躾は大事です。
ライアンが旗を振り下ろすと同時に駆け出したリアルデュークから、遅れる事きっちり10秒後、今度はルドルフが走り出す。
既に先にスタートしたリアルデュークはコースの中程まで進んでおり、余裕なのか腕を広げて軽く蛇行したりと、かなり巫山戯た走り方をして居た。
その巫山戯た姿を見たからか、残り800m地点でルドルフの雰囲気が変わり、一気に加速して行く。
そしてリアルデュークが残り300mまできた時、外からルドルフが抜き去りそのままゴールしてしまった。
結果は4馬身差の圧勝であり、現状を理解出来ずに呆然としているリアルデュークに対して、不機嫌な態度のラモーヌが声をかけた。
「貴女、レースを舐めすぎですわ。 ルドルフさんに謝って、トレセン学園に行くのを諦めなさい。 今のままでは、通っても貴女の為になりません。」
そう強く言うと、ラモーヌは明らかに失望した表情のルドルフの下へと向かった。
「ルドルフさん、私の妹が大変無礼な行いをしてしまい、大変申しわけ有りませんでした……本人にはきつく言い聞かせますので、どうかお許し下さいませ。」
そう言って深々と頭を下げるラモーヌに、気不味そうに頬を掻くルドルフは、ラモーヌに頭を上げる様に告げると、少しだけ耳と尻尾をしょんぼりとさせて寂しそうに呟いた。
「……ははっ、なんと言うか私の実力不足なのか、リア君の本気を引き出すことが出来なかっただけなので、出来ればリア君にはあまり厳しい事はしないであげて欲しい。 彼女とは、学園入学後に改めて本気の勝負をお願いする事にするよ。」
明らかに作り笑いとわかる笑顔を浮かべたルドルフに対して、済まなそうに眉を寄せてラモーヌが口を開こうとした時、ラモーヌのジャージの上着の裾を力無く引っ張る存在が居た。
ラモーヌが其方を見ると、大きな瞳いっぱいに涙を溜め、耳と尻尾を力無く垂れさせたリアルデュークが今にも泣きそうな表情で、裾を掴んで立っていた。
「……何かしら?」
いつもと違うラモーヌの態度にビクリと肩を震わせ、何かを言いかけては止めるを繰り返すばかりのリアルデュークの姿を見て、ラモーヌはただその姿を見詰めてじっとしていた。
「ラモーヌ姉様、リアも反省して「お黙りなさい。」……はい。」
何とか間を取り持とうとしたライアンだったが、ラモーヌの一喝に押し黙るしか無く、ただジッとして2人を見ているしか無かった。
「……ごべんなざい。」
殆ど泣き声としか聞こえない小さな声で、リアルデュークがラモーヌに謝ると、ラモーヌはしゃがんでリアルデュークと目線を合わせて、ゆっくりと言い含める様に話始めた。
「良い? これからお話する事をしっかりと聞いて、良く考えてこれからの行動を決めなさい。 誰かに聞いて決めたりせず、必ず自分の頭で考えて決めるのよ? 出来るかしら?」
未だに泣き顔のままだったが、ラモーヌの目を見てしっかりと頷くリアルデュークの姿を確認すると、諭す様に話し始めた。
「私達ウマ娘と言う種族は、走る事が大好きな種族で、走る事に対してとても真摯に、真剣に、プライドを持っているのよ。 だからこそ、私達は走りに嘘を付かないし、一緒に走る仲間たちに対しても誠実であるべきなのよ。 でも、先程の貴女の走りはどうだったかしら? 一緒に走ってくれたルドルフに対して貴女は誠実だったかしら? それは誇れるものだったかしら? 貴女にとっては遊びの延長だったのかも知れない、でもね……貴女との勝負をルドルフは本気で望んでいたし、心から楽しみにしていたのだと思うわ。 その心に寄り添えることこそが、ウマ娘として大事な事だと私は思うのよ? だからこそ貴女には、そういった気持ちに応えられるウマ娘になって欲しいと、心から思うわ。」
泣くのを我慢しながら、黙って話を聞いていたリアルデュークは俯いて暫く考えた後、ルドルフの前まで行くとモジモジした後、意を決して真っ直ぐにルドルフの目を見ながら口を開いた。
「折角一緒に走ってくれたのに、巫山戯てごめんなさい。 ちゃんと走らなくてごめんなさい。 次はもっと、もっと頑張るからっ! だから、だから次も、あいて、して欲しい、です。」
最後の方は涙混じりの鼻声になったが、何時もみたいに面倒がらずにきちんと最後まで言い切ったリアルデュークの頭を、ルドルフが優しく撫でながらしゃがんで目線を合わせて微笑んだ。
「勿論だとも、此方からも是非もう一度手合わせをお願いしたいと思う。 それに、今回は私もかなり強引に事を進めてしまったことを、詫びさせて貰いたい。 この通りだ……」
そう言って、逆に頭を下げるルドルフの対応に、今度こそどうしていいかわからないリアルデュークが、視線でラモーヌに助けを求める。
「ふふ、ルドルフさんは許してくれたかしら?」
「あぁ、私は元から怒っていた訳ではないからな、その、なんだ……だから出来れば泣き止んで欲しいのだが……」
先程からずっと泣き止まないリアルデュークの頭を撫でたまま、優しく話かける。
優しくされたせいか、更に声を上げて泣き出したリアルデュークに困り果てたルドルフは、此方を見ながらも手助けを一切しない3人の助力を諦め、打開策を考え始める。
最早ギャン泣きと言える程の大声で泣いてるリアルデュークの背中を摩りながら、色々と考えたルドルフは、古来より泣いた子供に対して大人がとる解決策にたどり着いた。
「そ、そうだ! 円盤、あの円盤とやらを買ってあげよう。 だからその、いい加減泣き止んでくれないか?」
ルドルフのその言葉に、泣き声が止んだ。
「……円盤好きなの? いっぱい?」
両手で涙を拭いながらも、上目遣いで問いかけてくるリアルデュークに、ルドルフはこれ幸いと畳み掛ける。
「そ、そう、いっぱい、円盤いっぱいだ。 こうして仲良くなった記念に、私からのプレゼントだ。」
「円盤いっぱい、嬉しい!」
先程までの大泣きが何だったのかと思うくらい、今度は嬉しさいっぱいで笑顔を見せるリアルデュークに、ルドルフは未だ感じた事の無い感情の昂りを感じた。
「……何だ、この感情は……これが父性と言う物か?」
「其処は母性じゃなくて?」
その後、リアルデュークの好きなアニメキャラを確認したルドルフは、スピードシンボリと共に帰って行った。
あれから数日後のとある日。
今日のリアルデュークは、朝から機嫌が良く、サボり気味の礼儀作法の授業にも真面目に参加してメイド長を嬉し泣きさせた。
お昼も食べ終わり、リアルデュークがソワソワしだした頃に、待望のルドルフからの荷物が届いた。
喜び勇んで荷物を受け取り、メイド達の制止を振り切って部屋まで運ぶと、満面の笑みを浮かべて、荷物の開封を行った。
そしてリアルデュークの時が止まった。
箱の中には、良く分からない幼児向けのキャラが書かれた、ピンクのフリスビーが入っていた。
「……チクショウメェェェッ!」
その時、屋敷中に幼女の心からの叫び声が響いた。
こう言うやり取りって、昔はおじいちゃんと孫の間で良くある事だったみたいですね。