噂話って基本的にと言いますか、全部無責任だと思います。
【さぁ、毎年恒例のトレセン学園入学試験午後の部、模擬レースのお時間が迫って参りました。 今年の総合実況はワタクシ、サポート科高等部2年、将来の夢はワタクシの実況するレースで無敗の三冠馬が生まれる事なクムラと、】
【解説の東条ハナだ。 宜しく頼む。】
【東条トレーナー、今年の入学希望者も実に粒揃い、早くもこれからの活躍を期待してしまいそうになるくらいですね?】
【そうだな、私としても毎年この時期は、未だ見ぬ優駿に想いを馳せるモノだ。】
【そうですよねぇ、実に楽しみな季節だとワタクシも思います。 さて、未だレースまでには時間があるみたいですので、ここで一つこのレースの主旨について私から説明させて頂きます。 このレースは、我等がトレセン学園の入学試験の一環として執り行われます。 当然、主目的は受験生達の身体能力や精神性、未だ本人が気付いて居ない才能等をプロのトレーナーさん達が実際にレースを見て判断するモノとなります。 ですので、当然より実際のレースに近い環境を用意する為に、ワタクシ達、将来の実況者を目指す在校生によるレース実況が、各コース毎に行われます。】
【よりリアルな環境で、幼い子供達が何処まで自分を表現できるか? これからの未来を垣間見せる一瞬の閃きに期待している。】
【はい、ワタクシも期待する所、大で有ります! それでは受験生達への事前調査で、芝、ダート、短距離、マイルと、各コースに割り振られておりますので、みなさんはお手元の受験票に書かれたコースへお集まり下さい。】
毎年恒例の賑やかなアナウンスが校内のスピーカーから流れる中、ジャージに着替えたリアルデュークの周りを、青い顔をしてオロオロと所在無さげに周るメジロマックイーンの姿があった。
「ちゃんと靴紐は締めましたか?」
「うぃ」
マックイーンが、リアルデュークの靴紐を入念に確認する。
「蹄鉄はちゃんと打ってありますか?」
前後左右から目視で確認するマックイーン。
「さっきテイオーが確認した。」
「テイオー先輩ね? リアルデュークもこれから後輩として入学して来るんだからさ、そこはしっかりしないとね?」
少しだけ得意げに右手の人差し指を立てて宣うテイオー。
「……テイオーはテイオー、ボクは忖度しない出来る女!」
胸を張って腕組みをしながら、得意げにテイオーに対して宣言するリアルデューク。
「忖度の使い方間違っているから!」
「あぁ、落鉄なんて事になったらどうしましょう?」
両頬に手を当てて不安そうに呟くマックイーン。
「いやいや、ボクが確認したんだから絶対大丈夫だよ!」
そんなマックイーン相手に、即座にツッコミを入れるテイオーの声を聞いていなかったのか、そのまま続けて呟くマックイーン。
「でも、テイオーって意外とお嬢様っぽい所あるし、こういう事って、本人が気付いていない所で意外と使用人任せかも知れませんわ!」
勝手な想像で勝手に盛り上がるマックイーンに、米神に青筋を立てながら呆れた様に、溜息混じりにぼやくテイオー。
「……大概失礼だよね、君達姉妹ってさ?」
「まぁ、仲良し姉妹だなんて、相変わらずテイオーは正直者ですわね?」
「うぃ、違いの分かる女!」
急にご機嫌でテイオーを褒めるマックイーンとリアルデュークにテイオーが叫んだ。
「君等、姉妹揃ってポンコツだぁぁぁっ!」
ここは模擬レース開催予定レース場の一つ、芝短距離の会場。
そのコースのゲートが設置された場所には受験生達が集まって居た。
その姿を併設された観客席から見詰める保護者達が手持ち無沙汰に井戸端会議をしていた。
「……ほら、あの子が噂の……」
「まぁ、本当に来年中等部なのかしら? うちの子よりかなり小さいわよ?」
「アレでも生まれはメジロ家ですもの、きっと才能豊かなんでしょうね。」
