お受験に真摯な子供はほぼ居ない。
居るのは真摯な大人だけだと思います。
勿論、異論は認める。
「はぁ、はぁ……んぅ、かはっ!……まだまだっ!」
トレセン学園の芝コースを、ひたすらに走るメジロライアンの姿があった。
既に日中の練習は終わり、陽の落ちたコースには誰も居らず、コースにはただ1人残ったメジロライアンの荒い息遣いだけが聞こえていた。
そして、コースへと続く道には、そんなメジロライアンの様子を、フェンス越しに厳しい目付きで観察するメジロマックイーンの姿があった。
タマモクロスとのサバゲー遊びをした日から数日経ったある日、日中目一杯遊んで夜早く寝て居たリアルデュークが、夜中にトイレに行き部屋に戻る途中、廊下の先にある談話室から何か言い争う声が聞こえてきた。
ふと気になったリアルデュークが、眠い目を擦りながら声のする談話室へ向かうと、丁度部屋から飛び出してきたメジロライアンと正面からぶつかってしまった。
勢いに負けて尻餅をついたリアルデュークを一瞥して短く謝ると、ライアンはそのまま何処かへ行ってしまった。
「お待ちなさい、まだ話は……リアさん? 大丈夫ですか!」
次に部屋から飛び出してきたのはメジロマックイーンだった。
廊下で尻餅を付いているリアルデュークを見付けると急いで抱き上げると、怪我等をして居ないか声を掛けながら確認を始めた。
「……良かった、特に怪我とかは有りませんわね? こんな時間に何故こんな所に居たんですの?」
訝しがるマックイーンに事情を説明すると、マックイーンはリアルデュークの頭を優しく撫でてから、部屋のベッドまで送り届けてくれた。
眠気に勝てなかったリアルデュークが、ベッドに入ってすぐに寝息を立てるのを見守ると、マックイーンはもう一度優しく頭を撫でてから自身の部屋に戻って行った。
翌朝、目を覚ましたリアルデュークは、今日も元気に飛び起きると、そのままライアンの部屋へと走り出した。
「ライアン姉、いる?」
ライアンの部屋の前に到着したリアルデュークがドア越しに声をかけるが、部屋の主からは返答が無く、ドアに鍵もかかって居なかった為、中に入ってみたが、部屋には誰も居らず食堂にもその姿は無かった。
そして、そんなリアルデュークの姿を見かけたメジロドーベルが声を掛けて来た。
「先生? 朝からキョロキョロして、どうかなさいましたか?」
「ライアン姉、何処いる?」
「ライアンさんなら、何時もならまだご飯中ですが……今朝はまだお見かけしませんね。 それよりも、ご一緒に朝ごはんいかがですか? 先生の大好きなミラノサンドを特別に用意させてますよ?」
ミラノサンドという言葉を聞いたリアルデュークのテンションは一気に天元突破した。
勢い良くテーブルに両手を叩きつけると、目を輝かせてドーベルに返事をする。
「……食べる!」
そんなリアルデュークの姿を見て笑顔になったドーベルは、嬉しそうにリアルデュークに告げた。
「では、シェフに作り立てを配膳する様に伝えて来ますね。」
「出来立て熱々最高!」
そう言って興奮するリアルデュークを宥めつつ、席を離れたドーベルは、一度食堂を出て近くに居たメイドに料理の要望を伝えると、自分はウマホでとある人物に連絡を入れた。
「やっぱり、先生は試験の事忘れているみたいです。 今はまた何処かに行かない様に食堂で時間稼ぎをしていますので、この間に準備の方、お願いします。」
「ミラノサンド最強!ミラノサンド最強!」
生ハム入りのミラノサンドを食べ終えたリアルデュークが満足気に叫ぶ。
そんなリアルデュークを微笑ましく感じながら、ドーベルはデザートを用意する。
「ふふ、満足したみたいで良かったですわ。 はい、デザートのプティングですわ。」
デザートを見て目を輝かせるリアルデュークが、一口食べてまた叫ぶ。
「プティング最強!プティング最強!」
甘味でご機嫌なリアルデュークを宥めながら、メイドが淹れてくれた紅茶を給餌する。
