お姉ちゃんは時々振り切れます。
先日ナリタブライアンとリアルデュークのレースが行われたグラウンドに、数人のウマ娘がいた。
その内の2人(正確には1人だが)がローラーの様な物を使ってグラウンドを均して、もう1人が寝転んでいるその様子を、少し離れた場所から数人のウマ娘達が眺めていた。
「ほらリア、そこは地面が荒れているから気を付けろよ? あ、あと、水分もこまめに摂るんだ。 ほら、リアの好きなオレンジジュースを持って来た……ふふ、美味しいか?」
「……うぃ、冷た美味しい!」
何故か働いている方がさぼっている方を気遣う様を眺めていたウマ娘達が呆れ顔でボヤく。
「……ウチらは一体何を見せられとんねん。」
「……グラウンド整備の手伝い、殆どブライアンさんがやってますし、リアさんは先程から寝転んでサボっているだけですし……」
「ブライアンとリアルデュークは仲良しさんだな?」
そんな集団を少し離れた場所から観察するウマ娘が2人、双眼鏡を握り締め凄まじい形相で2人それぞれが地団駄を踏んでいた。
時間は少しだけ遡った某日某所
少しだけ関東平野な胸を持つステイヤーなお嬢様ウマ娘は、もう我慢の限界だった。
「……何時になったら帰って来るんですの!」
彼女は妹と仲違いしてから、既にかなりの月日が経っていた。
当初は数日もすれば謝って来るだろうと思い、周りの勧めも有ったため練習に打ち込んでみた。
その内、親友でライバルでもあるウマ娘との約束を糧に、より一層レースへと打ち込んだ、だが……。
「何であの子はレースを見にすら来てないんですの! 私が、あの子にメジロ家の矜持を見せる場に……そもそも、あの子が来なければレースを勝っても意味が有りませんわ!」
そう言って近くにあったクッションを何度も叩いて感情を露わにする親友に内心少しだけ呆れながらも、トウカイテイオーが荒ぶる親友を宥める為に口を開く。
「まぁまぁ、マックイーンも落ち着きなよ? ああ見えて、リアルデュークだって色々と忙しいんだろうしさ……ほら、最近も騒ぎを起こしてカイチョーにこっ酷く叱られたみたいだしさ。」
「……そうなんですの?」
自身の話を聞いてキョトンとするマックイーンを意外に思いながらも、テイオーは更に詳しい事情を話す事にした。
「あれ? マックイーン知らなかったんだ? あのナリタブライアンと勝負をして、その結果グラウンド整備のペナルティを生徒会から課されたらしいよ? 僕のクラスの子達が話してたけど、ここ最近は放課後は毎日ブライアンと一緒にグラウンド整備をしているらしいよ?」
「……放課後毎日、2人きりで?」
「2人きりって事は無いと思うけど、あの勝負以来かなり仲良くなったとは聞いたかなぁ。」
テイオーの話を聞いたマックイーンの目が剣呑な雰囲気を纏うが、それに気付かないのか、敢えて何時もの事と流したのかはわからないが、気にした様子も無くテイオーは続きを話始める。
「カイチョーも機嫌良くそんな事言ってたし、あのリアルデュークが大人しく毎日ちゃんと作業をしているって事実にさ、やっと少しは学生としての自覚が出て来たみたいで嬉しいみたいな事言ってたんだよねぇ、でねでね?その時の嬉しそうなカイチョーの表情がさ、また良かったんだよねぇ。 それでね……」
嬉しそうにその時の会長との遣り取りを話すテイオーの話を聞き流しながら、マックイーンはある重大な決意をしていた。
「……人様の大事な妹に手を出すだなんて……これは調査と場合によっては制裁が必要ですわ!」
ここにまた1人、嫉妬に狂った鬼が生まれた。
話は戻って現在、共に嫉妬に狂ったウマ娘2人は、偶然にも同じ場所で会合を果たした。
「あら、これはビワハヤヒデさんではありませんの? このグラウンドは現在使用禁止となっておりますのに、何故この様な場所におられるのです? しかも、その様な格好で?」
「こ、これは……と言うか、其方も似たような格好をしているではないか! 其方こそメジロのお嬢様がそんな格好で何をしにこの様な場所に居るのだ?」
「わ、私はちょっとトレーニングの息抜きに来ただけですわ」
「私だって今度のレースの思索に来ただけだ」
お互いに何かしら後ろめたい思いが有る為か、互いに相手を警戒している為に言葉に棘がある2人だった。
少しの間互いに無言で相手を観察していると、何かに気付いたマックイーンが口角を上げて口を開く。
「……あら? 貴女のおっしゃるレースの思索とは、その首から下げている双眼鏡みたいな物が必要なのですか?」
「其方こそ、そのやたらと高そうな望遠レンズのついたカメラは何なんだ? 密林で野鳥でも撮るつもりなのか?」
マックイーンの指摘に一瞬怯んだビワハヤヒデだったが、すぐに相手の違和感に気付き、それを逆に指摘する。
「「……ぐぬぬぬ」」
((……絶対ストーカーだな?(ですわ!)))
お互いに先に続く言葉が出ないまま暫く睨み合っていると、意を決したマックイーンが溜息混じりに話しかける。
「……はぁ、仕方ありませんわね。 貴女、ビワハヤヒデさんでしたか?」
「……なんだ?」
「私、ここで重要な用事が有りますの、ですから……邪魔をせずにここから立ち去って頂けると助かりますの。」
「私だって此処で大事な用事があるんだ。 其方こそ立ち去ってくれないか?」
「「…………」」
まだまだ2人の攻防は始まったばかりだった。
シスコン2人が睨み合っている頃、その観察対象となっている2人は?と言うと……。
「……パパがんがれ〜!」
「おうっ! パパがリアの分まで頑張るから、ちゃんとそこで待っているんだぞ?」
「うぃっ!」
リアルデュークが芝生に敷かれたシートの上で寝転がりながらお菓子を貪る中、何故かご機嫌な様子でブライアンがグラウンド整備をしていた。
「リアルデュークっ! アンタも少しは手伝ってやったらどうや!」
「パパ言った、ここで見守るの仕事!」
「元々アンタが原因なんやから、ブライアンだけにやらせるんは違うやろ?」
あまりにもあまりな状況にタマモクロスが至極真っ当な意見を叫ぶと、それを聞いたブライアンがリアルデュークの所まで走って来て背中にリアルデュークを庇いながら叫ぶ。
「いや、タマモクロス、これは家の教育方針だ! 他所の人が家の方針に口を出さないでくれないか?」
「こんなん教育や無い、ただの甘やかしや!」
ブライアンの言葉にタマモクロスがマトモな意見を述べるが、ブライアンはその意見に真っ向から力強く反論した。
「甘やかしの何が悪い? 私はただ、この可愛い娘を甘やかして甘やかして、ずっとパパ大好きと言って貰いたいだけだ。」
「……アンタ、ぶっちゃけ過ぎやろ? ……アホらし、オグリにサロメ、帰るで?」
「あ、タマモクロスさん、待って下さいませ!」
「あ、おい、タマ?」
ブライアンの言葉に引き攣った表情で感想を述べたタマモクロスが、呆れ顔で2人に声を掛けながら立ち去っていく。
そんな3人を何故か勝ち誇った顔で見送るブライアンだった。
実の姉より近所の優しいお姉ちゃんの方がグッときます。
家族ってそんな感じかも知れませんね。
※異論は認めます。