メジロ家の変な子   作:ネギ市場

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 良くある事です。
 



皇帝と幼女

 

 激闘の春の盾を無事その手に収めたマックイーンは、その後夏のチーム合宿から戻ると学園には寄らずに、そのままメジロ家別邸にいるアサマの執務室へ来ていた。

 「……と、言う訳で、トレーナーさんとも話をした結果、当初の予定通りに天皇賞へと進みますわ。」

 今後の予定を報告したマックイーンを見ながら、メジロ家総帥として激励の言葉をかけると、今度は孫を見る祖母の顔になって再度マックイーンを労うアサマに対して、嬉しそうにお礼を言うマックイーンだった。

 一頻り近況報告を行い、話も一段落した頃にマックイーンからアサマへ一つの願い事がされた。

 その願い事を2つ返事で了承したアサマは、楽しそうに笑いながら席を立つマックイーンを部屋の外まで見送った。

 

 

 所変わってここは使用人用の談話室、10畳程の洋間に緋色の絨毯が敷かれ、その上にソファーとセンターテーブルが設置してあり、壁掛けの大型テレビと、カップ&ソーサーが人数分以上に収納された低身長で横に長いアンティークな食器棚が壁際にあり、その上の壁面収納棚には、ここの屋敷で使用していて、古くなって払い下げられたかなり高級な茶器や、仲間内で持ち寄ったコーヒー豆や茶葉の入った瓶等が綺麗に整頓されて並び、其れ等も含めて優雅で落ち着いた雰囲気を醸し出す部屋だった。

 その部屋で仲間たちと休憩中の年若いメイドが、年配のベテランメイドに最近担当になったお嬢様について悪態をついていた。

 「……で、本当にだらしないと言うか、この間だって一晩中起きていたのか部屋中DVDのケースが散乱していて、足の踏み場もないくらいだったので、纏めて全部廃棄処分に……って聞いてます?」

 「はいはい、ちゃんと聞いてますよ。 兎に角、あんまり酷いならメイド長に一度相談してみたら?」

 テーブルに用意されていたお菓子を食べながら適当に相槌を打つ年配の同僚の態度に不満そうに確認した年若いメイドは、手に持ったカップの中身を一気に飲み干すと、今度は目の前のお菓子を平らげにかかる。

 「それにしても、あの年で夜更かしは良くないわねぇ……まぁ、でも若いから大丈夫かしら?」

 年配のメイドは少しだけ気になっていたが、目の前のお菓子が勢いよく無くなって行く様を見ると、笑いながら年若いメイドの分も一緒に人数分のお茶を入れに行くのであった。

 

 

 

 ここはメジロ家療養所に併設された練習場で、芝のコースが2ヶ所にダートが1ヶ所、障害コースが1ヶ所の合計4つのコースがあり、日夜子供達が練習をしている場所である。

 その内の芝短距離用コースにルドルフ、スピードシンボリ、ラモーヌ、ライアン、リアルデュークの5人の姿があった。

 5人ともジャージに着替えており、それぞれ柔軟をしたり軽く走ったりとアップに余念が無かった……1人寝転がるリアルデュークを除いて……

 何故この状況になったのか、時間は少し巻き戻る……

 

 

 

 ルドルフは今まさに期待に満ち満ちていた。

 本日、漸く兼ねてより祖母に懇願して居た願いが叶うとあって、前日からの興奮を抑えられなかったルドルフは、メジロ家へと向かう車中にあっても、上機嫌を隠しもせずに喋り続け、一緒に乗っているスピードシンボリに幾度と無く嗜められ、それでも興奮して話し続ける孫を見て、スピードシンボリの方が呆れてしまうくらいであった。

 その興奮はメジロ家に着いてからも収まらず、出迎えに出たアサマとラモーヌが揃って苦笑いをする中、早期のリアルデュークへの面会を熱望する始末であった。

 「本当に御免なさいね、ルドルフったら昨日からずっとこんな状態で、今はマトモな判断力がないみたいなのよ。」

 「あのルドルフさんがねぇ、昔のルナちゃんを思い出すわね?」

 「確かに、昔は良くこんな状態になっていたわね?」

 そう言ってアサマとスピードシンボリは昔を懐かしんで笑い合った。

 「お婆様、いつまで笑っているのですか? それより、先方を待たせすぎです早く行きましょう!」

 鼻息荒く急かすルドルフを見て、2人は更に笑い声をあげる。

 そんな2人と、更に急かすルドルフを見て、1人ラモーヌは退屈そうに佇んでいた。

 

