メジロ家の変な子   作:ネギ市場

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 この小説で初めて、ウマ娘っぽい幼女が居ます。
 
 



幼女の本気

 

 

 【それではトレセン学園入試模擬レース、芝短距離部門第3レースがこれから始まります。 会場の皆様方に改めてご注意致します。 撮影は、フラッシュは絶対に禁止です、撮影禁止エリアへの立ち入りも禁止となっております。また、鳴物の使用も禁止です。 特にブブセラはダメです、ここはサッカー場ではありません。 良いですね、そこのゴールドシップ!】

 放送席から身を乗り出す様にしてゴールドシップの居る方向を指差して注意する総合実況のクムラ。

 「チッ、わーってるよ。 大体、この状況でこの私が、そんな馬鹿な事する訳ねーだろ?」

 面倒そうな顔で手に持ったブブセラを隣に来た警備員に渡しながら、放送席のクムラに大声で答えるゴールドシップ。

 【……失礼しました。 なお、これらのルールを守れなかった方は、学園常設の警備、メジロ総合警備のばんえいウマ娘部隊にお世話になる事となりますので、お気を付け下さい。 さぁ、選手達が出て来ました。 今、誘導員のお姉さん達に手伝って頂きながら、奇数番号の子からゲートに入って行きます。 本レースはゲート枠7番まで使用、1レース7人で行われます。 枠入りは今の所順調そのもの、解説の東条トレーナー? あの緊張している姿も、何だか初々しくて良いですね?】

 【そうだな、ある意味この時期しか見れないとも言えるな。 ……ん? 何やら人が集まっているな、何かトラブルだろうか?】

 順調に進んでいたゲート入りだったが、5人目の子が急に騒ぎ出したらしく、近くの誘導員達が集まり対応にあたって居た。

 暫くすると落ち着いたのか、その子はそのまま自分のゲートに収まったが、その次の子は何故か使用予定の無かった筈の10番ゲートに変更となった。

 【え〜、今の状況をご説明致します。 6番ゲートに不具合があった為、6番ゲートを使用不可とし、臨時に10番ゲートを使用する事となった模様です。】

 【……不具合と言うならば仕方ないが、枠番の移動に関して起こる不利を審査する側がきちんと把握しておく必要がある。 まぁ、我が学園の教職員にそこが分からぬ程愚かな者は居ないと思うがな?】

 「……流石はおハナさん、敢えて釘を刺しているな。 って事は、あんまり宜しく無い事があったって事かもな。 大外不利か……脚質によってはかなりの不利だが、リアルデュークは……そもそもアイツって、脚質はなんだ? そう言えば、結構顔を合わせているが俺、アイツの走りを見た事が無いな?」

 そんな状況に何か違和感を一瞬感じたが、すぐにまぁ良いかと思ってそのまま放置する事にしたトレーナーだった。

 【え〜、多少のトラブルは有りましたが、どうやら無事に全選手ゲート入りが終わりました。 えっ! ……第3模擬レース、芝短距離、只今発走しました。】

 

 

 

 

 「貴女、ワタクシ知っているのよ? メジロの秘宝とか言われているみたいだけど、実際はメジロを名乗れないくらいの落ちこぼれなんですってね? パパがそう言っていたわ。 アレは秘宝なんかじゃ無い、単なるメジロの贋作だって、だからこのワタクシが貴女に勝ってその化けの皮を剥がして差し上げますわ!」

 これからレースを行うと言うので、ゲート前に集まっていたリアルデュークに見下す様に話しかけて来た子がいたので、声のした方を見てみると、そこには得意げにリアルデュークの前で腕を組んで仁王立ちして嘲っている子供がいた。

