戦女神は微笑まない   作:につけ丸

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22話

 栃木県 戦場ヶ原 am 2:14 

 

 

()()()

 

 

 栃木県 戦場ヶ原 am 2:15 

 

 

 言霊の一太刀──。

 居合を思わせる剣閃によって偽りの空間が大きくたわみ、()()()()風景を克明に映し出す。

 起点となった中空の裂傷がさらに拡大し……破れる。真実の世界が、ひび割れた闇からどうどうと押し入って来る。

 言霊たちの露払いした通廊からは、さらにふたつの影。

 

 光球を固めた鷹に乗り込み、斉天大聖目掛けて飛翔する。

 

「くくく……。おお、おお、おお。我が領域に穴を開けおったか。まこと獣のようなやつよ」

 

 喜悦混じりに仁王立ちする。

 真なる世界を引き連れて降り立った、天敵に意識が集中する。

 

 もはや先程まで甚振っていた女神や赤子への興味は欠片もない。

 敵手以外への興味は完全に失っている。

 それがまつろわぬ神。

 究極の自己中心。

 ともすれば自分だけの世界を作り上げてしまえる超越存在だからこそそれが許される至高の存在。

 

 そして至高の神が創り上げた世が、引き裂かれている。

 

 

 ──それは異様な風景だった。

 

 

 黄塵の舞う月下の偽りの世界。

 

 暗夜の驟雨振る真実の世界。

 

 黄と闇の二色の領域が、天上で分かたれ、濃淡を異にする。まるで水へ違う絵の具を溶かし合うように接触と攪拌を繰り返していた。

 

 その境界で黒髪の少年と金毛の人猿。

 まつろわぬ神と神殺しの魔王は相対した。

 

「──来たか草薙の」

 

「──来たぞ斉天大聖」

 

 二人の三度目の対峙は静かだった。激しい言葉も、過剰な侮りや敵愾心もない。

 まるでスケジュールボードに書かれた演目(プログラム)が予定通り公演されているような……決まりきった約束が予定通りに訪れた感覚。

 目的の為には避けては通れぬ大敵。

 そして死力をかけて殺し合うだろうという確信。

 両者にとってあまりに自明の理がそうさせるのだ。

 両者の間には一夜で結んだと言うには、あまりに強く深い絆があった。

 

呵呵呵呵(カカカカ)……」

 

 やはり戦は好い。

 下腹に張り巡らされた毛細血管の数々へ、血が集結し、呪力が錬成され、益荒男の猛りを受け止めんと身体を火照らせる。

 超越者の猛りに当てられた吹きすさぶ凄風に袍が揺れる。砂埃と草木の擦れる音がある。戦塵をしたたかに身に受ける。

 これこそ騎馬民族の血脈を引く斉天大聖の故地。

 囚われの《鋼》の猿王は幾年月ぶりの帰郷を果たした。

 そして戦士たる少年もまた。

 斉天大聖は内なる衝動の赴くままに笑い、護堂は歪む唇をかき消すように指で揉みあげた。

 

「俺の仲間に……。家族に、手を出したな」

 

 ボロボロになったメリッサと百合若を介抱する祐理の様子を眺めながら、不気味なほど平坦な声音で言った。

 

「座興じゃ、許せ。おぬしが来るまで暇だったんでのぉ……少々遊んでおったのよ。こういう風にの! どうれ、天雷無妄!」

 

 毛むくじゃらのうなじから金毛を抜き取り、息を吹きかける。毛が白煙とともに分身となり、護堂へと強襲する。

 が。

 

「言霊の技を以て、世に義を顕す。これらの呪言は強力にして雄弁なり。勝利を呼ぶ智慧の剣なり……」

 

『戦士』

 

 黄金とともに神格を斬り伏せるウルスラグナの佩ける『智慧の剣』が弾けた。護堂の乱雑な合図ひとつで黄金の光球が駆け抜け、塵へと還る。

「神通無限なる我に比肩する縦横さよな」と、斉天大聖が獰猛に口を歪めた。

 

