頑張れお姉ちゃん!
って感じです。
ここは、メジロ家別邸にあるリアルデュークの私室、今まさにこの部屋の主であるリアルデュークが惰眠から目覚め様として居た。
「……快眠最高!」
「それは良かったわね、リアさん?」
リアルデュークが、快食からの二度寝から目覚め、今の気持ちを声高らかに宣言すると、近くから声を掛けられた。
不思議に思い、声のした方を見てみると、リアルデュークが寝かせられていたベッドの側で執事長が控える中、その隣でアサマが椅子に座って此方を見ていた。
「……ババ?」
「……執事。」
思わず溢れ出たリアルデュークの言葉が終わるかどうかと言うタイミングでアサマが一言言うと、隣に控えて居た執事長がリアルデュークの顔面を鷲掴みにした。
「ぬんっ!」
「あ、頭、変な音する!」
外見からは想像も付かない力でアイアンクローを決められたリアルデュークの頭から、ミシミシとあまり人体からしてはいけない音が聞こえてくる。
その音と痛みに、リアルデュークが執事長の腕を必死にタップすると、暫くして顔から手を離してくれた。
「全く貴女と言う人は……良いですか、私の事はお祖母様と呼びなさいと前から言っております。 もし、次に同じ事をすれば、今度は利き腕の方でやりますよ?」
「わかた、気を付ける。 次はババ言わない、お祖母様言う、ババとボクとのやく「執事」そ……く……」
宣言通りに、今度は利き腕でアイアンクローを決めた執事長が、仁王立ちで利き腕を天高く突き上げる。
「……だからそれを言うなと言っているのです!」
溜息混じりに注意するアサマの前で、既に意識の無いリアルデュークは、ただぷらぷらと揺れて居た。
「お祖母様、お待たせ致しました。」
「ラモーヌさん、それでは行きましょうか? 本日は前に一度スーちゃんと食べて美味しかったお寿司屋さんを呼んでありますので、準備が整うまではテラスでお茶でも如何かしら?」
「まぁ、素敵ですわね?」
「では、参りましょう。」
ラモーヌが所用を終わらせてアサマの所へ行くと、丁度リアルデュークも起きたのか、執事長によって何時も通りぷらぷらして居た。
そんな、リアルデュークが入学する迄と同じ、何時も通りの日常風景にアサマもラモーヌも和かな笑顔を浮かべてテラスへと向かうのだった。
その頃、トレセン学園栗東寮の寮長室では、サロメからの事後報告を受けたフジキセキが染み染みと感想を述べていた。
「……成る程、色々と大変だったんだね? でも、サロメさんが無事で良かった。」
そう言って微笑んで緑茶を一口飲み、お茶受けに用意した最中を齧るフジキセキの所作に、何とも言えない大人の雰囲気を感じたサロメが憧れの視線を向ける。
「リアさんの周りは何時も騒がしいですが、不思議と収まる所に収まるんですよね……あ、この最中美味しい。」
不思議そうに言いながら、最中を齧るサロメ。
「まぁ、これも人徳?みたいな物なんでしょう。 実際にはどこからもクレームとか来ていませんし、そう言う物だと思いましょうか?」
「そうですわね、リアさんですし深く考えるだけ無駄だと思いますわ。 それにしても、この最中とお茶の組み合わせ、至福ですわ。」
「そうだねぇ。」
この後も、2人はのんびりとお茶を楽しんで居た。
騒動から数日経ち、学園の栗東寮も一部の生徒を除き、落ち着きを取り戻した頃、何時もの様に休日の朝の惰眠を貪っていたリアルデュークの部屋に、ちょっと変わった客人が訪れていた。
「……と、言う訳で、リアちゃんと契約を結びたいと思うの!」
濃紺のリクルートスーツに身を包み、長い髪を綺麗に後ろで一つに纏め、プレゼン用のノートパソコンを机の上に置いて、千尋は対面に眠そうに座るリアルデュークの顔を真面目な表情で見つめて居た。
「……お話は伺いましたが……何分、急な話であり、本人もこの状態ですので、返答は後日改めて正式な場を設けさせて頂くと言う事で如何でしょうか?」
千尋の真剣な提案に、サロメが居住いを正してそう提案する。
「そうですね、確かに急な話でした。 ですが、今回の件で私はリアちゃんの才能に惚れたのも事実ですが、それ以上に、この子には常識を教え、真っ当なウマ娘に育って欲しいとも思っていますし、その為には誰か大人が近くで導いてあげる必要があると思っております。 また、私は、その為の尽力は惜しまないつもりです!」
「……千尋さん!」
千尋の想いに感銘を受けたサロメが、口元を押さえて涙する。
「早急にメジロ家の方々にも連絡を取って場を整えますわ! 千尋さんの想い、このサロメがしっかりと伝えてみせますわ!」
「サロメさん!」
お互いに手を取り合って盛り上がる2人の隣では、スヤスヤと二度寝をするリアルデュークが居た。
谷千尋からの申し出があった日から更に数日経ち、ここメジロ家別邸では朝から家族を主軸とした会議が開かれていた。
参加者はメジロアサマ、メジロラモーヌ、メジロライアン、メジロドーベル、メジロマックイーン、シンボリルドルフ、スピードシンボリ、シンザンに、説明役としてサロメを足した総勢9名による錚々たる面子による会議となった。
そんな一体全体何のサミットなのか?と思う様な場に連れて来られたサロメは、完全に浮き足立っており、手が震えてコップの水すら飲めない状態だった。
