メジロ家の変な子   作:ネギ市場

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 お姉ちゃん、頑張ります。
 


出会った?

 

 

 

 全国的に有名なトレセン学園、その学園に所属するウマ娘達が、日々の疲れを癒し、明日への活力を養う場所の一つ栗東寮、厳格な寮則に乗っ取り運営される伝統ある寮のある一室、新入生が住むその部屋の前では、真剣な表情でドアを少しだけ開けて聞き耳を立てるウマ娘達が居た。

 

 

 そんな部屋の中では、小一時間程前から、谷千尋とメジロラモーヌが話し合っていた。

 この部屋の主である1人リアルデュークは、最初から話し合いには参加せず、我関さずの態度を貫いて居た。

 もう1人の部屋の主であるサロメは、緊張しながらも話の行方を見守っていた。

 「では千尋さん、リアさんの事、宜しく頼みますわね?」

 「はい、誠心誠意、務めさせて頂きます!」

 漸く話し合いが終わったのか、2人が笑顔で握手を交わす。

 「と、まぁ、私達メジロ家では今回のお話、前向きに考えておりますが、肝心の本人の気持ちはどうなのですか?」

 「リアちゃん、私とトレーナー契約を結ぶ話だけど、リアちゃんはどう思っているかな?」

 そう言って、2人がベッドの上のリアルデュークを見詰める。

 「ムグムグ……んっ、この待遇、素晴らしい、ボクこれなら頑張れる!」

 部屋で千尋が持って来たお菓子やケーキをモッチャモッチャと食べながら、リアルデュークが満足そうに話す。

 

 

 廊下で聞き耳を立てていた集団の1人、タマモクロスがしたり顔で声をあげる。

 「やっぱり菓子で買収されてるやん!」

 「……そ、そんなっ!」

 タマモクロスの言葉にショックを受けるマックイーンを見ながら、ゴールドシップが揶揄いの言葉をかける。

 「やっぱマックイーンの妹だな?」

 そんな2人を見て、ダイワスカーレットが溜息交じりに宥める。

 「……貴女ねぇ、幾らリアルデュークでも、お菓子如きで自分のトレーナーを決める訳無いじゃない?」

 「そ、そうですわよね?」

 ダイワスカーレットの言葉に嬉しそうに反応するマックイーンと目を合わせたダイワスカーレットが、にやりと笑って指摘する。

 「良く見なさい、ちゃんとケーキも貰っているわよ? あれ、結構有名なお店のケーキじゃない?」

 ガックリと項垂れたマックイーンをゴールドシップがニヤニヤ見ていると、急に顔を上げて叫んだ。

 「……リアさんが悪いのでは有りませんわ! 純朴なあの子をお菓子なんかで騙しているあの女性が悪いんですわ! ……決めました、私があの女性を調べて、その陰湿な本性を暴いて差し上げますわ!」

 「いやいや、本性も何も、既にメジロ家で身辺調査くらいやっとるやろ?」

 急に決意表明をしだしたマックイーンの言葉に、タマモクロスが常識的なツッコミを入れると、少しだけ怯んだマックイーンが自論を展開する。

 「……そ、それはあくまでも表向きの情報ですわ! あの様な抗う事すら困難な罠を仕掛けてリアさんを懐柔する方が、善人な訳無いですわ!」

 「罠て……単なるお菓子やケーキ如き、嫌なら簡単に断れるやろ?」

 タマモクロスが疑問に思いながらマックイーンに問い掛けると、信じられないモノを見た表情でタマモクロスに反論をする。

 「タマモクロス先輩、貴女は何を仰っておられるのですか? お菓子に、ケーキ迄付いているのですよ? 一体誰が逆らえると言うのですか? もっと世間一般の常識を弁えて下さいませ。」