「やはり抜け目ないの、そんなものまで隠し持っておったとは……。言霊で鍛造した破邪顕正の刃。倶利伽羅剣の同類を振るうか。面白いやつじゃ!」

 

「やっぱり見抜かれるか……。自分でいうのもなんだが、結構厄介な代物だと思う。一応、確認だが謝って全部元に戻して退散するって言うならまだ間に合うぞ。どうする?」

 

「くくく……。この期に及んで、分かりきったことを……」

 

 護堂は大きくため息をついた。

 ただ。腕まで白むほど拳を握りしめて。

 

「なら、あんたの神力ってやつを根元から切り飛ばすだけだな。俺の庭でここまで暴れられたんだ。黙ってるわけにもいかない」

 

「甘いのぉ……じゃが。(よし)(よし)。やはり我の見立て通りか。神殺しの魔王はここで討ち取らねば、我に自由はなさそうじゃ。それに世に平穏も取り戻せぬ……」

 

 護堂が眉をひそめて泡を飛ばした。

 

「バカ言うな、平穏だって? 冗談じゃないぞ! この惨状のどこにそんな文字があるっていうんだ!」

 

 護堂が腕を振るって方々を指差した。その先には護堂に仕え、庇護する民草……正史編纂委員会や在野の呪術師たちがいる場所だった。

 正確には"居た"場所。

 過去形なのは皆、猿に変えられてしまったからだ。甘粕も沙耶宮も。

 

 護堂の咎めるような言葉にも斉天大聖は気にした風もなく鼻を鳴らした。

 

「ハッ、その程度では天地星辰の運行には毛ほども影響は出ぬわ。所詮、人が猿に代わっただけ。()()()()()()()()()()()()、の」

 

 如意禁錮棒の穂先がさまよい、ついぃ、と軽い動作で護堂へと向けられる。

 

「……それよりもおぬしらじゃ。おぬしら神殺しがひとり増えるごとに、地上は麻のごとく乱れ、現世と幽冥の均衡は失われていく。人間どもは神と世界の理に従うべきじゃというのに、その分を忘れ、我ら超越の存在に楯突こうとする……」

 

 鉄棒が定まり、意思が固まる。

 ついに斉天大聖は静かな殺気を瞳に宿し、如意金箍棒を構えた。

 

「ゆえに、おぬしを屠殺することこそが我ら神々の正義であり使命」

 

「ふん」

 

 思わず。

 斉天大聖の御高説にどこぞの偽悪家な英国紳士のような仕草で鼻を鳴らしていた。

 妙な癖が移ったか。だが、いい。神へと不遜な態度を()()()のは今に始まったことじゃない。

 

 莫大な神力が横溢し、灼熱の殺意が衝突する。

 

 戦場ヶ原の一角にて──大乱が始まった。

 

 

 栃木県 戦場ヶ原 am 2:17 

 

 

 護堂とともに戦場へと帰還した祐理はいの一番にメリッサたちの元へ向かった。

 それから息を呑んだ。

 あまりにも惨い。

 地面に伏した女神の花びらのような麗しい羽毛は所々抜け落ち、眦は生気が抜けたようだ。赤子の百合若も泣きわめく力もなく、浅い呼吸を繰り返している。

 

「メリッサさま! 百合若ちゃん! ご無事ですか!?」

 

「…………っ」

 

 抱え起こすが返事がなかなか来ない。

 明らかに憔悴した様子に胸が軋む。だが何より沸き上がり、喉元までせり上って来たのは怒りだった。

 激怒すれば能面になるはずの顔は今は般若のごとく怒り狂っているのが自分でも分かる。

 下唇を小さく噛み締め祐理は、百合若を抱えてあやしつつ断りを入れて女神の羽根を手櫛で整えた。

 

