区切りが悪い気がしたので、今回はちょっと長めです。
次の日、ライアンの事を聞いたリアルデュークが、諌めるマックイーン相手に全力で駄々を捏ねていた。
「いやぁぁぁっ! 行くったら行く!」
「だから、何度も言わせないで下さい。 ライアンさんは今安静にしてなければならないのです、そこに貴女が行っては休めなくなるでしょう? だから、良い子にして、ライアンさんがもう少し良くなったらお見舞いに行きましょうと言っているのです!」
「いやっ! 今すぐ行く!」
朝から何度も行っているやり取りに、段々と感情的になっていくマックイーン。
「……いい加減にしなさい! 我儘ばかり言って無いで、少しはメジロ家令嬢らしくなさい!」
「マックイーンの馬鹿! ドケチ! 寸胴! ボクは行くったら行くの!」
「リア!」
イライラが頂点に達したマックイーンが、ついリアルデュークの頬を平手打ちしてしまう。
その瞬間、リアルデュークの鳴き声が部屋中に響いた。
「……ひぐっ、うわぁぁぁん! マックイーンがぶったぁぁっ!」
泣き出したリアルデュークを庇う様にマックイーンとの間に入ったドーベルが、マックイーンを嗜める。
「……先生! マックイーンさん、何も打たなくても宜しいのではなくて? 確かに、先生が子供みたいな事を言ってイライラするのは分かりますが、先生は年齢的にまだまだ子供なんですよ?」
「……分かっていますわ……御免なさい、リア。」
自分がついやってしまった事にショックを受けながらも、マックイーンがリアルデュークに謝る。
「マックイーン何て知らない!」
だが、マックイーンに対してそう叫んだリアルデュークは、そのままドーベルの制止を振り切って部屋から飛び出して行った。
「あ、先生!」
後には気不味い顔をしてマックイーンを見るドーベルと、俯いて拳を握り締めるマックイーンだけが残されていた。
部屋を飛び出したリアルデュークが、泣きながら廊下を歩いていると、丁度療養所から帰宅したアサマと執事長に出会った。
泣いているリアルデュークを宥めながら、執務室へと連れてきたアサマが詳しい事情を聞こうとするが、一向に泣き止まない為困り果てていると、書類を持ったラモーヌが入室して来た。
「お祖母様、此方の書類は、お祖母様の決裁が必要と思われますのでお持ちしました。 あと、例の件ですが……あら、リアさんどうかしましたの?」
今気が付いたといった感じで、ラモーヌがアサマに尋ねる。
「廊下を泣きながら歩いていた所を見付けて連れて来たのですが、泣き止まなくて困っていた所です。 一体なぜこんなにも泣いているのか……」
困り顔をしながらラモーヌに事情を説明するアサマの話を聞いたラモーヌが、少しだけ考えると、リアルデュークに向けて思い付いた単語を幾つか投げかける。
「……マックイーン、ライアン」
ラモーヌの言葉に反応を示すリアルデュークを見て、ラモーヌがアサマに告げる。
「……成る程、お祖母様、恐らくはマックイーンとの間に、何かあったのでは?」
「……何か?とは、何でしょうか?」
「それは分かりませんが、大方喧嘩でもしたのではないでしょうか?」
「喧嘩ですか、メジロ家の淑女としては、あまり褒められた行為では有りませんね。」
ラモーヌの推理に眉を顰めるアサマの様子を見て、ラモーヌがある事を提案する。
「マックイーンさんを呼んで、詳しい事情をお聞きになられますか?」
「いえ、子供の喧嘩に大人が出ても、良い結果は得られないでしょう。」
難しい顔をして考え込むアサマ様子に、一つ何か閃いたラモーヌが、未だに泣いているリアルデュークに話しかけた。
「では、こうしましょう……リアさん、貴女のお願いを一つ聞いてあげます。 だから何があったか、話しなさい。」
少し強めのラモーヌの口調にびっくりしたのか、一時的に泣き止んだリアルデュークが、促されるままぽつりぽつりと話し始める。
「……うぃ。 ライアン姉の所行きたい言った、そしたらマックイーン怒って……ボクの事、うわぁぁぁん! ライアン姉励ますのに、痛いの大変なのに、ボクの事ぶったぁぁ! うわぁぁぁん!」
「まぁ、マックイーンさんが?」
またまた話し途中で泣き始めたリアルデュークの話を聞いたアサマが、マックイーンの行動にびっくりするなか、ラモーヌが冷静に事の次第を推理する。
「……成る程、マックイーンさんに怒られたと、言う事かしら?」
