トレセン学園のグラウンドにある芝コースに、朝の光が差し込む。
朝露に柔らかく湿った芝の匂いが風に乗って漂い、トレセン学園の外周を取り囲む低いフェンスが淡く光る。
千尋はいつものように教え子である二人のウマ娘の前に立ち、手に持ったメモ帳を軽く揺らした。
「はい、まずはウォームアップ。 軽く力を抜いて、呼吸と身体の伸びを意識して。」
リアルデュークは目を細め、芝を踏みしめる脚を軽く揺らした。
最近は、何時も身体の奥底からあふれる力を持て余している様子だ。
片言の日本語で、ただ一言元気よく「うぃっ!」と、答えた。
隣で同じように身体を伸ばしていたサロメは、落ち着いた呼吸でリアルデュークの隣に並ぶ。
肩を回し、軽くストレッチしながら前を見つめる。
前回のレースでトップスピードの不安を自覚したせいか、表情は引き締まっていた。
そんな2人に、千尋は穏やかに微笑み、声をかける。
「リアちゃん、力任せに走らない。コーナーは特に注意して走る様に意識して? サロメさん、貴女は逃げるときのペース配分を意識。 無理にペースを崩してまで前に出ない事、いい?」
芝の匂い、柔らかさ、湿り気。
リアルデュークはそのすべてを踏みしめながら走る。
直線では圧倒的な加速力で、周囲の空気を切り裂き飛ぶ様に走る。
だが、最初のコーナーで力が強すぎて足が滑り、外側の芝を蹴り上げてしまう。
砂や芝片が舞い上がり、バランスを崩したリアルデュークの速度が目に見えて落ちる。
「リアちゃん、スピードを少し抑えて! コーナーは内側を意識して!」
千尋が大きな声で指示を出す。
リアルデュークはその声にすぐに反応して、頭を小さく振りながら「うぃっ!」と答える。
指示通り力任せの走りを止め、芝の感触に合わせてコーナーを曲がろうとするリアルデュークの少し前では、減速したリアルデュークの前に出たサロメが、器用にスピードを維持したままコーナーを曲がって行く。
だが、トップスピードが低いために直線で追い抜かれる危険がある。
リアルデュークは千尋の声に耳を傾け、ペースを少し抑え、コーナーごとにラインを意識する。
リアルデュークとサロメの距離が微妙に変化する。
互いの特性を踏まえ、サロメが前に、リアルデュークがそれを追う形で、追い付きそうで追いつかないギリギリの間合いが維持される。
「よし、2人ともその調子。 リアルデューク、力は十分よ。 あとはコーナーで滑らないように腰を落として重心を意識して!」
千尋の声が芝の匂いと混ざる。
リアルデュークは短く「うぃっ!」と返し、腰を沈める動作を加える。
芝の柔らかさが脚に吸い付くように伝わり、少しだけ曲がりやすくなる。
数周を回るうちに、リアルデュークのコーナーリングは少しずつ安定してきた。
直線の力はそのままに、コーナーを曲がる技術が少しずつ身についていく。
サロメも、前に出すぎず、かといって遅すぎず、自分のペースで逃げる練習を繰り返す。
芝の香り、足の沈み、風の抵抗。
すべてを感覚で掴みながら、二人は芝コースを滑るように駆ける。
千尋は微笑みながらも、常に目を光らせている。
リアルデュークが力を余す瞬間も、サロメが前に出すぎる瞬間も、声と手振りで指示を出し修正させる。
二人の特性に合わせた声かけは、単純な命令ではなく、リズムや間合いを整えるための誘導にもなっていた。
「リアちゃん、いいわ、そのまま腰を落として我慢! サロメ、侵入ラインを守って。」
リアルデュークは走りで答えながら、加速を調整する。
直線ではその巨大な脚力で芝を蹴り上げるが、コーナーでは余計な力を抜き、内側をややぎこちなく曲がる。
サロメは、リアルデュークに侵入ラインを見せる事を意識し、走る位置を微調整し、リアルデュークが無理なく曲がれるギリギリを攻めた。
そして、直線では追い抜かれないように呼吸を整え、コーナーでは膝の使い方を意識する。
芝コースは二人の足跡で刻まれる。
リアルデュークの足跡は深く、踏むたびに芝が跳ねる。
サロメは軽やかに、しかし確実に足を運ぶ。
二人が走るたびに、コースの感触と匂いが変わり、風が舞う。
「千尋さん、もう一周行きます!」
サロメが息を弾ませながら叫ぶ。
リアルデュークは「うぃっ?」と少し嫌そうに応え、全力で芝を蹴る。
二人の呼吸と足音が交錯するが、互いにぶつからず、危険を避けながら練習は続く。
芝コースの匂いと踏み心地は、二人の成長を静かに記録している。
リアルデュークは力任せに曲がらず、コーナーリングの技術を身につけつつある。
サロメは逃げ切るためのペース配分を覚えつつ、トップスピードの限界に挑む。
千尋は優しく、時には厳しく見守り、必要に応じて声をかける。
力任せの動きを止め、ラインの調整を促す。
二人が互いに補い合い、危険を避けながら芝を駆け抜けるたびに、練習の意味が少しずつ形になる。
太陽が高く上がり、芝コースの緑が鮮やかに輝く。
リアルデュークは直線で全力を出しつつ、コーナーを安定して曲がる。
サロメは逃げ切るためのリズムを掴み、呼吸と脚の動きを微調整する。
練習の最後、千尋は二人を止め、柔らかく声をかける。
「2人共よく頑張ったわ。今日はコーナーリングも、ペース配分も、少しずつ掴めて来たわね。」
リアルデュークは「うぃっ!」と短く返し、満足そうに芝の上に横になる。
サロメは笑顔で深く息を吐き、成長を確かめるように芝を踏む。
練習を終えた芝コースには、二人の蹄跡が並び、力と速さ、課題と工夫の痕跡が残る。
リアルデュークは力を溢れさせつつも、技術を身につけ、サロメは逃げ切る戦略を覚えつつも、芝の感触と風の抵抗を身体に刻む。
千尋はそのすべてを見守り、声をかけ、成長を静かに支える。
午後の光が落ち、練習が終わるころ、芝コースは二人の足跡と風の残滓だけを残して静まる。
リアルデュークもサロメも、千尋の目を通して少しずつ、次の夏合宿に向けての力を蓄えていた。
偶にはリアルデュークの練習風景でもと……
保護者(ナリタブライアン)は生徒会室でステイです。