後頭部に受ける重力が軽くなった感覚のあと。次いで感じたのは、匂いの消失と幻視を見ているのと同質の浮遊感。
先刻まであった寒さや雨風の不快感から解放され、いまは節々に受ける抵抗感だけがあった。濁々と流れくる時空に逆らっているのだ。
時間感覚がひどく曖昧で、ゆっくりだ。
眼下には髪を切り落とされ、自失した自分が徐々にくずおれていくのが見える。
「これは……
『驚くことはありません。我が魔導の秘奥にてそなたの秘める精神感応の才を覚醒させたのです』
空に昇天する祐理に従円するかのごとく"マナイアカラニ"を鉤爪で携えたメリッサが追従する。
「私に、精神感応の才が……?」
『ええ。わたくしは天と地のはざまたる地上をすべて見通す女神ですよ? 最初から見抜いておりましたが、そなたは自覚がない様子でしたので良い機会でしたし力ずくで目覚めさせました。髪を切ってしまったのは許しなさい。恨むならば己の未熟を恨むことです』
髪は女の命といい霊力を秘める器ともいうが、それを無理やり切飛ばすことで祐理の秘められた才覚を呼び覚ましたらしい。
祐理はうなじほどで消失してしまった髪に触れ、なんとも言えない気分になった。
肩で髪を切りそろえた髪型はまるで
危機的状況とはいえ、長らく大切にしていた髪だ。黒髪というには茶味が濃く、少々コンプレックスではあったが予告もなしに切られれば思うところもある。
『そなたは今、アストラル体にあります。脱魂状態というよりは幽体離脱といった方が通りがよいかもしれませんね』
精神感応は常人には見えない霊的な触手を伸ばし、人の心や魂を操る術だ。
その秘術の延長線に、術者の肉体とは別に霊力で作り出したアストラル体を活動させるという幽体離脱の術がある。
メリッサは精神感応の才を磨くまえに一足飛びにこの術を行使させたらしく、そのため荒っぽい手段となったようだ。
幽体離脱は一般には臨死体験として知られるが、本当に死んだかと誤認してしまった。
祐理はホッと息を吐いた。
『さて。──ここにわたくしは宣言するでしょう。
メリッサは宣言を下した。
あるいはオデュッセウスへタルタロスの門をくぐり予言者テイレシアースの霊を呼び寄せよと導いた神話のごとく。
『この神事。そなたが積み上げて来たものを真っ向から否定する形となるでしょう』
「……積み上げて来たもの、ですか?」
訝しげに言うものの、アストラル体となり霊感が異常に鋭敏となっているのかメリッサのいわんとする所をなんとなく察した。
かつて火の女神が万里谷祐理という巫女を評した言葉。
七雄神社に護堂やメリッサ、百合若を迎え入れる際に洞にて語っていた言葉。
あのとき火の女神メリッサは祐理を"未熟"と指弾した。
──真なる火は揺らめくことはないのだと。
──情動は一直線に向かうものなのだと。
『そなたは恋をしているでしょう?』
来た。メリッサの穏やかでありながら冷々然とした言葉の刃。祐理の恥じらいに装飾された深奥まで一息に突き刺す言葉。
ほんの数時間前、唇を重ねた少年──護堂に思慕と形容していいのか分からない想いを伝えた。そこから身を落ち着ける間もなく投げられる急すぎる問い。
「た、たしかに草薙さんへの好意はあります。で、ですが……それが恋なのか……」
萎縮するように俯いて、小さく呟く。
魔術の効かない経口摂取しか受け付けないカンピオーネへ、教授の術を施すため唇を重ね合わせたのはほんの数時間前だ。
流されたとはいえ、恋人の睦言のように。
