このウマ娘が出て来ると筆が進みます。
イメージ違くても怒っちゃイヤよ?
彼女は強かった、そのウマ生は輝きに満ち、路上でも、レースでも、他者を蹂躙して居た。
正に栄光のみを散りばめた道を歩くが如しであり、「10馬身でも、ハナ差でも勝ちは勝ち、悔しかったら勝てばいい。」と、宣うくらいには傲岸不遜なウマ生を謳歌して居た。
……それに出会うまでは
ここはヒトミミ達が己の力のみでマシンを駆り、頂点を目指す場所。
ここには、ウマ娘のレースに勝るとも劣らない、ヒトミミ達のスピードの共演があり、参加選手達それぞれの熱いドラマが共演する場だった。
競輪場、そこに彼女の姿があった。
手に汗をかいて真剣な眼差しで選手達を見詰めるその姿からは、成程、確かに超を付けれる一流のアスリートの本気が垣間見れる。
かなりの集中…所謂ゾーンと呼ばれる状態に入って居るのか、トラックを誘導車に引かれて一列になって進む選手たちの動きを具に見つめ、特に3番、5番、10番に何かを感じたのか、この3人の動きを中心に見ている様だった。
そして運命を告げるラスト一周の鐘が鳴る、誘導車がコースから退場した瞬間から選手たちが一斉に動き始める。
周りの観客達の応援のボルテージが上がる。
興奮の余り、拳を振り回し、とても子供には聞かせられない言葉で選手たちを応援(罵詈雑言の嵐)する者も居た……
それは彼女だった……
周囲がドン引きするなか、「ケツばっか見てねえで抜けや◯モ!」や、「お前がイカねぇで誰が行くんだクソボケが!」や、「頼む、お前が来ないとまた飯抜き何だよ、今やらねぇでいつやんだよ?」などを観客席最前列でコンクリート製の手摺を殴ってヒビ割れさせながら、大声で叫んでいた。
そして、一つのレースが今決着を迎える。
灰になり、燃え尽きた彼女は、バンエイウマ娘の警備員2人に、両腕をそれぞれ抱えられながら、事務所へ連行されて行った。
「ちげえんだよ、あそこで10番が来れば40倍だったんだよ? 来る筈なんだよ、来ねえからつい、手摺を撫でただけで、吾は悪くないんだよ!」
キャラ作りの為に意識して居た語尾の『〜じゃ』すら忘れて必死に言い繕う彼女の様子に、まるで屑を見る様な目でヒトミミの警備隊隊長が一言だけ確認を取った。
「……貴女、シンザン様ですよね? 確かシンザン様は、出禁になった筈では?」
思わぬ身バレに動揺を隠せないシンザンは、ぎこちなくすっとぼける。
「シンザン? わ、ワタシ、違う、シンザン神、ワタシしがない美女です。」
「……シンザン様なら、メジロ、シンボリ両家から事前に物を壊した場合には両家で修繕費をみてくれると通達が来ているんですがねぇ。 違うなら全て請求して、更に警察に「吾こそが神馬と名高き、シンザンじゃっ!」 では、手筈通りにメジロとシンボリ両家に連絡して、あ、常習犯だから逃げられない様に一応、拘束もしておいて」
数時間後、慌てて迎えに来たアサマとスピードシンボリは、警備員室のソファで両手両足を拘束された状態で、スルメを齧りながらカップ酒で晩酌をして居たシンザンと面会した。
「何をやってるんですか、シンさま!」
「よう、過日の留置所以来じゃな? 元気にしておったか、2人共」
2人に気付いたシンザンは、寝転がってスルメを咥えたまま、2人に向かってカップ酒を掲げる。
「「……シンさまっ!」」
アサマとスピードシンボリからの説教を受けたシンザンは、心底どうでもいいかの様に、
「あ〜、クソだりぃ、なんだって吾がシンボリの優等生如きの為に、動かないといけないのじゃ。」