「では、再度説明を求めますが、何故、我が妹たるリアさんを実績も無い独立一年目の方に預けねばならないのでしょうか? トレーナーが必要ならば、私の所属するスピカにお入りになれば宜しいでしょう? 何も態々得体の知れない方の所へ預ける意味がわかりません。 スピカであれば、実績も十分ですし、私も居りますのでリアさんの面倒くらいきちんと見て差し上げますわ!」
「ですから、何度も申し上げております通り、チームではリアさんの独特なペースに合わないのです。 矢張り、あの性格を考えれば、マンツーマンでの指導が1番良いと思うのです。」
マックイーンとドーベルが喧々諤々とやり合うのを眺めながら、その周囲では反対派と賛成派がそれぞれで意見を交わす。
この場にいる賛成派からすれば、あくまでもトレーナーと選手個人の問題であり、素行に問題が無ければ、後は当人同士の話なので外野がとやかく言うべきでは無いと言う主張であり、シンボリルドルフを中心にドーベル、ラモーヌ、ライアン、サロメ、シンザンが大体同じ考えであった。
それに対して、メジロ家のウマ娘であるリアルデュークが、未だ未熟な年齢なのに、一流のトレーナーから指導を受けないのは如何なモノか?と言うのが反対派の意見であった。
サロメにとって意外だったのが、マックイーンによる強固な反対だった。
「そろそろお昼になりますから、一度、お昼休憩を取りましょう。 食堂で食事の用意をしてありますので、一度会議の内容は置いて、食事くらいは仲良く食べましょうね。」
未だ一度も意見を言わずにいるアサマがそう提案すると、賛成多数で休憩となった。
昼食時は先程の会議の雰囲気を引き摺る事無く、とても穏やかで楽しい食事会だった。
昼食後も会議は難航したが、最終的には幾つかの条件を付ける形で反対派もひとまずは納得する事になった……のだが、1人、マックイーンだけは納得していなかった。
会議では何だかんだと周りから宥められた為、納得した様な錯覚をして居たが、いざ時間が経ってみると、言い様の無い気持ちが溢れて来て如何にも収まりがつかなかった。
ここはマックイーンの所属するチームスピカの部室であり、これから練習を始める為に、チームメイト達が部室に集まってきている所だった。
そんな中、マックイーンが机に座り事務作業をしているトレーナーに詰め寄っていた。
「矢張り納得が行きませんわ! トレーナーさん、このままリアさんが盗られても宜しいんですの?」
「いや、急にそう言われてもだな? 大体、リアルデュークの考えはどうなんだ?」
かなりの剣幕で詰めてくるマックイーンの勢いに押されながらも、トレーナーが大事な事をマックイーンに確認して来る。
「どうもこうも有りませんですわ! リアさんはあれで居てとても素直で良い子なんです。 お菓子とかデザートとかで釣られて、判断を誤っている可能性も有りますわ!」
詰め寄る剣幕はそのままに、最後の所は心底心配気に話すマックイーンの言葉を聞いたトレーナーが何かを言う前に、近くに居たゴールドシップが揶揄い半分で口を挟んでくる。
「いや、マックイーンじゃあるまいし、そんな馬鹿な理由で釣られたりしねぇだろ?」
「な、私ならって何ですの? ゴールドシップだって、リアさんがこのチームに入る事、とても楽しみにして下さってたじゃないですか!」
ゴールドシップの言葉に、最初こそ反発したマックイーンだったが、すぐに悲し気に声を上げる。
「そ、そりゃお前、知らない仲じゃねぇし? 行く所が無いってんなら、誘ってやっても良いって感じだ。」
そんなマックイーンの態度が想定外だったのか、ゴールドシップもしどろもどろになって反論とも言えない反論をする。
「ツンデレだわ。」
「ツンデレだな?」
そんなゴールドシップを見て、ダイワスカーレットとウォッカが感想を口にする。
「うるせぇ!」
2人に対して、照れ隠しに怒鳴るゴールドシップを横目に、トレーナーが場を纏めに入る。
「ま、本人がウチに入りたいって言うなら考えるが、それ以外では無理だな。 マックイーンも、人の事よりまずは自分の事を優先するんだ。」
「な、トレーナーさん、ウチの子の才能が分からないとでも言いますの? 良いですか、あの子はこの私の妹であり、我がメジロ家歴代の中でも、最高の才能を持つウマ娘ですわ!」
トレーナーの言葉に、心底心外だと言わんばかりの声音で反論を口にするマックイーンを見て、ダイワスカーレットとウォッカとゴールドシップの3人がそれぞれに感想を口にする。
「シスコンだな?」
「シスコンだわ。」
「いや、何時も通りのシスコンだな。」
「外野、五月蝿いですわよ?」
3人に対して、ジト目で注意するマックイーンを尻目に、トレーナーが全員に発破をかける。
「さぁ、人の事より自分の事、さっさとトラックに出て練習始めるぞ!」
「「「うぃ〜っす!」」」
「て事でマックイーン、この話はここまでだ……良いな?」
1人部室に残って未だ納得していないマックイーンに対して、トレーナーがそれと無く釘を指す。
「……はい。」
一応返事をしたマックイーンだったが、その表情は全く納得していなかった。
姉妹で同じ部活って良いですね?