メジロ家の変な子   作:ネギ市場

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 偶にこう言う悲しい人って居ますよね?




メジロ家の人々

 

 女は優秀で、善良だった。

 名家に生まれ、地位も名誉も、富も、全てが思いのままだった。

 ……レースに勝てればだが。

 その女が、生まれながらに所属させられた世界は、全てが残酷で冷酷で、とても寒かった。

 そんな世界でも友情や愛情、喜びや悲しみはあった。

 厳しい世界だからこそ、其れ等も大きく強かった、人によっては『これこそが人生だ』と迄言い切った。

 女は思う、確かにここには全てがあるのだろう、だが…私が1番欲しいモノだけが無い。

 女が欲しがったモノそれは……

 

 

 『さぁ、第4コーナーを回って最後の直線、中山の直線は短いぞ、後ろの子は間に合うか?』

 天皇賞秋、3200mの長丁場、レースは終盤に差し掛かり、残るは最後の直線のみ、ここまで想定通りの流れで来れた。

 …脚は?残っている。…身体は?まだ行けると心臓が強く打ち、肺が大量の酸素を取り込む。……気持ちは?これ以上無い程に燃え上がっている。

 ここだ、ここで行かなければあの2人には勝てない。

 ジワジワとライバルの2人、フィニイとアカネテンリュウが後方から上がってくるのを感じ、メジロアサマはラストスパートをかける。

 早過ぎるスパートに関係者から悲鳴が上がる。

 距離適正に不安があると言う者がいた、地力に劣ると鼻で笑った者もいた。

 《だから何だ?私は私、鉄の女、メジロアサマだ!》

 想いを魂に焚べる、熱量が一気に上がる、身体を前へ前へ……誰よりも速く、誰よりも強く、全てを尽くしてこの瞬間にかけたメジロアサマは、誰よりも速くゴール版を駆け抜けた。

 

 念願の天皇賞を勝ち取った、世代の頂点にも立った。

 実家も掌を返し自慢の娘だと、一族の誉れぞと讃えている。

 後は有馬記念を最後に私は引退する…誰もが羨むウマ生だと、何も知らない者達が勝手な事を言う。

 私はメジロだ、メジロ家のアサマだ……唯のアサマには遂になれなかった、これ迄は家の名誉の為に走り、此れからは家の名誉の為に走らせる。

 他に道は知らない、誰も教えてくれなかった。

 だから、あの子に出会えた奇跡を女神に感謝しよう……たっぷりと怨嗟を込めて……そのウマ娘の名は

 

 

 軽快なリズムを奏でるフルート、アップテンポの太鼓、景気の良い打楽器、リアルデュークは今、久しぶりに感じる解放感の下、一心不乱にザウリダンスを踊っていた。

 思えばいつ以来だろうか? 仲間たちが楽器を掻き鳴らし、それに応える形でより激しく足を動かす、被ったバウレ布と仮面の下で飛び切りの笑顔を浮かべながら、リアルデュークは感情を爆発させて身体全体を使って踊り狂う……黒鹿毛のショートカットで、褐色のウマ娘キキトニッカが太鼓を更に激しく打ち、その妹の黒鹿毛のセミロングの髪型で、褐色のウマ娘ボルデがリアの前で対抗するかの様に踊り、芦毛のロングヘアで、色白なウマ娘オペレッタが自作の小太鼓を打ち鳴らす。

 それを黒鹿毛のショートヘアで、褐色のウマ娘アビアナカペルと同じく黒鹿毛のベリーショートで褐色のウマ娘アラカトベが囃し立てる。

 仲間たちのその様子に合わせながらフルートを吹く、鹿毛の肩まである髪を雑に後ろで束ねた髪型で日に焼けた小麦色の肌をしたウマ娘メジロレオーネ。

 全員粗末な服装で、栄養状態もあまり良くないのか痩せていたが、焚き火の前でとても楽しそうにはしゃいでいた。

 

 

 

 一頻り踊り終わり、息を切らせながら全員をとびきりの笑顔で見るリアルデュークは、自分を見て優しく微笑むレオーネを発見すると走って近くまで行き、そのまま抱き付いた。

 「ママっ! リアの踊り、見てくれた?」

 「あぁ、ちゃんと演奏しながら見ていたよ。リアはザウリダンスが一番上手だなぁ? ただ、ボルデと違って、まだ上半身が揺れている時があるから、次はそれが課題だな?」

 「…むぅ、ボルデは足の回転数?が、遅いからだもん、同じならリアの方が上手いもん!」

 「おっと、それは聞き捨てならないねぇ、アタシの方が足が遅いと言いたいのかなぁ?リアの癖に生意気だぞぉ?」

 そう言いながらリアを背後からレオーネごと力強く抱き締めて笑う。

 「ボルデ痛い、馬鹿力なんだからママから離れて!」

 間に挟まれて揉みくちゃにされながらリアは一生懸命にレオーネからボルデを引き剥がそうと押すが、非力なリアではびくともせず、ただただ幼子の呻る声が聞こえるだけだった。

 

 

 

 「……ママ?」

 寝起きでまだ余りはっきりしないリアルデュークは、辺りを見回して求める人物が居ないことを認識する。

 楽しい夢の残滓に泣きそうになる。

 何故、あのまま仲間たちと暮らせなかったのか…その想いは強い怒りと共にいつまで経っても消えず、会えない日々はどう仕様も無い苛立ちと哀しみ、そして寂しさを募らせる。

 目元に溜まった涙をグシグシと右手で拭い、途中、何かに拳が当たった気がするが、気にせずそのまま右手を天高く突き上げる。

 「ママとの約束、朝は元気に勝利のポーズ!」

 

