リアさんの初めてを見てあげて下さい。
アサマが復讐の宣言をする3時間程前、メジロ本邸での一幕
「ラモーヌさん、お帰りなさい。 御免なさいね? 急にお呼びだてして……他の方々には別室で待機して貰ってます。今はそうね、海堂さんがお相手して下さっている所かしら?」
ここはメジロ本邸、メジロ家総帥のお婆様が執務室として現在使用中の前総帥が使っていた元書斎である。
急な呼び出しに応じたラモーヌは、本邸に着くなりそのままここに通された。
「いえ、呼び出しについては特に問題は無いです。 ただ、随分と急だったのは珍しいな?と、思ったくらいですので……もしかして、ワタシが何かやらかしましたか?」
取り敢えず、疑問に思う事だけを述べてみる。
実際、今回みたいにアサマが誰かを呼び付けるなんて、レースで何かやらかすか、メジロ家として看過出来ない問題があった時くらいだった。
当然、そのどちらも身に覚えがないラモーヌとしては些か腑に落ちない呼び出しだった。
「そうじゃない、そうじゃないのよ、見つかったの……あの子が!」
「…見つかったって、お婆様?」
「そう、やっとよ……8年、あの子があの方と共に失踪して、数年後に病院の履歴で見つけて…あの子が産んだ子が、何者かの手引きで病院から誘拐されて、我が子をずっと探していたあの子達が事故で亡くなって、初めてその事実と孫の存在を知ってから、今年で8年目……やっと見つけたの!」
アサマは、頬を伝う涙を拭いもせずに、喜びを噛み締める様に、消えない後悔と怒りに耐えるかの様に、一言一言大事そうに目の前のラモーヌへと告げる。
「……お祖母様、おめでとう御座います。 本当に、心からの喜びを申し上げますわ」
静かに嗚咽を漏らすアサマとラモーヌ、そんな何方ともわからない啜り泣きの聞こえる部屋に、ノックの音が響く
「アサマ様、スピードシンボリ様がお着きになりました」
ドアの向こうから執事長の声が聞こえてくる。
「…すぐにお通ししてくれるかしら? あと、その、一緒なのかしら?」
「はい、ご一緒でございます。」
アサマの問いに対して、何が?とは問わず、即答する執事長。
「ああっ! どうしましょう? 私、こんなお化粧が……」
珍しく狼狽える祖母の姿を見て、自然と笑みを浮かべたラモーヌはまだ少し潤んだ目元を指で拭うと、楽しそうな声色で
「お祖母様、どうせワタクシもお祖母様もまた泣いてしまうので、お化粧については、この際気にするだけ無駄だと思います」
「ふふ、確かにそうですね」
口元を手で隠しながら上品に笑う祖母の姿は、とても幸せそうな姿だった。
それから少しだけ歓談をしていると、またドアがノックされ、待ち人の準備が整った事を告げられる。
「ああっ! ど、どうしましょう?」
「お祖母様? いつまでも待たせては、スピードシンボリ様に対して失礼に当たりますわ」
「だって、わたくし、きっとまた泣いてしまいますわ! スーちゃんにもまともにお礼も言えないかもしれません。 それに、あの子の姿をまともに見れるかしら? いいえ、きっと見れないでしょう、そんなわたくしの姿を見て、あの子にがっかりされないかしら? わたくし、ちゃんとあの子のおばあちゃんが出来るかしら?」
これまでに見た事がない程狼狽え、醜態を晒す祖母を落ち着かせ様と声をかけているが、全く落ち着く気配が見えない。
すると、待ちきれなくなったのか、ドアが開き外から部屋の中へスピードシンボリが、幼女と執事長を伴って入室して来る。
引率のスピードシンボリと同じ、上は花柄の総レースのチュニックに下はパンツスタイルで、低いヒールのパンプスを履いた、銀髪で腰まである長い髪の小さなウマ娘が、スピードシンボリの背後から顔だけを出してアサマ達を見ていた。
