保護者の方は大変かも知れませんね。
本人にとっては終わった事ですが……
【あ〜っと、メジロライアン伸びない! これはどうした事か、期待のメジロライアン選手、馬群に埋もれたままゴール。 波乱のアメリカJCC芝2200m、1番人気のメジロライアンは6着に沈みました。 1着はトウショウファルコ選手です。】
ゴール板を駆け抜けたメジロライアンは、ただ茫然と掲示板に映っている自分の番号と順位を眺めた後、気が付いたら1人控え室のベンチに座っていた。
今日のレースが頭に浮かび、言い知れぬ悔しさと不甲斐無さの中に翻弄される自身の心にすら怒りを覚え、握り締めた両の拳を不甲斐無い自分の足へと叩きつける。
「くそっ! 何で動かないんだ。 あの子が見ていたんだ、こんなの見せて良いレースじゃない! 私はあの子の姉として、メジロ家のウマ娘としてこんな所で終われない、まだ終わっちゃダメなんだ! なのに、何で、何で……」
言葉は続かず、ただ嗚咽だけが1人だけの控え室に響いた。
それから暫くして制服に着替えたライアンが、観戦に来ていたリアルデュークと合流すると、直ぐに抱きついて来たリアルデュークがライアンを労ってきた。
「ライアン姉、お疲れ? 今日も頑張った!」
「有難う、リア。 今日こそは勝ってリアにウィニングライブを楽しんで貰いたかったんだけど、ごめん、ちょっとだけ頑張りきれなかったよ。」
少しだけ消化不良気味先程までの感情を引き摺ったまま、ライアンがリアルデュークに今日のレースについて感想を述べると、直ぐ様リアルデュークが抱き締めて励ましてくれる。
「ライアン姉、何時も頑張ってる。 だから、大丈夫!」
「……有難う、リア。 明日からまた頑張るよ!」
優しく頭を撫でながらリアルデュークにお礼を述べるライアンを、抱きついたまま見上げて、リアルデュークがライアンに思いついた事を言う。
「ボクと一緒に筋肉さん鍛える! ボクの筋肉さんも、ライアン姉の筋肉さんもみんな喜ぶ!」
少し元気の無い姉を気遣ってか、精一杯の明るさで励ましてくれるリアルデュークを見て、少し元気を貰ったライアンが笑いながら話す。
「そうだね、レッツマッスル!だね?」
「そしてナイスマッスルする!」
「あはは、そうだね、明日からまた頑張ろう!」
(そうだ、まだ終わって居ない、マックイーンの様に、いつかこの子が誇れる姉になる為にも、明日からまた頑張ろう!)
そうやって笑い合いながら手を繋いで歩く姿は、誰が見ても仲の良い姉妹に見えた。
「……リアさん、良くぞ成し得ました。 マックイーンさんからの報告を聞いた時には絶望感で胸が一杯になりましたが、良く頑張りましたね? 今日と言う日を祝日としてメジロ家総出でお祝いを致しましょう!」
気が付いたらアサマの執務室に居たリアルデュークが、何故か上機嫌のアサマから褒められて居た。
「お待ち下さい大奥様、流石にそれは……」
流石に暴走しているアサマを執事長が諌めるが、その執事長をいつの間にか居たマックイーンが諭す。
「……何ですか、執事? 貴方はリアさんがどれ程の偉業を達成したか、理解されていないのですか?」
「そうですわ! 私のリアさんがこんなにも凄い偉業を達成したと言うのに、貴方は理解していないとは……我がメジロ家の執事長として、恥を知りなさい!」
マックイーンが、何故か上から目線で執事長を叱り付けると、これ又何処らか現れたドーベルが楽しげに宣言し、いつの間にか居たテイオーとゴールドシップが追随し、リアルデュークを褒め称える。
「先生の偉業を称えてパレードを行いましょう!」
「そうだね、ボクにも真似出来ない偉業だもんね。」
「オメェは凄え奴だよ、リアルデューク!」
「祝い事なら先ずは料理や! リアルデュークの為にぎょうさん拵えたで! あんさんの好きな物ばかりや、いっぱい食べや?」
更に何処から現れたのか、タマモクロスとオグリキャップが大量の料理と共に現れ、次々とリアルデュークの好物を食べさせてくれる。
「そうだぞ? タマの料理は絶品なんだ、沢山食べるといい。」
「うまうま! この世の春来た!」
「まだまだ、もっと食べるんだ。」
「うま……お腹いぱい。」
最初の方は美味しく食べて居たリアルデュークだったが、食べても食べても料理は減らず、次々と口の中に詰め込まれる。
「もっとだ、もっと食べるんだ!」
「せや、デザートもあるんやで? もっと食べぇや!」
「む、無理!」
デザートまで出てきて既に涙目のリアルデュークに対して、マックイーンが食べろと詰めてくる。
「デザートは別腹ですわ!」
そう叫びながらリアルデュークの口にケーキを押し込んでくるマックイーン。
「もう食べる、むり」
「ハチミーも、濃い目固めギガマックスだよ? 飲んで飲んで!」
「し、しむ!」
更にテイオーがリアルデュークの身長より大きなハチミーを口の中に注ぎ込んで来た時に、リアルデュークは限界を迎えて気を失った。
「し、しむぅぅぅっ!」
