フロストパンク世界にTS転生して落とされる話 作:キサラギ職員
「ここをキャンプ地とする」
「なあ、ジュン。たまにそのわからないネタを持ち出すのは癖かなにかなんかい?」
「まァ元の世界のネタだなぁ……君たちだってスラングとかくらい使うでしょ」
俺達は目的地であるクレーターに到達した。ここなら風を防ぎつつ、街を建設できるだろうと言うことだ。
街の名前はものすごく簡単でニュータウンということになった。
フロストパンクやってるからわかるのだがこれがどんなシナリオかというと、恐らく新しい家(New Home)シナリオじゃないかと思うんだが聞いてみたところロンドン出身じゃないらしいのが気になるところだ。
となると「ロンドン主義者」イベントがない新しい家だろうか。
ロンドンから出た一行は、ウィンターホームという街が壊滅したことを知り、自分たちもロンドンに戻るべきではないだろうかと主張する。ようは分離主義者だな。で、結局ロンドンもいい状況ではなくて貴族連中が流れてきたりするイベントもあったりして。最終的に大寒波を乗り越えてシナリオ終了という流れなのだが。
「うーんうーん」
俺は、特に状況の厳しかった数名の看護をしていた。と言っても寄り添うだけだ。寄り添って温かい空間の中にいさせてあげる程度だ。その何人かは疲労困憊、凍傷寸前だったので、俺の力で体を温めてあげている最中だ。幸いというか、このテントという名前の骨格に天幕張っただけの粗末な家の中程度なら能力を広げられるらしいので、まさか一番最初に建てたのが救護所という流れである。
「女になってる……」
全員寝てることを確認した上で服を脱いで見る。でかい胸だ。でかすぎないか? 足元が見えないくらいでかい。肌は白く、透き通っていて。アデルから貸してもらった鏡を使ってみると、青い目をした女がこちらを見て来ていた。美形だ。顔が良く整っている。
「だからなんだ感はあるけどなぁ………トイレもべつに屈めばええわけだしな」
その辺はどうでもいいことなのだが……と、ふと、ポケットに手をやってみるとスマホが入っていた。
「異世界スマホってか。バッテリーは………まだあるな。充電手段もないこともない」
サバイバルというか山登りが好きな俺は、こういうことを考えてスマホを太陽光パネル付きのを選んでいる。これは慎重に使うべきだろう。スマホの寿命はもっても五年くらいじゃないかな。もし永住するならそのスマホが壊れる前に何とかしないといけない。
「使えるのは………家計簿アプリとかかなぁスタンドアローンで使えるのは」
俺はスマホを活用することにした。他にも入っていないか探ってみたが、特になかった。
服を着る。
「まずはそうさね……あっ君」
「なんですか?」
子供の一人を呼びつけて、各部門リーダーに資源の量を聞いてくるように依頼をかける。
「とりあえずこのままで何日持ちこたえられるか確認しねぇとな」
初日、できたことというとテントを建設することくらいだろうか。少なくとも八十一名が寝泊まりできるテントと、救護所の建設に成功した。見様見真似だったけどな。鉄材やらスクラップやらを支柱に持ってきた布やら板材を立てかけて雨風しのげる場所を作っただけだ。
「緊急シフトとかってどうすりゃいいんだろうな」
緊急シフト。ようは24時間働けますかという法律を制定して住民をこき使うことができるのだが、あれはゲームだからいいのであってリアルでやると殺されそうである。
「というか法律ってどうすりゃいいんだ。UI上で弄れるわけじゃないんだぞ」
「ジュン。ここにいたか」
俺が悩んでいると、救護所にエイダンが入って来た。
エイダンは俺の横に腰かけると、おもむろに話を切り出す。
「なにやってたんだ?」
「これ、向こうの世界の道具なんだけどさ。資源の量を確認してあと何日持ちこたえられるかを計算しようとしていたわけよ」
「こんな板切れで計算が……光ってる……うわっ、なんか動いてる……」
「すごいでしょ。計算もできるしゲームっていって遊びもできるし音楽も再生できるぞ」
「音楽を? こんなかに人がいるようには見えないけど……」
「まま、そういう道具ってことだな」
俺は興味津々でスマホを覗き込んでくるエイダンにスマホを握らせると、あれこれ弄って見せる。
