メジロ家の変な子   作:ネギ市場

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 大人の視点と子供の視点って感じ方違いますが、正解ってあるのでしょうか?
 
 感情が動くのは間違いなく子供の視点なんでしょうけどね。


夏合宿 その2

 

 

 

 トウカイテイオーがリアルデューク達の夏合宿に参加して丁度5日経ったある日の夜、トウカイテイオーがお風呂から上がって来たタイミングで千尋が声をかけて夜の散歩に連れ出していた。

 この頃のテイオーは、千尋の指導によって既に軽いランニング等のメニューを熟せるくらいには脚の状態も回復しており、リアルデュークやサロメとも仲良く過ごして居た。

 そんなトウカイテイオーを日々観察していた千尋は、この合宿の仕上げを行うにあたり、一度トウカイテイオーと話をする必要があると判断し、こうして2人きりで宿近くの河川敷を歩いていた。

 「テイオーさん、調子はどうですか?」

 「ん〜、最初の頃よりは確実に良いかなぁ?」

 少し前を歩くトウカイテイオーの背中に千尋が声を掛けると、トウカイテイオーは立ち止まり、振り向かずにそのまま夜空を見上げながら返事をした。

 「それは良かったです。 足下への不安はそのまま精神的な不調へと繋がって行きますからね。」

 振り向かないトウカイテイオーの態度を気にする事なく、千尋は優しく静かにその小さな背に話しかける。

 「……精神的な不調かぁ。 千尋はさ、今の僕の状態ってわかっているんだね?」

 トウカイテイオーも夜空を見上げたまま、落ち着いた声色で問いかける。

 「……どうでしょう? 肉体的なモノに関しては分かりますが、精神的なモノに関しては、他人がわかる事なんてたかが知れて居ますからね。」

 千尋にしてはやや自嘲気味な答えが気になったのか、暫くお互いに口を開かず夜の河川敷に沈黙が訪れる。

 その沈黙を破る様にトウカイテイオーがポツリポツリと話し始めた。

 「僕さ、会長に憧れてたんだ。 僕もきっと会長みたいに、無敗の三冠ウマ娘になるって、なれるって思ってた。」

 「……なれたでしょうね。 貴女が自惚れ無ければ。」

 トウカイテイオーの独白とも言える話に、千尋が冷たい口調で断言する。

 「たはは……千尋って意外と性格キツいよね?」

 「そうですか? 私はただ決めているだけです。 ウマ娘に関する事では嘘を付かないとね。」

 千尋からの意外な言葉に、トウカイテイオーが戸惑いながら言葉を返すが、千尋の口調が戻る事は無いままトウカイテイオーの独白は続いた。

 「僕、無敗の三冠も、無敗のウマ娘にもなれなかった。 ……夢が、目標が無くなっちゃったんだ。 これから先、何を目標に走れば良いかわからなくなっちゃったんだ。」

 最後の方はかなり語気が弱くなっていったトウカイテイオーの独白を聞いた千尋は、冷たい口調のままトウカイテイオーに淡々と話しかける。

 「……それが貴女の自惚れですよ? 貴女は他のウマ娘がどれだけ願っても、例え命をかけても手に入らないモノを沢山持っていますが、それ故にただ一つだけ、みんなが持っているモノを持っていません。」

 「みんな持っているのに? それってリアとかも持っているの?」

 千尋を聞いたトウカイテイオーがそう問い掛けると、一瞬困った表情を浮かべながらも、千尋が答える。

 「ん〜、リアちゃんは微妙ですが、サロメさんは持っていますよ?」

 「それって何なのさ?」

 要領を得ない話に少しイラついたトウカイテイオーが、少し眦を上げて言い放つ。

 トウカイテイオーの言葉に、腕を組んで考える振りをしながら、千尋が右手の人差し指だけを立てて説明を始めた。

 「そうですねぇ、言葉にするのは難しいですが、強いて言うなら劣等感、反骨精神、渇望、これらから来る勝負根性と言うモノでしょうか。 トウカイテイオーさんは、これ迄心の底から何かを渇望したり、誰かに力の差を見せ付けられて心が折れたりせずに、その天与の才にて全て捩じ伏せて来ました。 それ故に、貴女の心には気が付かない内に慢心と驕りが生まれて居ます。 それが貴女の走りにも……」

 「……僕だって渇望した。 心の底から会長と同じ無敗の三冠ウマ娘になりたいと思ったし、その為に努力して来たんだ。 いくら千尋でも、この思いは否定させないよ?」

 この時、初めて千尋の方に振り返ったトウカイテイオーが、千尋の話を遮って強い口調と表情で話す。

 「……否定はしません。 ですが、今の貴女を見れば、それは薄っぺらい思いだったと思っています。」

 そんなトウカイテイオーの言葉を受け流す様に千尋が断言すると、トウカイテイオーが無言で千尋を睨み付ける。

 「おや、怒りましたか? たかが一度の躓きくらいで悲劇のヒロインぶって、自分に酔っているだけの、自分の立っている場所がどんな場所なのかすら知らない、知ろうともしない世間知らずのお嬢様が……」

 「……何で千尋にそこまで言われないといけないのさ! 僕だって自分の立場くらいわかっているさ!」

 普段と違い、酷薄な表情で自分を貶して来る千尋の言葉を再度遮る形で叫ぶトウカイテイオーを見て、千尋が溜息混じりに述べた。

 「……わかっているなら、私からはこれ以上言いません。 まぁ、本当の意味で理解したくなったら自分のトレーナーに聞いてみると良いでしょう。 話は以上です、私は仕事が残っているので部屋に戻りますが、テイオーさんも、身体が冷える前に部屋に戻って下さいね? では、また明日……。」

