己紹介でもするか。俺は草薙護堂。あんたたちの名前は?」
『名前ですか? 残念ながら本来の名は失っていまして。……特に不便でもなかったため名無しの鳥ですわ。まあ、そうですね。”ヒエラクス”とでも”メリッサ”とでもお呼びください』
「名前を失った、ってのはちょっと気になるけど今は置いといて……あー、それじゃあメリッサでいいか。赤ん坊の方も名前がないのか?」
『ええ、はい。御子にも名はありません』
牝鷹──メリッサはキッパリと言い切った。
『ですが草薙さまがお望みならば名を与えてあげてはどうでしょう?』
「名付けろって言われてもなぁ」
「ぅ~~~……?」
毛布に包まれた赤ん坊を覗き込むと純真無垢な瞳と目があった。
感情の読み取れない瞳だ。とはいえ邪な感情も感じない。無理に忌避するのも気が引ける。
「生後一ヶ月くらいの赤ん坊ってところか。こんな神様もいるんだな」
生まれて間もない嬰児だが──その容貌は美麗に尽きる。
異形か美しいかどちらかに分かれる、というこれまでのまつろわぬ神の特徴をしっかり踏襲している。
日に焼けた赤銅色の肌。仏教の荒々しい明王を思わせる
どうにも護堂がカンピオーネだと認識してないらしい。それどころか、カンピオーネの存在しているかすら怪しい。自分が神だという自覚も。
しかし相手は一応、まつろわぬ神。
警戒を解かずに赤ん坊を注視すると、神殺しの視線に気づいたのか赤ん坊が動くのをやめて護堂を見つめ返してきた。この世界においては二番目に若いカンピオーネとまつろわぬ赤ん坊神は、この上なく見つめ合った。
「「じぃ~~~~~……」」
ちなみに命名する名前は全く思い浮かばない。
『まあ、長くかかりそうですわね……。そこな下女よ、わたくしは少々つかれました。我が翼では御子を
「え──きゃ!」
「あ、お、おい!」
少し離れたところで成り行きを見守っていた祐理がいきなり矢面に引っ張り出された。
メリッサが赤ん坊を祐理の腕に押し付けたのだ。
護堂が慌てて駆け寄り、支えてやるとよろめきながらも赤ん坊を胸に掻き抱くことができたようだ。しかし咄嗟のことで祐理の腰辺りまである長い髪が赤ん坊の顔に触れ、嫌がるように身動きして落ち着きがない。
「ぅ〜……!」
「あ、そう暴れてはいけませんっ」
イヤイヤして腕から抜け出そうとする赤ん坊を何とか押し止めようとする。
ただ祐理は絶対的な筋力がない。というより貧弱だ。
半袖の制服から伸びる腕は折れそうなくらい細く、とてもではないが肝っ玉母さんのようなパワフルさが見受けられない。文字通り、祐理には荷が重そうだ。
見かねて護堂が助け舟をだした。
「大丈夫か? 俺が抱いてもいいんだけど」
「い、いえ! 草薙さんのご面倒をかける訳には行きません! それに妹が幼いころには面倒を見ていましたから……!」
これ以上言っても無駄だろう。護堂は助け舟を回収した。
祐理は変なところで頑固だから、護堂の助けは固辞しつづけるだろう。
とはいえ正直不安だ。
今にも赤ん坊を落としそうなのもそうだが、何より赤ん坊は人間ではなく神に連なる者なのだ。急に気が変わって襲れたら流石にひとたまりもない。
淑女に対してあまり褒められた態度ではないが護堂も心配で、支える意味でも警戒する意味でも祐理の肩に触れる。
「ぁ、ぇ」
祐理が驚いた様子で肩に添えられた手を凝視し、さきほどまでの不安定な姿勢を返上してピーン! と背筋が伸びた。
俯いている祐理の表情は見えないが何故か首元が真っ赤になっているのを不思議に思いつつ「これは、早まったか?」と護堂も焦った。
