この師弟、ぐだる。
「……嘘でしょ?」
ここ、メジロ家別邸の練習用コースでは、死屍累々の有様を呈して居た。
「ハッ! コレが現役のウマ娘の実力だってのかい? ……アサマ、スー、これはどういう事かや? 此奴らは、黄金世代とか言われておるのじゃろ?
それが遊びとは言えじゃ、こんな一線を退いて久しい年寄り1人相手にこのザマとはのぅ……」
ライアン、ドーベル、マックイーンの3人は、息も絶え絶えにコース上に寝転がって居た。
「こ、これが神馬の実力ですの?」
「全く歯が立たなかった……」
「……クズなのに、絶対クズ相手なのに!」
荒い息使いで三者三様の反応を示す。
「よし、そこの娘、まだ減らず口が聞ける様じゃな、もう一度やるかや?」
シンザンはドーベルに、その鋭い眼光を向けて威圧する。
「ヒッ! い、いや……これ以上はもう肘が保たないわ」
ドーベルは、右肘を庇う様に左手で押さえて後退る。
それを横目で見て、マックイーンも同じ様に後退り、ライアンは悔しそうに歯噛みする。
「なんじゃなんじゃ、揃いも揃って情け無い。 前に勝負した、サカノ…何某はもっと歯応えがあったぞ?」
「……それって、ばんえいウマ娘の3冠ウマ娘の名前ですわ。」
腕を組み、愉快そうに笑うシンザンを見ながら、マックイーンがツッコミをいれる。
「おばちゃん格好良い!」
幼女擬きは今日もご機嫌であった。
「おばちゃん言うなと何時も言っておるじゃろうが!」
「…へぶっ」
口が滑った幼女擬きをアイアンクローで持ち上げて、ぷらぷらさせると、シンザンは転がっている3人に言い放つ
「吾の勝ちじゃっ!」
「…流石シン様、容赦が有りませんわ。」
「負けず嫌いですからねぇ。」
はしゃぐシンザンを、アサマとスピードシンボリの2人は、楽しそうにニコニコと眺めて居た。
「……そもそも、何でウマ娘同士の勝負が、アームレスリングになるんですの。」
「神に奉納すると言えば、ズバリ、相撲じゃからのぅ。」
「ですから、あの流れで何で腕相撲なのか? そこをお聞きしているのですわ!」
ガバッと勢いよく上体を起こして、マックイーンが質問をする。
「何故って、吾が勝負と言ったら腕相撲じゃろ? なんともけったいな事を言う娘じゃのぅ? それともまさか、現役のお主らが、吾の様なか弱い老ウマ娘に、自分達が圧倒的に有利なレースで勝負しろ等と、そんなプライドの欠片も無い事を言うつもりだったんじゃろうか? そんな『クズ』みたいなマネをする、クズウマ娘なんて居る訳無いじゃろ?」
シンザンは、マックイーンを見下ろしながら煽り捲る。
「おばちゃん、年寄り……ババ、ぐぇっ…」
余計な一言を言った幼女擬きを、更なる力で握り締めながら、上機嫌でぷらぷらさせている幼女擬きの、筋肉や筋のチェックを始める。
「…相変わらず貧相な肉付きじゃのぅ。 じゃが、密度は上がっておるな。 まぁ、この調子で後1年も続ければ、良い感じになるじゃろうて」
「そ、そもそも、外に出ろだの勝負だのと言い出したのは、其方からではありませんこと? 此方は、リアさんの推薦入学を勝ち取る為に必要な、トレーナーさんの許可をどう取るか、話し合って居ただけでしてよ!」
「はっ? リアが推薦?……無理じゃろ、流石にそれは無理難題じゃろ。」
「無理でも何でも、一般入試が絶望的なリアさんがトレセン学園に入るには、最早これしか無いんですのよ?」
「おい、アサマよ?」
「はい、なんですかシン様?」
「此奴はそんなに頭悪く無かった筈じゃが?」
「そうですね。」
「じゃが、其処な娘は絶望的と思っておるのじゃが?」
「今現在では絶望的かも知れませんねぇ。……だってリアさん、ウチに来た時より思考が短絡的になってますもの」
「ふむ、一般的には、歳を重ねれば賢くなるものではないのか?」
「リアさんですから…」
「お二人共、原因は兎も角、喫緊の問題として、トレセン学園の入試をどうすればいいか、考えないといけないのではなくて?」
スピードシンボリが話を本筋に戻す。
「そうじゃ、アサマとスーの連名で学園側に言えば、試験くらい何とでもなるじゃろ?」
「「ダメですっ」」
シンザンの思い付きに、アサマとスピードシンボリが揃って拒否する。
「何でじゃっ?」
「シン様、私達名家と呼ばれる者達は、周りの者達の規範とならなければなりません。」
「そうです、我々は名家として特定のウマ娘に便宜を図るなど、あってはなりません!」
「はいはい、名家ね。 全く、自分の孫の事じゃと言うのに、融通の効かぬことじゃな?」
「そう言うなら、もっと簡単な方法をお持ちなのが、シン様ではないですか?」
そう言われたシンザンは、何の事かとキョトンとする。
「お祖母様、そのお話、詳しく聞いても?」
漸く回復したマックイーンが尋ねる。
「詳しくも何も、シン様って、毎年1人だけ無条件で学園にウマ娘を推薦入学させる権限を持っている、トレセン学園の外部特別顧問ですもの。」
「えぇっ! だったらそれで推薦して貰えば良いんじゃない?」
「そうですわ、先生を推薦して頂けば万事解決ですわ!」
ライアンとドーベルの2人が問題解決とばかりに喜ぶ。
「……吾、そんな肩書きとっくに辞めたぞよ?」
「「「はあぁっ? 辞めたぁ!」」」
3人が驚きの声をあげる。
「だってあ奴等、学園の品位を下げるなだの、仕事しろだの、一々五月蝿いし、この吾に、言うに事欠いてギャンブルするなと抜かしおったのじゃぞ? 吾は指図されるのは好かん。」
「仕事はしなさい!」
思わずと言った感じで、マックイーンがシンザンにツッコミを入れる。
「吾思ふ、働いたら、負け、きっと、この拾った宝くじが、莫大な、富を……痛い痛い、ウマ娘の全力で、首を揺さぶったら、ぁあっ、なんか取れる! 取れちゃうっ!」
「貴女達師弟は、本当に、揃いも揃って!」
途中から、シンザンの襟元を両手で持って、力一杯揺さぶるマックイーンを、ライアンが慌てて止めに入る。
「……吾の首、捥げてないよね?」
何とか解放されたシンザンは、自分の首を撫でながら、しきりに首の所在を確認していた。
「どうどう…はい、落ち着いてぇ、はい、どうどう…「って、私は動物じゃありませんわ!」…あはは、少しは落ち着いた様だね。」
何とかマックイーンを宥めたライアンは、シンザンに頭を下げてお願いをする。
「取り敢えずシン様、リアのレース許可と練習の公開を許可して下さい。」
「……まぁ、良いじゃろ。 ただし、ここに居る者のみとする。 あと、決して真似をしようとせぬ事じゃ。 良いな?」
こうして、本人其方除けで許可が出たのであった。
取り敢えず巻きで、と執事長さんが言ってました。