合宿の仕上げです。
……多分。
「……嘘でしょ? あのトウカイテイオーさんがあんなにあっさりと……それにリアさんと助っ人のタマモクロス先輩まで……」
「おぉぉ……ぎ、ギブ……」
「せ、せやから無理言うたんや……」
「あの人、わ、訳分かんないよ……」
「流石、噂に違わぬ強さですね。 それでこそグランプリウマ娘、時代最強を競ったレジェンドです。」
合宿最終日の正午、とある試合会場ではリアルデューク達を含め、何人ものウマ娘達が倒れ伏して居た。
また、観客席では信じられないモノを見て震え声で話すサロメと、腕を組んで感心している千尋の姿があった。
そんな中、死屍累々とも言える惨状を生み出した元凶とも言えるウマ娘が、会場の中でただ1人、勝利宣言するかの様に右拳を天高く突き上げていた。
時は少しだけ戻り、合宿最終日の朝、浜辺で千尋指導のキツイ練習を終えたリアルデューク、サロメ、トウカイテイオーの3人は千尋からの指示で先日訪れた商店街に来ていた。
お昼前の時間と言う事もあり、先日と違い人の多い商店街の道を千尋に指定された場所まで歩いていると、ケバブ屋台を見つけたリアルデュークが突撃して行った。
「あ、リアさん、買い食いなんてはしたないですよ?」
屋台の前でリアルデュークを捕まえたサロメが諭す様に言うと、リアルデュークが不満顔で反論する。
「ボクお腹空いた。 今日未だ何も食べて無い!」
「それはそうですが、トレーナー指示ですから仕方ないですよ?」
「ボク食べ盛り、ご飯無い駄目!」
「リアさん、良い子ですから我慢しましょう?」
全力で抑えるサロメを軽々と引き摺りながら、リアルデュークが屋台に向かうと、見兼ねたトウカイテイオーがリアルデュークに話しかける。
「リアルデューク、あのトレーナーが食べるなって言うって事はさ、きっと何かあると思うよ?」
「……何か?」
トウカイテイオーの言葉に足が止まるリアルデュークを見て、トウカイテイオーとサロメが畳み掛ける。
「そう、何か……例えば、最終日だからご馳走を作っているとかさぁ?」
「ご馳走! 千尋のご馳走?」
「そ、そうですよ、きっと料理上手なトレーナーさんの事ですから、腕によりを掛けた美味しいご馳走を沢山作って待っていると思いますよ?」
2人の言葉に一瞬だけ考えたリアルデュークは、すぐに脳内会議を終えると、本来の目的地へ向けてサロメを引き摺りながら走り始める。
「……ご馳走食べる! もまいらはよっ! 早よ行く!」
「きゃっ、リアさん急に引っ張らないで!」
「テイオーも急ぐ! ご馳走待ってる!」
「あはは、リアルデュークは分かり易くて良い子だよねぇ。」
未だ動いていなかったトウカイテイオーに大声で叫ぶと、サロメを引き摺ったまま走って行くリアルデュークを見て、笑いながら後を追いかけるトウカイテイオーだった。
あれから指示された場所に辿り着いた3人は、町内会の係員によって建物の一室へと案内され、部屋の中に居た千尋によってこれからの事に対する説明を受けていた。
「と、言う訳で、今回の合宿でお世話になっている商店街の皆さんからの要望で、今日これから開催される大食い大会のエキシビジョンマッチに、貴女達には3人チームの枠で参加して貰います。」
「……ご馳走?」
「大食いって、僕そんな事した事ないよ?」
「私もやった事有りませんわ。」
突然の事に戸惑う3人に対して、千尋が追加で指示を出す。
「あ、サロメさんは私と一緒に見学になります。」
「えっ?」
「サロメが見学なら、1人足りないんじゃないの?」
「大丈夫、そろそろ来ますから。」
千尋の指示に疑問を持ったトウカイテイオーが質問すると、千尋が腕時計を見ながら答える。