少女特有の柑橘系の香りが、鼻腔をくすぐる。それに肩を支えて引き寄せたから祐理の体温と柔らかな肌の感触がしっかりと伝達してくる。
それを強く意識する前に牝鷹のメリッサとがパタパタと護堂の肩へと飛び乗った。そして金の翼を大きく掲げる。
『さあ、草薙さま! 名も無きこの御子を哀れとおぼしめせ! ならばそれを拭うに相応しい名をお授けください!』
「待て待て待て待て! 勝手に話を進めるな!」
さすがはまつろわぬ神、力は衰えていても自己を世界の中心だと思っている輩なのは変わらない。神様の勝手さに振り回されるのもなんだか慣れてきた護堂は渋い顔をしながら手首を擦った。
「……って、万里谷?」
祐理が虚空を見つめがら、何事かつぶやく。これは以前見たことがある──霊視だ。
「数多の偉業を成し遂げる若き英雄……。天空を統べ……大海を超え、数百の島を踏破し、やがて来たる
『──そこまでにしておきなさい』
「っ!? ッはぁはぁ……ッ!」
赤ん坊の名にたどりつこうとした瞬間、メリッサの鋭い声が霊視を阻んだ。ふっと糸が切れたように悄然とした祐理の体が護堂に寄りかかってくる。慌ててくずおれる祐理と落としそうな赤ん坊を支えた。
『我ら神々の奥底まで見通すとなると小さい土瓶へ大海を流しこむような愚行です。己が分を弁えることです、名も知らぬ娘よ』
メリッサはため息をついて地母神の裔たる乙女に女神の威厳そのままに諫言を漏らした。衰えても女神という事か、制御出来ぬまま過剰な負荷の掛かっていた霊視を打ち切ったようだ。かなり器用な神らしい。
「も、申し訳ありませんメリッサさま……」
『ただの下女と思いましたが……知らぬ神とはいえ神に仕える巫女でしたか。しかしそなたは少々、目が良すぎるように思えます。目の閉じ方くらい知っておくべきでしょう。……我ら神々には忌まわしき屈辱の過去をもつ神格もおります。そして、その者たちは何よりも己の過去を覗き見られることを嫌う、よく心得ておくことです』
「は、はい」
叱責を受けて縮こまる祐理を横目に、話題を変えるように護堂は託宣を反芻してみた。
「しっかしさっきの祐理の話、聞き覚えがあるなぁ。爺ちゃんの蔵書にあった気がする。ギリシャの英雄だかなんだかで割りかし可哀想なやつだったな。名前はなんだったかオデッセイ? オー、デウス……?」
『オデュッセウス、でしょう』
「ああ、それだ」
ギリシャの英雄オデュッセウス。トロイの木馬を考案した知勇兼備の勇士。
確かに祐理が霊視した内容と流浪の勇士オデュッセウスの共通項は多い。とはいえオデュッセウスに類似した逸話はユーラシア大陸の各地にある。彼の原型となった逸話は汎ユーラシア……東西にまたがる大英雄なのだ。
『草薙さまはオデュッセウスの殿が気になさるご様子。ですがここは極東の島国ですから相応しいのは……──ふむ。オデュッセウスの殿とよく似た逸話を持つ流浪の英雄は、この極東にも幾人かおります。では巫女よ、そなたの名は?』
「えぇ!? 私の名でございますか!? ……ま、万里谷祐理と申します……!」
よもや神から名を求められるとは思っていなかったのか祐理が驚声をあげつつ名乗った。
『マリヤ・ユリ、と。ならば御子の名は一つしかないでしょう。純潔なる百合の花弁が抱く若き御子──百合若という名を授けたく思います』
「わ、私から名を取るのですか!? い、いえそれに百合若……メリッサ様、もしかして、あの流浪の英雄百合若大臣から引用なされたのでしょうか」
『あら……。意外と学はあるのですね』
「有名な奴なのか? そいつ」
