フロストパンク世界にTS転生して落とされる話 作:キサラギ職員
ステータスとかも特に見られない彼の明日はどっちだ!!
俺は死にかけていた。旅行に出たらクレバスに落ちた。そんな些細な理由で。足が折れて這い上がることすらできず、既に二日経過していることからカロリーが尽きてしまった。
「ここで死ぬのかなぁ……せめてあったかいところで死にたかったなぁ」
等と考えつつ、俺の人生は終焉を迎えた。
「●●●、君の命はまだ終わりではない。我々は君に新たな肉体と、新たな力を与えよう。だが、それには重大な使命が伴う。」
いきなりでてきてなんだこいつはと思った。
意識が遠のいていく中で、急にそんなことを言われてもと言った感じである。目を開けると、目の前には輝かしい存在が立っていた。その姿は、古い伝説の中の神々を思わせるほどに威厳があり、彼女――その存在が女性の形をしていることに気づいた俺は、なんだか笑ってしまった。最期に女の姿を見せつけて来るとは。童貞やぞ。舐めるように見ろとでも言うか。
俺はその存在が面倒になったのでだんまりを決めているとその存在が語り掛けて来た。
「どんな力を望む?」
「寒いのは嫌です」
「承知した」
後になって思えばこの選択肢は決して悪いものではなかったのだなぁとは思うのだが、もっとすごいことを願えたのもたしかであった。
彼女の手が俺に向けられると、俺の体が光に包まれ、あたりは一瞬で真っ白になった。次に気づいたとき、俺は見知らぬ雪景色の中に立っていた。深く息を吸い込むと、驚くべきことに、その息は白くならなかった。俺の周りだけが明らかに温かく、雪が溶けていくのが見て取れた。
「おい、嘘だろ」
妙に背が小さい気がして自分の手を見ると、細かった。ついでに声も甲高く、女性のそれだ。これが流行りの……異世界なんとかいうやつか。だが状況が余りにも悪すぎる。俺の周囲だけあったかいのはいいのだが、問題なのはここがどこかわからないということだ。
ふと、小さい池があった。覗き込んでみると透き通っており、わずかに反射している。鏡のように輝く氷に映った自分の姿に、俺は呆然とした。女だ。それも相当な別嬪がいて腰を抜かしてしまった。これで俺はついに性別さえ失ったことになるのだろうか。
「どうすりゃいいんだ」
ステータス的なものが展開するでもなく、それこそ何も起きない。温かいのはいいことだが、それだけである。いつか腹を空かせて動けなくなるだろう。
俺が当てもなく歩き回っているうちにサバイバルの基本を思い出した。登るのだ。といいたいところだがここは山ではなかった。普通に平地だった。
雪が舞い降りる中、俺は新たな世界を歩いていた。こんなに寒い場所に放り出されたのもどうかと思うが、不思議と自分の周りだけは暖かい。それが俺に与えられた新しい力だ。まあ、それがどうやって役立つのかはこれからだけど、とりあえず歩くしかない。
そのとき、前方で何か動くのが見えた。雪の中、何かがもがいている。近づいてみると、若い男が一人、雪にうずくまっていた。彼の体は細かく震えており、彼が凍えているのは明らかで、もしかしたらもう意識も朦朧としているかもしれない。
「おい、大丈夫か?」
と声をかけながら、俺はその男に駆け寄る。彼の顔は青白く、唇は紫がかっていた。でも、俺が近づいた瞬間、彼の周りの雪が解け始める。俺の力が彼にも及んでいるようだ。
「寒い……助けてくれ……」彼の声はかすかで、弱々しかった。
俺が駆けよっていくと、周囲の雪があっという間に溶けていく。驚愕に目を見開く青年を前に俺は頭を掻いた。
「気が狂ったとか思わないでくれよ。違う世界から来たみたいなんだ」
「信じるよ………こんな力があるなんてな………あるいは技術なのか。見当もつかないけれど……」
青年は素直だった。俺はとりあえず着ていたジャケットを脱いだ。
「………」
なぜか目をそらされたが、まあ気にしない。ジャケットを被せると、両手を広げて見せる。
「温めてやるよ」
「ば!? バカなこと言うな」
「バカだと?」
少しカチンときたので俺は青年を抱きしめてやった。そこで悟る。おっぱいがでかいことに。
というかこのジャケットあれじゃないか、俺が死ぬ寸前に着てたやつじゃないか。高かったやつだ。ということは。ポケットを探るとあった。ライターが。
「じゃあ火を熾すから……」
俺はサバイバルの知識があった。火のおこしかたくらい心得ている。
薪を適当に集めて、火を点ける。朽ちたシラカバの木があって助かった。ほどなくしてあっという間に火を熾す。
「なあその道具見せてくれ」
「いいよ」
青年はライターが気になるらしい。ちなみに火を熾すや否や俺から離れやがった。恩知らず。
「どんな仕掛けなんだこれ」
「圧電素子って……んー………火打石みたいなっていうか………もしかして技術水準そんくらいのレベルか」
「はぁ? 水準ってなんだ」
「多分俺もっと科学発展した世界からやって来てると思うぜ」
ちなみに部分的にはこっちの世界の方が優れていることに気が付かされるのはあとあとのことだ。
俺と青年ことエイダンはがっしり握手した。
「エイダンだ。エイダン・ウィンターズ」
「ジュンだ。ジュンって呼んで欲しい」
「変わった名前だなぁ……大陸の名前か?」
「いや島国だ」
等と情報を交換していてわかったことだが、なるほど、これは技術水準が蒸気機関が出たあたりであろうことがわかった。しかしこんな場所で何をしていたのだろうかと俺が問いかけると、最初は何かを言いかけてそういやあんたこの世界の住民じゃなかったなと言い直した。
「氷河期に突入したらしいんだ、地球が。どこもかしこも雪だらけ。物流は寸断されて、人類は凍った大地で生きていくほかにないのさ。俺達若者組は口減らしの為に追放されそうになってね。決起してジェネレーターごとパクって逃げて来たんだ」
「……マジかよ………ジェネレーターってのはなんだ?」
「見りゃわかる。あれが無いと生活できない」
エイダンが焚火の様子を見つつそういう。
寒いのは嫌ですって言ったじゃないですか……!
と不満はあるのだがとりあえず自分の周囲だけは温かいのでそれはもういいことにする。第二の人生である。頑張らねばならない。
「どうしてこんなところを歩いていたんだ?」
「メシになりそうな獲物を探していたんだ」
「武器がないようだが」
「もう矢も本数がな……頓死した兎でもいないか探していたのさ。そしたら迷ってしまって……キャンプにまでついてきてほしい。あんたがいれば凍えなくて済みそうだからな」
こうして俺のファーストコンタクトは終わった。そして、キャンプとやらについて俺は、唐突に記憶を呼び起こしたのだ。
世界中で配信され、高評価を得ていたあの作品。
あの作品に登場するジェネレーターそのものが屹立しているのを見たのだから。
「ここフロストパンクの世界じゃねぇか!!」
寒いのは嫌ですって言いましたよね?