まだまだ幼女のターンです。
その日、先輩トレーナーとお酒を呑み、いい感じに酔いがまわってきた私は、先輩の旦那さんが迎えに来る頃には呑み終わり、酔っ払った先輩の財布から会計も済ませていた。
それからすぐに酔っ払いを回収しに来た旦那さんは、所謂イケメンでは無かったがとても人当たりが良く、奥さんである先輩の事を愛しているのが滲み出ている人だった。
そんなラブラブ?な2人を見て、未だに浮いた話の一つもない我が身を嘆きつつも、独り寂しく安アパートへの帰路を急ぐ。
それは、帰り道にあるコンビニに寄ろうと思い、少しだけ回り道になる通りを1人寂しく歩いている時だった。
既に陽が落ちてからかなりの時間が経っており、辺りは真っ暗になった夜道に衝撃的な光景が広がっていた。
だって、道の端に簀巻きにされた幼女が、ゴミ袋と一緒に転がって居たのだから……。
「……えっ? な、何? これってドッキリか何か?」
突然の有り得ない状況に混乱しつつも、私は状況の整理と確認を始める。
場所は勤め先のトレセン学園から少し離れた住宅地、時間は既に遅く、最終電車が出る頃合いで、こんな時間に外を出歩いていたら確実に補導される時間であり、一般学生や全員寮住まいの学園生がいる筈の無い状況である。
「……なるほどなるほど、私もかなり酔いが回っているのね。 見えちゃいけない物が見えているわ。」
軽く頭を振り、幻覚を見せてくる要因であろう体内の余分なアルコールを振り払う様にすると、敢えて何も見なかった様に振る舞う。
だって、有り得ない光景です……夜の住宅地の何気ない路地に、明らかに不自然な光景として、簀巻きにされて不貞腐れた様に寝ている幼女が転がっているんですよ?
誰だってドッキリか何かかと思うじゃないですか!
そう、幼女ですよ、幼女!
あのあどけない整った顔立ちに特徴的なウマ耳……ウマ耳?
「え、ウマ娘? 何でこんな所に……って、そんな事言っている場合じゃないです。 だ、大丈夫ですか? 事件ですか?事故ですか?」
私は慌てて彼女に声を掛けます。
だって、この状況で簀巻きにされているのが小さなウマ娘です、育児放棄や虐待を疑うレベルの出来事です。
悲しい話ですが、ヒトミミと違い食費等が数倍かかるウマ娘だと、家庭によっては金銭的な問題で育てられないと捨てられたり、虐待を受ける子も多いと週刊誌等で書かれています。
私が愛読している週刊誌でも、度々特集が組まれていますので、間違いないです!
まぁ、先輩には、有る事無い事を無責任に書くゴシップ誌だと揶揄われますが……。
でも、有る事無い事、つまりそれは、有る事も書かれているって事です!
だから、先輩が言う程いい加減な週刊誌じゃないんじゃ無いかな?とか少しは思っています。
そんな事を思い出しながら、簀巻きにされた彼女の拘束を外していきます。
それにしても、随分と本格的な拘束の仕方ですね……簀巻きを外すと、手足がウマ娘用の拘束具でしっかりと拘束されており、その上から別のベルト式の拘束具を付けられています。
何ですかこれ? まるでばんえいウマ娘相手でもここまではやらないくらいの念入りな拘束です。
「酷い、こんな小さな子に対して……許せません!」
未だに目を覚さない目の前の小さな幼女を見詰めながら、ウマ娘スキーを自認する私は、怒りに震える手で拘束を解いて行きます。
そして全ての拘束具を外すと、改めて様子を伺いますが、その子の容姿には驚くばかりです。
未だ寝ているその幼女の肢体はかなり細く、同年代の子と比べて若干肉付きの薄い肢体に、まるでお人形さんの様に薄く品の良い唇に小さく高く整った鼻と均整のとれた顔立ちに、透き通る様な白い肌、腰まである更々の長い銀髪で、日本人形の様な髪型と、大凡人が美しいと思う物だけで構成された、まさに神の創造されたかの様な神々しい存在です。
