決断は、静かだった。
生徒会としての正式な権限を用い、問題児三名に呼び出しの通達を出す。
理由は簡潔に記した。
「最近の行動についての確認」。
それ以上の説明は不要だと判断した。
不要だと思った。
――その判断自体が、すでに偏っていることに気づかぬまま。
生徒会室。
扉が開き、最初に入ってきたのはゴールドシップだった。
「おー、珍しいな?全員集合じゃんかよ?」
軽い口調。
緊張の色はまるでない。
次にアグネスタキオン。
明らかに自分の腕より長い白衣の袖を回しながら、興味深そうに室内を見回す。
「ふむ、生徒会室に呼び出されるのは久々だねぇ?」
最後にリアルデュークが、面倒臭そうに入って来た。
「……茶菓子、出る?」
三者三様の反応。
だが共通しているのは――警戒心の欠如だった。
その事実が、エアグルーヴの胸をざわつかせる。
「……着席しろ」
短く告げる。
自分の声が、思ったより硬いことに気づき、それを意識的に無視した。
「最近、お前たちが妙に静かな理由を聞かせてもらうぞ?」
エアグルーヴは、目の前に並んで立つ3人の問題児達をひと睨みしてから、単刀直入に真正面から切り出す。
そのエアグルーヴの様子に、ゴールドシップは目を瞬かせ、次いで笑った。
「理由? 別にそんなんねぇよ……なぁ?」
「……ない?」
「ん〜、ゴルシちゃん的に強いて言うなら……」
ゴールドシップは、楽しそうに口角を上げた。
「ドッキリだな」
「……は?」
一瞬、意味が理解できなかった。
「いやぁ、副会長がさ、最近やたらと周囲を気にしてただろ?」
アグネスタキオンが頷く。
「観察対象として非常に興味深かった。 何より『何も起きていない状態』に、どこまで耐えられるか? 実に面白い心理実験だったさぁ!」
「……うぃ?」
エアグルーヴの表情から何かを察して、リアルデュークが慌てて補足する。
「ボク、無関係、何もしてない!」
室内が、妙に静まり返る。
エアグルーヴの思考が、音を立てて崩れていく。
「……それだけ、か?」
「ああ、それだけだっつの」
即答だった。
張り詰めていた緊張が一気に行き場を失う。
最初に湧き上がった感情は、怒りだった。
「……ふざけるな」
声が低くなる。
「生徒会の警戒を弄ぶ行為が、どれほど危険か分かっているのか?」
「いやぁ、ゴルシちゃん的にはそこまで行くとは思わなくてよぉ?」
その軽さに、何かが切れた。
「――――――――――――――――――――ッ!!」
乾いた音が、生徒会室に連続して響く。
「いだっ!!」
「痛いね!? これは痛い!」
「あぅっ!」
ゴールドシップ、タキオン、リアルデューク。
三人の頭に、等しく衝撃が残る。
「貴様ら、これが秩序を乱す遊びだと理解しているのか!!」
怒鳴りながらも、エアグルーヴは自分の内側が空洞になっているのを感じていた。
――怒っているのは、本当に彼女たちに対してか?
答えは、分かっていた。
「そこまでだ、エアグルーヴ」
静かな声が、空気を変える。
シンボリルドルフだった。
「会長……」
「今回の件について、君はどう考えている?」
問いかけは穏やかだった。
だが逃げ道はない。
エアグルーヴは、一度目を伏せ、やがて正面を見据えた。
「……私は、確証のないまま結論に進みました」
「うん、そうだな。」
「疑念を検証する前に、疑念を前提として行動してしまいました。」
言葉にするほど、重みが増していく。
「ちなみに」
ルドルフは、淡々と続けた。
「私は最初から、『偶々静かだっただけ』という可能性も考えていたよ?」
「……!」
「だが、敢えてキミを止めなかった。 キミが秩序をどう扱うか、見たかったのもある。」
責める調子ではない。
それが、かえって痛かった。
「秩序を守る者ほど、秩序に飲み込まれやすい」
その言葉は、静かに、確実に刺さった。
「だから、独りで抱えるな。観察し、共有し、委ねろ」
「……はい」
深く、頭を下げる。
ルドルフにより、処分は最小限に留められた。
ドッキリを仕掛けた三人には、正式な注意と生徒会業務の一時補助。
罰であり、責任でもある。
そしてエアグルーヴ自身も、独断専行について反省文を書くことと、補助に入る3人の監督をする事になった。
罰を受ける様な失敗をした事、それを恥だとは思わなかった。
今は成長の為に必要な工程だったと、今は思える。
数日後。
学園はいつもの騒がしさを取り戻していた。
「お〜い副会長! 今日は調査しないのか?」
「煩い、ゴールドシップ、貴様、もう二度とやるな!」
怒鳴り声と笑い声が混ざり合う。
エアグルーヴは、その雑多な光景を眺めていた。
静けさだけが秩序ではない。
騒がしさもまた、流れの一部だ。
秩序とは、管理するものではなく、理解し続けるものなのだ。
彼女は、ようやくそれを学び直した。
――静けさの裏側で。
ただとばっちりを受けただけなリアルデュークでした。