 「このサロメさまを無視してるんじゃ無いわよ、何とか言いなさいよ、この落ちこぼれ!」

 特に気になる所も無かったリアルデュークが一瞥して無関心を貫いていると、その態度が気に障ったのかリアルデュークの肩を思い切り押した。

 「…………」

 だが、リアルデュークの体幹は全く動く事が無く、押された事にすら気付かずにゲートを見たり、観客席を眺めたりしていた。

 そうこうしている内に疲れ果てたのか、サロメは荒い息を吐きながらその場に座り込んだ。

 「な、なんなんですの……貴女、」

 あまりにも違う力の差に、若干の恐怖で体が震えてきたサロメが更に言い募ろうとした時、誘導員がサロメの所に来た為、悔しそうにリアルデュークをひと睨みすると、誘導員の指示に従って歩き出した。

 一方のリアルデュークも、やっと自分が呼ばれたことに気がついたのか、元気良く誘導員の指示に従って歩き出した。

 

 

 「それでは、これからレースを始めます。 番号を呼ばれた方は誘導員のお姉さんの指示に従って、ゲートに入って下さい。 あとは先程の説明通りにゲートが開いてレーススタートとなりますので、頑張って下さい。 ではまず574番の選手……」

 番号が呼ばれ、呼ばれた者が次々と誘導員の指示の下、ゲートへと収まって行く、実に慣れた動作で入って行く選手達を興味深く見て居たリアルデュークの番号が呼ばれると、目の前を歩く先程何やら自分の周りで騒いでいた子が、リアルデュークを指差しながら誘導員に抗議を行って居た。

 抗議を聞いた誘導員のお姉さんが、チラッとリアルデュークの方を見ると、近くの別の誘導員に声をかける。

 何人か集まって相談を始めた誘導員達だったが、漸く結論が出たのか、抗議を行った子に愛想笑いを浮かべると、リアルデュークの方へ向かって来た。

 「え〜っとね、午前のゲート試験での出来事で、お隣の子が怖がっているから、キミは大外になるらしいのよ。 普通ならこんな急にこういった事は無いんだけど、職員さんからの指示なので、ごめんね?」

 「……うぃ」

 そう言われたリアルデュークが大外枠の10番ゲートに収まると、すぐにレースが始まった。

 入ってすぐにゲートが開いた為、びっくりしたリアルデュークがゲートから飛び出したのは、既に他の子が飛び出してから1秒以上経ってからだった。

 

 

 一瞬、何かもういいかな?と思ったリアルデュークだったが、次の瞬間聞こえた声に、体の奥底でスイッチが入った気がしたリアルデュークが、クラウチングスタートの体制を取ると、限界まで脚に力を溜める。

 全身の内側、筋肉が収縮しギチギチと音が聞こえる……自分が思う限界の先まで溜め込み、真っ直ぐ前を向くと、その全ての力で地面を蹴り出し、自然と起き上がろうとする上体を筋力で押さえ付ける、そうやって力の方向を一点に定めて解放する。

 その瞬間、地面が爆発したかの様な爆音と共に小さな弾丸となった身体が飛び出した。

 両腕を後ろに伸ばし、頭を膝と同じくらいの位置まで下げ、背筋は真っ直ぐに空気抵抗を最小まで減らしてリアルデュークが飛ぶ様に走る。

 出遅れで離された距離をあっと言う間に詰めると、1人、また1人と大外一気に追い抜き、残り100mでトップまであと3馬身まで迫る。

 ここまで無心で走って来たリアルデュークだったが、このままではギリギリ届かないと思ったのか、更に上体を下げて脚の回転を上げる。

 何処までも上がり続けるスピードに気分も高揚したリアルデュークが、何処までも走り続ける。

 2位を抜き、1位を抜き、己がトップに立っても止まらない、遂にゴールした事にも気付かずに走り、ゴール地点から400m程走った所で漸くその脚を緩めて、更に100m程流してから脚を止める。

 そして振り返った瞬間、一瞬の静寂の後に爆発的な歓声が生まれた。

 そんな周囲の反響を気にすることもなく、リアルデュークは目的の人物を見付けると、飛び切りの笑顔でその人物の所に走り出した。

 「……マックイーンお姉ちゃん! ボクがんばた!」

 

 







 
 やれば出来る。
 色んな意味で深い言葉。
 
 
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