今回は切りが悪かったので短めです。
メジロライアンが療養所に入ってから数日後、正式にライアンの怪我と引退がメジロ家、URA、トレセン学園の連名でマスコミを通して世間へと発表された。
その反応は様々で、中にはG1タイトルの少なさからか、態々URAを巻き込んでの大袈裟な発表をする必要は無い、名家だからマスコミが忖度した等、心無い声もあったが、概ね世間には好意的に取られ、その早過ぎる引退と才能を惜しむ声が多かった。
そんな、少しだけ騒がしい外野の声を無視するがごとく、メジロ家としては引退会見や引退式等はせずに、発表以降は全ては本人の意向として沈黙を保っていた。
ライアンの正式な病名は屈腱炎で、今回は2回目の発症であり、発症から1週間経った今でも病状は回復しておらず、未だベッドの上の住人となって居た。
そんな中、未だ怪我の為練習出来ないリアルデュークは、小学校の卒業式までの間、毎日のようにライアンの病室に通っていた。
「ば〜ん! ボク登場! 今日のオヤツはよっ!」
今日も元気に病室のドアを勢いよく開け放つリアルデュークの姿を見て、軽く笑いながらライアンが今日のオヤツを報告する。
「いらっしゃい、リア。 今日はトレーナーさんが苺を使ったマグノリアを持って来てくれたよ?」
「マグノリア? とりま、食べる!」
よく知らない名称のオヤツに一瞬だけ首を傾げたリアルデュークが元気に返事をする。
「冷蔵庫に入っているから、食べて良いよ? あ、ちゃんと手を洗ってからだからね?」
「ライアン姉も一緒に食べる!」
「食べるのは良いけど、動かないで食べてばかりだから、体重計が怖いよ。」
「しっかり食べて早く良くなる?」
「どうだろうねぇ、しっかり食べると言っても、甘い物ばかりだから逆に体に悪そうかも?」
「大丈夫、ライアン姉食べれない時、ボクが代わりに食べる!」
しっかりと鍛え上げられた腹部を病衣の上から摩りながら笑顔で答えるライアンに両手を挙げて宣言するリアルデュークを見て、ライアンは声を出して笑いながら楽しそうに話す。
「あはは、それじゃあ今度はリアが太っちゃうよ? あ、でも、リアは痩せ過ぎだから、少し太るくらいで丁度いいのかもね?」
「……随分と仲が宜しい様ですね?」
いつの間にか病室のドア付近に居たマックイーンが、見舞いの花を片手に和かに声を掛けると、慣れた手付きで窓辺に置いてあった花瓶に花を生ける。
「マックイーン! お見舞いに来てくれたんだ? 何時も有難う!」
そんなマックイーンの姿を見て、笑顔でお礼を言うライアンとマックイーンの間に立ち、花瓶に花を生けるマックイーンを見ながらリアルデュークがライアンに話しかける。
「ライアン姉、騙される駄目、アレはパクパクさん、きっとオヤツ狙い!」
「誰がパクパクさんですか! それに、私はそんなに浅ましくありません。 オヤツ狙いはリアさんの方でしょう?」
リアルデュークの言葉を強く否定しながら、余裕ある態度を演じてマックイーンが言い返す。
そんなマックイーンにムキになって更に言い返すリアルデューク。
「ボクはパクパクさんと違う! オヤツ我慢可能! パクパクさんには無理!」
「何ですって? 私がそんなウマ娘な訳ありませんわ!」
「食べていいスイーツ、我慢出来る訳無い!」
「いいでしょう、そこまで仰るならば、私自ら証明して見せましょう!」
最早売り言葉に買い言葉状態で睨み合う2人を見て、慌てながら仲裁に入るライアン。
「マックイーンもリアも落ち着いて、ここ数日だけどちょっと2人共意固地になって無い? 前まであんなに仲良かったのにどうしたの?」
「マックイーンが悪い!」
「我儘ばかりなリアさんがいけないんですわ!」
ライアンの言葉に更にヒートアップした2人が、口々に相手の非を鳴らす。
「ハイハイ、そうやってすぐに喧嘩しない。 2人共、喧嘩するならオヤツは無しだよ?」
うんざり顔でライアンが言い放った途端、2人が声を揃えて食い気味に叫ぶ。
「「罪の無いオヤツを人質に取る(のは)、良く無い(有りませんわ)!」」
「……君たちやっぱり仲良しでしょ?」
そんな2人を見て、苦笑しながらぼやくライアンだった。
リアルデュークの卒業式が無事に終わって一息ついたメジロ家だったが、その週にマックイーンが出走予定の阪神大賞典が迫っていた。
トウカイテイオーとの共同記者会見から数日、アサマに呼び出される形でマックイーンがアサマの執務室に来ていた。
そこで己の心得違いを指摘されたマックイーンが反省していると、先程までのメジロ家総帥の顔から、お祖母様の顔になったアサマから優しく声を掛けられた。
「今回も調子が良いみたいですね?」
「はい、本番はこの次ですから……ここで躓く訳にはまいりませんわ。」
「いいでしょう、その調子でお励みなさい。」
一流の競技者の顔で答える孫の姿を見て満足したアサマが、短い言葉ながらもマックイーンを激励する。
「はい、お祖母様。」
そんな祖母からの言葉に、嬉しそうに答えるマックイーンだった。
自身の言葉に健気に応じる姿を見て、アサマはここに居ない問題児の事を思い出し、その問題児の卒業式を思い出しながら、染み染みと言葉を口にする。
「それにしても、リアさんの卒業式、何事も無く終わって本当に良かったわ。」
「ええ、本当にそう思いますわ。」
アサマの顔を見ながら、マックイーン自身も心からの同意を示す。
「あの子の事ですから、また何をしでかす事かと心配で、私は式が始まってからは心の中でずっと祈っておりましたわ……」
「……お祖母様……私も、未だに何事も無く終わった事が信じられず、これは夢で実際は夢から覚めたらあの子がやらかしているのではないかと……」
2人の姿を見て、感極まった執事長が涙ながらに話す。
「……大奥様、マックイーンお嬢様、本当に宜しゅうございました。 リアルデュークお嬢様も、最近では真面目に筋トレに励んでおられ、以前の様に問題行動を起こしたりしておりません。 矢張り、お嬢様もメジロ家のご令嬢、学園入学に伴って当家ご令嬢としての御自覚が芽生えて来ておられるのかと……」
「……執事にも苦労をかけましたね?」
「そんな、私如きに勿体無きお言葉。」
アサマからの労わりの言葉に、深々と頭を下げて感謝を口にする執事長を見ながら、アサマはマックイーンにも声をかける。
「マックイーンさんも、これで競技に集中出来ますね?」
「はい、うさぎにならぬ様、誠心誠意努力致します。」
そんな3人がいる執務室は、何時もの厳格な雰囲気は形を潜めて穏やかで優しい空気が満ちていた。
孫に振り回されるおばあちゃん。
でも、可愛いんでしょうね。