メジロ家の変な子   作:ネギ市場

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 タイトルに深い意味はありません。
 



魔王降臨

 

 

 

 男には絶対に忘れられない想いがあった。

 忘れてはいけない怒りがあった。

 あの日あの時、奴はどんな気持ちで男を、仲間達を見ていたのか?

 奴が笑う度に仲間達が奴の前に次々と倒れて行く中、男は何度倒されても1人立ち続けた。

 そうしている内に、共に戦った仲間は誰も居なくなってしまった。

 だが、男は諦めない……己のプライドを基に何度倒されても奴の前に立ち続けたのだった。

 そして男は今、愛弟子と共に奴へと挑む、その手に勝利を掴む為、奪われた誇りを取り戻し、散っていった仲間達に報いる為に……

 

 

 「……店主、チャレンジお代わりだ!」

 巨大なすり鉢にはいった汁を一気に飲んだオグリキャップが、カウンター奥の調理場に立つ男へ笑顔で叫ぶ。

 既に10杯以上積み重なったその巨大なすり鉢を愕然とした表情で見詰める男の横で、ファインモーションが掠れた声で口惜しげに口を開く。

 「……店長、もう……もう食材が残っていません。 明日以降の食材も既に空っぽに……」

 「……クソッ! 矢張りワシではあの魔王には勝てないのか!」

 「店長、もう私達に戦うすべは……」

 男の叫びを聞いたファインモーションが、有り得ない事態に狼狽えながら、店主である男へと空になった冷蔵庫を開けて中を見せながらか細い声で伝える。

 男はファインモーションの方を一瞥すると、口惜しげに調理台に拳を打ち付けて歯を食い縛る。

 

 

 「……ふむ、店主? あの、お代わりを……」

 「クソッ! ファイン、最終手段だ!」

 「はい、店長!」

 男達の様子に若干困惑しながらも、そうオグリキャップがカウンター奥の調理場に立つ男へと声を掛けた瞬間、カウンターと調理場の間がシャッターで隔離された。

 降ろされたシャッターに書かれた『営業終了』の文字を見たオグリキャップの表情が、一瞬で哀しみに溢れたものになった。

 「……あっ」

 「……オグリキャップ、閉店だ。」

 「そうか、まだ食べたかったのだが……」

 悲しげに肩を落とすオグリキャップの肩に手を置き、言い聞かせる様に落ち着いた声でブライアンが現実を突きつけたのだが、次に出たオグリキャップの言葉に思わずといった感じで叫んだ。

 「なっ! これだけ食っておいて未だ食べるつもりだったのか!」

 「オグリんは大食漢! まさに怪物! みんなからそう言われてた聞いた。」

 驚くブライアンに何故か得意気なリアルデュークが解説をすると、その頭を撫でながらブライアンが優しく話す。

 「そうなのか……リアは物知りだな?」

 「ボク博識! 頭良い!」

 「……いや、別に怪物とはそう言う意味では……」

 そんな2人のやり取りを聞いたオグリキャップが、若干口籠もりながら一応の弁明をしていると、その弁明を聞いているのかわからないが、ブライアンが話題の転換を兼ねて2人に向けて口を開いた。

 「まぁ、店も終わった事だしそろそろ寮に戻るぞ?」

 「ボクまだ遊びたい!」

 「駄目だ、子供はもう家に帰る時間だ。」

 「……うぃ」

 「……良い子だ。」

 リアルデュークの頭を撫でるブライアンの姿を見て、オグリキャップが微笑ましいものを見る様な目で話す。

 「ブライアンは、ちゃんとお父さんなんだな?」

 「当たり前だ、この子の為になる事なら何でもやるべきだろ?」

 「うむ、私は、ちゃんとしているお父さんなブライアンを偉いと思うぞ?」

 「パパ偉い!」

 「……そうかそうか、パパ偉いかぁ?」

 「偉い! 偉いパパ撫で撫でする! だからもうちょっと遊ぶ!」

 「そうかそうか、ならもうちょっとだけだぞぉ? リアは何して遊びたいんだ?」

 リアルデュークに頭を撫でられながらニヤけているブライアンを見て、オグリキャップが引き攣った表情でぼやいた。

 「……前言撤回した方が良いのだろうか?」

 

 

 オグリキャップが無双している頃から少しだけ時間は遡る。

 メジロマックイーンとビワハヤヒデの不毛な争いは未だに終わる事は無く、その場に居合わせたタマモクロス達を巻き込んで加熱していた。

 主にタマモクロスが……。

 

 あれからずっと同じ事の繰り返しを経て、タマモクロスの口調が大分荒っぽいものに変わってきていた。

 「……せやから、アンタらいい加減認めたったらええやん?」

 「わ、私は姉としての責務から行っているだけですわ。」

 「私も姉として行っているだけだ!」

 「だぁあかぁらぁっ! つまり、2人共やっとる事も、その理由も同じっちゅう事やな?」

 不毛な言い争いに苛立ちながらも、なんとか場を納めようと奮闘するタマモクロスが、漸く2人の共通点を認めさせ、話を終わらせようと纏めに入るが、2人は息ピッタリで即答する。

