ちょっと短めです。
「……と、言う事があってさ、リアもこれ迄以上に走る事に対して真面目に取り組むと思うんだよね。」
「それで先生は、今日はどこに行ったのかしら?」
「リアルデュークお嬢様は、本日はアサマ様とお出掛けになっております。」
メジロ家の食堂で昼食を食べながら、ライアンがドーベルに先日の経緯を説明していると、側仕えのメイドがドーベルの質問に答えた。
「て事は、今頃2人は東京レース場かぁ……私も見に行けば良かったかなぁ。」
「貴賓席は雰囲気が苦手だから、家のテレビで観戦すると言ってお祖母様の誘いを断ったのは、一体全体何方だったかしら?」
「ベルだって人混みは苦手だって断ってたじゃん?」
「何事も無く無事にレースが終わるといいんですけど……」
口先を少し尖らせて反論するライアンを無視して、食後の紅茶を一口飲むと、見るとも無しにドーベルは窓から見える空を眺めると、少しだけどんよりとした空が広がっていた。
「お出掛けお出掛けランルルラ〜♪」
メジロ家所有のリムジンの後部座席に座ったリアルデュークは、乗った直後から落ち着き無く窓の外を見たり、お菓子やジュースを飲んだりオリジナルお出掛けソングを歌ったりと、かなりご機嫌にはしゃいでいた。
そんな孫を、対面の席に座りながら微笑ましく眺めていたアサマは、ピッタリと窓に張り付くリアルデュークに、人参ジュースの入ったグラスを渡すと、手元の雑誌を読み始める。
「バッ…おばあちゃん、何読んでる?」
人参ジュースを飲みながら足をぷらぷらさせていたリアルデュークが、何気なく尋ねると、アサマは雑誌の表紙をリアルデュークの方に向けてから、読んでいたページを見せた。
「おおっ、パクパクさん載ってる!」
「そうですよ、今日のレースに出るマックイーンさんの特集記事ですよ?」
少しだけ自慢気に、雑誌の説明をするアサマは、何処にでもいる孫自慢が楽しくて仕方がないおばあちゃんの顔をして居た。
「……大奥様、そろそろレース場に到着致します。」
いつもの執事長では無く、マックイーン専属の執事が声をかけてから丁度10分後に、東京レース場の貴賓室専用の出入口前のロータリーに着いた一行は、レース場職員の出迎えを受けながら、早速貴賓室へと通された。
貴賓室へと向かう間、ずっと騒がしかったリアルデュークだったが、流石に疲れたのか、席に座るとすぐに寝てしまった。
「あらあら、リアさんは大分お疲れだったみたいね。」
「何やらリアルデュークお嬢様におきましては、昨夜はお出掛けが事の他お楽しみだったご様子で、つい夜更かしをされたみたいで御座います。」
「楽しんでくれているなら、私も嬉しく思います。 目的のレースまで未だ時間も有りますから、このまま寝かせておきましょう。」
「畏まりました、大奥様。」
微笑ましそうにリアルデュークの寝顔を見ながら、アサマは楽しそうに笑って居た。
「……リアさん、起きない、リアさん……」
自身の体を誰かが優しく揺する振動で起きたリアルデュークは、まだ眠い目を擦りながら重い瞼を開ける。
丁度何かのレースが終わった直後なのか、眠る前より騒ついている室内をぼんやりと眺めていると、段々と意識が覚醒してきた。
「……ここ何処?」
「今からマックイーンさんの所に行きますよ?」
アサマに頭を撫でられながら大きな欠伸を一つすると、リアルデュークは椅子から立ち上がり、一つ伸びをする。
「パクパクさん、レース走る?」
「1番最後のレースを走りますよ。」
「じゃあ、応援する! 早くパクパクさん所行く!」
そう言った後、リアルデュークは軽く体を伸ばして凝りを取ると、アサマの手を取り急かす様に引っ張り始める。
「あらあら、そんなに急かされては、私では転んでしまいますわよ?」
「転ぶ良くない。 ボクが支えるから安心。」
手を引っ張るのを辞めて、今度はアサマの左腕を両手で掴み、体を密着させて歩行の補助を始めた。
「あらまぁ、有難う。 リアさんのお陰で転ぶ心配が無くなったわね?」
「任せろ! ボクがついてる。」
余りにも密着し過ぎて、逆に歩き辛そうなアサマだったが、一生懸命に補助をするリアルデュークの姿に、その表情は嬉しさで一杯だった。
アサマとリアルデュークは、執事の案内でマックイーンの控室まで行くと、丁度勝負服に着替え終わったマックイーンに出迎えられて、控室内のパイプ椅子に腰掛けた。
その後、アサマが激励の言葉をかけ、何時もより緊張した面持ちのマックイーンと二、三言葉を交わした所で、話題はこれから始まるレースについてになった。
2人が話している間リアルデュークは、初めて見た控え室に興味津々と言った様子で、次から次へとロッカーを開けてみたり、ストレッチ用に敷いてあるヨガマットの上を寝転がってみたりと、好奇心が赴くままに動き回っていた。
ヨガマットでゴロゴロするのにも直ぐに飽きたリアルデュークは、次の標的をマックイーンのスポーツバックに定める。
ロッカーの前に置いてあったバックを、引き摺りながらマットの上に置くと、中身を漁り始める。
「……何故に野球グッズ?」
バックの中に入っていたのは、某虎がマークの球団名が入ったタオルや、トラミミ耳カバー、球団ロゴ入りのポーチに財布、ショルダーバックなど、正にガチファンなグッズ量であった。
「……ガチ、これはガチな方のファン」
「また貴女は何をして居ますの!」
更に中身を漁ろうとした時、背後から右肩を掴まれて動きを止められたリアルデュークは、首だけで振り返ると、其処には表情だけ笑顔で目が笑っていないマックイーンが居た。
「……暇つぶし……にもならない詰まらない中身だた。」
「人様の私物を漁っておいて、凄い言い草ね? で、リアさんはここに何をしに来られたのかしら?」
そう尋ねられたリアルデュークは、首を傾げて少し考えるフリをすると、マックイーンを真っ直ぐに見て元気よく答えた。
「ババとお出掛け! 美味しい物食べる。」
「……何をしにレース場まで来たんですの!」
リアルデュークの何時も通りの何処かズレた回答に、毒気を抜かれたマックイーンは、思わず笑ってしまう。
「ふふ、貴女は何処でも変わりませんのね?」
「マックイーンさんも、普段通りの良い顔になって居ますよ?」
マックイーンにそう告げると、アサマも一緒になって笑顔を浮かべる。
「……緊張、取れたみたいですね。」
「はい、お祖母様。」
「貴女は我がメジロ家の誇りです。 頑張ってきなさい。」
「……はい、お祖母様。」
その後、マックイーンは係の者が呼びに来るまでの間、終始リラックスしていた。
「……秋の盾は私の物ですわ。」
さて、どうなるでしょう?