メジロ家の変な子   作:ネギ市場

58 / 130



 良い事があれば悪いこともある。
 何が良くて何が悪いかは気分次第と良く言われます。
 この子にとっては、どうなんでしょうね?

 


出会い

 

 

 

 トレセン学園入学式から遡る事一週間前、ここトレセン学園では全国各地から生徒が集まる為、入寮受付が既に始まって居た。

 その為、学園の寮には次々と希望に満ちた表情のウマ娘達が集まってきていたが、その中に一際目を惹く少女が居た。

 その少女は、他の子達が列を作って順番待ちをしている中、1人列を離れ道の真ん中に仁王立ちして高笑いをして居た。

 「お〜ほっほっほ! ここが、このワタクシ、サロメの伝説の始まりの地となりますのね。 皆様方初めましてこんにちは、おはようからお休み迄、ワタクシが、皆様のサロメで御座います。 今日のこの良き日にこのワタクシと共に入寮出来る皆様方のなんと幸運な事でしょう。 そもそも、このワタクシが……」

 そんな少女を見て居た受付の制服姿のウマ娘が、溜息をつきながら隣のスーツ姿の女性に問い掛ける。

 「先生、アレどうします?」

 「……今年もまた変なのが来たわねぇ……オペラオー系かぁ、まぁ、アグネスのやばい奴よりは遥かにマシよね?」

 「……それよりやばいのと言えば、ゴルシさんも居ますが?」

 「アレはもう関わるなの一言よねぇ。 そう考えると、あの子はまだまともとも言えるし、オペラオー系は騒いである程度満足すれば大人しくなるだろうから放置しましょう。」

 「そうですね、良く考えれば毎年何人か居るやつですしね。 あ、はい次の方……えっと、貴女は栗東寮になります。 此方の書類を寮長室に提出して下さいね? 詳しい規則等は各寮長さんの指示に従って下さい。 では、次の方……」

 新入生達がサロメを遠巻きに見つめる中、受付のウマ娘達は努めて事務的に仕事を熟して行った。

 

 

 そんな一幕があった後、淡々と入寮手続きをこなして居たスーツ姿の女性の前に、騒動の人物が立って居た。

 サロメは、受付の女性の前に立つと優雅な所作でお辞儀をし、微笑みながら挨拶をした。

 「受付ご苦労様です、ワタクシがサロメですわ。」

 「……はい、では書類の提出をお願いします。」

 そんな少女の様子にも眉ひとつ動かさずに淡々と女性が応じる。

 「サロメですわ。」

 「はい、サロメさんですね。 では、書類を提出して下さいね?」

 再度サロメが名乗るが、女性は気にせずに今日何度目か分からない程言った台詞を繰り返す。

 「……ワタクシがサロメですのよ?」

 「書類を提出して下さい。」

 「ワタクシが誰か分かりませんの?」

 「……書類を提出して下さいってか、さっさと出せ。」

 お互いに譲らない攻防を続けること数分、段々と女性の言葉尻が強いものになって来た頃、サロメが若干呆れ顔で問い掛けた。

 「トレセン学園の先生ともあろうお方が、このワタクシを知りませんの?」

 「いいからちゃんと書類出して手続きしろ。」

 「……まぁ、新任の方でしょうから仕方有りませんわね。 特別にワタクシの書類を見る栄誉を与えてあげましょう!」

 「……何でもいいからさっさとしろ。」

 更に数回の攻防の後、やっと提出された書類を見て、女性が思わずといった感じで感想を述べる。

 「うわぁ、コイツも栗東寮かよ……フジも大変だなぁ。」

 見知った寮長を不憫に思っていると、サロメが焦れた様に問い掛けて来た。

 「……それで、ワタクシはどこに行けば宜しいのかしら?」

 「今渡した書類に書いてあるから、その通りに行けばいいよ。」

 「あら、そうですの? ……では、ご機嫌よう、皆様方。」

 軽くあしらう様にサロメに告げると、意外と素直に去って行ったサロメの後ろ姿を見ながら、隣にいた生徒が女性に声を掛ける。

 「先生、途中から素になってましたね?」

 「いやぁ、ああいうのは取り繕っても意味無いからなぁ。 それにしても、年々やばくなるなぁ、栗東寮。」

 「ですねぇ、ダブルアグネスにアースにオペラオーにゴルシと、役者は揃ってますもんねぇ?」

 「「……近づきたく無いなぁ。」」

 思わず出たその言葉は、2人揃っての心の底からの言葉だった。

 