「…………けほけほっ、くっ……! 見苦しいとこを……っ」

 

「メリッサさま、動いてはいけません! 失礼します、ああ、御髪もこんなに乱れて……」

 

 加護を受ける女神へ、忠実なる巫女がそうするように、祐理はメリッサの身体を甲斐甲斐しく手当し慮ろうとした。

 しかし、メリッサは固辞した。

 よろけながらもニ脚で立ち、気丈に振舞った。気高き女神の意地であった。

 

「はぁはぁ……いえ、この屈辱はわたくしに帰結するものです。……数多の英雄を籠絡した、くぅっ……わたくしが不覚を取ったものです……。やはりこの身体では限界がありますか……!」

 

「……メリッサさま……」

 

 屈辱に表情を崩すメリッサに祐理は自然と頭を下げていた。

 そして再び向けた視線には頑迷固陋なほど強い意志があった。

 

「ですが、後はお任せ下さい。どうかお二人は安全な場所でお休みくださいせ」

 

 声もいままでどこか甘やかで絹のようなソプラノではなくクリアで弾けるようなソプラノ。

 

「これからは私と護堂さんの役目です。──斉天大聖さまの討滅の儀、わたしたちで成し遂げてみせます」

 

「──なんと……」

 

 変身術(メタモルフォシス)の女神は感慨深く零した。

 

 自覚ない恋に惑う子供も去り、恋に振り回される少女の面影もない。メリッサが出逢った頃の、潔癖で頭の固い巫女はそこにはいなかった。

 昨日今日まで見えた迷いがまるっきり消えている。

 

(いつの間にやら……一皮向けましたか。やはり人の子の時の流れは早い……)

 

 今目の前にいるのは──たった一人の男に添い遂げる決意を秘めた乙女。

 

 初恋に情緒を揺さぶられ惑う無垢な子供は、燃え焦がれる恋と溢れる愛を受容した女性へと見事に変身(メタモルフォーゼ)してみせた。

 

「ふふふふ。あの未熟な小娘が、よくも。あはは。……そのような勇ましき事を言ってのけるようになったものです」

 

 メリッサは笑う。見事であると。

 不全なる身で授けた雀の涙ほどの女神の加護を、この少女は見事にも()()にして見せた。

 これを歓喜せずしていられるものか。

 

「ああっ、欣快の念が絶えませんよ。乙女の本懐……見届けるだけで満身創痍の我が身を忘れられるほど嬉しく思います。万里谷祐理……男児会わざればとは申しますが、そなたも強くなりましたね……」

 

 乙女の萌芽に、恋の女神は嬉しそうに目を細め首を傾けながら。

 

 それでも。

 

「ですが 、なりません」

 

 メリッサは祐理の申し出を固辞した。

 小柄な鷹はもう憔悴しきっている。人で例えれば唇は青褪め、肌に生気は消えている。瞳は白濁としかけているような状態だ。

 半死人の女神はそれでも祐理の手から離れ、小さく羽ばたいて地面になにかの模様を描き始めた。

 

「メリッサさま?」

 

「かの猿王と草薙さまはもはや止まらないでしょう。終着を得るには、荒ぶる彼らのどちらかは倒れ、どちらかが勝鬨を上げる。それが戦士の習いというもの。そして……このままでは地力でも経験でも劣る草薙さまが倒れることとなる……」

 

「……ッ」

 

 分かっていた。

 斉天大聖は強い。純粋に、強い。単純明快な強さとは揺らぎがない。

 だからこそ崩せない。崩れてもまたたく間に立ち直る。

 いくら護堂が戦いの流れをつかみ勢いに乗っても……勝利は掴めないだろう。

 ならばと勝利こそを希求するカンピオーネは常道を外れたトリッキーな手段を躊躇なく選ぶだろう。そしてそういった苦しまぎれの奇計は十中八九、上手く行かない。

 そうなれば敗北は目の前だ。

 