 「……あかん、やっぱりメジロや、言うてる事の半分も理解出来ひん。」

 マックイーンの叱責に、タマモクロスは何処か達観した表情でぼやく。

 そんなタマモクロスを横目に、マックイーンが腰に手を当て、生き生きとした表情でその場にいる人達に声をかける。

 「そう言う訳ですので、手分けをして事に当たりますわよ?」

 「あかん、既にウチも面子に入れられてしもうとる。」

 「はい、マックイーン先輩!」

 タマモクロスとダイワスカーレットがそれぞれの反応をするなか、1人足りない事に気付いたマックイーンが疑問を口にする。

 「あら、ゴールドシップさんは?」

 「いつの間にか居なくなったわね?」

 「……逃げ足の早いやっちゃ。」

 ダイワスカーレットの返答で、ゴールドシップが逃げ出した事に気付いたが、マックイーンは特に気にした様子も無く、残った2人に発破をかける。

 「それでは、リアさんの為にも、気合いを入れていきますわよ?」

 「はいっ!」

 「ウチはまだ手伝う言うとらん!」

 元気に返事をするダイワスカーレットの隣で、タマモクロスが叫ぶが、マックイーンは聞き流しながら指示を出した。

 「さぁ、まずは私の部屋で資料の洗い出しと、それが終わったら関係者への聴き取りですわ!」

 「やっぱりアンタはリアルデュークの姉で間違いないわ!」

 そう叫びながらも、マックイーン達と行動を共にするタマモクロスだった。

 

 

 

 『此方スカーレット、対象は室内プールでトレーニングする模様。 なお、今日のオヤツは手作りの和菓子ですわ。』

 『此方タマモクロス、了解や。 これよりウチはトレーナーさん達への聞き込みの為、トレーナー室へ突入する。』

 『此方マックイーン、両名共、抜かりなき様お勤め下さいませ。』

 あれから数日が経ち、タマモクロス、ダイワスカーレット、マックイーンの3名は千尋の事をより詳しく調べる為、探偵の真似事みたいな事を繰り返していた。

 

 

 「あかん、これ何時迄やるつもりなんやろ?」

 最初から乗り気では無かったタマモクロスは、既にこの不毛な探偵ごっこに飽き始めていたが、生来の面倒見の良さにより、マックイーンに対してはっきりと辞めると言えない状態であった。

 だが、いい加減なんとかしないといけないと思ったタマモクロスは、ある事を考える。

 「つまり、負の材料が無いなら、逆にあのトレーナーで正解やったと思わせる材料を集めてマックイーンを説得すれば良えんや! 正に逆転の発想、コロンブスの卵やで! これで明日もホームランや!」

 自らの考えに希望を見出したタマモクロスは、上機嫌にスピカのトレーナーの下へ走って行った。

 

 

 あれから小一時間後、スピカの部室にはトレーナーと話をするタマモクロスの姿があった。

 「そうだなぁ、あまり接点の無い人達だからなぁ……あぁ、そう言えば一つ、有り得ない噂話を前に聞いた事があったな。」

 「あり得へん話って何ですの?」

 タマモクロスの質問に答える形で、トレーナーが話す中、何かを思い出した口調のトレーナーにタマモクロスが更に問い掛けた。

 「あぁ、まぁ、この仕事をしていれば、直ぐにそんなの有り得ないと分かるんだが、彼女がサブトレーナー時代に担当したウマ娘は、1人も怪我や故障をした事が無いって話だ。 そもそも彼女が師事していたトレーナーって、大手のチームでな、ウチみたいな零細チームなんかと違って、それこそ数十人単位で所属ウマ娘がいるチームだからなぁ、そんな大所帯では必ず怪我や故障する者が出るのが当たり前何だが、彼女の所だけ1人も居なかったらしい。」

 「そないな事、有り得るんか?」

 その都市伝説時見た話に、半ば相槌を打つ感覚で話を促すタマモクロス。

 「常識的に考えて、まず有り得ない。 君達ウマ娘の身体ってのは、基本的に我々ヒトミミの身体と変わり無いんだ、だからウマ娘の全力ってのは身体にとってはかなりの負担になる。 勿論、ヒトミミよりは頑丈だが、それでも限度は有る。 言うなれば普通車にF1のエンジンを積んで走っている様なものだ。 だからこそ、適切なメンテナンスが必要になるんだが、そのメンテナンスが1人1人違うんだ。」

 「……成る程のぅ、少人数ならまだしも、そないな大所帯では適切なメンテナンスは無理やな?」

 「そう、だから大所帯では怪我や故障は発生率が高くなる。 これはある程度仕方の無い事なんだ。 だから、殆どのトレーナーは少数派になるし、大所帯の所もサブトレーナーを多く雇うんだ。」

