類は友を呼ぶって言います。
朱に交われば赤くなるとも言いますが、どっちが先なのでしょうね。
「では、次の番号の方はスタートラインに並んで下さい。」
試験官の男性職員の呼び出しに合わせて、自分の番号を呼ばれた受験生のウマ娘達が一列に並ぶのを他人事のように眺めていたリアルデュークが、不意に肩を叩かれる。
自分の肩を叩いた人物を確認すると、そこには緑色のスーツと帽子が似合う妙齢の女性が柔かに微笑んで居た。
「リアルデュークさん、呼ばれてますよ?」
何故かその女性に気を取られてぼんやりしているリアルデュークに、優しくそう告げると、すぐにその場を後にして居た。
少しだけ気になって見てみると、その女性は他にも自分の様にぼんやりしていたり、緊張からか固まっている受験生に声を掛けてまわっている様だった。
「666番? 受験番号666番、居ないのか? 居たらすぐにラインに並びなさい。」
もう少しだけ見て居たい気分だったが、呼ばれているみたいだったので、取り敢えず並んで試験を受ける事にした。
それからも、一通りの体力測定等を受けたリアルデュークは、午後から始まる模擬レースに向けて昼食を取って体力を回復するべく、マックイーンに言われた待ち合わせ場所に1人向かっていた。
言われた通り、校舎の中庭にあるベンチに座って待っていたが、暇を持て余したリアルデュークが暇潰しにケチャを歌い始めると、その異様な光景に周りに居た人々がざわつき始める。
そんな周りの人達を意に介さず、1人ケチャで盛り上がるリアルデュークに1人のスーツ姿で20代後半くらいの女性が、目を輝かせて声をかけて来た。
「あの、今のケチャって、プニャンロットですよね? チャクナムを16分の1後ろにずらして刻むので、慣れていないと難しいパートですのに、かなり綺麗な旋律で感動しました。 もしかしてプロの方ですか?」
「……うい?」
急に声を掛けられて吃驚して固まっているリアルデュークに対して、女性が更に畳み掛ける様に話しかける。
「私、学生時代に海外の文化や習慣等を調べていた時期があって、その時にケチャに嵌って大分練習したり、背景や歴史について調べたんです。 そうそう、ケチャと言えば、最近ではインドの叙事詩《ラーマーヤナ》を題材とする舞踊劇に仕立てたものが多いらしく、地面に座った男の人たちの円の中に踊り手たちが登場して,物語の推移を太夫が良い声で歌い上げるんですよねー。それに私が現地で観た時は夜公演で、寺院の中庭だったんですけど、照明はたいまつのみで凄く雰囲気があったんですよ? ちなみに、ケチャのそれぞれのパート名は、タンブールが主旋律を刻むパートで、できれば「シリリリ・プン・プン・プン」と発声して欲しいかな? 次のパートが、プ二ャチャって言って、4拍子の中にチャを7回 入れるんです。 でもって、チャクリマが4拍子の中にチャを5回入れるパートで、チャクナムが4拍子の中にチャを6回入れるパート。 そして、先程貴女が歌って居たパートが、プニャンロットで、これはチャクナムを16分の1後ろにずらして刻む 裏拍子的な役割で、ここが上手いかどうかで全体の調和が変わるんです。そして、さらにプポは一人でメロディーを歌う花形みたいなモノだと思うんです。」
一方的に話し続ける女性に圧倒されたリアルデュークが気圧されて居ると、女性が更に畳み掛ける様に話して来た。
「……おぉうっ」
「で、その後、ザウリダンスにも嵌ったんですが、アレは流石に私の体力と運動神経では無理だったんですよねー。 まぁ、私の場合は途中で資格試験に時間を割いてしまったのも、出来なかった理由のひとつだと思うけどね。 でね、何が言いたいかと言うとね? ケチャ愛好家として、お友達になって下さい!」
「……おぉ」
話の流れと展開について行けてないリアルデュークが唖然としていると、肯定と受け取った女性が嬉しそうに笑顔で確認してくる。
「良い? 良いって事よね?」