「そう……闘勝戦仏と呼ばれたかの猿王には分が悪い。()()()()わたくしたちは、より高みへ上り草薙さまへ勝利の鍵を差し上げるのです」

 

「勝利の、鍵……」

 

「話はシンプル。斉天大聖さまの目的は『弼馬温』という檻からの脱出──ならばそれを阻止するだけ」

 

 鷹の目のメリッサが囀るのは戦術(ミクロ)ではなく戦略(マクロ)からのアプローチ。

 メリッサは斉天大聖と護堂の光球と閃電の乱れ飛ぶ異次元の戦場から目を外し、直ぐ側で転がる──まつろわぬ大鯰へと目線を移した。

 

「《鋼》は竜蛇を倒すことで力を増します。《鋼》である斉天大聖さまがこのまつろわぬ大鯰から神力を奪い取ることで力を取り戻し『弼馬温』に抗うならば、この世界蛇をどうにかしてしまえば良い……」

 

「どうにか、とは?」

 

「万里谷祐理。そなたは草薙さまから加護を戴き、そしてわたくしたちは本地からはあまりに遠い所に在る。であればこそ条件は整うでしょう」

 

 故に。

 

「これより、()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 栃木県 戦場ヶ原 am 2:22 

 

 

「ハァハァ……! 言霊の技たちよ、我が剣として義を顕せ! 我は最強なり!」

 

 飛び交う閃光と荒ぶる閃電。

 三十ほどの光球をばらまいて斉天大聖へ差し向けるが悉く鉄棒の乱打で撃ち落とされる。

 近づくのは悪手だ。それは『戦士』となり戦闘センスを得ても変わらなかった。

 並みのまつろわぬ神ならば『戦士』を使えば多少やり合えるが、斉天大聖相手では手玉に取られる。

 未だ痛みの抜けない打撲痕に意識をやりつつかけ出す。

 

「くく、どうした草薙の! 先程までの威勢はどうした!? 攻め手にかけておるぞ!」

 

「クッ!」

 

 一閃。狙いはおそらく足元。

 護堂が自ら転んで前のめりになった瞬間、円弧を描いた鉄が駆け抜けた。

 悪態をつく。

 開戦以来、ずっとこの調子だ。

 護堂が舌鋒を飛ばすが斉天大聖はゆうゆうと対応してくる。焦りとは裏腹に、戦況は変わらない。劣勢のままだ。

 交える干戈も加速度的に激しくなっていく。

 

(アレクとは違った戦い難さだな……)

 

 アレクも閃電の速さがあった。

 斉天大聖も閃電の速さがある。しかしそれだけでなく獣の敏捷さも加わり付け入る隙を与えてくれない。

 早いのではなく(はしこ)いのだ。

 相当速度があるのが神速ほどではない。しかし『剣』で有効的を打ち込めない上手さがある。

 

 近接で不利なのは分かった。

 ならば。

 護堂は『剣』の鍛造に注力する。

 

「斉天大聖・孫悟空! 不埒千万なる猴王であるあんたは俺が出会ってきたなかでも、一番()()()まつろわぬ神だ!」

 

「むっ、本腰を入れるかね。よかろう相手をしてやろうとも!」

 

 決意して果敢に攻め込む。

 光球を固め、横殴りの光刃を放つが……身体を後ろに反らせて華麗にかわされる。

 五十ほどの光球で追撃するが、カスリすらしない! 