「……あぁっ!」
声にならない声を出して震える手で口元を押さえながら、ゆっくりと立ち上がったアサマは、そのまま片脚を引き摺りながらゆっくりともどかし気に幼女の下へ向かっていく。
「……お祖母様」
その光景を涙ながらに見ていたラモーヌには、幼女がアサマを見て一瞬だがその瞳に憎しみの様な嫌悪の色を見せたことには気が付かなかった。
「初めまして、リアルデュークちゃん。 私が、貴女のおばあちゃんよ?」
時間はかかったが、何とかリアルデュークの前まで歩いて来たアサマは、そのまましゃがみ、膝立ちになると、リアルデュークと目線を合わせてから抱き締める。
「…リアルデューク、申します。メジロ総帥、メジロアサマ様。 ブサホ?では、御座ます、これから、虚無どうお弁当の程、宜しく申します。……言た、頑張る、あいさむ!」
リアルデュークは、アサマに抱き締められたまま、その年齢に似合わぬ片言の挨拶を言い切ると、拙いながらもカーテシーを行おうとしたが、矢張り無理があった為、軽く会釈の様なものをした。
「ま、まぁまぁまぁまぁっ! なんて可愛らしいお嬢さんなのでしょう! ラモーヌも聞きましたか? なんて愛らしい!」
予想外の可愛らしさにすっかり涙も引っ込み、笑顔になったアサマにスピードシンボリが笑いながら声をかける。
「まぁまぁ、アーちゃん。 少し落ち着きましょう?」
「そうです、スピードシンボリ様の言う通りですわ、お祖母様。」
2人から言われて、少しだけバツの悪そうな顔をしたアサマは、リアルデュークをその腕から解放すると、改めてその姿を見た。
「リアルデュークちゃん、あちらのソファに座ってお茶にしましょうか?」
「……リア! ワタシ、名テン近い、リア、良い」
ゆっくりと考えながら片言で話すリアルデュークを見て、一瞬固まるアサマだったが、そのままスピードシンボリの方を見る。
「アーちゃん、この子はいままでずっと外国に居たのよ? そんなすぐに日本語が話せる訳無いじゃないの。 それよりも、良いの? せっかくリアちゃんが名前が長いから愛称で呼んでも良いって言ってくれてるのに」
スピードシンボリにそう窘められたアサマが、慌ててリアルデュークの方を見る。
一斉に大人達に見られたリアルデュークは、一瞬身体を硬直させると、自身が言った事で何か失敗したのかと、不安そうな表情で3人を見返す。
「初めまして、リアルデュークさん。 私はメジロラモーヌと申します。 貴女にとっては従姉妹って事になるのかしら? ん〜、こんな事言っても、今はまだ分からないわよね? …取り敢えず、宜しくって事でいいかしら?」
「とりま? ……ヨロ?」
片言でラモーヌの言葉を反芻しながら首を傾げるリアルデュークを見て、苦笑しながらも、その頭を撫でて優しく言い直す。
「ラモーヌ」
「……ら、もー?」
形の良い眉を寄せながらも、ラモーヌの言葉を反芻する。
「私、ラモーヌ」
自分を指差しながらゆっくりと、聴き取りやすい様に説明する。
「……ラモーヌ!」
「そう、私がラモーヌよ」
お互いに意思疎通が出来たことに対し、一瞬で笑顔になる2人。
そんな2人に笑顔を向けながらスピードシンボリがソファへ移動を促す。
その後は、3人でお茶を飲みながらケーキを食べてと、穏やかで少しだけ騒がしい、そんな優しい時間を過ごしながらも、ラモーヌはこの後に訪れるだろう嵐に対して、気を引き締め直すのだった。
アサマおばあちゃんは孫に甘いかもしれない。
リアルデュークの挨拶が変更前のまま投稿してしまったので、修正しました。