 「「それは違います(わ)!」」

 「何でやねん! 今言うた事、2人共同じやんっ?」

 更に荒ぶり叫ぶタマモクロスに、何故か得意気な2人が解説を始めた。

 「いえ、私と其方の方とでは、親愛の重さが違いますわ。」

 まずはマックイーンが優雅な所作で自信満々に宣言する。

 「親愛の重さってなんやねん? ウチ初めて聞いた言葉やで?」

 そう頭を苛立ち掻きむしりながらタマモクロスが草すると、今度はビワハヤヒデがメガネをクィッとした後に、まるでオペラ歌手の様に大袈裟な身振り手振りを交えて宣言する。

 「親愛の重さか……それならば、私のあの子への想いは誰よりも深く大きいと言い切れる! それこそ、重さがどうのと気にならないくらいに、私の愛は極まっている!」

 「こっちもややこい事言い初めとるなぁ。」

 ビワハヤヒデの所作に返って冷静になったのか、面倒臭そうに呟くタマモクロス、それを完全に気にしていないマックイーンが得意気に反論する。

 「それは私も同じ、いえ、貴女以上ですわ! だって私はあの子に言葉を教え、生活に必要な知識を教え、あの子が不自由しない様に生活基盤をより快適で優雅なものへと整えましたのよ?」

 「……一緒に常識も教えたってや?」

 「ふふふ、その程度とは語るに落ちたな?」

 「……何ですって?」

 「私は、あの子の全てのデータを持っている! 初めて立ち上がって歩いた日時、初めて走った日時、好物や嫌いな物から、お風呂で何処から洗うのか? 全て、全てこのお姉ちゃんが把握しているのだ!」

 「……やっとる事は完璧なストーカーやなぁ。」

 決めポーズまで取って得意気に宣言するビワハヤヒデに、小さな声でぼやく様にツッコミを入れるタマモクロス。

 「わ、私だってそのくらい……一緒に、一緒に居れたなら絶対に……くっ!」

 「……いや、そこで涙を流して悔しがるのが訳分からん。 相手のやっとる事、単なる犯罪行為やから!」

 呆れながら半分義務の様にツッコミを入れるタマモクロスを全く意識していないビワハヤヒデが、何故か隠された驚愕の真実に気付いた主人公の様に愕然としながらも、恐る恐るといった感じでマックイーンに問い掛けた。

 「……まさか……一緒に居られなかったのか?」

 「……ええ、実は……」

 

 

 あれからマックイーンによって身の上話を聞いたビワハヤヒデが、涙を流しながら慟哭する。

 「何と言う事だっ! 姉妹が一緒に居られなかったなんて……それは何というディストピアなんだ! 世界はそこまで非情だと言うのかっ!」

 「いや、まぁ、姉妹に限らず家族が一緒に居られへんのは間違っとるとは思うんやけどな? アンタらが言うと、一緒に居らん方が色々良かったかも知れんと考える自分も居るなぁ。」

 何処か遠い目をして投げやりにぶつぶつと独り言を言うタマモクロスを放置してビワハヤヒデとマックイーンの話は続いた。

 「……御理解下さいますの?」

 「理解も何も、自分がその立場だったらと思うと……想像するだけで血涙が止まらなくなる。」

 「うわっ、ほんまに血涙出てしもうとるやん?」

 「私、貴女の事を誤解していたみたいですわね?」

 何故か感極まった2人がお互いに手を取り合って見つめ合うと、笑顔で話を続けた。

 「良いさ、私だって妹を想うばかりに貴女の事を誤解していた。 だが、昔から言う通り……」

 「「『妹萌えに悪人無し! 但し、同性に限る!』だな?(ですわ!)」」

 「ふふっ、どうやら貴女は同志みたいですね?」

 「ああ、私達は同好の士と言うやつみたいだな?」

 「……あかん、コイツらマジで訳分からんわ。」

 自分の存在を忘れて意気投合する2人をドン引きした表情で見ていると、そんなタマモクロスにサロメが話しかけてきた。

 「あの、タマモクロスさん?」

 「なんやサロメ?」

 「オグリキャップさんが居ません。」

 サロメの言葉に辺りを見回して、オグリキャップが何処にも居ないのを確認したタマモクロスが口を開く。

 「なんやて? アイツいつの間に……」

 「お腹が空いたと言った後に、ふら〜っと何処かへ行ってしまわれましたわ。」

 「……子供かいな? まぁ、オグリが向かう所なら検討がつくさかい、まあ、きっと大丈夫や!」

 サロメの話を聞いたタマモクロスが、そう笑いながら話すと、そのタマモクロスの言葉を聞いたサロメが不安そうに話す。

 「オグリキャップさんって、時々常識が無くなることありますけど……大丈夫でしょうか?」

 「オグリの常識非常識ってか?」

 「いえ、非常識と迄は言いませんが、誤解を招く可能性はあるのではないかと……」

 「大丈夫やっ!と、言いたい所やけど、アイツも前科はぎょうさん有るし、ほな探しに行こか?」

 「そうですわね……ただ、彼方は宜しいのですか?」

 軽くそう言うタマモクロスに、サロメが不安そうに騒がしい2人の方を見て確認してくる。

 「かまへん、元々ウチらには関係無いし、何やら意気投合しとるみたいやしな?」

 「では、まずはタマモクロスさんの心当たりから参りましょう?」

 「せやな?」

 こうして、不毛な言い争いの場からサロメとタマモクロスは、オグリキャップが居そうな場所へと歩き始めるのであった。







 アレな人の理論って、やっぱりアレなんですよね?
 話せばわかるは、話してわかる人同士でしか成り立たないと思います。
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