「その割には全く噂を聞きませんでしたが、奥様は何かご存知なのかしら?」
「いえ、私も噂程度しか聞いた事ありませんが、何やら噂ではメジロ家最高傑作、メジロの秘宝と呼ばれているらしく、あのメジロマックイーンさんが付き人をするくらい、現当主のアサマ様肝入りで大事に育てて来たらしいわ。」
そんな無責任な噂話が飛び交う場所にマックイーンとトウカイテイオーが現れた物だから、当然噂話の的になるのは必然とも言えた。
「あら、噂をすれば何とやらね、メジロマックイーンさんよ。」
「やっぱり、大事なメジロ家の秘宝ですもの、今日も付き人として頑張っていらっしゃるんだわ。」
「まぁ、今日はマックイーンさんの付き添いとして、トウカイテイオーさんも一緒よ! きっとお2人仲良く尽くされているに違いないわ。」
会場に着いて早々この有り様なので、早くもげんなりとしたトウカイテイオーがぼやく。
「……ボク、メジロ家との付き合い方を考える時なのかも知れない。」
そんなトウカイテイオーの言葉にびっくりするマックイーン。
「テイオー?」
そしてその2人に背後から声を掛けてくる人物が居た。
「カカカッ! 実におもろい状況になっとるやん? 」
「「タマモクロス先輩」」
びっくりしている2人を見て笑いながら、気になっていた事を聞いてみるタマモクロス。
「で、調子はどないや?」
「調子かぁ、調子ねぇ」
その質問に対して何とも言えない表情で答え辛そうにするテイオーを見て、訝し気に更に答えを催促するタマモクロス。
「なんや、随分と言い辛そうやけど、あの嬢ちゃんなら身体能力高そうやし、結構余裕やと思てんやけど……今度は何をやらかしたんや?」
テイオーの表情に途中で何かに気付いたタマモクロスが、核心をつく質問をする。
「あはは、もう既にタマモクロス先輩の中では、リアルデュークはそう言う立ち位置なのね。」
自棄気味に空笑いをしながら話すテイオー。
「初対面で散々な目におうたからなぁ」
多少ハイライトの消えた瞳で染み染みと呟くタマモクロス。
そんなタマモクロスに、トウカイテイオーがざっくりとした午前中のやらかしを説明する。
「成る程のぅ、まさにやんちゃなお年頃っちゅうやつやな?」
「メジロ家にあるまじき振る舞いの数々、これがお祖母様の耳に入ったらと思うと……」
しょんぼりと口数少な目に呟くマックイーン。
「アンタ、意外とマトモなウマ娘やったんやね?」
そんな様子を見てびっくりするタマモクロスと、そんなタマモクロスの言い様に心外とばかりに声を張るマックイーン。
「私は普段からマトモです!」
「そないな事言うても、メジロ家やろ? マトモな訳あるかいな。 ウチの経験から言って、メジロにマトモな奴はおらん!」
途端に嫌そうな表情で言い切るタマモクロス相手に、何とかフォローをしようと思ったが、途中で諦めたテイオーが空を見上げる。
「いやいや、流石にそれは穿った見方……とも言えないかなぁ」
「テイオー、貴女までそんな……」
そんな親友の様子を見て愕然とするマックイーン。
「大丈夫だって、流石にボクのは冗談だからさ」
冗談と言う言葉に明らかにホッとするマックイーンだったが、タマモクロスの次の言葉にまた愕然とした表情を見せるマックイーン。
「ウチのは結構マジやで?」
「そ、そんな!」
「いやいや、初対面で棒切れ持って追いかけ回されとる時点で、どうにもならんやろ?」
タマモクロスの正論に対して、最早フォローすら無理と諦めたテイオーがマックイーンをジト目で見詰めながら溜息をつく。
「……リアルデュークなら兎も角として、マックイーンまで何やってんのさ?」
風邪が流行っております。
今年のはお腹に効くので、皆様お気を付けて下さい。
因みに、筆者は現在寝込んでおります。