幼女は常に欲望に忠実です。
メジロアルダンの引退レースとなったジャパンカップは、海外から参戦したゴールデンフェザントが勝利し、メジロアルダンは14着でその選手生活を終えた。
有終の美は飾れなかったが、多くのファンがレース場に駆け付け、その選手生活を讃えてくれ、とても印象に残る引退式を行うことが出来た。
テレビ画面に映し出された、そのファンに愛された姿を眺めながら、直前で出走を回避したマックイーンは自身の部屋のソファに座り、物憂げな表情でフルーツタルトを味わって居た。
「……お疲れ様でございました、アルダン姉様。」
そう、テレビに映る嬉し泣きをするメジロアルダンへ、労いの言葉をかけつつ、今度はモンブランを味わう。
「秋も深まって来ましたわね。 私も、今後の事を考えてトレーニングをしなければなりませんわ。」
自身が目標とする、春の天皇賞連覇の為にも、より一層の努力をする決意を固めながら、レアチーズケーキを頬張る。
「……やっぱりパクパクさんだた。」
そんなマックイーンを見て、ドン引きしつつも、なんだか楽しくなってきたリアルデュークが其処には居た。
「パクパクさん、やばい、助けろ!」
ジャパンカップも終わり、年末最後の大勝負、有馬記念が来週末に控えたある日、今日も何となく習慣となったトレーナー室での片付けをしていたトウカイテイオーの携帯に、リアルデュークからのSOSが届いたのは、そんな午後のひとときだった。
その電話口での唯ならぬ様子に、慌ててトレーナーと共に止めてくる執事やメイド達の静止を振り切り、メジロ家別邸にあるマックイーンの部屋へ駆け込んだ2人は、目の前に居るマックイーンの姿を見て、唯々絶句した。
「あら、トレーナーにテイオー、人様の部屋に急に入ってくるとは礼儀知らずでは無くて? 特にトレーナーさんは、殿方がレディの部屋に許しもなく入るのは、道義的にもお互いの立場的にも許される事では無くってよ?」
急に部屋のドアを開けて入って来た礼儀知らずな2人に、少しだけ不機嫌な態度で注意するマックイーンの言動に対して、2人は同じタイミングで叫んだ。
「「道義的にも立場的にも、許されないのはお前だぁぁぁぁっ!」」
2人が叫んだ先には、見事に大きくなった腹周りを誇るマックイーンと、テーブルの上に散乱する様々なお菓子と大量のジュースの空ペットボトルがあった。
「……ったく、マジで勘弁してくれよぉ、マックイーン。お前は来週末にはレースがあるんだぞ? 自宅で最終調整するって言うから許可したのに、これじゃあ流石に厳しいぞ。」
正座をするマックイーンに、小言を言いながら頭を抱えるトレーナーを尻目に、テイオーは一緒に部屋に居たリアルデュークに事情を聞く事にした。
「で、何だってこんな事になっちゃったのさ?」
そうテイオーに聞かれたリアルデュークは、腕を組み、沈痛な面持ちでシミジミと話始めた。
「仕方なかった、これしかパクパクさんを救えない思った。」
その普段と違うリアルデュークの様子に、テイオーは思わず生唾を飲み込み、更に真剣な表情と声で先を促す。
「一体、君達に何があったの?」
リアルデュークの辿々しい言葉を辛抱強く聞き、ある程度の事情が判明した。
そんなリアルデュークの話は以下の通りであった。
天皇賞の騒動によって、精神的に堪えたのか、著しく調子を崩したマックイーンを心配したリアルデュークは、レース後の休養としてメジロ家の療養所を利用しているマックイーンに対して、付きっきりでその世話を焼くことにした。
実際、リアルデュークは献身的で、朝も夜も無く付き添い、マックイーンの精神的な支えになり、その食事の世話をした。
その結果、ジャパンカップこそ回避する事にはなったが、次の有馬記念に向けて、精神的に復調することには成功した。
だが、リアルデュークは加減を知らなかった……初めて誰かを世話する事に対して、最初こそ周りの大人や使用人達から反対の声が上がったが、その献身的な姿に、いつしか全面的な協力体制が築かれていた。
