クリスマスイブ、特別な関係の者達にとっての特別な日。
そんな特別な日に、ナリタブライアンは、リアルデュークの半歩前を歩いている。
「どうだ、寒くないか?」
「うぃ、もーまんたい!」
リアルデュークの元気な返事を聞いたブライアンは、無言で自分のマフラーを外し、リアルデュークの首に巻き直した。
「……うぃ?」
「若干頬が赤い、それは寒いってことだ」
……完全に保護者の判断である。
リアルデュークにマフラーを巻いたブライアンが、今度は近くの自販機に向かい、ペットボトル飲料を購入する。
「ほら、ホットミルク。甘めにしたぞ?」
「ぽかぽかっ!」
「ふ……火傷するなよ?」
リアルデュークは幸せそうに、ペットボトルを両手で持ち、何度か息を掛けて冷ましてからちびちびと飲む。
「……甘いの最高!」
「……そうか、良かったな?」
そう言ってブライアンは優しくリアルデュークの頭を撫でた。
その少し後ろ。
「「…………」」
電柱の影から、鋭い視線が2組分、それはブライアンとリアルデュークに刺さっていた。
「ちょっとなんですの? リアさんとの距離感が近すぎますわ!」
「クッ……ブライアンが近すぎる!」
メジロマックイーンとビワハヤヒデ、2人は同時に低い声で唸る。
「見ました? 今のマフラー!」
「見た。だがあれは……そうか、保護だな?」
「それでも近いですわ! 健全な学生としての適正距離ではありませんですわ!」
マックイーンはスマホを握りしめ、嫉妬に震えている。
「リアさんは、この姉である私が守るべき存在……あんな無骨なウマ娘に……」
「待て、マックイーン。あれは“無骨なウマ娘”ではなく“世話焼きすぎる父親”の姿だ」
「なお悪いですわ!」
マックイーンが荒ぶる一方、ビワハヤヒデも静かに燃えていた。
「……あのブライアンがあんな顔をするのは久しぶりだ」
「顔ですか? 別に普段からあの方はああいうあまり変化の無い顔では?」
「いや、ちゃんと見ろ、口角が0.3ミリも普段より上がっているではないか!」
……変態にしか分からない変化である。
変態2人の前方では、リアルデュークが冬物のコーディネートで着飾ったマネキンが飾られているショーウィンドウの前で立ち止まっていた。
「……キラキラ?」
「欲しいのか?」
「むぅ……ボク、うまうまの方が良い!」
その瞬間、ブライアンの眼光が鋭く光った気がした。
「そうか、なら私お勧めの焼肉屋に行くぞ?」
「焼肉? ……お肉祭り!」
「そうだ、お肉祭りだ!」
そう言って意気投合した2人は、少し歩いた先にあるブライアン行きつけの焼肉屋へと向かった。
「さあ、着いたぞ? この店だ。」
「……ボクわかる、ここうまうまな店!」
「そうだ、うまうまな店だ! リア、うまうまを腹一杯食うぞ?」
「ボク、負けられない戦い、始まる!」
拳を握り締めて気合いを入れるリアルデュークと、その姿を楽しそうに笑顔で見る2人の姿は、完全に親子のそれだった。
それを見た姉2人は——
「……リアさん、完全に“餌付けされて”ますわ!」
「……ブライアンが、私以外とあんなに楽しそうに」
しばしの沈黙……。
「「……許せない(ですわ)」」
理由は違うが、結論は同じ2人。
「妹は姉が甘やかすものですわ!!!」
「いや、妹は姉が管理するものだ」
それぞれ勝手なことを言いながら、2人姉は再び尾行を再開する。
それから小一時間後。
リアルデュークと2人、美味しいお肉を堪能したブライアンは会計を済ませ、リアルデュークの頭にそっと手を置いた。
「うまうまだったか?」
「……うぃっ!」
その笑顔に、ブライアンは静かに満足する。
「ならよし。 次は好きな菓子屋に寄り道してもいいぞ?」
街の明かりの下、“親のような妹”と“守られる妹”。
そしてその背後には、我慢が効かない重度のシスコン姉×2 が、確実に忍び寄っていた——。
「……リアさん?」
その声に、リアルデュークがびくっと肩を跳ねさせた。
「うぃ?」
「ぐ、偶然ですわね。ええ、本当に“偶然”ですわ。」
マックイーンの顔に浮かぶのは完全に作られた満面の微笑み。
だが何故か背後のイルミネーションが一段暗く見える。
同時に反対側から、低く落ち着いた声。
「ブライアン」
「……姉貴か、何故こんな所に……だが、丁度良かった。」
ブライアンはリアルデュークを抱き上げ、誇らしげにビワハヤヒデに見せた。
「姉貴、前から話していたが、こいつがリアルデュークだ。……何と言ったらいいか……そうだな、うん……そう我が子のような存在だ」
少しだけ照れた表情を浮かべる妹の顔を見ながら、ビワハヤヒデは努めて冷静な表情を保ち、ゆっくり頷く。
「……そうか、我が子か。」
だが心の中は、もはや理性では抑えられなかった。
(なぜ、なぜあんなにも嬉しそうに……! あんな何も考えて無さそうな血筋だけの小娘に……! 私のブライアンを……ッ……!)
