レースに「たら、れば」は無いんですけどねぇ
コースへと続く地下道を1人歩く……途中、最愛の妹であるリアルデュークとの、先程まで居た控室での遣り取りの中言われた一言が、やけに頭に残っている。
「頑張れお姉ちゃん、ですか……あの子ったら、やっとお姉ちゃんって呼んでくれましたわ。」
胸に手を当て、目を閉じて感慨深く呟くと、ゆっくりと目を開く……その眼差しは決意に満ちていた。
「良く見ておきなさい、お姉ちゃんが貴女にメジロの名を背負う覚悟とその道を示して見せますわ。」
覚悟の決まったマックイーンの体から、青い陽炎が立ち昇って見えた。
「やあ、マックイーン。」
地下道の中程まで来た時、少し先に人影が見えると、その人影が親しげに声を掛けて来た。
その人物は、学園の制服を身に纏い、鹿毛の長い髪をピンクのリボンでポニーテールに纏め、前髪に白いメッシュを一房垂らし、勝気なブルーサファイアの瞳が印象的な、全体的に小柄なウマ娘だった。
「……テイオー? 貴女、スペシャルウィークさんの方はどうしましたの?」
居るはずの無い人物が現れたことに驚きながらも、マックイーンは大事なレースを控えた後輩チームメイトの為に、自身は骨折のリハビリを行いつつ、チームの裏方として頑張って居たトウカイテイオーが、態々自分の応援の為だけに練習を休んで駆けつけてくれた事に感謝していた。
「たはは、実は黙ってレースだけを見て帰るつもりだったんだけど、マックイーンが緊張で震えてたら可哀想だと思ってさ、折角だから緊張しまくって情け無い顔を見てあげようと思ったんだ。」
照れ隠しなのか、やたらとオーバーアクション気味なテイオーの姿を見て、軽く笑いながら問い正した。
「……それで、貴女のご期待に添える顔でしたかしら?」
マックイーンの問いかけに、すぐに真顔になったトウカイテイオーは、マックイーンの目を見て答える。
「全然、全く持って満足の行かない緊張顔だったよ。 その代わりに、満足の行くライバルとしての顔が見れたからいいかな?……勝ちなよ、マックイーン。」
「……当然ですわ。 私はメジロマックイーンなのですから!」
その言葉を最後に、マックイーンはテイオーの横を通って、レース場へと向かった。
【さあ、最後の1人、メジロマックイーンがターフに姿を現しました。
お聞き下さい割れんばかりの凄まじい歓声です、スタンド全体が揺れて居るかの様であります。
本日の東京レース場には、現在約4万5000人、会場に入れずに場外ビジョン前にもかなりの人数が集まっております。
この人々の殆どが、メジロマックイーンの同年天皇賞春秋連覇の目撃者とならんと駆けつけてきた訳です。
これまでその栄光を掴んだのはただ1人、タマモクロスがいるのみです。
先人の偉業を引き継ぎ、見事連覇なるかメジロマックイーン!
それとも新たなるヒーローの誕生となるのか?
実に今から楽しみな一戦、天皇賞秋。
そして、これから走るターフは前日からの大雨により、荒れに荒れております。
多少は小雨となりましたが、本日のメインイベント、第104回天皇賞秋、URA発表は残念ながらの不良馬場、集いし優駿全18名で行われます。
それぞれターフにてレース前の最終確認をしている模様。
それでは、本日の天皇賞秋に挑むウマ娘達の中でも、注目の子をご紹介しましょう。
まず、本日の3番人気からの紹介です。
本日3番人気は、前走毎日王冠でも勝ち怒涛の3連勝、今勢いに乗るウマ娘、5枠10番プレクラスニー、この選手は先行前残りでのレースを得意とします。
今日も前目に付けてのレースが出来れば、初のタイトル獲得に期待が持てます。
本日2番人気は、前走オールカマー2着と、こちらも上り調子の2枠4番ホワイトストーン、G Iこそ取れて居ませんが重賞を何個か取っている実力派の選手です。
ここは何としても大きいタイトルが欲しい所、自然と気合いが入ります。
そして本日の1番人気は、何と言っても同年天皇賞春秋連覇がかかるターフの名優、7枠13番メジロマックイーンです。
仕上がりも素晴らしいの一言、不良馬場もなんのそのと気合い充分、堂々の1番人気です。
さあ、レース前のファンファーレが鳴り響きます、東京レース場芝2,000m、枠入りも順調に進んでおります。
今、最後の1人がゲートインしました、運命の第104回天皇賞秋、今スタートです。】
【さあ、まず好スタートを切ったのは、13番メジロマックイーンと6番ムービースター、この2人が前に出た状態、他は横一線と言った所か、このまま最初のコーナーへと入って行きます。
あっと、内へと進んだメジロマックイーンに押される様に4番ホワイトストーン、5番ホワイトアロー、10番プレクラスニーが横に流れた。
9番メイショウビトリア、8番プレジデントシチーもちょっと行き場が無いか?
これは審議、審議のランプが点灯しております。
最初から波乱の展開となった今レース、ここからどの様な展開となって行くのでしょうか……集団は第2コーナーを抜けて10番プレクラスニーが先頭、2番手に4番ホワイトストーン、3番手に13番メジロマックイーンと続きます。
先程の混乱の影響は無かったか、先頭集団から離れる事2馬身、7番ムービースターを先頭に一団となって中団を形成、殿は8番プレジデントシチーとなります。
1000mを過ぎてタイムは61.1秒、不良馬場としては速いタイム、先頭は変わらず10番プレクラスニー、続いて4番ホワイトストーンその差0.5馬身から1馬身といった所、更に1馬身程離れて13番メジロマックイーン、ここから先頭を伺います。
3人ほぼ固まったまま、第3コーナーを抜けて第4コーナーへと向かいますが、あっと、ここでマックイーンスパートか?
第4コーナーで外からマックイーン、今ホワイトストーンをかわしてコーナー出口で並んだ!
さあ、最終局面最後の直線へと2人並んで突っ込んで来る!
外、マックイーンか、内、プレクラスニーか?
ここからは意地の張り合い、ぶつけ合いだ!
プレクラスニー譲らない、名優メジロマックイーン相手に一歩も引かないで粘る!
マックイーン、僅かに前に出る、しかしプレクラスニーが直ぐに差し返す。
2人とも譲らない、素晴らしい勝負根性です、残り200mを通過、だがしかし、だがしかしだ、マックイーン更に加速、プレクラスニーは一杯か?
マックイーン先頭、更に後続を突き放す!
あっという間にその差を広げる、マックイーン強し!
そのままリードを広げて今、ゴールイン!
マックイーン勝利、遂に史上2人目となる、同年天皇賞春秋連覇達成です!
メジロマックイーンが今、その名を蹄跡に刻みました!】
大観衆の歓声の中、勝利に喜び観衆に手を振って応えるメジロマックイーン、その後方にある掲示板には1着13番の数字と共に、青いランプが点っていた。
言いたくなるのが「たら、れば」ですね。