顎を引かれ、後頭部を抑えつけられ、荒っぽく強引に奪われた唇。異性との交流がほとんどなかった態勢ゼロの乙女には刺激が強すぎ、術の行使もままならないほどの衝撃が襲った。はじめは野伏の強姦じみて粗野で野蛮でありながら、目を回す自分を慮って、求め合う恋人の口唇を繋ぎあわせる房事へとすり替えてくれた。
奉仕すべき巫女の恥知らずな失敗を清らかなる乙女の恥じらいで追いやった彼の気遣い。
羞恥と歓びで胸が高鳴るのを自覚し、眦が下がる。
しかし──
(やはり私には……草薙さんの寵愛を独占するに相応しい地位の人間では……。ないように、思えます……)
戒めるように歯を食い縛り顎を引いた。
「はい。草薙さんへ私は好意を抱いています」
きっぱりと言い切る。「そして」と祐理はつづけた。
「草薙さんは苦難の途上にあられます。その渦中で恥じらいを恥知らずの心で追いやるのはあまりにはしたなく思います。……やはりこの気持ちは蓋をすべきです」
『わかっています』
燃え上がるような慕情へと導くメリッサの手を、振り払うような言葉を吐いた。
その自覚があればこそ、愛に焦がれ激情に身を任せる火と恋の女神をして叱責されるだろうという確信があった。
しかし、その予感は大きく外れた。
メリッサは声を荒らげることもなく遥か高みから見下ろす慈愛の眼差しで祐理を見詰めていた。そこに冷寒さは少しもなく囲炉裏を囲むような奇妙な温かみがあった。
『純真にして貞淑なそなたが、裡に宿るその焦がれるような火を忌避するのは……わかっておりました。無心たれ。静謐たれ。静閑たれ。己に言い聞かせてきた貞節なる巫女としての在り方を間違いだとは申しません。そなたが積み重ねてきた一朝一夕を否定するつもりは毛頭ありません』
そこに奔放なまつろわぬ神の姿はなかった。
覗かせるのは、愛と恋に耽溺しながらも乙女の恋の成就を願う乙女神のすがた。
零落と衰弱によってまつろわぬ性の薄れ、浮上してきた真なる神としての
小柄な鷹の後影に映るのは、誰?
あの銀髪の美しい女神は、誰?
糸杉のごとくほっそりとした美少女。
祐理の可憐さすら凌ぐ──いや、人であれば何者であっても侵すことの出来ぬ美貌。
歳の頃は人間でいえば一五、六か。夢見る乙女のように長いまつげ、薔薇色の頬、さくらんぼのごとき唇の可憐さ。
稀代の職人がたゆまぬ几帳さで毎夜月光浴を浴びせたかのように、銀に輝くどこまでも長い巻き毛。
しかし、美貌と同時に異形でもあった。彼女の両腕と、腰から下の全てが真鍮で造られていた。肉感的な肢体が途切れ、鈍い光を帯びた金属が代わりに生えている。
真鍮造りの義手・義足・義体。
これは甲冑でも聖衣でもない。彼女の負った、癒えない傷なのだと。
そう──銀髪の美しい女神は死にかけだ。
──豪。豪。
髪は女の命だ、と人は言う。女の髪は魔性を秘めるのだと、人は言う。
その髪が腰の先から炎上している。
決して浄化の火ではない。火の女神の意に沿わぬ業火が燃え盛り、銀の髪を穢して塵へと還す。煙が乙女の美肌をすすまみれにし、真鍮製の義体を褪せさせていく。
あの火は彼女を燃やし尽くす焔。
祐理は沈痛な面持ちで顔を伏せた。
不躾に視線を送るのはあまりに憚れた。
「メリッサさま……。やはり……御身は……」
もう、長く、ない。
あの髪が燃え落ちる時、不死なる女神は死を得るのだ。
薄々察していたその言葉を、言霊には出来なかった。
『我が真なるすがたを見透かしましたか。そう……わたくしは
ああ、祐理は慨嘆に暮れた。
人がどれほど団結し力を結集させようとまつろわぬ神に抗う術を持たない。そしてまつろわぬ神も己を害さない路傍に転がる人間たちを視界には収めない。
慈悲や興味を示すのは神にまつろわぬ性という狂気が失われた時。虚妄に包まれた者が死を直前にして正気を取り戻すがのごとく。