 「せやから、常識的に考えると、その噂話はあり得へんってなる訳やな?」

 話を理解したタマモクロスが結論を口にすると、微妙な表情をしたトレーナーが口籠る。

 「そうなんだがなぁ……」

 そう一言だけ言うと、トレーナーが椅子に座ったまま天井を仰ぎ見る。

 「いきなりどうしたん?」

 トレーナーの不可解な行動を見て、タマモクロスが訝し気に尋ねると、少しだけ困った様な顔をしたトレーナーが、今度は真正面からタマモクロスの顔を見て話す。

 「……あったんだよ、その噂話を証明するデータが!」

 「嘘やろ? あんさん、今自分から有り得ないて否定しとったやん?」

 これまでの自分の話を否定するかの様な話に、思わず非難するタマモクロスを見ながら、トレーナーが続きを話始める。

 「いや、マックイーンの件もあったから俺なりに調べてみたんだよ。 そしたら、噂話通りに彼女がサブトレーナーとして勤務した翌年から独立する時までの間、唯の一度も怪我や故障したウマ娘はいなかったんだ。 それ所か、不調を訴える娘すら1人も居なかった。 マジで有り得ねぇ、一体全体何を如何すればこんな事が出来るのか、逆にこっちが教えて貰いたいくらいだ。」

 そう話終わると、また天井を仰ぎ見るトレーナーに対してタマモクロスが、素直な疑問をぶつける。

 「……そないな優秀なトレーナーが、何で無名なままサブ何ぞやっとったんや?」

 「あ〜、それについては、正にこれが原因だな。」

 そう言ってトレーナーが得意気に胸元のバッチを見せ付ける。

 「何や、トレーナーバッチが如何したん?」

 そんなトレーナーの行動に対して、タマモクロスが首を傾げながら疑問を呈する。

 「彼女、トレーナー試験に受かったのが今年なんだよ。 それ迄はサブトレーナー資格しか持っていなかったらしい。」

 タマモクロスの質問を聞いて、トレーナーがなんて事ないかの様に答えると、タマモクロスが尻尾を立てて驚く。

 「かぁぁっ! そないな優秀な人でもサブトレーナー資格止まりやったんか? トレーナー資格っちゅうのは、難しいモノなんやなぁ?」

 「そうだぞ、そんなトレーナー資格を持っている俺は、必然的に優秀って事になるんだなぁ、コレが!」

 何故か得意気に胸元のバッチを見せ付けるトレーナーを、冷めた目で見ながらタマモクロスがはっきりとした口調で言う。

 「あんさんのはまぐれやろ? 若しくは神さんの気紛れやとゴールドシップが前に言うてたで?」

 「なっ? お、俺はちゃんと勉強して受かったんだ! だからまぐれなんかじゃ無いってちゃんとゴールドシップにも言っておけよ?」

 タマモクロスから聞いた自分の話を全力で否定するトレーナーに、タマモクロスが追い打ちをかける。

 「まぁ、言うだけ言ってみるけんど、あんさんのチーム全員そう言う認識やったで?」

 「クソッ、彼奴等そんな事思ってやがったのか……」

 1人空を見上げて悔しがるトレーナーを横目に、タマモクロスが嬉しそうに呟く。

 「しかしまぁ、そないなトレーナーなら、マックイーンも安心するやろ? さっさとこれ伝えて変な考えを修正してやらんとなぁ。」

 「なんだ、結局マックイーンの為ってヤツか?」

 タマモクロスはそんな自分を揶揄う様な言葉に、笑いながら反論する。

 「マックイーンも、ウチの大事な後輩やからな?」

 「良い先輩だな?」

 「何も何も、これはウチの性分やからな、自分の為やっ?」

 そう言ってカラカラと笑うタマモクロスを、優しい眼差しで見詰めるトレーナーだった。

 「トレーナーのその目、かなりキモい目やな?」

 「なっ、テメェ、キモいは言い過ぎだ!」

 そして、部室には、ドン引きして話すタマモクロスに対するトレーナーの反論が響いた。

 







 頑張るのは、良い先輩です。
 
 
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