トウカイテイオーが訝し気に首を傾げていると、部屋の引き戸が何者かに開けられた。
「おう、邪魔するでぇ?」
「邪魔するなら帰って〜」
そう言って中に入って来た人物の言葉に、間髪入れずリアルデュークが答えると、部屋に入って来た人物がそのまま踵を返して出て行く。
「ほな、帰りますわ……って、アホかぁっ! こっちは呼ばれたから来とんねん! 何で帰らなあかんねん!」
一度素直に部屋から出て行った人が勢いよく戻って来て叫ぶと、サロメがもう1人について指摘する。
「でも、お連れの方帰りましたよ?」
「オグリ〜ん! 何ホンマに帰ってるねん!」
サロメの指摘にその人物が慌てて呼び戻しに行く。
「いや、帰れと言われたから……」
「本気にすなや、冗談や冗談! テレビで流行ったヤツや!」
「そ、そうなのか?」
「せや、だから気にせんでええっ。」
「そ、そうか、良かった。 ご飯食べれ無いのかと思った。」
無事連れ戻したオグリキャップに何やら説明しながら部屋に入って来た2人、タマモクロスとオグリキャップだったが、オグリキャップの一言にタマモクロスがツッコミを入れる。
「お前の心配はご飯だけかいっ!」
「あぁ、ご飯は大事だ。」
ドヤ顔で答えるオグリキャップとそれを聞いて疲れた顔をしたタマモクロスに、サロメが恐る恐る声をかける。
「あの、芸人さんの控え室は此方では無いのですが?」
「誰が芸人やっ? よお聞いときい、ウチの名は「あ、タマタマ!」2回言うんやめぇや!」
サロメの言葉に一瞬で反応してツッコミを入れ始めるタマモクロスの言葉を遮ってリアルデュークが叫び、更にツッコむタマモクロス。
「そうだぞ、タマはタマと言うんだ。」
「うぃ、タマ言う。」
「何か猫みたいな名前の方ですねぇ?」
「オグリんにリアルデューク、何度も言うてるけど、ウチの名前はタマモクロスやっ! そないな猫みたいな名前ちゃう!」
「「タマ、分かった」」
「なぁあんも分かっとらへんや無いかぁぁあ!」
「まあまあ、落ち着いて下さい。 ほらほら……」
オグリキャップとリアルデュークの発言にひたすらツッコミを入れるタマモクロスが興奮していると、千尋がタマモクロスの顎から首筋を撫でながら宥める。
「そう、そこがええねん……って、猫あやすみたいにすなっ!」
「……んっ!」
その様子を見て、すかさずリアルデュークが近くにあった棒をタマモクロスの目の前で振る。
「その猫じゃらしの動きがウチの野生を刺激する……って、んな訳あるかぁぁあ!」
「タマ、いつも以上に絶好調だ!」
そんなタマモクロスを見て、オグリキャップがこふを握り締めて興奮した様子で声をかける。
「絶好調ってなんやっ!」
「みなさん、そんなにイジってはタマさんも疲れてしまいますよ? タマさんも落ち着いて、一度水でも飲んで一息つきましょう?」
肩で息をするタマモクロスを宥めながら、サロメが水の入った皿を床に置く。
「お、おおきに……って、何で皿に水入れてんねん! もうええわっ!」
「タマモクロス先輩って、楽しいお方ですね?」
「ああ、タマは何時も楽しいんだ。」
楽しそうにオグリキャップに話すサロメに、オグリキャップも笑顔で答える。
「僕、あまり接点無いけど、関西の人ってみんなこうなの?」
突然始まった遣り取りに気後れ気味なトウカイテイオーが千尋に問いかけると、千尋が無言で深く頷いた。
「タマ、何時も楽しい?」
「お前らホンマ、ええ加減にしときや?」
そう聞いて来るリアルデュークに、疲れた顔でぼやくタマモクロスだった。
定番だけどやっておきたかった。
ただそれだけです。