わかっていた。わかっていたはずなのに。
護堂とメリッサと百合若。この奇妙な呉越同舟に浸るのが心地よくて、いつのまにか忘れていた。
終わりはいつか、訪れるのだ。
「南洋の媛神メリッサさま。いえ……暁の女神キル──」
「──しーっ、乙女は秘密を
蠱惑的な仕草で唇に人差し指をあてて艶然と微笑むメリッサは、同性の祐理をしてどきりとする魅力があった。
『
瞬間、おなかの底にズンと沈殿するような不安と恐怖が落ちてきた。考えても見なかった脅威の示唆。
草薙護堂のもとに自分とあの薔薇の乙女以外に──誰かが割り込んでくる。反射的に覚えたのは込み上げるような怒りと嫌悪感。留守居を狙って狼藉を働く空き巣への侮蔑にも似た感情だった。
『そなたは、許せて?』
ぶしつけなメリッサの質問。
「いや……嫌です……。それだけは認められません……」
凶悪無惨なカンピオーネだと知る以前から、草薙護堂の真心は感じていた。彼がカンピオーネだと知り、自失し、結果的に最悪な邂逅となったが……。
だが、彼の性根はずっと心に植え付けられていた。
カンピオーネがどれほど恐ろしいかと慄き、侯爵との凄惨な過去を思い出そうと彼の真心が暖かく照らしてくれた。
正史編纂委員会の度重なる神獣討伐の依頼を断らなかったのも、そのため。戦場へ趣き、会うたびに心がほぐれ、募る思いは重なり続けた。
「
今だってあの人の安否を思うと……居ても立ってもいられないのに。
『弼馬温』 の術式が崩れ、草薙護堂は単身まつろわぬ神へと挑んでいるのに、だれも供にあろうとしない。だのに寵愛と庇護だけは掠め取ろうというそんな虎狼の輩を許してたまるものか。
万里谷祐理は激情にまかせて想いと覚悟を口にした。
もはや想いは定まった。
「──私があの方の妻となるかは、わかりません」
『ふふ。強情な子……ではどうなると?』
「はい。ですが、近い関係にはなるはずです」
凛然とし、誇り高く。
「私は、私の意思で望みます。あの方の──
『ふふふふ。ああっ、好ましい慕情ですよ我が
恋に焦がるる女神は祐理の熱烈さにあてられたように激賞した。
四肢も下半身も真鍮という目も当てられない身体で彼女は、興の乗ったように舞踊さながらの一回転を披露した。金属の軋む音と全盛期には遠く及ばないぎこちなさ。
けれど有終をありったけに詰め込んだ美が、祐理の目を離さなかった。
『無我。品位。貞節。それらを標榜する
少し淋しげな声音だった。
それも一瞬、瞬きを挟んだあとには慈愛を丹念に織り交ぜた柔らかい微笑が浮かんでいた。
『わたくしとそなた、何の因果か
──少しだけ寄り道をしておゆきなさい。
鮮やかな
燃ゆる神のメリッサが祐理の背中を押すように囁いた。
『焦がれるあの方が求める
「はい……はい。必ずや、草薙さんをお助けする光を持ち帰ります」
神具"マナイアカラニ"を受け取った祐理が目を閉じると、彼女の周囲に青白い光が立ち上った。
以前、炎舞で見せた揺らめくような橙の火ではない。メリッサが語った卓越なる
蒼き焔となった祐理のアストラル体が一条の閃光となって中禅寺湖へと飛び込んだ。この火は観念的な火、水に触れても立ち消えることはない。
絶頂を迎えたような感覚をそのままに。
衰えることのない盛火とともに。
祐理は異界への扉を開いた。
いやにハッキリと響く鐘の音が鼓膜を叩いて、祐理は身を起こした。
ふと気づけば、祐理は波打ち際に倒れていた。荒れた海を鎮めるために入水する
匂いはない。アストラル体に嗅覚は付随していないから、香りは耳と皮膚、そして目で風味しなければいけない。
祐理を取り巻く周囲は──赤だった。
