思ったよりも長くなりました。
ここは改造トラックの荷台の中に設置された指揮所で、そこには複数人が各自モニターを見ながら送られて来る報告を読み上げている。
「突入班のβチーム沈黙、αチーム半数脱落!」
「支援部隊沈黙!」
「駄目です。止まりません!」
今、その指揮所内では男達の悲鳴にも似た叫び声が飛び交っていた。
「なんだ……一体何が起きているんだ? 我が精鋭部隊が半壊だと? 一体全体、我々は何を相手にしているんだ!」
愕然とする男の視線の先には1人の幼女が一瞬だけ映った後に映像が途切れたモニターがあった。
「と、兎に角、一度撤退して体制を立て直すんだ! クライアントには俺から連絡を入れる!」
暫し愕然としていた男だったが、ふと我に帰るとその場で必要な指示を行い、指揮所であるトラックから降りて夜空を眺める。
懐から慣れた手付きでタバコを取り出そうとするが、震える手からタバコの箱が零れ落ちる。
「チクショウ! 何だってこんな事に……」
苛立ち紛れにトラックのタイヤを蹴飛ばすと、大きく溜息をついた。
「これだから化け物共の相手は嫌なんだ……大体、何なんだよウマ娘ってよ、人の姿を模しているが身体能力は人の何倍も有り、美女しか居ない……あんなのが居るから俺達みたいな人の傭兵が稼げねぇんだ。」
悪態を吐きながら落としたタバコを拾おうと屈んだ時、それまで頭のあった位置に何かが通り過ぎて行った。
それはトラックに当たり、鈍い音を立てて地面に転がる。
「……ゴム?」
男はそう呟いて転がっている物を目に留めたが、次の瞬間、即座にトラックの荷台の下に潜り込んで辺りを確認する。
男が荷台の下に潜り込んですぐに、今迄居た場所に複数の着弾があった。
「チクショウ! 何処から狙ってやがる?」
用心深く荷台の下から様子を伺うと、突然の大音量と光に目と耳をやられた男が悶えている内に、何者かに引き摺り出されて手足を拘束されてしまう。
その後すぐに、指揮所に居た者達も順次拘束されて引き摺り出される。
アスファルトの上に拘束された部下達が並べられて行くのを呆然と眺めていた男の口元に、何らかの薬品が入っていると思える瓶が近付いてきたと思ったら、その後すぐに男の意識が途切れた。
あれからトラックの行方を追って、ひたすらに走って走って走りまくったタマモクロスとサロメだったが、現在絶賛迷子になっていた。
「何処や、何処に居るんやリアルデューク!」
「た、タマモクロス先輩、ここ何処ですの?」
「……わからん、ウチ等一体、何処におんねん? わからんけど、まだまだ探すでぇぇっ!」
「先輩、お待ちになってぇぇっ!」
タマモクロスを先頭に、また走り回る2人だった。
ここは、メジロ家別邸のアサマの執務室、今現在その執務室にはアサマとラモーヌの2人しかおらず、ラモーヌは電話で誰かと話すアサマを静かに眺めていた。
「……では、後の処理は何時も通りに……ええ、きちんと証拠を添えて穏便に処理なさい。」
「お祖母様、リアさんは?」
電話を終えたアサマにラモーヌが声を掛ける。
「無事、警察に保護されました。 明日の朝にでも迎えに行ってくれるかしら?」
電話をする前と比べて、明らかに表情が和らいだアサマに内心安堵したラモーヌが疑問を呈する。
「それは構いませんが、ご自身で行かれなくても宜しいのですか?」
「私は、少し野暮用が出来ましたので、それを片付けてから……そうですね、あの子も交えて久しぶりにお昼をご一緒に如何かしら?」
一瞬だけ険しい表情になったアサマだったが、直ぐに柔和な表情になってラモーヌを誘って来た。
「是非、ご一緒させて頂きたいですわ。」
「では、そうしましょう。 お昼前には戻れると思いますので、此方でリアさんと一緒にお茶でもして待っていて下さいね?」
「畏まりました、お祖母様。」
「では、夜も更けてきましたので、これで一度解散と致します。 ラモーヌさん、遅くまでご苦労様でした。」
何時もの孫に甘い祖母の顔をしたアサマに、ラモーヌも身内に向ける優しい表情で答える。
「では、失礼致しますわ。 お祖母様も、お疲れ様でした。」
そう言ってお辞儀をしたラモーヌが、アサマの執務室から退室して暫し廊下を歩いて距離を稼いでから小さく呟く。
「……我が祖母ながら、底の知れないお方ですわ。」
そう呟いたラモーヌは静かに自室へと戻って行った。
「ファミレスファミレス!」
「はいはい、ここがファミレスですよ?」
あれから父親である歩の勤める交番へ無事到着した2人は、警察に保護され無事に朝を迎える事が出来た。
そして、眠りから覚めたリアルデュークが激しく主張した為、昨夜の約束通り、2人で近くのファミレスへと来ていた。
そんな中、千尋は対面に座り、初めてのファミレスにご機嫌なリアルデュークの姿を見ながら、彼女の無事を喜んで居た。
「美味そうな匂いする! ここ、ボクの領土とする!」
「ん〜、領土とするには、凄くお金かかるかなぁ?」
リアルデュークの少し幼い主張に、千尋が微笑みながら答えると、リアルデュークががっかりした様子で聞いて来た。
「……ボクのお小遣いでは無理?」
「そうだねぇ、お小遣いでは厳しいと思うなぁ」
「世知辛い世の中?」
「あはは、確かにそうかもねぇ? でも、領土としなくても、ご飯を食べるくらいならお小遣いでも大丈夫かもよ?」
