フロストパンク世界にTS転生して落とされる話 作:キサラギ職員
「ということで各種ルールを制定しておいた」
「なるほど、ここでやっていくための基本的なルールというわけか。通貨がない世界ってのも不思議なものだけど仕方がないのかな」
「私有財産について認め始めると今度は生存が危ういからなぁ。規模が拡大していってオートマトンで自動化できるようになってからじゃないときつい。俺個人としては全員に投票権を与えて、議会を設立する方がいいと思うんだけどね」
俺は味のうすーい茶がいよいよ嫌になったので、ヨモギを摘んできて焚火で燻して乾燥させたものをお茶にした液体を啜っていた。いよいよ現地から持ってきた紅茶も品切れしそうなのだ。多分、もうロクに紅茶を飲める日は来ない気がするけど、一応茶の種はあるらしい。温室が大規模になったら楽しめる日も来ることだろう。
で、残る数名の回復を待つ間に俺は自室で各種法律について取りまとめておいた。最も基本的なルールだ。殺すな、盗むな、怠けるな。殺すなは当然、盗むなは食料を盗むなという点で大切で、怠けるなは労働を拒否するなという点で必要だ。厳しいようだが、現状私有財産や基本的人権について認めることは難しい。原始共産主義的な運用をしない限りリアルに生存が危うい状況なのだ。
俺の書いた紙を一通り読んだエイダンは、感心したようにうなずいた。
「学があるっていいよなぁ。そっちの世界ってのはみんなそうなのか」
「例外はあっても大体基礎教育はするもんだよ」
「こっちじゃ一生石炭掘りは石炭掘りしか教えられないで終わるくらいだ。羨ましいぜ。リーダーになって正解じゃないのか? ジュンが一番俺たちの中で学があるように思えるが」
殺すな。当然暴力も振るうな。もしやれば、むち打ち刑。
盗むな。詐欺をするなら、むち打ち刑。
怠けるな。労働を正当な理由なく拒否すれば、むち打ち刑。
なんでむち打ちオンリーかと言うと懲役刑がこの世界だと普通にご褒美になるからなんだよな。自由にのんびり牢屋に入っていればご飯が貰えるとかズルの極みだ。
殺すな、盗むな、怠けるなの三本柱を基本に、行こうと思っている。
俺は本を受け取ると、閉じて机の上に置いた。廃材を使って作った自前の執務机だ。救護所というより実質本部になっているこじんまりとしたテント小屋の中にある。
「あんまり褒めるなよ。で、あの人たちだけどもう大丈夫そうだから……その、エイダンの用意したテントで今後は寝泊まりするよ」
「……! そうか」
「あからさまに喜ぶなよ、この野郎」
目を輝かせてくるので俺は肘で腹を小突いてやった。
で、あっちこっちから情報を持ってこさせる役割を数名の子供たちにお願いしているのだが、戻って来たらしく入口が騒がしい。
「よろしくないな」
結果であるが、食料については問題ない。思ったより鹿や熊の類がいるので、人数の少なさもあってストックが順調に増え続けている。
木材。何せ人力だ。とにかく時間がかかっている。
鉄材。機関車が錆びていて、錆び落としに時間がかかっている模様である。錆び落としの為の大型の設備。鉄工所というか製鉄所の建設が要請されている。
石炭。石炭というのは重いので、これも時間がかかっており現状毎日使う分を相殺する分しか集まっていない。
「台車と、道の整備が必要そうか。ウマがいればな」
「ウマはみんな死んだよ」
無情な宣告に俺は首を振った。家畜か。鹿でも捕まえて家畜化できればいいんだが……。それか豚か。
考えることが多すぎるが、まずは鉄材回収ではなく木材回収を優先させて、台車を作るべきであろう。俺はいま働いている人の数を記載した簡易のシフト表を弄ると、鉄材回収を行わせている人員を動かして、木材回収に充てることにした。
「台車の量産体制を確立させて効率化する。道も引こう。ジェネレーターから放射線状に、雪を溶かして道を作る。雪を溶かすなら任せろ」
「おお……奇跡だ……」
「なにがどうなってこんなことが……」
俺が雪道に進むと、雪が凄い勢いで溶けて水になっていく。それを知ってはいたが見たことのない人は驚きの余り帽子を脱ぐほどである。
しかし自分をあんまり化け物みたいに言わないで欲しい。これ以外能がないからな。
「じゃあ道作りよろしく」