抱き上げられたリアルデュークは、そのまま無邪気にブライアンの頬へ手を伸ばす。
「うぃ!」
頬に当てられた小さな手に自分の手を添えたブライアンは、終始満面の笑みでリアルデュークを抱き抱える。
「な、姉貴も可愛いと思うだろ? 何と言うか、まるで我が子みたいだろ?」
ビワハヤヒデは口元を微かに引き攣らせながらも、努めて表情を保つ。
「……ああ、可愛いな」
――しかし心の奥では、血のように赤い涙が流れ、胸の奥が焼けるように痛んでいた。
(ああ、なんで……こんなにも胸が、焼き切れそう……! あの笑顔……あの無邪気な声……私のブライアンを……こんな小娘なんかに……ッ!)
心の中の嫉妬はもう理性を溶かし、ビワハヤヒデの指先が微かに震える。
「……ブライアンが紹介したいと言って居たのはこの子か?」
声は冷静そのもの。
しかし、内心では狂気じみた嫉妬が渦巻いている。
だが、それに気付かないリアルデュークは無邪気に笑い、ブライアンの肩に手を置く。
「うぃ!パパー!」
ブライアンはさらに笑顔を広げ、リアルデュークを高く掲げる。
「な、どうだ? 私のリアルデュークだ。 最高だろ?」
ビワハヤヒデは唇を噛みながらも、その表情にはわずかな微笑を残す。
「……ああ、全く……最高だな?」
――その表情の裏では、嫉妬が臓腑をえぐり、何かに抉られたように胸が痛む。
だが、ブライアンに尊敬され続ける為に、必死になって理知的な自分を保とうとすればするほど、心の中の狂気が押し寄せ、全身を引き裂くようだった。
(ああ、ブライアン……この小娘ッ……私の……私の……ッ……ッ……!)
ビワハヤヒデはぎりぎりの理性でその場に立ち、冷静な微笑を貼り付けたまま、血のように赤い嫉妬を心の奥で滾らせ続けていた。
そして、もう1人……この場で嫉妬に狂う人物が居た。
ブライアンはリアルデュークを抱き上げ、得意げに笑う姿。
「な、どうだ?俺のリアルデュークだ。最高だろ?」
嬉しそうにそう述べた言葉。
マックイーンは微笑みを貼り付け、その激情に震える口を開いた。
「……ふふ、随分と楽しそうですわね?」
――その内心は完全に炎上していた。
(このブライアンさんと言う方……! その行為、まるで泥棒猫ですわ……っ、私からリアさんを奪おうとするなんて……ッ!)
リアルデュークは、無邪気にブライアンの肩に手を置いて嬉しそうに笑う。
「うぃ!パパー!」
マックイーンの胸がぎゅっと締め付けられた。指先がわずかに震え、視線がブライアンに鋭く突き刺さる。
(……あんな顔でっ! あんな笑顔でっ! 私の妹を……横取りしてっ! 絶対に許せませんわ……ッ!)
マックイーンは一歩前に出たくなる衝動を必死に押さえつける。
(……ブライアンめ……この泥棒猫っ! 私のリアさんを……絶対にに渡しませんわ……ッ!)
作り笑顔を浮かべながらも、視線はリアルデュークにくぎ付け。
心臓が破裂しそうなほど、独占欲と嫉妬で熱く燃えていた。
(……ブライアンさん、貴女のせいで……私の心臓も、理性も……燃え尽きそうですわ……ッ! リアさんは、私のものですわ……っ!)
夜の街に、ブライアンの満面の笑み、無邪気なリアルデューク、そして作り笑顔の裏で嫉妬の炎を燃やすマックイーンとビワハヤヒデ。
嫉妬の炎が、静かな夜の空気をわずかに揺らしていた。
嫉妬の心は父心と言います。
押しても推しても何も生みませんけど……