2話目です。
『……試合は3対3、一進一退の攻防を見せておりますが、流石に疲れも見えてくる頃ですが、トウカイテイオーさん、どう見ますか?』
『流石にこれだけ走り回るとキツイかも、特にまだ新入生のサロメなんかは体力やばいんじゃない?』
『そうですねえ、まさかここまでの泥試合になるとは私も思っていませんでした。 サロメチームの選手達の中には既に肩で息をしている選手もいます。 しかし、そうなると、逆にリアルデュークチームの選手達の体力に凄さを感じてしまいます。』
『そうなんだよね。 あれだけ走り回っているのにさ、全く息が上がって無いのが不思議なんだよね。 どれだけ疲れている様に見える選手もさ、リアルデュークが水分補給するとすぐに走り回るんだよ?』
『確かに、やたらと水分補給していますね?』
そんな実況席2人の声が響くなか、リアルデュークは水筒片手にブブセラを吹いて居た。
彼女に課せられた仕事は2つ、精一杯の応援と、全力の水分補給である。
たとえ相手が拒否しようと、タキオンからの指示通りに『決められた量を無理矢理、力尽くで』給水させる。
今もまた、陣地入れ替えのタイミングで水筒片手にリアルデュークが笑顔でタマモクロスの下へ向かう。
「ひぃっ、な、何でウチんとこ来るんや?」
「タマいっぱい走った、だから飲む!」
笑顔でコップに注いだロイヤルビタージュースをタマモクロスへ差し出すリアルデューク、その差し出されたコップとリアルデュークの笑顔を苦り切った顔で視線を行ったり来たりさせながら見るタマモクロス。
「良かったな、タマ? これで疲れ知らずだ。 リアルデュークもタマの為に有難う。」
そんな2人を見て、笑顔でリアルデュークにお礼を言うオグリキャップ。
「大丈夫、オグリンの分もある。」
そう言ってオグリキャップにもコップを差し出すリアルデュークの笑顔を見て、微妙な顔をしたオグリキャップが一気にコップの中身を飲み干す。
「ごふぅぅぅっ!」
そして盛大に吹き出しながら卒倒する。
それはもう小さな虹がかかる御手本の様な噴水だった。
「オグリィィィッ!」
「吹き出すダメ、ちゃんと給水!」
倒れたオグリキャップの口を開けて水筒から直接流し込むリアルデュークを必死になって引っ張るタマモクロス、そこには地獄があった。
「それ以上飲ませたらあかん! オグリが、オグリが死んでしまう!」
全力で止めるタマモクロスを意に介さず、規定量を飲ませたリアルデュークがタマモクロスの腕を掴む。
「次はタマの番!」
「いややぁぁぁっ!」
力尽くでタマモクロスの顎を掴んで規定量を飲ませたリアルデュークが、今度はウォッカの下へ向かう。
「や、止めろぉぉぉっ!」
リアルデュークチームの惨劇を見ていたスカーレットが思わず呟く。
「何アレ……ヒッ!」
小さく悲鳴を上げるスカーレットの見詰める先では、先程倒れたリアルデュークチームの面々がゆらりと立ち上がる。
「うぉっ、何だアレ?」
隣で見ていたゴールドシップも、引き攣った表情で呟く。
その呟いた先では、無表情でやけにキビキビとした動きをする一団だった。
動きは本当に絶好調の動きなのだが、全員無表情で魚の死んだ様な目をしている。
そんな集団がキビキビと交換した陣地へと向かい、無言でポジションにつく、サロメ達は気味が悪いモノを感じながらも、自分達も決められたポジションにつくのだった。
『さぁ、サロメチームの攻撃がスタートしました。 リアルデュークチーム、やはりここはこれまで通り、全力でディフェンスを行う模様。 ディスクを持つサロメ選手にタキオン選手以外が群がります。』
「何はともあれ、ワタクシのやるべきことは一つ、全力で勝利を……ひぃっ!」
試合再開と共にディスクを手にしたサロメがそう呟く途中、何気なく周りを見ると、リアルデュークチームの面々が先程の表情のまま、全速力でサロメに向かって来ていた。
「ひぃぃぃっ、ぞ、ゾンビ!」
B級ホラー映画の1場面を彷彿とさせる状況に恐怖を感じたサロメは、思わず目を瞑ったまま明後日の方へディスクをぶん投げた。
「「「でぃぃすぅぅくぅぅっ!」」」
投げられたディスクに反応したヘリオスとパーマーとバクシンオーが一斉に追いかけ始める。
ディスクの向かう先を計算し、先回りをしたエアグルーヴが無事にディスクをキャッチしてルドルフへとパスしようと振り返るが、既にルドルフへのパスコースは、能面の様な顔をしたタマモクロスによって塞がれていた。
「くそっ、何故お前達はそんなに動けるんだ?」
自分達ですら既に体力的にキツくなって来ている、自分達よりも遥かに走っているタマモクロスならもっとキツイ筈なのに、何故か彼女達からは疲れが感じられない。
「ディスク、ディスクを取る。ディスクをとらなまた……」
