欲望という名の電車は、ブレーキが有りませぬ。
投稿ミスったので、後半分追加しています。
所変わって、ここはメジロ家別邸の執務室。
普段からアサマの名代として執務を取り行っている場所であり、メジロラモーヌは今日も朝からメジログループの仕事を処理していた。
そろそろ区切りの良い所まで進んだので、遅目の昼食でもと思った所に、屋敷の警備を一任している警備会社の隊長が尋ねて来た。
隊長は慣れているのか、特に緊張することも無く、世間話でもするかの様にここの所増えて来た侵入者の報告を挙げてきた。
「……って事で、またまたお嬢様の悪戯が始まりましたが、今回はどの程度迄やります?」
報告を受けたラモーヌは暫し考えると、隊長にとっては意外な指示を出して来た。
「そうねぇ、リアさんも大分ストレスが溜まっているみたいですし、今回はゴム弾有りのフルスペックで行きましょう。」
店でランチのメニューを頼む気軽さで、ラモーヌが言った内容に驚いた隊長が、その真意を測りかねたかの様に問いかける。
「真面目に言ってます?」
「あら、私は大真面目よ? だって貴女達って、これまであの子相手にまともに勝てて居ないでしょう?」
まるで挑発するかの様に、笑みすら浮かべて言ってくるラモーヌの態度に、安い挑発だと思いながらも、己のプロとしてのプライドがつい剣呑な雰囲気を漂わせる。
「……私達はこれでもプロです。 本気でやれば怪我なく終わるとは思いませんが、宜しいので?」
「構わないわと言いたい所ですけど、流石に一つ条件を出すわ。」
「お聞きしましょう。」
「貴女は手出し無用で、リタイア判定のみする事。 勝てば今年の夏のボーナスUP、負けたら減額、勝敗はこれから1時間の間に半数が生き残るか、リアさんを捉えて執務室に連れて来たら貴女達の勝利。 逆に、半数以上やられたら貴女達の負け、これで如何かしら?」
あまりにも此方に有利な条件に訝しんだ隊長が、再確認の意味を込めて所感を延べる。
「私以外は参加となりますと、圧倒的人数差が出来ますが……勝負にならないかと。」
隊長の言を受けたラモーヌが、楽しそうに笑って上機嫌に話す。
「そうねぇ、一つ良い事を教えてあげます。 経験値、そう経験値が違うのよ。 まぁ、貴女相手だと厳しそうだし、ストレス発散にならないからダメですけどね?」
最早何を言っても無駄と判断した隊長が、雇い主であるラモーヌへ返事をした後、自分の襟元を摘んで部下へと指示を出す。
「……分かりました。 微力を尽くすとしましょう。 副隊長、聞こえて居たな? 総員対テロ装備、弾種はゴム弾、総力を挙げてお嬢様をここへエスコートしてやれ!」
隊長が襟元に仕込んでいた通信機越しの会話を聞いていた副隊長は、盗み聞きが最初からバレていた事に対しては放置して、隊員達に改めて指示を出す。
「……相変わらず抜け目の無い隊長さんっすねぇ。 て事で、皆さん演習……いや、実戦開始っす。」
実戦と言う言葉を使った後、数秒黙った副隊長は、これまでの飄々とした態度を止めて真面目な表情になると、一気に作戦内容を通達した。
「各員スリーマンセルで敵にあたれ! A〜D班は裏門からプールへ敵を追い込め、E〜J班は北西から敵の進路を誘導、P班は屋敷の屋根から何時も通りにスナイプ、お嬢様がプールへ来たら牽制して動きを阻害、K班がそこを確保って流れで行くっすよ? 我々のボーナスがかかった大一番っす、全力で取りに行くっすよ!」
ボーナスの話を聞いた隊員達から、歓喜とヤル気に満ちた声が挙がる。
これによって、今ここに、良い歳をした大人達総員が、己のボーナス増額の為に欲望全開で本気で幼女に襲い掛かると言う、側から見れば倫理的にアウトな戦いが幕を上げた。
なお、ボーナスは別として、本気を出して本気で幼女を傷付けない様に細心の注意を払うのも忘れない。
…だが、それもこれも、全てはボーナスを得てからの話だ。
頑張れ、幼女! 負けるな、幼女! これは大人達の汚い戦いであり、とても褒められた事ではないのかもしれないが……、この屋敷の警備員達はボーナスの為になら、その持てる力の全てを使っても惜しくはないらしい。
それも、何時も幼女に酷い目に遭わせられているからこその、本気のボーナス争奪戦である。
……それで良いのだろうか? ……まぁ、良いのだろう。
そして、戦いは始まる。
各員が己の仕事を全うすべく、屋敷内を駆ける。
総員が配置につき、副隊長の号令の下、先ずは裏門チームがリアルデューク達を追い立て始めた。
現在、タマモクロスは窮地に陥っていた。
先に走り出したリアルデュークを追いかけていたのだが、その2人を髪を振り乱して親の仇でも見る様な形相で、メジロマックイーンが追いかけて来ていた。
その、自分が知っているターフの名優と呼ばれていた、優雅なお嬢様然とした姿からは想像もつかない姿に、狂気と恐怖を感じたタマモクロスは、追い付かれない為に、ただ必死に足を動かす。
「えらいおとろしい形相で追いかけて来るんやけど、アレってほんまにメジロマックイーンなんか?」
走りながらも、もしかしたら今自分を追いかけて来ているのは、メジロマックイーンに似た何かかも知れないと思い、リアルデュークに確認してみる。
「アレ、マックイーンだったモノ、今はパクパクさん。」
「パクパクさんって、なんや取り憑かれたみたいやな?」
必死に走りながらも、タマモクロスは、自分に足りない情報を補完しようと質問を繰り返す。
リアルデュークも、その質問に答えながら奪ったバックに入っていたバウムクーヘンをもっちゃもっちゃと食べ始める。
「取り憑かれた違う、本性。 スイーツお供えすれば鎮まる。」
「ほな、さっきからアンタが食べとるモンがお供え物って訳やなぁ。 せやからあない怒っているんか……ってお供え食べてどないすんねん!」
思わずツッコミを入れるタマモクロスだったが、リアルデュークは自信満々に答える。
「大丈夫、ボクならパクパクさん怒らない。 だから食べ過ぎ無い……あ、無くなた。」
「おおぉいぃぃぃっ!」
「……ワタクシの、スイーツゥゥゥッ!」
全て食べられたと思ったパクパクさんが、怒りの声と共に走りながら近くの木の枝を捥ぎ取って、それを振り回しながら更に速度を上げる。
「やば、めちゃくちゃ怒ってるやん!」
「……不幸な事故だた。」
「相手はそう思っとらんみたいやで?」
荒ぶるパクパクさんから逃げながら中庭の方へ緑道の角を曲がった時、少し先の正門へと続く道から、小銃を構えた警備員達数名がタマモクロス達を見て叫んだ。
「居たぞ! 総員撃てぇぇぇっ!」
「嘘やろぉぉぉぉっ!」
警備員達が一切の躊躇なく撃って来た事に、有り得ないものを見たと言う様な顔をしたタマモクロスも叫ぶ。
「な、ホンマに撃って来よったで?」
「追いかけっこ、楽しい!」
銃撃から逃げる様に近くの茂みに飛び込み、そのまま全速力で走る2人を逃すまいとメジロマックイーンと警備員達も茂みに飛び込んでくる。
「スイーツゥゥゥッ!」
「撃て撃て撃てぇぇぇっ!」
「何でウチがこないな目に遭うんやぁぁぁ!」
お茶目な姉さんです。