リムジンの後部座席で、アサマに膝枕されながらカップ酒を煽り、ボヤいて居たシンザンは、空いた片手でずっとアサマの膝を撫で回していた。
「…ありがとうございます、シンさま」
ずっと膝を撫で回すと言う、セクハラ紛いの行為を受けて居たアサマは、嬉しそうにシンザンに礼を言う。
「良い良い、頑張ってくれた良き膝じゃ。 吾は好きじゃぞ?」
「シンさま…」
「相変わらずアーちゃんには甘いんですね、シンさまは」
笑いながらスピードシンボリがシンザンのコップに酒を注ぐ
「吾はな、最後まで諦めぬ者、俯いても立ちあがろうとする者が好きなだけじゃ。」
「シンさまはやっぱり優しいお方ですね」
「初めてお目に掛かる、シンボリルドルフと申します。 今日はお会い出来て幸甚に存じます。 正に青天の霹靂です。」
やや緊張しながらも、確りと歓迎の意を示すルドルフを見て、シンザンは顔を鼻同士が触れるくらいまで近付けると、
「……つまらん、今のお主ではダメじゃな。 おい、スー、他にもっとマトモな奴はおらんのか?」
急に不合格にされたルドルフは、目の前の状況が理解出来ず固まってしまって居た。
「そう言われてもねぇ、ウチで1番なのは間違いなくルドルフちゃん何だけど、やっぱり予想した通りだったわねぇ。」
眉を顰め、少しだけ困ったポーズをあざとくすると、
「仕方ないから、クリスエスちゃんだけでも見て貰いましょう」
スピードシンボリが、そう言って側に控える執事に声を掛けようとした時、その手を掴む者が居た。
「お婆様、流石にこれで引き下がる訳には「辞めとけ辞めとけ、今の腑抜けたお主では吾の好みじゃ無いわ!」…っ!」
眦が鋭くなっているルドルフを、更に揶揄う様にシンザンは手をヒラヒラさせて煽る。
「そう煽られても私は崩せませんが、一体何を望んでこの様に不作法な事をされるので?」
眼光鋭くシンザンを視線で射抜くと、ルドルフは腕を組んで不遜な笑みを浮かべる。
「ルドルフッ! それは不敬です。」
スピードシンボリがルドルフの態度を諌める。
「構わん構わん、ケツの青いガキの戯言よ、捨ておけい!」
そんなルドルフを相手にしないシンザンに、苛立つルドルフは更に言い募る
「まあ、ご老体の戯言と言う事にしましょう。」
今度はシンザンの耳が、その言葉に反応して絞られる。
「言うじゃないか、小童が……吾は神馬と祀られたシンザンそのウマぞ?
たかだか三冠ウマ娘風情が吾を煽るかや?」
シンザンの纏う空気が変わる。
これまでに受けた事のない種類の圧を感じ、ルドルフは内心圧倒されて居た。
だが、だからこそ逆に覇気を全開に抗う。
「ほう、やれば出来るではないか? 良かろう、この神馬シンザンが神威、存分に味わうがいい! スー、こやつの得意な条件で併走じゃ、用意いたせ!」
結果、ルドルフはシンボリ家の敷地にある芝コースの上で、仰向けになって動けないで居た。
「アレが神馬と呼ばれたウマ娘…全く歯が立たなかった。 既にピークを過ぎて何十年と経っていてアレか、正に伝説…いや、神話の住人だな。」
既にシンザン達はアフタヌーンティーの時間だと言うアサマの一言で庭園の東屋に向かった為、ここにはルドルフと少し離れた所にメイドが1名居るだけだった。
未だに動かせる状態に無い程に本能的な震えが収まらない身体を放置して、ある話に想いを馳せる。
「あの神馬が後継者に選んだ娘か……メジロの秘宝、リアルデューク…どれ程素晴らしいウマ娘なのか、一度でいいから会ってみたいな。」
芝生の上に寝転んだまま、期待と憧れが入り混じった表情で笑うルドルフであった。
ルドルフは一度と言わず、何度か会ってます。