しょんぼりするリアルデュークの気分を変える為、千尋がちょっとした思考誘導をしてみると、効果があったのか、すぐに元気いっぱいな答えが返ってきた。
「ご飯食べる大事!」
「うん、とても大事な事だね! だから、リアちゃんはこれから目一杯美味しいご飯を食べよ?」
「わかた! ボク一杯食べる!」
元気に握り締めたナイフとフォークを掲げる姿を見て、自然と笑顔になった千尋が呟く。
「ふふ、可愛いなぁ。」
そうして、リアルデュークは次々に来るウマ娘用料理の数々を平らげていくのだが、千尋の指摘に対してとても素直に従い、きちんと苦手なピーマンすら残さず食べて居た。
その光景を離れた席から見て、驚愕の表情を浮かべる女性が1人居た。
「あのリアさんが……ピーマンを食べている……手掴みではなく、ステーキをちゃんとカトラリーを使って食事をしている……あの方は何者ですの?」
それは、その女性……ラモーヌにとって有り得ない光景であり、何時もリアルデュークが懐いているライアンやマックイーンですら(流石にアサマの前ではやらないが)達成出来なかった事であった。
「お初にお目にかかりますわ、私、その子の保護者代理のメジロラモーヌと申します。 この度は当家のリアルデュークを保護して頂きまして、当主メジロアサマに代わり、厚く御礼申し上げますわ。」
「これはこれはご丁寧に、私は谷歩警部補であります。 此方は私の娘の谷千尋と申しまして、実際に保護したのは娘になります。」
ファミレスでの観察を終えて、少し時間を潰したラモーヌが交番に行くと、警察官の谷が娘と一緒に対応にあたって来た。
因みに、リアルデュークは食後の昼間中と言う事でこの場には居なかった。
「そうなのですね? では、改めてお礼申し上げますわ、有難う御座います、千尋さん。」
歩の言葉を受けて、改めて娘の千尋にお礼を述べたラモーヌに対して、千尋が少し上擦った声で話しかけて来た。
「あ、あのっ! 一つお伺いしたい事が有ります!」
「……何かしら?」
「リアちゃんが虐待されている疑いが有ります。 お宅ではどういった環境で生活をしているんですか!」
「こ、こらっ!千尋! 失礼だぞ? 急にすみません、ラモーヌさん。」
急にラモーヌを問い詰め始めた娘を見て、慌てて止めに入る歩に反する形で語気を強める千尋。
「お父さんは黙って! これはとても大事で、譲れない事なの!」
そんな2人を見て、目を細めたラモーヌが落ち着いた声で答える。
「……何を勘違いされているのかわかりませんが、あの子は普段は学園の寮で生活しておりますので、我が家で虐待なんて有り得ませんわ。」
「では、その学園でイジメがあると言う事です!」
ラモーヌの返答と、その落ち着いた態度に、更に気持ちを昂らせた千尋が食い気味に断言すると、ラモーヌが突き放す様に少し冷たい態度になって反論する。
「学園でイジメがあるかどうかについては、私より貴女の方が詳しいのでは? うちのリアルデュークはトレセン学園の生徒ですから。」
「えっ? だってうちの学園は中等部からしか有りませんよ?」
ラモーヌから思いがけない話を聞いた千尋が、毒気を抜かれた様に疑問を呈する。
「ええ、アレでも彼女は中等部の生徒ですよ?」
「え、だって……あんなに小さいんですよ?」
「確かに小さいですが、年齢は間違っておりませんよ?」
「えええ〜っ? ……飛び級とか?」
衝撃の事実に、千尋は半ば叫ぶ様にラモーヌの肩を掴んで問い掛ける。
「お恥ずかしい話、補欠合格ですわ。」
千尋の問いに答える時、ラモーヌは無意識のうちに少しだけ目線を逸らした。
「……でもでも、私が見つけた時、簀巻きにされて道端に転がされて居ました。 これは歴としたイジメの証拠では?」
「……お恥ずかしい話、ちょっとヤンチャが過ぎる性格なモノで……また何かやったんだと思われますわ。」
千尋の更なる追撃にラモーヌは、完全に目線を逸らして俯きながら答える。
「……ヤンチャって、実はかなり?」
「……破天荒で有名ですの。」
「……そうなんですね。」
「あの子の祖母が、孫には甘い方ですので……。」
ラモーヌと千尋、2人の空気がかなり気不味い状態のまま、歩が染み染みと呟いた。
「あのメジロ家当主でも、孫には勝てないのですなぁ。」
それから必要な書類を作成した3人は、未だ寝たままのリアルデュークを使用人に任せると、千尋は学園へ出勤し、ラモーヌはそのままリアルデュークと一緒に別邸へと帰って行った。
その頃、とある山深い渓谷では、タマモクロスとサロメが、地元の猟友会の人達に保護されて居た。
「ウチ等より、あの子を、リアルデュークを探して欲しいんや!」
「そうですわ、今も1人不安な思いをされているリアさんを優先して下さいませ!」
そんな2人の意味の分からない話に困惑している猟友会の面々の前で、サロメのウマホが鳴り、リアルデュークの無事が知らされると、タマモクロスとサロメの2人は、猟友会の人達の先導で粛々と山を降り、帰途へと着くのであった。
「ウチ等の頑張りって……」
「だ、大丈夫です、タマモクロス先輩の想いはきっとリアさんにも伝わっています!」
「サロメ、アンタって奴は……ええ奴やなぁ!」
帰りの道中、サロメに慰められたタマモクロスは、次こそリアルデュークに関わらない様にしようと決意して居た。
誰が被害者なんでしようね?