 そう言うだけ言って自分に背を向けて去って行く千尋の後姿を睨みながらも、掛ける言葉が見つからないトウカイテイオーだった。

 

 

 トウカイテイオーとの話を終え部屋に帰って来た千尋は、何故かリアルデュークを抱きしめてねぶっていた。

 「リアちゃん、私、何て悪い子なんでしょう! テイオーさんにあんな酷いことを……」

 「ですがトレーナー、それはテイオーさんの為にした事何ですから、きっとテイオーさんもわかってくれますわ!」

 「でもでも、失意の淵にいる子に対して私は……」

 リアルデュークを抱き締める腕に更に力を入れながら、全力で左右に揺さぶる千尋をひたすら励ますサロメ、そして何処遠い目をしながらされるがままのリアルデューク、この醜態は千尋が疲れて眠るまで続き、翌朝の練習は全員が寝坊した為中止となり、更に落ち込む千尋だった。

 

 

 合宿最終日の朝、未だ陽が上りきっていない朝靄の中をジャージ姿の3人が浜辺に続く道を並んで歩いていた。

 「今日でこの合宿も終わりますわね。 日にちは短かったですが、何故かとても長かった気がしますわ。」

 「海、もっと遊びたかた。」

 感慨深気にそう述べたサロメの隣では眠そうな表情でリアルデュークがぼやいていた。

 そんなリアルデュークを見ながらサロメが笑顔で話しかける。

 「リアさんは練習後も海で泳いでいましたもの、余程気に入ったのですね?」

 「おっきい水溜り、しょっぱい。 でも何か楽しい!」

 サロメの言葉を受けて、楽し気にそう答えるリアルデュークの姿に、微笑ましいモノを感じたサロメが、リアルデュークの隣を歩いているトウカイテイオーにも話を振る。

 「リアさんは今回が初めての海だったのですし、やはり何時もと違う環境には少し浮かれてしまいますわね。 トウカイテイオーさんは如何でしたか?」

 「……テイオー?」

 「ん? あぁ、ごめん聞いてなかった。」

 サロメの言葉に無反応のトウカイテイオーを訝しんでリアルデュークが声を掛けると、やっと自分に話しかけられていた事に気付いたトウカイテイオーがサロメ達に謝る。

 「……大丈夫ですか? 昨日からずっと心ここに在らずと言う感じですが……何かご懸念がお有りならば、私にも話を聞かせて下さいませ。 未だ若輩者の身ではありますが、誠心誠意御力になる事を誓いますわ!」

 「……ありがと、サロメは良い子だね。」

 心配そうに申し出て来るサロメにお礼を言うトウカイテイオーの前に移動したリアルデュークが飛び跳ねながらサロメに賛同する。

 「ボクも! ボクもゴチからになる!」

 「あはは、ゴチじゃ意味が変わっちゃうよ? ……サロメもリアルデュークもありがとね。 でも大丈夫、合宿で少し疲れただけだからさ。」

 元気に飛び跳ねるリアルデュークに笑い掛けながら2人にお礼と言い訳をするトウカイテイオーの表情は少しだけ先程より明るくなっていた。

 「確かに、私は合宿と言うモノは初めてでしたが、トレーナーさん気合い入っていましたから、私も少しだけ疲れましたわ。」

 テイオーの表情の変化に安堵したのか、サロメが少し戯けた口調で笑いながら言う。

 「ボクはまだ大丈夫! もっと海遊ぶ!」

 「リアさんは元気が有り余っていますわね?」

 「リアルデュークの体力はちょっと多過ぎてついて行くの大変だよ。」

 「そうですわねぇ、初めてリアさんの練習に付き合った時は途中でトレーナーからストップがかかりましたし、今でも全てに付き合うのは無理ですわ。」

 リアルデュークの元気な姿に、やや引き気味に言うトウカイテイオーと、その時の事を思い出したのかサロメがしみじみと述べると、2人の言葉を聞いたリアルデュークが得意気に胸を張って宣言した。

 「ボク凄い! サロメもテイオーも敵わない!」

 「あ、そういう事言うんだ? なら、今日の練習で速かった方が相手のオヤツを一つ貰うって事でどう?」

 不敵な笑みを浮かべてリアルデュークを挑発するトウカイテイオー。

 「テイオーのオヤツ、ボクの物!」

 「じゃあ、賭け成立って事で、2人共負けてオヤツ無くなっても泣かないでよね?」

 「なっ! わ、私はやるとは言っておりませんわ!」

 いつの間にか巻き込まれていた事に驚いたサロメがそう叫ぶと、テイオーとリアルデュークがドヤ顔でサロメを挑発して来た。

 「あれぇ、サロメは自信が無いのかな? 何だったらハンデ付けてあげても良いよ?」

 「サロメよわよわ、ボクもハンデする?」

 「良いんだよぉ? 僕達優しいからさ、自信の無いサロメも安心するハンデをあげるよぉ?」

 「うぃうぃ、ハンデハンデ! よわよわ!」

 「……やりますわ、ハンデなんていりません、正々堂々やってやりますわ! お二人共負けても泣かないで下さいませ!」

 「ニシシ、それじゃ3人で勝負だ! 負けないよ?」

 「勝負勝負!」

 2人からの挑発に憤慨するサロメを見て笑いながら勝利宣言するトウカイテイオーと、よくわかって無いけど取り敢えず勝負と言う言葉に浮かれるリアルデュークだった。

 







 この3人って意外と書きやすいかも知れません。
 僕っ子が2人じゃ無ければですが……。
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