 

 無事スムーズに受付を終えたサロメが寮に行くと、先に受付を済ませた一団が寮の玄関の壁に貼られた部屋割りを見て居た。

 サロメも自分の部屋を確認するべく近くまで行くと、先程は見えなかったが、部屋割りの貼ってある壁の近くに1人のウマ娘が立っており、新入生達一人ひとりに部屋割りを指差しながら案内をしている最中だった。

 その姿を見て、サロメの灰色の脳がすぐに状況を把握すると、サロメは真っ直ぐにそのウマ娘の前まで行き、カーテシーと共に優雅に挨拶を行った。

 「ご機嫌よう、ワタクシがサロメですわ! お見受けした所、貴女様がここの寮長様で御座いますね? このワタクシことサロメが、ワタクシに名乗りを上げる栄誉を貴女様に与えてさしあげましょう。」

 サロメの挨拶を見た新入生達が何事かと見つめる中、挨拶をされたウマ娘はその美麗な顔で微笑み返すと、舞台俳優かの様な少し芝居がかった動作で手を自身の胸に当て、一歩足を退いてお辞儀をして挨拶を返す。

 「これはこれは小さなレディ、私はフジキセキと申します。 これでもこの栗東寮の寮長を務めているんだ。 だから何かあったら是非私を頼ってくれると光栄かな? 麗しの小さなレディ、私のポニィちゃん?」

 そう言いながら、先程まで何も持っていなかった手にいつの間にか薔薇が一輪現れ、自然な動きでサロメに差し出す。

 「……わ、私のポニィちゃん……フジ様。」

 顔を真っ赤にしてフジキセキから薔薇を受け取ったサロメが、そのままの姿勢で固まっていると、フジキセキがサロメの肩を抱いて上から顔を覗き込む様に目線を合わせて優しく語り掛ける。

 「おや? 固まってしまってどうしたんだい? 動かない彫像の様な君も素敵だけど、可憐な動きを見せてくれた方が私はポニィちゃんらしくて好きだよ? さあ、固まって居ないで私に書類を渡してくれないかな?」

 「……可憐、好き……」

 素直に書類を渡したサロメは、心ここに在らずといった様相で虚空を眺めていた。

 「……さて、君の部屋は……なるほど、これはこれで……」

 書類を見て暫し考えたフジキセキは、すぐに書類にサインをすると、未だ夢心地なサロメに改めて話しかけた。

 「サロメさん、君の部屋割りはここになるよ? 相部屋の子は既に到着しているから仲良くしてあげてね? あと、寮のルールについてはこの冊子を良く読んでおけば問題は無い筈だから……それでは、改めて……栗東寮にようこそ、この場所が君にとって心休まる場所となる事を、私は心の底から願っているよ!」

 「え、ええ……フジ様……いえ、フジキセキ先輩、これから宜しくお願い致しますわ。」

 どうにか落ち着きを取り戻したサロメは、フジキセキの歓迎の言葉に、深々とお辞儀をしながら返答するのだった。

 

 

 

 「……あぁ、フジ様、何て素敵なお方でしょう。 そんなフジ様が寮長を務めていらっしゃる寮に入寮できるなんて、ワタクシって何て幸運なウマ娘なのでしょう♪」

 先程のフジキセキとの出会いを思い出して幸せな気持ちに浸りながらも、説明された部屋番号のドアの前まで辿り着いたサロメは、一度深呼吸をして気持ちを落ち着ける事にした。

 「そう言えば、相部屋の方は既に到着されているとの事でしたわね……最初が肝心です。 笑顔でご挨拶と行きましょう。 失礼致しますわ、ワタクシ、サロメと申しま……」

 ドアの前で見事な営業スマイルを作ったサロメが、その和かな表情のまま、ドアを開けて部屋の中に入り、そしてそのまま固まった。

 「うぃっす! ボク、リア! うっすうっす!」

 部屋の中には、部屋中に荷物を散乱させたまま寝転がってポテチを食べ散らかす、何処か見覚えのあるジャージ姿の幼女がいた。

 

 







 全ての出会いに感謝を……


 とか、少なくともサロメさんは思って居なさそうですね。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。