「マックイーンさんも、まだまだ子供と言う事なのでしょう。」
「それはそうですわ、お祖母様。 だってまだ年齢的に充分子供ですわ。」
アサマの言葉に対して、アサマの思い違いを指摘するラモーヌ。
「……確かに、そうでしたね? 昔からしっかりした子だったからつい実年齢以上に思ってしまいがちで……これは私も気を付けないといけませんね。」
染み染みと話アサマを横目に、ラモーヌがリアルデュークに告げる。
「と、言う訳で、リアさん、ライアンの所に行きますわよ?」
「……でも、マックイーンがダメだって……」
急に言われたリアルデュークが、俯きながら小さく反論する。
「このラモーヌ姉様が良いと言っていますのよ? それとも、ライアンの所に行きたく無いのかしら?」
そんなリアルデュークの態度を一蹴するかの様に、ラモーヌが強気の発言をする。
「行く! 行きたい! ライアン姉大変、ボク励ます!」
ラモーヌのそんな姿を見て、感化されたリアルデュークが元気に叫ぶ。
「そうね、ライアンさんも、リアさんが励ませば、きっと元気になってくれますよ? ラモーヌさん、悪いけどお願いしますね?」
リアルデュークに優しく話しかけたアサマが、最後にラモーヌの方を見てお願いする。
「はい、お任せください、お祖母様。」
メジロ家の療養所のとある病室、ここには昨夜から療養の為にライアンが泊まっていた。
先程迄は自身のトレーナーが居て、何かと世話をしてくれていたが、一旦学園の方で手続き等をしてくる事になり、今はライアン1人だけだった。
何をする気にもなれず、ただ怪我をした足を眺めていると、病室のドアをノックする音が響いた。
「……はい、開いてますのでどうぞ。」
「さっき振りね、ライアンさん。」
ノックに対して入室を許可すると、意外な人物が顔を出した。
それは、朝方までアサマと一緒に付き添い、ほんの数時間前に帰った筈のラモーヌだった。
「ラモーヌ姉さん? どうしたの、忘れ物でもした?」
内心ちょっとびっくりしながらも、平静を装いながら用件を聞いてみる。
「忘れ物では無いわ。 貴女へのお客さまを連れて来たのよ。」
「お客さまって、確かまだ面会は主治医さんが許可していなかった筈ですよね?」
ラモーヌの言葉を不思議に思いながら首を傾げるライアンを見て、微笑を浮かべながらラモーヌが話す。
「そうね、主治医は許可していないわ。 でも、このお客さまは別よ?」
「別って?」
ラモーヌの言っている事がいまいち理解出来ずに怪訝な表情を浮かべるライアン、そんな彼女を放置してラモーヌは廊下にいるであろう人物に声を掛ける。
「貴女も何時迄も廊下にいないでお入りなさい? そもそも自分から来たいと言ったのでしょう?」
「……ライアン姉。」
そんなラモーヌの言葉に促されたのか、リアルデュークが今にも泣きそうな顔で入ってくる。
「……リア?」
「ライアン姉!」
リアルデュークの小さな姿を見て、思わず名前を呼ぶと、感極まったのかリアルデュークが泣きながらライアンの首筋に抱きついて来た。
「うわっ、ちょっと、落ち着いて、リア?」
「ライアン姉!ライアン姉!」
急な事に慌てるライアンだったが、ひたすら抱きついて泣きじゃくるリアルデュークをそっと抱きしめると、落ち着くまでその小さな背中を優しく叩いてあやすしか無かった。
あれから30分程あやして、どうにか落ち着きを取り戻したリアルデュークをベッドの横にある丸椅子に座らせると、何故かライアンは、ラモーヌが剥いてくれた林檎をリアルデュークに食べさせていた。
「んまんま……ライアン姉、痛い?」
「ん〜、流石に昨日の今日だからね、多少は痛みがあるけど、主治医さんに痛み止めを打って貰っているから、それ程では無いよ? それで、リアはどうしてここに?」
林檎を食べさせて貰って、機嫌も良くなったリアルデュークに、ライアンはここに来た理由を尋ねてみる事にした。
そんなライアンからの質問に、少しだけ考えたリアルデュークが、身振り手振りを交えて、精一杯の気持ちを表す。
「ライアン姉怪我した、大変聞いた! だからボク励ます! ライアン姉なら大丈夫! 痛い大変、でも一緒居れば大丈夫! ママもボク痛い時、何時も一緒居てくれた、一緒安心、頑張れる!」
「……そっか、良いママだったんだね? 私も、リアがこうしてくれて安心、凄く嬉しい、有難うリア。」
