ちょっとだけ短めです。
ここは千葉県成田市にあるシンボリ家本家の屋敷。
日本有数の名家であり、数多くの名ウマ娘を排出して来たシンボリ家の総本山であり、今も未来の名ウマ娘を目指して、多くの子供達が切磋琢磨する場所である。
そんな子供達を眺めている者達がいた。
1人は年の割に真っ直ぐに伸びた背筋と、年齢以上の貫禄を持つ年配のウマ娘と、一歩退がった位置で控える執事に、その横で学園の制服を着たウマ娘の3名が、ランニングをしている子供達を眺めていた。
「ここ最近で特に変わったことはありましたか?」
年配のウマ娘、スピードシンボリが執事に問いかける。
「残念ながら今年もこれと言う子はまだ居りません。 メジロ家とは行かずとも、話題にのぼる様な子がいれば良いのですが、不甲斐ないばかりで御座います。」
「執事、その様なことを言うべきではありません。 皆さんあんなに頑張っているのですから、大人として我々は、頑張っている子はきちんと褒めてあげないといけません。」
「……しかし、シリウスお嬢様以降、G Iどころか、GⅡですら成績の振るわない者ばかりで御座います。 このままでは口さがない者達がまた煩く騒ぎたてることでしょう。」
「言いたい者には言わせて置きなさいな。 どうせ騒ぐだけで何もできない者達です。 それよりも、あの子達を見てみなさい? あんなにキラキラと輝いた顔を…、あの子達が真っ直ぐ育つ様に力を注ぐのが、我々大人の使命です。 その為にも、今はしっかりとトレーニングをして、あの子達の未来を少しでも良いものにして行きましょうね?」
「……了解致しました奥様。」
そう言って、にこやかに微笑むスピードシンボリに、深く頭を下げる執事であった。
「それでお婆様、先程からお願いしている件なのですが…」
「あらあら、ルナちゃんはそんなに気になるの?」
「気になります。 あのシンザン様の唯一の教え子ですし、シンザン様は燻る私の蒙を啓いたお方であり、その後継者ともなればさぞや素晴らしいウマ娘でしょう。 そんな人物に会う為には【左顧右眄】しても良き結果は得られません。 ならばここは【千思万考】するよりもお婆様にお願いしてでもご紹介頂き、【虚往実帰】を得るべきと考えます。」
【 左顧右眄 周りを気にして、なかなか決断を下さないこと。
千思万考 あれこれと思い考えること。 また、その思いや考え。
虚往実帰 師などから無形の感化や徳化を受けるたとえ。】
「だから、リアさんに会いたいですか……」
真剣な表情で自身に懇願する孫の姿を見て、些か困った表情で考えるスピードシンボリであった。
「……ダメですか?」
「駄目と言う訳では無いのですが、何と言いますか…」
「恐らくはかなり高潔な御仁でしょうし、やはり、私如き俗人には興味をお示しになりませんか? 」
「あ、いえね、リアさんはそう言う感じじゃないんだけど、ん〜っ、ルナさんが期待している様なことは、何も無いんじゃないかなぁって思うんだけど、どうしても?」
「許されるならば是非にっ!」
「仕方ないので会わせます。 ただ、過度の期待はしない事。 良いですね?」
「有難う御座います、お婆様っ!」
やっと自分の願いが叶うとあって、目を輝かせてお礼を言うルドルフの姿を見て、先が思いやられるお婆様であった。
「それで、結局推薦についてはどうするのかしら?」
「どうもこうもありませんわ、ラモーヌお姉様。 結局のところ、本人にやる気が無い以上は此方が何をやっても無意味ですわ。」
「では、諦めるのかしら?」
メジロ家別邸の庭園に設置された東屋で、紅茶を飲みながら趣味の油絵を描いていたラモーヌが手に持っている筆を置いて、同じく紅茶を楽しんでいるマックイーンの方に向き直る。
「諦めるとは違いますが、周りから何かをやらせるのはあの子の性格上、あまり良い結果に至らないと思いますので、考え方を少し変えてみようかと思っておりますの。」
「どんなふうに?」
マックイーンの話に興味を持ったラモーヌが、話の先を促す。
手元のカップに残った紅茶を優雅に飲み干すと、側に控えていたメイドが、新しい紅茶の入ったカップと交換するのを待ってから話始める。
「ラモーヌ姉様は、あの子を見て何か足りない、若しくは他のウマ娘と何かが違うと感じませんか?」
「……何か、確かに色々と違うことも多いけど、それもあの子の個性と言う物ではなくて? まぁ、あの年齢にしては幼いとは思うけど……悪い子では無いわ。」
少しだけ考えたラモーヌだが、すぐに考えるのを辞めた。
「ラモーヌ姉様の前ではあの子も多少はネコを被ってますが、普段のあの子の姿を見ていればまた違った見解になりますわ。」
「ふふっ、マックイーン、貴女はあの子と1番仲が良いですからね。 あの子も貴女には、かなり甘えているのではなくて?」
「……アレは、甘えるのでは無く、此方を軽く見ているだけですわ! 私の方が年長者ですのにやれパクパクさんだのと呼んで…ちゃんと姉様とかお姉ちゃんとか言って敬うべきですわ!」
「マックイーンはお姉ちゃんって呼んで欲しいのね?」
「そ、そうは言ってませんわ!」
ラモーヌの言葉に照れ隠しなのか、思わず強く反応するマックイーンを、カップ越しに微笑みながら見詰めるラモーヌのその顔を見て、顔を赤くしてそっぽを向くマックイーンであった。
「で? まだ話を聞いていないのだけれど…考え方を変えるって言う話。」
一瞬キョトンとしたが、すぐに理解したマックイーンが少し真面目な顔で話始めた。
「あの子と他の子、特に大多数のウマ娘が持っている物として、『欲』が有ると私は考えています。 みんな大なり小なり、欲望と言う名の願いを抱いて生きている筈ですわ。 他人より速くなりたいとか、お金や名声が欲しいとか、俗物的と言われればその通りですが、ウマ娘は特にこれが強い傾向があると思いますわ。 ですが、リアさんの場合にはそういったものを感じた事がありません。 有るのは食欲と睡眠欲くらいに思えますわ。 他者との比較による物欲等が薄過ぎますわ。」
「……なるほど、確かに言われてみればそういう所は有るわね。 で、それを知って貴女はあの子に何をするのかしら?」
「何も…あの子に直接何かをすることは有りませんわ。 ただ示すのですわ…ウマ娘の本能を、名家とは何か?を、先達として道を指し示してあの子の道行を姉として照らすつもりですわ。 差し当たっては、天皇賞で……」
「…貴女は良いお姉ちゃんで、自慢の妹ね?」
覚悟が決まり、凄味を感じるマックイーンの顔を見て、その頭を優しく撫でるラモーヌと、照れながらもされるままなマックイーン、2人はその後も仲良くお茶とお喋りを楽しんでいた。