「はい。16世紀ごろの比較的新しい説話ですが日本各地に広がり、様々な形で信仰を得ている英雄神です。たしかに私の託宣とおなじく流浪の英雄だったと記憶しています」
祐理に話を聞くと『百合若大臣』は江戸時代の浄瑠璃で人気だった演目らしい。内容としては復讐譚。
蒙古襲来の折に鉄弓で敵をなぎ倒しのはいいが、その後、百合若大臣は部下に裏切られ孤島に置き去りにされることとなった。
なんとか博多まで帰還した百合若大臣は裏切った部下が嫁をNTRらんとしていることを知り、ボッコボコにしたという。
オデュッセウスとかなり類似した説話だが、なんでも百合若大臣とオデュッセウスの明確な繋がりは現代でも見つかっていないらしい。
加えて百合若大臣は"緑丸"という鷹を配下にしていたのだが、その点はこの赤ん坊と女神の関係を思わせる。
とはいえ緑丸という鷹は百合若大臣に仕えていたらしいので、赤ん坊とメリッサとは違うようだ。
小柄なれど光沢のある羽根を翻して牝鷹は言う。
『御子に百合若と名付けますがあえて、御子が百合若大臣という名の神格ではないと否定致しましょう』
「そうなのか?」
『ええ。わたくしたちは以前までは……そうですね半月ほど前でしょうか。それぞれ天地万物を司る神と謳われるに相応しい力と権威をもつ神格でした。わたくし自身はここより遙か南方にある島に隠遁していたのですが──突如、現れたこの御子と戦いになったのです』
「なんか急に話が不穏になったな……」
「わたくしのかよわき乙女の肉体は潰えました。しかし、わたくしの《英雄拘束》の権能とこの御子の《太陽拘束》が相打つ形で混ざり合い、奇妙な形となってしまったのです』
「奇妙な形?」
『《相互束縛》とでもいいましょうか。我ら二人、似たような権能で縛り合い、その上、離れられなくなってしまったのです……それも大きく力を落とした状態で!』
「あー、だから神様にしては力が小さかったのか」
翼を無駄に逆立てながら主張する。
確かに神を二人も相手取っている感じはしない。神獣よりも少し強いくらいだ。
メリッサは哀愁を誘うポーズを取って、翼で痛ましげに顔を隠しチラリと人間二人の観察してみる。
(巫女のほうは案外押しに強そうですね……。やはりここは流され易そうな草薙さまですか)
『ああっ草薙さま! 草薙護堂さま! この島の英雄方の気乱れ合う威風は痛烈にして血風は恐ろしすぎます! 卑小なわたくしと幼き御子とでは英雄の方々が巻き起こす嵐のなか旅立つには心細い……どうか聖秘儀が終わるまでの間、我らをお
「
突然の嘆願に護堂は声をあげて隣の祐理と顔を見合わせた。
「って言われてもなあ、お前たちは神様なんだろ? 自分たちだけでどうにかできるんじゃないか……?」
『お見捨てに……なられるんですね……』
うるうる。
肩に止まったメリッサが凄まじく近い距離で迫ってくる。護堂は思わず後ずさったが肩に止まっているから距離は変わらない。
ぁうー、と百合若と名付けられた赤子が護堂の制服と祐理の毛先を無遠慮に握りしめている。これを引き離すのも大変そうだ。
『こんな
「だあああっもう分かったよ!」
思わず叫んでしまった。
厄介な問題がやってきた……というより呼び込んでしまったのか?
流石は騒乱に愛されたカンピオーネというべきか、護堂は思いがけないトラブルの発生に思わず頭を掻きむしりたい衝動に駆られた。
※誤字報告ありがとうございます!ホンマありがたいです!
化身の順番を間違えていたとは……自刃します……!
メリッサ……一体何洋の女神なんだ……