「た、タマモクロス? さっきから一体何を呟いているんだ?」
ブツブツと抑揚の無い声で呟きながらも、全力での素早い動きでパスコースを潰すタマモクロスを見て若干の狂気を感じながらも、声をかけてみたエアグルーヴだったが、焦点の定まらない目を見て会話を諦める。
「ディスクディスクディスクディスクディスクディスクディスクディスクスイスディスクディスクドドイツディスクディスク……」
「ひぃっ!」
タマモクロスの狂気に恐怖を感じたエアグルーヴが近くにいたスカーレットにパスを出すと、今度はスカーレット目掛けてタマモクロス、ウォッカ、パーマーが呟きながら全速力で走って行く。
「「「ディスクディスクディスクディスクディスクディスクディスクディスクスイスディスクディスクドドイツディスクディスク……」」」
「ひぃぃっ! こ、こっち来るなぁぁぁっ!」
恐怖を感じたスカーレットが叫びながら、思わずディスクを放り投げる。
ディスクはスカーレットの手を離れ放物線と、微妙なカーブを描いてエアグルーヴの方へと飛んで行った。
「な、何でこっちに?」
地面に向かって落ちて行くディスクをギリギリでキャッチしたエアグルーヴが周りを確認すると、先程と同じ状態のタマモクロスが既に目の前に居た。
「や、矢張り近くで見ると異常な状態だな……だがっ!」
先程とは違い、幾分か落ち着きを取り戻したエアグルーヴが落ち着いてルドルフへとディスクを飛ばす。
「会長、頼みます!」
「あぁ、任された!」
周りに集まってくるヘリオス、パーマー、オグリキャップの位置を冷静に判断すると、危なげなくディスクをキャッチしてゴールライン付近にいるゴールドシップへと鋭いパスを出す。
「ゴールドシップ!」
ルドルフのその一言だけで意図を理解したゴールドシップが全速力でディスクの予想進路へと向かう。
「このゴールドシップ様に任せな!」
そう言うと、目の前に迫ったディスクを手を伸ばしてキャッチしようとしたその時だった。
「驀進驀進驀進、驀進驀進驀進、バクシン、バクシン、バクシンしぃぃぃんっ!」
ゴールドシップとディスクの間に猛スピードで突っ込んで来たバクシンオーがディスクをキャッチする。
そのまま一直線に走り去り、観客達の前に簡易的に設置された柵へと突っ込んで行った。
『これは御見事、サクラバクシンオー選手、シンボリルドルフ選手の的確なパスを読み切っての華麗なインターセプトです! サロメチームの攻撃を見事に防ぎました!』
『あぁ〜、会長のパスがぁぁあっ!』
「はぁぁっ? アタシの、このゴールドシップ様の華麗なゴールを邪魔するとは、中々やるじゃんよ?」
「そうだな、まさか私も、あのタイミングでパスカットされるとは思わなかった。 まさに大驚失色(たいきょうしっしょく)し、心慌意乱(しんこういらん)してしまったよ。」
「確かに、今のは、サクラバクシンオーの速さを活かした、大変素晴らしいプレーでしたね?」
何故か嬉しそうに話すゴールドシップ、そんな彼女に笑顔で答えるルドルフとエアグルーヴの2人。
「うぅ、皆さんまだ余裕が有りますねぇ?」
「せ、セイちゃん的には、もうちょっと、落ち着いた、プレーを……」
「仕様がないじゃない、相手があの調子なんだから!」
地面に座り込んで弱音を吐くスペシャルウィークとセイウンスカイに、スカーレットが相手チームを見ながら話しかける。
スカーレットに釣られて、改めて相手チームを見た2人が嫌そうな顔をす。
「アレって、どう言った仕組みなんでしょう?」
「仕組みって言うか、アレは最早ゾンビだよねぇ?」
「ゾンビはあんなに元気に走り回らないでしょ?」
「知らないんですか? 最近のゾンビは走るんですよ?」
「そうそう、走るだけじゃなくて、武器を使うゾンビも居ました!」
「えぇっ? ゾンビも進化しているのねぇ……」
2人の話にゾンビに対する認識を改めたスカーレットが、眉を潜めて2人に確認する。
「って事はさ、アレ、ゾンビ其の物じゃない?」
「「……確かに。」」
その後も3人で集まってヒソヒソとゾンビの話をしていると、ルドルフから撃が飛ぶ。
「さぁ諸君、攻撃は防がれてしまったが、なぁに心配は要らない、今度はこちらが防御を成功させてしまえばいいだけの話だ! 私は、ここに居る皆ならば、それは容易く成し遂げられると確信している。 さぁ、百折不撓 (ひゃくせつふとう)の精神で、気負わずに確実に、やれる事をやって勝とうじゃないか!」
堂々としたその姿を見て、サロメチームの面々が落ち着きを取り戻し、やる気を取り戻す。
そんな相手チームの姿を見ながらニヤつくタキオン、その周りには力尽くで各選手の口に水筒の中身を流し込むリアルデュークとタキオントレーナーがおり、その場にはタキオンとリアルデュークへの怨嗟の声が響いていた。
まだ試合が続きます。