リアルデュークが要望するがまま、あらゆる物がメイド達によって用意され、また全てがマックイーンによって消費されていった。
そして、その際限の無い欲望と、幼女の好奇心の成れの果てが、今のマックイーンと言う事だった。
「ボク知りたかった、ウマ娘、可能性の先! 渡した分だけパクパク消える、なんか楽しかった。 でも、何処までも消える、恐怖した。 だから助け求めた。」
何故かドヤ顔で自分を見て来る幼女の顔面にアイアンクローを極めると、トウカイテイオーは叫んだ。
「全部君の仕業じゃないか!」
「どうしようトレーナー?」
「クソっ、こうなったらもうあの人に頼るしか無いか……」
そう言うと、トレーナーは携帯で何処かに連絡を取り始めた。
そんな2人に、正座したまま穏やかな表情で笑いかけたマックイーンは、妙に落ち着いた雰囲気と声で話しかけてきた。
「皆様、何をそんなに騒いでいるのですか? 確かに、多少は体重が増えたかも知れませんが、このくらいならば誤差の範囲内でしょう? だって、私の妹であるリアさんが、お姉ちゃんの為に色々と調べて下さったんですもの……まさか熱でカロリーを殺せるとは知りませんでしたわ。」
「「そんな訳無いでしょ(だろ)!」」
思わずといった感じで、2人揃って叫ぶ。
2人の叫びを聞き流しながら、頬に手を当てて若干はにかみながら、心からの親切心全開で2人に説明を始めるマックイーンの姿を見て、テイオーは言い知れぬ狂気を感じて居た。
「まぁ、テイオーもトレーナーさんも、まだまだ知らない事がお有りでしたのですね? では、これも知らないでしょう。 実は、丸い物はカロリーが0なんですのよ? ですから、ケーキもホールで食べれば、カロリーが無しになりますの! 斯様な裏技が有ったなんて私、正に目から鱗でしたわ。」
「マックイーン、カロリーは無くなることは無いんだよ?」
やや、達観した気持ちでテイオーが諭してみる。
「そんな筈有りませんわ、だって、リアさんが「お姉ちゃん、大丈夫!」って言って手図から食べさせて下さったんですのよ? 鏡は見てませんが、大丈夫、全然太って無いって言って下さってもいますわ!」
正に心外だと言わん限りの態度でマックイーンが抗議する。
「……こいつは、やべぇな。」
急に自身の背後から肩越しに呟かれたテイオーが、驚きの声を上げる。
「うわ、ゴールドシップ? いつの間に来てたの?」
吃驚して振り向いた先には、何故か笑顔で腕を組んで仁王立ちするゴールドシップが居た。
「なぁんだよ、2人共。こんな面白れぇ事、何で黙ってたんだよ?」
ニヤニヤと楽しそうに笑いながら、ゴールドシップがテイオーに抗議する。
「黙っていたんじゃなくて、ボク達も今知ったばかりなんだってば!」
テイオーがゴールドシップにそう言い返してみると、既にゴールドシップはリアルデュークの目の前に移動しており、その顔を前屈みになって覗いていた。
「で、このちっこいのが噂のマックイーンの妹ちゃんか? マジちっさいなぁ? このゴルシちゃんの半分もねぇじゃねえか。」
そんな大柄なウマ娘に、上から目線で言われても気にする素振りも見せずに、リアルデュークは、落ち着いた感じで問いかける。
「……お前、どこの人?」
「ん? 天下のゴールドシップ様って言ったら、このゴルシちゃんのことよ!」
得意気な表情と態度で自己紹介をするゴールドシップに対して、通常運転でリアルデュークは挨拶をする。
「ゴルシ、覚えた。よろり。」
「お、おぉ? ま、まぁ、宜しくな?……何かやり辛いガキだぜ。」
片手を挙げてフレンドリーに挨拶して来る幼女に、若干の遣り難さを感じながらも、気を取り直して挨拶を返したゴールドシップに、焦った様子でテイオーが話しかけた。
「って、ゴールドシップ、マックイーンの様子がおかしいんだよ!」
そう言われて、微笑むマックイーンの姿を暫し凝視して居たゴールドシップが、何かを思い付いたのか軽く胸を叩いて宣言した。
「……こりゃあ、アレだな? よっし、ここはこのゴルシ様の出番って奴だ。 泥舟になった気持ちで任せるといいぜ!」
監督する大人が居ないと、幼女は止まりません。