「……おおう」
そして、困惑するリアルデュークの手を取ると、1枚の名刺を渡して来た。
「やった、ありがとう! これ、私のウマホの番号、でもってこっちがメール。」
「……あぅ」
何となく受け取った名刺を見て居たリアルデュークを他所に、更に話を進める女性。
「今日はこれから仕事があるから無理だけど、今度一緒にケチャしましょ?」
「……うぃ」
「それじゃ、メール頂戴ね? じゃ、またね?」
「……うぃ」
生返事を繰り返すだけのリアルデュークが圧倒されているうちに、女性は手を振りながら校舎の方へ去って行ってしまった。
今迄出会った事のないタイプの女性に、思わず思考停止して放心状態のリアルデュークを見つけたトウカイテイオーが、話しかける。
「あ、いたいた。 リアルデューク、お待たせ〜!」
何時もと違って大人しく反応が無いリアルデュークを訝しんだトウカイテイオーが、リアルデュークの顔を覗きながら再度声をかける。
「……どしたの?」
「……これが嵐? 凄かた。」
やっと実感が湧いてきたのか、リアルデュークがボソリと感想を述べた。
「……変なリアルデュークだねぇ。それより、みんな待ってるから早く行こうよ?」
そんなリアルデュークを不思議に思いながらも、ここに来た目的を思い出したトウカイテイオーがリアルデュークを急かす。
「……うぃ」
先程の嵐みたいな女性を思い出しながら、また生返事をするリアルデュークであった。
リアルデュークと女性との出会いから数分後、午後から行う模擬レースの為に、学園に所属するトレーナーや職員達がその準備に追われていた。
そんな芝コースの一角で、手動式のゲートを数名で移動させて居る人達の方に、先程の女性も居た。
(可愛い子だったなぁ。 10歳くらいだと思うから、多分誰かの付き添いか何かかな?)
先程連絡先を交換したばかりの幼女の事を思い出しながら、先輩トレーナーに指示された、模擬レースで使用予定の簡易ゲートの準備を行う女性が思い出し笑いをしていると、一緒に作業をしていた壮年の男性トレーナーが話しかけて来た。
「何か良い事でもあったのかい?」
「良い事と言いますか、いい声に出会ったって感じですね。」
何故か自慢げに女性が答える。
「そりゃまた変わった言い回しだね? 指導してみたいウマ娘でも居たのかい?」
その返答に好奇心を刺激されたのか、男性トレーナーが更に詳細を聞いて来た。
「指導と言うより、一緒に楽しみたいお友達ですね。 年齢もまだ小学生でしょうし、あの技量と素質なら今後その世界を背負って立つ逸材です。」
「小学生でそう思う程ってのは凄いね。 僕にも是非紹介して欲しいくらいだよ。」
「駄目です。あの子は私と世界を目指すんですから!」
そう軽口を叩く男性トレーナーの言葉に対して、若干過敏に反論する女性の態度に少しだけ怯んだ男性トレーナーが、場の空気を軽くしようと戯けた口調で話しかける。
「そりゃ残念。 しかし、世界とは大きく出たね? あの凱旋門賞でも狙うのかな?」
「……凱旋門? 何を言ってるんですか、あの子が狙うのはカーネギーホールですよ?」
「そんなレースあったっけ?」
「……レース?」
「……違うの?」
ここに来て、お互いの認識のズレを感じとった女性が、確認を込めて宣言する。
「……あの子はケチャで世界を目指すんですよ?」
「あぁ、そっか、キミはそっちが好きだったね。 あはは、まあ、頑張ってよ!」
漸く認識のズレを理解した男性トレーナーが、苦笑混じりに話す。
「先ずは仲間を増やす所から頑張ります!」
「うんうん、本業を忘れ無い程度に頑張ってね?」
「はい、頑張ります!」
そんな男性トレーナーに対して元気に返事をする女性を見ながら、ただ笑うしか無いと思う男性トレーナーだった。
気紛れが無ければ、今年最後の投稿となります。
来年が皆様にとって、良い年になる事を願っております。
では、良いお年をお迎えください。