 

 

 メジロ家の朝は早い。

 当然、メジロ家に仕える者達の朝は早く、何時も朝日が登る頃には活動を始める。

 いつも通りに目覚め、手早く身支度を整えた執事補佐は、メイド達の作業の確認や仕事の指示を終えてから、既に朝練をしているウマ娘達の練習風景を2階の廊下から心の中でエールを贈りながら眺める。

 「みんな頑張れ、諦めなければ夢はきっと叶うから!」

 

 

 

 「……またこっち覗いてるよ、あのエロ執事。」

 「毎朝毎朝、女子小学生の運動服姿を、にやにやしながら熱心に見てるのってかなりヤバいよね?」

 「私、アレのせいでジャージが脱げなくなったんだよね。汗で透けた下着をあんなのに見られたらと思うとさぁ……」

 「「「わかる〜!」」」

 「ほんと、執事長さんと交代してくれないかなぁ」

 「ほんとそうだよねぇ。」

 

 

 

 「さて、こうして今日も皆さんから元気を貰いましたし、1日頑張っていきますよ!」

 朝から少女たちから元気を貰ってやる気に満ち溢れた執事補佐は、足取り軽く食堂のチェックに向かった。

 

 

 食堂では、各自メジロ家専属のトレーナーが考案した朝練を終えて集まっていた。

 お腹を空かせた子供達が騒がしくする事無く、名家の家らしく行儀良く気の合う者どうしで食事をしていた。

 そんな子供達を食堂の隅でニコニコと眺めている執事補佐の何時もの姿を見て、メイド達が小声で噂する。

 「ほら、やっぱりそうだよ」

 「ん〜、有料物件だと思ったんだけどなぁ」

 「…アンタだったら別に行けるんじゃない?……ちみっこいし、胸無いし」

 「ちょっと後でお話しよっか? 私こう見えてもフルコンやってたからさ」

 「……すいませんでした!」

 「何やってるのよ、あんたら…」

 

 

 

 「おはよう! ベルもこれからご飯?」

 軽いトレーニングを終えて食堂に来たライアンは、相変わらず不審者感丸出しの執事補佐を視界に入れない様に意識しながら軽く食堂内を見回すと、丁度執事補佐から死角になる席に見知った後姿を見付けると、隣の席に座った。

 「おはようライアン。 今朝はトレーニングあと?」

 「うん! そろそろ夏休みも終わりだしね。秋のレースに向けてトレーナーさんからも調整メニューが出てるからね」

 そう言ったライアンの朝食は、ササミやブロッコリー等の健康と筋肉に良いトレーナー指示メニューだった。

 「良く飽きずに食べれるよね…それ、味付けほぼ無いんでしょ?」

 ジト目でライアンの食べる姿を見ながら、ドーベルは自分のサラダに乗っていた人参をフォークで突く。

 「筋肉が美味しいって喜んでいるからね」

 「…出た、変態発言。 一般的にライアンの筋肉理論は理解されないんだからね?」

 「たはは…普段はもう少し気をつけてみるけど、リアにはもう少し優しく言ってね?」

 「先生にそんな無礼な事する訳無いじゃない? 馬鹿なの?」

 正に信じられない事を言われたみたいにびっくりするドーベルに、苦笑いしか出来ないライアンだった。

 

 

 「あら、今日はお二人ご一緒ですのね?」

 2人が食事を始めて少し経った頃、きちんと身嗜みを整えたマックイーンが食堂に現れた。

 「おはよう、マックイーン。」

 「おはようございます、マックイーンさん」

 「おはようございます、御二方。」

 お互いに挨拶を交わすと、ライアンの対面に座ったマックイーンは、焼き色を付けたトーストにバターとあんこを塗り、これでもかと生クリームを乗せた朝食を食べようとしたその時、スッと皿ごとトーストが消えて代わりに山盛りのサラダが現れた。

 「……嘘でしょ?」

 絶望感たっぷりの声がマックイーンから溢れるなか、いつの間にか居たメイド長が手に先程のトーストが乗った皿を持って立っていた。

 「マックイーンお嬢様には、担当のトレーナー様から指示食が出ておりますので、此方をお食べ下さい。」

 「ワタクシが、ワタクシがまだ食べてる途中でしょうがっ!」

 血涙を流して何処かで聞いた事がある台詞を吐きながら、メイド長の腰に縋り付く……

 「マックイーンお嬢様においては、この後トレーナー様直々に食習慣の改善プログラムの説明と、特別メニューの開始、24時間体制での監視の説明を受けて貰いますので、食事の後に会議室へ御足労頂きます。」

 「……救いは? そこに救いは無いのですか?」

 床に突っ伏して涙を流して訴えるマックイーンに対して、メイド長は眼鏡をクイっと直すと冷たく言い放つ。

 「3日に一度、蒟蒻畑ミニが一つ支給されます」

 「それの……それの何処が救いだと言うのですかあぁぁっ!」

 心からの絶叫をするマックイーンを冷めた目で見てメイド長が宣告する。

 「…味を選べるだけで慈悲であります!」

 「うぁああーっ!」

 マックイーンの慟哭が食堂に響き渡った。

 

 







 頑張れマックイーン!

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