 

「石から生まれたサル。妖怪の王。天界で暴れ回った乱暴者。聖者のお供。修行の果てに仏となった聖者……長い歴史のなかでさまざまな要素が混入しがちな神々のなかでも、あんたは特に()多な要素の混淆した世界でも最高峰の神だ!」

 

 言霊を紡ぐたびに『剣』は増えるものの戦況は逆に悪化していく。

『剣』を完成させようと意識を向ければ当たり前のように無双の神が攻めかかってくる。斉天大聖に対応しようと戦場へ意識を向ければ『剣』の完成は遠のく。

 

 護堂は次第に追い詰められ……やがて祐理に『強風』で呼び出された森のなかへ訪れていた。

 

 

「ハァハァ……! 中国に幾つもあるあんたの伝説でも一番有名なのは言わずと知れた『西遊記』だ!」

 

「ははは、まだまだ未熟な小僧じゃ! その光と言霊の剣、十全には扱いきれておらんと見える!」

 

 不味い、護堂は冷や汗を流した。

 猿の神が森を縦横無尽に征くのは当たり前なのか。木々のこまごました間をまるで透過するようにすり抜けて突進してくる。

 

「──ぐはっ!」

 

 豪ッ! 

 そのまま対処できずに鳩尾に強烈な肘が叩き込まれた。《鋼》の斉天大聖は全身が金属製の怪物。当然、その一発一発が野山を崩壊させる威力を誇る。

 

 護堂の内部で爆発したエネルギーが内臓のいくつかを散華させ、そのまま大柄な護堂の身体を後方へと吹っ飛ばす。

 

「まだじゃあ!」

 

 中を舞う護堂に先回りした斉天大聖が、今度は豪脚の乱打を放ち背中に無数の足跡を刻みつける。

 押し出された圧力で、口と、鼻、目から鮮血が乱れ飛ぶ。

 息を荒らげて、全身の激痛に呻く。

 それでもまだマシな方だろう。

 孫悟空の代名詞といえば如意金箍棒と筋斗雲。

 そして筋斗雲は護堂が《偸盗》しているから封じ込めれている。筋斗雲があれば神速による猛攻が襲ってきたはずだ。

 

「思い違いをしておるようじゃのう草薙の! 我が筋斗雲がなければ我が本気を出せぬと思うておるな!」

 

 二度目の突進が始まった。

 護堂は脂汗と冷や汗を混ぜ合わせながら血とともに『剣』の言霊を吐き出し、斉天大聖の妨害に注力する。

 護堂は『剣』を集合させて、突っ込んでくる斉天大聖に割り込ませる。

 

「中国四大奇書の一つである『西遊記』は、孫悟空や僧侶玄奘らの民間伝承や伝説を吸収して完成した大長編小説。明時代に成立した『西遊記』は当時の漢民族だけじゃない……っ」

 

「しゃらくさい! ピカピカと邪魔くさいのぉその言霊は。せっかくの月夜が台無しではないか! 退けぇぇぇぇい!!!」

 

「ぐがっ、あああああああああああぁぁぁあああああああああああぁぁぁっ!」

 

 神珍鉄で造られた如意金箍棒は伸縮自在。高層ビルほどにまで巨大化した鉄塊が護堂ごと『剣』の言霊を飲み込む。

 ゴリゴリ。

 全身から襲う鈍く重い衝撃。身体から出てはいけない異音。

 カンピオーネの肺腑ですら絶叫を唱えた。

 

(痛い……痛い。だけど耐えられない痛みじゃない!)

 

 常人なら精神が狂う痛みのなかでも護堂は獰猛に斉天大聖の好きを嗅ぎ込んでいた。斉天大聖優勢。つまり心に余裕ができる。余裕は綻びを生み、やがて隙になる。

 当然、かの斉天大聖に隙が生じるはずはない。だが何かのキッカケさえあれば己の器量で上手くやってみせる。それがカンピオーネ、護堂は戦士の狡猾さと獣の嗅覚で勝利の臭いを嗅ぎ分け嗅ぎ分け嗅ぎ分け……。

 

「──!」

 

 そして見つけた。

 

 

 

 そのまま無様にゴロゴロと転がっていく護堂を斉天大聖が足で踏み潰して停めた。頭部を踏みしめ、ゴリゴリと地面に押し付ける。

 

「期待外れじゃったかの」

 

 弱い。あまりに手応えのない敵に肩透かしを覚えた。

 

「もう少し楽しませてくれると思ったが──ぬっ!?」

 

 そのまま頭をザクロにしようと踏み抜く瞬間──斉天大聖が驚愕の声をあげて緊急回避した。次の瞬間には、背中に裂傷が走っていた。

 

 切り傷? 