「すげぇなあ俺達もいつかこういう道具作れるかな」
「さあ、こっちも西暦なのかは知らんけど技術水準で言うとあと百五十年くらいかかるぞ。たぶん」
「…………色々話し合ったんだけどさ、ジュンにリーダーをやって欲しいという結論になったんだよな」
……それは願ってもないことだが、どうしてだろうか。
俺が悩む素振りを見せるとエイダンはスマホを返してきた。
「その、妙な力を持ってるのはジュンだけだし、この道具使えるのもそうだしな。もっともジュン一人で全部決めちゃうのは独裁制だ。資材リーダーと話し合って決めるつまり評議会みたいなシステムを運用しようと思う」
独裁制というところに力が入っているように思える。何か嫌な思い出でもあったのか。
俺は頷くと、エイダンを見た。
「いいよ。俺もそうした方がいいと思う。で、早速なんだけど……今後の計画について、少し纏めていたわけだ」
俺は子供が帰って来るまでの間、味の薄いお茶を飲みつつエイダンと待つことにした。
「えっとね」
子供が帰って来た。資源の量を聞いてきたらしい。
食料。あと一週間は節約すれば持ちこたえられる。
木材。テント建設で使ってしまい、余り残っていない。
鉄材。こちらもテント建設と救護所を作るのに使ってしまい、また、ジェネレーターを固定するのにある程度使ってしまっている。
石炭。ジェネレーターを稼働させた場合夜間稼働だけに限定しても、恐らく三日で燃え尽きる。
スチームコア。一個。でたな、スチームコア。フロストパンクがスチームパンクの部類のゲームなので、こうした謎技術がたまに出てくるんだよな。蒸気を発生させるコア。これがあることで温室やオートマトンの製造が出来るわけだ。
「多少の無茶をしても、周辺の捜索を行うべきだと思う」
「言うと思ったぜ。もうみんな出かけてるよ。あと何時間かでクレーター内の捜索は終わると思う」
数時間。今が昼前なので、夕方前までには完了見込みか。ジェネレーターが三日しか持たないことを考えると、三日以内で石炭を見つけないとまずい。まあここがフロストパンク世界ということを加味すると……クレーター内部に転がっている。はず。
「メシにしよう。俺が作るよ」
俺は言うなり紐で髪の毛をくくってポニーテールにすると、救護所に拵えられた調理場に行く。と言っても焚火である。焚火に三角に棒をまとめて直立させたところに鍋ぶら下げてるだけだ。
食材。オーツ麦。塩。鹿肉。以上だ!
「調味料は……塩だけかよ!」
「スパイスとか使えるの貴族くらいなもんだぜ」
エイダンがそう言って来る。というか持ち出せなかったんだろうな。
もう仕方がないので麦煮込んで肉をぶち込んで粥的なものを作ることにした。というか煮るだけなので工夫もあったものじゃない。煮込んで混ぜて終わり! 髪の毛ポニテにする必要なかったな。
「食えるだけ幸せだよなぁ」
「それは間違いない。だけど見てろ、いつかスパイスを………」
二人で焚火の前にて食事にありつく。俺の能力のお陰で焚火が無くても暖かいと言えばそうなのだが、やはりあったほうが良い。
アツアツの粥を頬張っていると、何とも言えない幸せな気分になる。
「塩も確保しないとまずいか」
そうなのだ。塩。フロストパンクでは要素としてなかったが塩が無いと食事が大変である。主に味が酷いことになる。どこかで岩塩が取れればいいのだが。
「捜索隊が戻って来たぞー!」
大声が聞こえて来た。俺とエイダンは、救護所を後にした。
「思ったんだけどこのジャケット俺以外が着ておけばいいんじゃないの」
俺はオレンジ色のよく目立つジャケットをつまんで見せた。
エイダンが首を振る。
「いやジュンが着ておいたほうがいいよ目立つからなぁ。雪ン中じゃ目立つほうがいいだろう」
「ま、それもそうか。一応みんな服は着てるしね」
多分だが既に氷点下は疾うに迎えていて、零下なのだろうと思う。雪こそ降っていないが積もっているからな。
そして俺は、捜索隊からの詳しい情報を聞いたのだった。
ステータス:定住中
メインクエスト:大寒波を生き延びろ
:物資を集めろ
生存者数:81名 エンジニア1名
食料:あと6日分
木材:ほぼ枯渇
鉄材:ほぼ枯渇
石炭:3日分
スチームコア:1個