道作り要素、フロストパンクではあってないようなものだったが実際にはすごく重要な要素だろう。あと台車も。雪をゴリ押しで溶かせる俺の能力がこんな風に役立つとは思わなかったが、しかしこれ、もしかして生物は例外として温度を強制的に常温にする能力というのが正解なのかもしれない。
溶けた道に男たちが次々と砂利を敷いていき、側面は木材パレットなどで補強して雪が倒れてこないようにする。雪かきも考えないといけないな。あるいは温水を流す装置の開発を考えるべきかもしれない。ジェネレーターを低速で動かして、道にヒーティング装置を流す、とか。
「はーつかれた」
結局その日は一日歩き回っていた。とにかく道を作らないことにはいけないので俺が歩いて、他の人が道を補強する。その作業である。
『傾注! 傾注! 新しい法律が施行されたぞー!』
外から声が聞こえてくる。俺が制定した法律を市民に知らせているのだ。
現状の法律はこうだ。児童は、技術者を手伝え。殺すな、盗むな、怠けるな。
『労働時間は、12時間に延長されることがある!』
住民から悲鳴にも似た声があがる。緊急シフトは24時間だけどあれはいくらなんでも鬼畜過ぎて採用する気になれなかった。もうここは心を鬼にしてとは言うものの過労死されては本当に困るので、12時間の延長シフトを取ることにするべきだろう。
「リーダー様ってのは大変なもんだなぁ」
「茶化すなよ。それとも足でも揉んでくれるのか?」
俺は自室であるテント小屋に戻ってきていた。板張りの床に胡坐かいてくつろいでいると、お茶を沸かして持ってきてくれたエイダンの姿が目に入って来る。
いたずらっぽく足を差し出してみると、何の躊躇もなく掴んできた。撫でまわそうとしてくる。お前………いや躊躇くらいしろや。
「ちょっ、んっ、んふふふふっ………バカ!」
くすぐったくて思わず蹴っ飛ばしてしまった。別に痛くもないだろうに蹴られた個所を擦りながら隣に座って来る。
「乙女の足を掴んで揉むやつがいるか」
「チャンスは捨てない主義なんでね。ホラ、飲んでくれ」
「ヨモギ茶かぁ………砂糖がついてくればいいんだけどね……」
「テンサイの類なら、一応種がある。温室を作れたらあるいは……って感じだけど、スチームコアは一個だけだ……」
「それなんだけど」
俺は茶をすすりつつ言った。
「観測用ビーコンの立ち上げ式が、明日ある。じいちゃん徹夜でやってくれたんだよな……そこまで無茶するなとは言ったんだけど自分でさ……その遠征隊のメンバーに俺も入るよ」
これはビーコンの設計をお願いしたところで既に考えていたことだ。俺は、寒さで死ぬことはない。それに俺の傍にいれば、寒さにもやられない。遠征隊のメンバーとしては重要な能力だと思う。
「………そうだろうとは思ったけどリーダー自ら……あぁまあ……じゃあ俺もいくさ。道中、食いもんの調達には狩人がいるだろ」
エイダンが言う。それもそうだ。遠征隊は道中の補充が重要になって来る。優秀な狩人がいたほうがいいだろう。
「決まりだな。明日、早速出発するから。今日は早く寝よう」
ステータス:定住中
メインクエスト:大寒波を生き延びろ
:物資を集めろ
生存者数:81名 エンジニア1名+見習いの子供たち
食料:あと7日分 収集中
木材:ほぼ枯渇 収集中 人員増して台車を量産 道の整備を開始
鉄材:少し 収集一時停止
石炭:2日分 収集中
スチームコア:1個
傾注! 傾注! 新しい法律が施行されたぞー!!
児童法:子供たちは、技術者の手伝いをしなくてはならない。
労働法:通常通りの8時間シフト
更新
『基本法』
殺すな、盗むな、怠けるな。
違反した者はむち打ち刑と処する。
『私有財産』
これは、認めない。
『投票権』
これは、認めない。ただし都市の自立が確立されたのち投票権を付与し民主主義体制に移行する準備がある。
『延長シフト』
8時間労働を、12時間労働に延長することがある
次の建物があります
・テント81人収容分 ゲームとは異なり木材や石炭燃焼で暖房レベル1+
・救護所(実質的な本部) 数名収容できる 治療設備はなく寝かせておくだけ
・狩猟小屋(テント)
・ワークショップ(テント)
・集積所(ゲームとは異なりクレーター中のをかき集めて集積します)
・道 クレーター内部、砂利を敷いた道を建造しました
・ビーコン 観測気球 遠征隊を組織できます