「……びっくりしたぁ、急に大声出してどうしたのさ?」
メジロ家別邸の執務室でソファに並んで座っていたリアルデュークが、突如大声で叫び起きた事に、尻尾を立ててびっくりするテイオー。
「……夢、良かた。 ハチミーでしむ所だた。」
「ハチミーかぁ、そう言えばさ、今度期間限定でハチミーのギガマックスが出るらしいよ?」
そんなリアルデュークの呟きに、テイオーがある事を思い出して話しかける。
「……ギガマックスは致死量、飲む、ダメ!」
テイオーの話に、心底嫌そうにぼやくリアルデューク。
「あはは、確かにウマ娘的にはある意味致死量かもね? それでさ、質問が有るんだけど、キミの所のお祖母さんと、マックイーンは何で一緒に部屋の中でぐるぐる回っているの?」
目の前の光景に呆れながらも質問してみるテイオー。
「妖怪くるくるババアとくるくるさん? きっとトイレ我慢している。 年寄りトイレ近、むぐぅっ!」
「誰が妖怪くるくるババアですか!」
得意気にテイオーの質問に答えて居たリアルデュークの顔面に、アイアンクローを極めたアサマが、そのままリアルデュークを片手で持ち上げる。
「私とお祖母様がどれだけ心配しているのか、お分かりですの?」
そして、そんなぷらぷらしているリアルデュークを叱るマックイーン。
「アサマさま、リアルデュークの頭が割れちゃう! さっきからプラプラしてるってば!」
何時もと違い、既に意識を失っているリアルデュークの頭付近から、してはいけない音が聞こえてきた為、慌てて諌めるテイオーを見て、すぐに力を弱めるアサマ。
「あら、私とした事が、少しだけ加減を間違えてしまいましたわ。」
「やはり、私と同じでお祖母様も緊張なさっておいでなのですわ。」
「可愛い孫の一大事ですもの、心配で心配で……」
「私も可愛い妹の一大事ですもの、お祖母様と気持ちは同じですわ。」
そして、何故かお互いに共感し合う2人を、ジト目で見ながらぼやきつつ、更に指摘するテイオー。
「……その大事な子が、意識を失って白目を剥いてぷらぷらぶら下がっているけど、ソレ、本当に大丈夫なの?」
「まぁ、リアさん! 一体どうしてこんな事に?」
「お祖母様、先ずは寝かせて下さい。 すぐに主治医をお呼びしますわ!」
テイオーの指摘に、今更ながらリアルデュークの状態を把握した2人が、大慌てで介抱する。
「……こうやって見ると、ボクとしては、2人の血の繋がりを感じちゃうなぁ。 マックイーンって、アサマ様に良く似てるよねぇ?」
そんな2人を見ながらぼやくテイオーだった。
あれから呼ばれた主治医の介抱を受けて、どうにか意識を取り戻したリアルデュークが米神を摩りながらぼやく。
「……酷い目あった。」
「……ボクはキミを見ているとさ、自業自得って言葉の意味が良くわかるよ。」
そんなリアルデュークを、呆れ顔で見ながらテイオーが染み染みと呟く。
「大奥様も、マックイーンお嬢様も、加減と言う物を弁えて下さい。」
「「申し訳有りませんでした。」」
その2人の横で、2人並んで主治医から説教を受けているアサマとマックイーンに、テイオーが呆れながらも助け舟を出す。
「取り敢えず、マックイーンもアサマ様も、落ち着いて紅茶でも飲もうよ?」
「そ、そうですわね、今更焦っても仕方ありませんし、ここはメジロ家当主として落ち着いてお茶でも飲んで待ちましょう。 マックイーンさんも、そう致しましょう?」
アサマも、テイオーの意見に乗る形でいそいそとマックイーンと2人並んでソファへと座る。
「大奥様、まだお話は終わっておりません!」
途中で話を終わらせられた主治医が声を荒げるが、テイオーがそんな主治医を宥めた。
「まぁまぁ、主治医さんも落ち着いてさ、リアルデュークもこの通り元気なんだしさ、このくらいで勘弁してあげようよ?」
いつの間にかソファに座って、テーブル上にあるお菓子を貪る様に食べているリアルデュークの頭を撫でながら話すテイオーとリアルデュークの姿に落ち着いたのか、主治医も溜飲を下げて部屋から出て行った。
「貴方、みなさんに紅茶を淹れて下さるかしら?」
そして側に控えていたメイドに、お茶の用意を頼んだアサマと、どこかホッとした表情のマックイーンが、少し経ってメイドが持って来た紅茶に砂糖を入れ始める。
「マックイーン、砂糖どれだけ入れるの?」
マックイーンが7個目の角砂糖を入れたのを見て、流石にテイオーがツッコミを入れた。
「ふふ、マックイーンさんはまだまだお若いですわ……甘い!」
そんなマックイーンを見て、笑いながら掻き混ぜるとジャリジャリ音のする紅茶を一口飲んでびっくりするアサマ。
「お祖母様も、まだお若いみたいですわね?……甘い。」
アサマの様子を見て微笑みを浮かべながら、優雅な所作で紅茶を一口飲むと、染み染みと感想を述べるマックイーン。
「……あれだけ砂糖入れれば、そうなるよね。」
その2人を見ながら呆れ顔になるテイオーだった。
何かテイオーが思ったより大人な気がします。