 いや、矢傷に似ている。

 弾丸のような素早い"何か"が駆け抜けていったのだ。

 

 見れば護堂の傍に、黒白の剣が浮いている。あれは先程戦った時に護堂が鍛造した──『猪』の牙剣。

 

 以前はシンプルに浮遊する剣として運用していたが、今は違う。頭身だった部分は丸みを帯び、先端には穴は空いている。

 

 "剣"ではなく"筒"として。

 

 ──牙剣に黄金の光球を装填し、高速で発射する。

『剣』ではなく『()()()()』とする護堂の即席の遠隔武器。

 

 それが斉天大聖を急襲したのだ。

 

「ぐうう、おのれ……。よくも……!」

 

 背を傷付けられた斉天大聖から怒気が溢れる。怨嗟を口にする斉天大聖だが傷は浅いはず。

 よろよろと立ち上がる護堂訝しげに見つめるなか斉天大聖が叫んだ。

 

「常勝無敗の我によもや()()()を作りおったなッ! 生きては返さんぞッッ!!!」

 

 戦士の教示が踏みにじられた。

 その事実が自尊心を痛く傷つけるのだ。

 

「うるさい! だったらどっちが背中から腹か分からないくらいボロボロにしてやる!」

 

 再びビームさながらに発射された『剣』が走り去った。

 前回鍛造した『猪』の牙剣は確か、十。あれはまだ消滅せずにこの森の中に転がったまま。

 しかし護堂はどこにあるかなんて把握しちゃいない。探しにいく時間もない。

 

「だけど構わない。それならそれでいい! ──『西遊記』は漢民族だけでなく匈奴をはじめとした遊牧騎馬民族やインドなど手当たり次第に混ぜ合わせた物語だ! 騎馬民族の石から生まれた英雄の要素やインドのハヌマーンとの類似点は古くから指摘される要素なんだ!」

 

「なにっ──ぐおおっ!!?」

 

 そうだ、牙剣がどこに落ちてあるかは護堂自身把握していない。だが……。

 言霊を森中に響かせて、言霊を吐き出す。『剣』の弾丸をリロードさせ手当り次第に乱射する。

 無数に飛び散る光線が、護堂にすら飛んでくるが構うものか。

 どうせ斉天大聖にしか意味の無い光弾なのだ。

 どこから打ってもどこへ打っても、斉天大聖を捉えればこちらの勝ち。

 

「なんちゅうデタラメか! ええい鬱陶しい!」

 

 やはり苦し紛れの攻撃は通じないのか。数百を超える弾丸の嵐にも斉天大聖はアクロバティックな動きで避けきって見せた。

 

 いや、それだけではない──。

 

「忘れたか草薙の! 今のこの空間は我が征服した領域よ! 我が望めば簡単に、意のままになる我が王国! 見ませい我が顕現無比の大神通かくあれかし!!!」

 

 斉天大聖を切り伏せるために用意した『智慧の剣』が、斉天大聖を切り付ける事なくすり抜ける。

 驚愕する護堂とは裏腹に斉天大聖は満悦の笑みを浮かべていた。

 いや、今は見慣れた猿顔ではない。

 目の前にいるのは──"爽やかな美青年"。

 手にした如意金箍棒は──"三叉の槍・三尖刀"。

 極めつけにその額には輝く──"三眼"

 

「おぬしの光と言霊の剣を攻略する方法は幾つもある! これはその一つよ!」

 

「嘘だろ、まさか別の神格へ──()()したのか!?」







戦闘描写ムズすぎて血反吐
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