 

 

 「……いよいよ会えるのですね。 この時を一日千秋の思いで待ち望んでいたからか、思わず【手舞足踏】してしまいそうだ。 お婆様、アサマ様、本当に感謝致します。」

 【手舞足踏(しゅぶ-そくとう) 大きな喜びなどで、気持ちが高ぶって、思わずそれが身振り手振りとなって現れること。】

 

 扉の前で感極まったのか、本日何度目か既に分からない感謝を告げるルドルフに、何とも言えない表情でお互いに目配せをするアサマとスピードシンボリの2人は、ルドルフに部屋の中に入る様に促す。

 ルドルフが意を決してノックをすると、部屋の中からの返事を待ってからゆっくりとドアノブを回して扉を開けて中に入った。

 

 

 「失礼します。 本日は私等の為に貴重なお時間を頂き、恐悦至極、歓天喜地の心持ちで御座います。 私こと、シンボリルドルフは、リアルデューク殿にお会い出来るこの日を、正に一日千秋の想いで待っておりました。 至らぬこの身では有りますが、誠心誠意お相手を相勤めさせて頂きたくご挨拶に伺いまして御座います。」

 部屋に入るなり、勢いよく頭を下げてそのまま一気に挨拶を始めたルドルフは、考えて来た挨拶を言い切るとそのまま頭を下げた姿勢を維持して、相手の反応を待つ事にした。

 

 

 「……苦しゅうない、面あげろ。」

 少しだけ辿々しい感じの日本語で声を掛けられたルドルフは、感謝の言葉を短く述べてからゆっくりと頭を上げる。

 

 

 

 そしてその視線の先にあった光景は……

 

 

 「……お前ダレ?」

 ドイツの軍服を基調としたモスグリーンの半袖シャツに同じデザインのハーフパンツ、黒の大きめな軍用ブーツを履き、左の二の腕から手首まで包帯を巻いて黒色の指貫のグローブを付け、右肩に黒の軍用ハーフコートをかけ、黒地に銀糸で十字架を刺繍された眼帯を付けて、アサマの執務机に腰掛けて脚を組み、後手でココアシガレットを咥えて顎を上げて此方を睥睨する幼女の姿がそこにはあった。

 「……あぁ、えっと、その、取り敢えず、机に腰掛けるのは良くないと思うのだが?」

 突然の事に若干狼狽しながらも、きちんと幼子に対して注意したルドルフは、尚も得意気に膝を立て髪を掻き上げる幼女を、呆気に取られた顔で眺めて居た。

 「……名を名乗れっ! ボクこそ、ボク……何だっけ? 兎に角、ボク、封印、左手が疼く? アンコール龍が力、ボク目覚める!」

 何やら片言で、一生懸命に思い出しながら話すコスプレ幼女と言う、ある趣味の紳士達には垂涎ものな、それ以外には、ただ微笑ましいだけの生き物が目の前に居た。

 何と声を掛けようか迷ったルドルフは、背後にいるラモーヌの方を見てみると、そこには、いつの間にか青筋を浮かべたメイド長が立って居た。

 「お行儀が悪いにも程があります。 今日こそは後できっちりお話させて頂きます!」

 そうメイド長が声を張り上げる中、当人は左手で眼帯をしている方の顔半分を隠しながら、挑発的な目付きではっきりと言い放った。

 「邪王炎殺黒龍波……撃たれたいのか……おばち」

 全てを言い切る前に、幼女の顔面はメイド長が天高く掲げた右手に収まって居た……その身をぷらぷらと揺らしながら……

 

 

 