精一杯自分を案じてくれるリアルデュークを見て、とても嬉しくなったライアンは、自分も心を込めてリアルデュークにお礼を述べる。
「ライアン姉、一緒!」
そんなライアンの反応に感極まったリアルデュークが、ベッドによじ登ってライアンに抱き付く。
「あらあら、リアさん? それではライアンさんが窮屈ですわよ?」
流石に怪我に障ると思ったラモーヌがリアルデュークを嗜めながら、ベッドから降ろそうとする。
「やぁぁっ! 一緒!」
「あはは、ラモーヌ姉さん、暫くリアの好きな様に……」
ラモーヌの動きに抵抗するリアルデュークを見て、ベッドで一緒に横になる事にしたライアンが笑いながらラモーヌにお願いした。
「ライアンさんと言い、マックイーンさんと言い、うちはリアさんに甘い人ばかりですわね?」
苦笑しながら言うラモーヌに対して、ライアンは笑いながら反論する。
「あはは、でも、そう言っているラモーヌ姉さんも、大分リアに甘い気がしますよ?」
「それはそうよ? リアさんはメジロの特別ですからね。」
優しくリアルデュークの頭を撫でながら放ったラモーヌの言葉に、苦い表情を浮かべてライアンが力無く呟く。
「メジロの特別か、私もそうなりたかったなぁ……」
「……なりたいからなれる。 特別とはそう言う物では無くてよ? それに、貴女は十分メジロの誇りだと思うわ。 それでは、私も忙しいからもう行くわ。 リアさんは帰る時に別邸の方へ連絡させて、誰か迎えに行かせるわ。」
俯くライアンに優しく言葉をかけてから、ラモーヌにそろそろ退室することを告げる。
「うん、わかりました。 リアの事は任せて、ラモーヌ姉さんも仕事頑張ってね?」
「ええ、ライアンさんも、今はゆっくり休んで、後の事はまた改めて話しましょう。」
そう言ってラモーヌが病室を出て行くと、いつの間にか隣で小さな寝息を立てるリアルデュークの頭を撫でながら、ライアンが1人小さな声で独白を始めた。
「……リア、キミは知らないだろうけど、実はさ、幼い頃はメジロ家で1番期待されていたのは私でさ、マックイーンは親戚から預けられた、いまいちパッとしない子と思われて居たんだ。 でも、小さいあの子はそんな周りの評価なんて気にしないで、ただひたすらに努力していた。 だからさ、私は幼いながらにマックイーンを応援していた。 だってさ、あんなに地道に頑張るあの子が、周りの大人達が言う様に、どうやってもレースで主役になれないなんて悲し過ぎるし、あれだけ努力しているんだから、周りの評価がパッとしなくてもさ、頑張れば花開くって示して欲しいと思ったんだ。 まさに子供の考え、思い違いも甚だしい……実際には才能があったのはマックイーンの方で、凡才だったのは私だったんだからさ。 自分には周りが言う程の才能がない、その事に気付いたのは菊花賞の時でさ、あのレースでマックイーンの背中を見て、これがメジロのウマ娘の正当な姿だって、私には無い血の力、才能だって思った。 でも、私にもアスリートとしての意地みたいな物があってね? それからはひたすら自分を鍛えた、幼い頃に思った事、正しい努力は実を結ぶって事を証明する為に、それによって私が私自身を誇る為に……でも、駄目だった、私は主役にはなれないと神様にはっきり言われちゃった。 私はもう今迄みたいに走れないんだって……どんなに鍛えても、鍛えられない所が駄目になったんだって……リア、御免、私……もう出来ないよ……」
ライアンの独白は言葉に詰まりながら、最後の方は聞き取れないくらいに震えた涙交じりの声で続けられた。
いよいよ嗚咽のみが聞こえる中、何かに耐える様に顔の前で握り締められた拳が、不意に小さな温かいものに包まれた。
ハッとしたライアンが潤んだ目を開けると、何時もと違う真面目な顔をしたリアルデュークが真剣な眼差しでライアンを見て話しかける。
「……大丈夫、ライアン姉の想い、ボクが一緒。 ボク、ライアン姉と共に走る、だからライアン姉、神様気にしない、ライアン姉に意地悪するなら、神様でもボクが許さない! だからライアン姉、笑う、笑顔になる、ライアン姉が鍛えたボクが大活躍する、ライアン姉もボクも主役! 一緒なら大丈夫!」
ライアンの拳を包んだ両手に力を込めて、励ます様に言うリアルデュークに泣きながら何度も相槌を打つライアンだった。
出来るだけ、史実準拠なので仕方ないのですが、難しい話です。
こういう所を上手く書ける才が欲しいと思います。