波は血のように赤く。潮波は火の赤々しさを含んでゆらめく。
周辺を燃やし尽くす煉獄の火が、青々としているはずの大海を赤く染め上げているのだ。
火災に見舞われているというより、太陽の一部分へ迷い込んだようだ。
そんな苛烈な赤色の世界で、祐理だけが青味を帯びた炎だった。
──
メリッサに贈られた言葉を思い出し、目を凝らせば……あった。何処かへと一直線に伸びている髪束があった。
女神の道標をアリアドネーの糸玉のごとく遡る。
アストラル体は神速と言わなくとも非常に高速で移動が可能だ。ぐんぐんと抵抗もなく煉獄の世界を突き抜けるとブロンズ製の門が待ち受けていた。
「やあ」
声をかけてきたのは歳の頃が十ほどの少年だった。
以前、草薙家で幻視した緋銅色の髪と赤銅色の肌のまつろわぬ神に間違いない。
「また会ったね」
年端も行かない少年はその稚さに見合わない大人びたアルカイックスマイルで祐理を迎えた。
改めて対峙する少年は、真なる姿のメリッサに勝るとも劣らない童顔だった。
強烈な幼貌を受けて、祐理のなかで庇護欲と慈愛の心が爆発しかけた。まるで魅了の術にかかったようにグラつく精神をなんとか抑え、震える身でまつろわぬ征服神へと膝をついた。
「さすが暁の女神どのがもう一人のボクに継母と選んだ女性だ。ボクの肢体の輝きは、漁撈の神としての自慢の武器でもあったのだけどね」
赤ら顔の若子神は嬉しそうな声音を隠さなかった。
「お言葉……ありがたく頂戴いたします……」
神から放たれるプレッシャーに当てられながら息も絶え絶えに返す。
若子神はほかのまつろわぬ神々の例に漏れず美しい。それでいて異形だった。
メリッサのごとく四肢が砕けているわけではない、彼自身は五体満足で肉体の黄金律を啓示するかのごとく美麗なもの。
だが──
額に刻まれた
南洋においてタトゥーは神に由来神聖なものだ。タトゥーがより多く刻まれた者ほど身分の高い貴種であることを示す。
全身に刺青が刻まれ、身動きするたびに万華鏡さながらに体で宇宙を描く彼は……一体、どれほど高貴なのか。
幼児でありながら貴種。それでいて
銀色の髪に両手を縛られ、重ねた手に長さ一メートルほどの黒い棒状の石で杭打たれている。ブロンズの扉から釘打たれて吊り下がる彼はまさに異形そのもの。反目するように磔になった賢者プロメテウスさながらの聖性があった。
「若き日の御子よ、御身に願い奉りたき儀がございます。どうぞ非力にして非才なる我らの窮状打開の糸口を、その御業にてお授けいただきたく──」
「そういうのは嫌いだな」
会話の流れを切って、感情に素直なこどものように言葉を割り込ませた。
「ゴドーとおなじでボクはそういった仰々しいのは好きじゃないんだ。今だって勝手気ままに旅をしたいと喚く心を苦労して抑えているんだから。名前も、御子なんかじゃなくてちゃんとしたのがいいな」
「……ですが、なんとお呼びすれば…………」
「不思議だね。もう君はもう気づいてるはずだ。なのにそうやって迂遠なことをしようとする」
祐理は目を伏せた。
実のところ、この眼前の若子の真名をとっくに霊視で見極めていた。いや、それはもう百合若というもう一人の彼と暮らしている内に覗いてしまった名前でもあった。
けれど祐理は口を噤んで、その名を口にはしなかった。
メリッサと同じだ。
霊感で捕らえた神の名を濫りに口にすべきではない。零落した彼らの魂とも呼べる大切なものを無思慮に詳らかにするほど残酷なものはない。
家族を思うなら尚更だ。
「少し、イジワルだったね」
そして、若子神が退いた。
祐理は頭を下げ、平身低頭した。