 「まぁ、見事に羅漢したわね? ドーベルの時よりも重症っぽいわ」

 壁にもたれて見ていたラモーヌが、懐かしそうに幼女の一連の行動を見て感想を述べる。

 「何故かうちの子達って、何かしらハマってしまうと言うか、一途な子が多いのよね……スーちゃんの所はどう?」

 「うちはどちらかと言うと、短気で意地っ張りな子が多いから、すぐ勝負だなんだって騒いでいるわよ?」

 「あらまぁ、うちも其処は似たようなものよ?」

 「やっぱりウマ娘の性なのかしら?」

 「……お祖母様方、宜しければ其方のソファにお座りになってお話をしませんか?」

 「あら、私としたことが…さぁ、スーちゃん、立ち話も何ですからお座りになって?」

 呆然としているルドルフの横で、3人がそれぞれソファーに座ってメイドが持って来たお茶を飲み始める。

 「ルドルフさんも良い加減お座りになって?」

 未だぷらぷらしている幼女を見ていたルドルフに、何事も無かったかの様に席を薦めるアサマを見てルドルフは、そう言うものなのかと思って素直に着席する。

 「それで、お婆様…肝心のリアルデューク殿は、何時此方に来られるのですか?」

 そう発言したルドルフを、3人が不思議そうに見詰める。

 そんな3人の様子に、メイド長が主人の代わりに返答する。

 「此方が、当家のリアルデュークお嬢様で御座います。」

 そう言って右手で握っている幼女をルドルフが見やすい位置に持ってくる。

 「……済まない、私は余り冗談には詳しくないのだが、このボケと言うものに対する適切なツッコミが、世間知らずな自分には出来そうに無い。 誠に申し訳ないが、リアルデューク殿に会わせては貰えないだろうか?」

 真剣な表情で、再度要請をするルドルフに対して、再度目の前でぷらぷらさせて「コレです」と幼女を突き付けるメイド長であった。

 

 

 

 「お婆様?」

 助けを求める様に祖母を呼ぶルドルフに対し、スピードシンボリがニッコリとトドメを刺した。

 「その子がリアルデュークさんよ? 可愛いでしょう?」

 「嘘ですよね? だって、シンザン様の後継者がこんな無知蒙昧で、慈母敗子の見本の様な……」

 「……ルドルフさん、言い過ぎですよ?」

 思わずと言った感じで口を滑らせた孫を嗜めたスピードシンボリは、アサマ達に孫の非礼を詫びた。

 「別に良いのよ、実際甘やかしているのは自覚しているのだから」

 笑いながら謝罪を受け取ったアサマに、いつの間にか抜け出したリアルデュークが問いかける。

 「ババ、アレ、何言っている? 変な言葉言うからボクわかんない。」

 「リアさんはもう少し日本語のお勉強をしましょうね? ちゃんと後でメイド長が、私をババと呼んだ分も含めて、お勉強を教えてくれますからね?」

 そのアサマの言葉に絶望するリアルデュークに、ルドルフが疑問を投げかける。

 「先程は失礼した。 未だ半信半疑なのだが、君は本当にあのシンザン様の後継者なのだろうか? もし良ければ……いや、是非とも一度お手合わせ願いたいのだがどうだろうか?」

 「メンドイ、イヤ」

 当然、ウマ娘ならば勝負に乗ってくると思っていたルドルフは、即答で拒否された為、理解が追いつかなかった。

 「……済まないが、もう一度言ってくれないだろうか?」

 「イヤ」

 「そう言わずにもう一度でいいから」

 「イヤ」

 「確かに手間をかけてしまうが、もう一度だけで良いのだから、そう言わずにお願いする。」

 「だから、イヤっ!」

 「何故だ……何か私が気に触ることをしてしまったのならば、それは謝罪する、だからお願いだから頼む。」

 「だから、イヤ!」

 頑なに拒絶されていると思ったルドルフが途方に暮れていると、その様子を見て耐えきれなくなったラモーヌが笑い出す。

 「ルドルフ、貴女最高ね?」

 そう言って更に笑うラモーヌに、困惑しているルドルフを見て、此方も笑いながらスピードシンボリが教える。

 「リアさんはさっきからずっと、ちゃんと貴女のお願いに答えてくれていたのよ?」

 「リアルデューク殿はイヤとしか言って……これはとんだ勘違いをしていたとは、顔厚忸怩とは正にこの事だな。」

 恥ずかしそうに頭を掻くルドルフを、不思議そうに見ていたリアルデュークは、隣に座っているラモーヌに問いかける。

 「姉様、アレは何言ってる?」

 「リアちゃんはもうちょっと国語を頑張りましょうね?」

 「……姉様が言うなら頑張る。」

 「リアちゃんは良い子ね。」

 「ボク良い子、だから姉様お菓子くれても良い。」

 「そうね、お菓子を食べましょうか?」

 「姉様大好き!」

 尻尾をぶんぶんさせて、メイドが用意したビスケットを口一杯に入れる様を見て、アサマとスピードシンボリもお菓子を用意するのであった。

 

 

 

 「……だから、手合わせをと……」

 そんな中、1人しょんぼりするルドルフであった。

 

 







 幼女が出てくると、本当に話が進まなくなるのは何故でしょう?

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