「こんな無垢な子を簀巻きにして捨てるなんて……一体全体、どう言う神経をしていたらこんな悪魔の様な仕打ちが出来ると言うのです。 全てのウマ娘ちゃんと子供は、無条件で愛されるべき存在なのに!」
勝手な想像で己の正義感を燃え上がらせている彼女は気付いて居ないが、先程からその幼女が薄目を開けて彼女を観察して居た。
そんな幼女に気が付かないまま、眠ったままの幼女を抱き上げると、彼女の父親が勤務する近くの交番へ連絡をして事情を話してから、自宅へと向かうのであった。
「さぁ、遠慮なく食べて下さいね♪ まだまだ一杯有りますからね?」
「はむっ、むぐっ……ウマウマ!」
女性に介抱されてから暫く経ち、リアルデュークが気が付いたフリをして目を開けると、目の前には見覚えの無い何処か謎の使命感に燃えた女性が居り、沢山の料理をテーブルに並べている最中だった。
何と無く知らない場所に知らない人、状況も不明だったが、とても美味しそうな匂いを前に、考える事を放棄したリアルデュークは、勧められるがままにひたすら目の前の料理を食べていた。
「まだまだ、必要なら食材は有りますから、遠慮無く言って下さいね?」
料理を並べ終わったのか、リアルデュークの対面に座った女性が、お茶を淹れながら、リアルデュークの食べる姿を嬉しそうに眺めたままそう言って来た。
「あ、そう言えばまだ自己紹介もしていなかったわね? えっと、私の名前は……「ボク、リアルデューク!」あ、リアルデュークちゃんって言うのね? 私は「ご飯お代わり!」あ、はい、今よそうからちょっと待ってね……はい、どうぞ?」
「ご飯ウマウマ、御菜ウマウマ……お前料理上手?」
美味しそうに口いっぱいにご飯を頬張る目の前の幼女を見て、やはり虐待でご飯も碌に食べさせて貰えていないんだと確信した女性が、想像上のそんな幼女の境遇に思わず涙ぐむ。
「お腹いっぱい、ゴチ。」
見事に膨らんだお腹を撫でながら、リアルデュークが女性にお礼を言うと、女性もまたにこやかに返事をする。
「はい、お粗末様でした。 ご飯も食べ終わったし、そろそろリアちゃんの事、教えて貰っても良いかな?」
「ボク、リアルデューク、食べる事、寝る事、アニメを見る、ゲームするも好き。 ヨロヨロ!」
リアルデュークが、ポコんと出たお腹を撫でながら片手を挙げて挨拶をする。
「そっか、好きがいっぱいあるんだね?」
女性が、小さな子供に話しかける様に話すと、リアルデュークも元気に自論を展開する。
「好きな事だけして生きる! 働いたら負け!」
「そ、それはどうかなぁ? 意外と人生結構儘ならないモノよ?」
「大丈夫、ボクきっと上手くいく!」
その駄目人間真っしぐらな主張に、若干引き攣った笑顔になりながらも、取り敢えず頭から否定せずに軽く肯定する事にした女性が話す。
「まぁ、まだ若いんだし、未来に希望を持つのはとても良い事よね?」
「ババ、パクパクさん、脛いっぱい! ボクの希望もいっぱい!」
「良くわからないけど、取り敢えず元気そうでなによりだわ。 」
そして、無邪気なその笑顔を見た女性の心の中には、かつての自分を思い出す余韻が漂った。
(私だって最初は、サクッとトレーナーになって、有名になるウマ娘捕まえて、G1獲りまくって賞金がっぽがっぽで人生勝ち組って思っていました、思っていましたよ?
でもね、現実は厳しいの……まさかトレーナー試験があんなに難しいだなんて思わないじゃない?
意地になって受け続けて、やっと受かったと思ったら私、もう今年で29よ?
浮いた話の一つも無いまま、来年には三十路女突入なんですよ?……はぁ、虚しくなるわ。)
そうやって独り虚しい思いを巡らせていると、不思議そうな顔をした幼女が手を握って来た。
「大丈夫、全て上手くいく! 給食のおばちゃん頑張る!」
「わ、私はまだおばちゃんでは無いです!」
そう叫ぶ女性を見て、リアルデュークが楽しそうに笑い、その笑顔を見て、女性も楽しそうに笑っていた。
まだ幼女のターンは終わりません。