「いいさ、他でもないわが継母たる君がのぞむならマウイでもない百合若でもない日輪の若子としてボクは在ろうと思う」
吊るし人たる若子は縛り上げられた両の手に目を走らせた。
「──きみたちが見せてくれる、夢の最期まで」
ぷつん。ぷつん。
時を追うごとに紗々とした銀髪が緊張して弾け飛ぶピアノ線のように千切れていく。メリッサの命にして寿命である御髪が確実に散っていく。
そしてメリッサの銀髪を炎上させる劫火の淵源……それはこの銅色の神から放たれる火焔。自儘に世を征服せんとする己がまつろわぬ性を、若子が堪えているためにこの程度で済んでいるのだ。
「今回は大丈夫。まだ彼女の御髪が尽きることはない。──彼女の御髪を使わなければね」
「メリッサさまの御髪を……。とは一体……?」
「ボクの神具"マナイアカラニ"は天地創造の神具だ。けれど、それだけじゃない。漁具としてもその神威を発揮する」
祐理の手にあった神具が鼓動とともに熱を帯びた。その躍動するリズムは釣り針だけではなく、若子神に打たれた黒い釘も同様だった。
祐理は目を瞠いた。若子を戒める釘こそ、神具"マナイアカラニ"の釣り竿だったのだ!
「釣り漁には、釣り針と釣り竿。そして釣り糸がなければ話にならない。まつろわぬ蛇を釣り上げるとなればただの糸では、いけない」
「それは……」
「儀式に相応しい魔性を秘めた
「──では。どうぞ、私の髪をお使いください。女神ほどの格はありませんが未だ男を知らぬ処女の髪です。若子さまに満足いただけるほどには役目を果たすでしょう」
若子神は祐理の髪を求めている。
そう悟った祐理は一も二もなく申し出た。メリッサに先ほど切飛ばされ
しかし祐理は凛然と胸を張った。
「ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていた……」
と言って若子神は年相応の稚気に溢れた表情を浮かべた。
「と言っても……実はこれ以上、君の髪は必要がなくてね。暁の女神が切り落とした分でちょうどいいのさ。きっと彼女もそう思って切ったんだろうけどね」
「あ……」
いたずらっぽく笑う若子に毒気を抜かれてしまった。
この儀式の直前、女神メリッサは祐理の長髪を切った。それは祐理をアストラル体にするだけでなく、"マナイアカラニ"を使うためでもあったのかと女神の智慧に感服してしまう。
釣り竿と釣針の間に見覚えのある茶味の濃い黒髪が現れた。
あれは万里谷祐理の毛髪そのもの。
「君の願いは聞き届けよう。いざ、我が神域の御業を御覧じろ」
そして若子神が磔になった手を動かした。手は動かなくても指は思い通りに動く。
ただ指が動いているというだけなのにしわぶく波のごとく異常に流麗な動きに、祐理は心肝を寒からしめる技倆を感じ取った。
万象を超克したまつろわぬ神の御業は、指先ひとつで地上の森羅万象を傀儡のごとく操って見せるという神威。
ヒトも毎日、飽きせず指を使う。何万年と紡ぎ、習熟させてきた技術。それがまったく及びに付かないほどの美麗な十指の踊り。
釣り漁は占いに例えられるほど、水物だ。いや漁撈という狩り自体、大きな波がある。
すべての漁で豊漁を迎えるものがいれば、それは人ならざる者。そして若子神は人ならざる神であるがゆえに、すべてで成功を手繰り寄せる。
ゆえに──儀式の成就は必然。
「我が継母よ。君が与えてくれた温もりは君が百合若と呼ぶ赤子を通じて感じていた。そしてボクは揺り籠に揺られ、子守唄のままに今一度眠るとしよう」
名残惜しむように、祐理の背中を押した。
「さあ、お戻り。そしてボクに……ぼくたちにもうしばらく一睡の夢を見せておくれ」