「はい、食後の紅茶も頂きましょうね?」
高いテンションのまま紅茶を飲み始めるリアルデュークだったが、ふと我に返ったかの様に途中でカップを置いた。
「紅茶さい……紅茶は普通だた。」
急にテンションの下がったリアルデュークに戸惑いながらも、未だに来ないマックイーン達を待つ為に時間稼ぎをしなければならないドーベルがお代わりを勧める。
「さ、さぁ、紅茶のお代わりもしましょう。」
「お代わり……微妙。」
甘味の後の紅茶が渋く感じるのか、あまり紅茶を飲みたがらないリアルデュークに、何とか2杯目となる紅茶を飲ませていると、食堂のドアが開き爺やを連れたマックイーンが入室してきた。
「マックイーン姉様?」
何時もと違い、爺やに荷物を持たせて自身も他所行きの格好をしたマックイーンの姿を見て、訝し気にリアルデュークが声をかける。
そんなリアルデュークの様子を気にする事なく目の前まで歩いてくると、リアルデュークの両肩に手を置き逃げられない様に緩く力を入れて話しかける。
「さぁ、行きますわよ? 爺や、準備は出来てまして?」
「受験票、その他諸々、全て準備完了しております。」
マックイーンが爺やに確認をすると、いつも通りの卒の無さで爺やが答える。
そんな2人を見て首を傾げながらリアルデュークが問いかける。
「何処行く?」
「何処って、今日は貴女のトレセン学園入学試験の日ですわ!」
まさか本当に忘れているとは思っていなかったマックイーンは、少々呆れながらリアルデュークの質問に答える。
「試験? ……面倒、マックイーン姉様が代わりにやると良い。」
そう言って興味を無くしたリアルデュークが二つ目のプティングを食べ様とする手を掴んだマックイーンが毅然とした態度で告げる。
「貴女の試験です。 面倒でも何でも、貴女がやらないと駄目ですわ。」
何時もと違う毅然とした態度のマックイーンに、本気と書いてマジと読むくらいの気合を感じ取ったリアルデュークも、本気の上目遣いを見せる。
「……そんな顔をしても駄目です。」
更に眉を寄せて濡れたチワワ感を全力で出してから、トドメの一撃を放つ。
「マックイーンお姉ちゃん、駄目?」
その瞬間、俯いて胸を抑えてプルプルと全身を震わせたマックイーンが、ドーベルに問いかける。
「……ドーベルさん、替え玉受験ってどうやればいいかしら?」
「マックイーンさん、そんな事は駄目に決まっていますわ!」
そんな問いかけを全力で否定するドーベルの目には、もうダメなウマ娘の姿が映って居た。
「で、でも、私のリアさんが上目遣いで……こんなに可愛いのに……」
「しっかりして下さい! 先生もそうやってマックイーンさんを惑わせ無いで下さい!」
頬を染めて愛しさ全開でリアルデュークを見ているマックイーンを、正気に戻す為にその体を揺らしながら、リアルデュークを説教するドーベルの姿はかなり必死だった。
「ぶーぶー!」
そんなドーベルに頬を膨らませて抗議するリアルデューク。
「そんな事しても、駄目なモノは駄目ですわ。」
「あぁ、やっぱり可愛い……爺や、何とかならないかしら?」
「……しっかりして下さい、お嬢様。」
クネクネ体を悶えさせるマックイーンを流石に見兼ねた爺やが叱責するが、全く正気に戻る兆候が無かった。
「あぁ、もう! しっかりして下さいマックイーンさん! お姉ちゃんでしょう?」
しかし、ドーベルが思わず言った一言でマックイーンの瞳に理性の光が灯った。
「そ、そうですわね、私はお姉ちゃんですから、リアさんの手本とならないと!」
「そうです、お姉ちゃんとしてきちんと試験を……」
この機を逃すまいと、必死に言葉を繋げようとしたドーベルの瞳から、理性の光が消える。
「ええ、お姉ちゃんとしてきちんと試験を受けますわ!」
「このポンコツ何一つわかっていませんわ!」
思わず大声で叫ぶドーベルだった。
エタったんじゃ無い、師走が全て悪いのです。