メジロ家の変な子   作:ネギ市場

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そろそろ登場人物が増えます。

 



お引越し

 

 

 その日、トレセン学園の近くにあるメジロ家別邸に務める使用人や、行儀見習いとして奉公に来ている娘達は、異様な緊張感に包まれていた。

 いよいよ本日、噂のお嬢様が本邸から別邸に移り住む事になっていた。

 その為、先週辺りから人事異動が発生しており、件のお嬢様に従って何人か本邸から別邸への所属の変更も行われた。

 そんな何処か浮ついた雰囲気のまま、使用人達の間にはとある噂が広まっていた。

 曰く、今回本邸から来るお嬢様は、途轍もない問題児で、高慢でお高く留まっており、庶民とは会話を嫌い片言でしか話さない。

 また、大変粗暴であり、何でも暴力で解決する。

 メジロ家総帥であり、自分達にとっては雲の上の存在であるアサマ様にも反抗的で、ほぼ毎週アサマ様自ら諌めているが、それでも行動を改め無い為、アサマ様も心労で倒れそうになっている。

 時々、深夜に部屋の中から謎の呪文が聞こえたり、床を物凄い回数叩いていたり、何かを削る音が聞こえる。等々、実に様々で種類も豊富な噂が広まっていた。

 その様な、なんだか凄そうな人が自分達の職場であるここに、これから住むと言うのだから一部のメイド達は不安を抑えられないのか、事ある毎に集まっては、噂話に花を咲かせていた為、独り歩きをした噂は最早とんでも無いモノになっていた。

 

 

 「••••••何が最近騒がしいわね。 ライアン、何か知ってる?」

 屋敷の庭の角の方、あまり人目につかない場所で、ひと組のウマ娘達が芝生の上で柔軟をしながら、後ろから背中を押して柔軟の手伝いをしてくれている従姉妹に事情を尋ねていた。

 「ん〜、騒がしいと言っても、騒ぎの元になってるあの子も、噂通りと言えない事もないくらい特別だしねぇ。••••••うわぁ、ベルってまた身体柔らかくなった? 前より楽に開脚しての前屈が出来ているよ?」

 「それは貴女が馬鹿力で押したからよ! ちょっと、早く退けて股関節が曲がっちゃいけない角度に曲がっちゃうから!」

 その切羽詰まった声に、ライアンは慌ててメジロドーベルを押していた手を退ける。

 「たははっ! ごめんよー、手加減はちゃんとしていたつもりだったんだけどなぁ」

 「あ、貴女の馬鹿力は、メジロ家でぶっちぎりで1番なんだからね!」

 未だに痛みが有るのか、素早く女の子座りをし、両手で両方の足の付け根を撫でながら、ライアンに強い視線を向けて詰る。

 軽く頭を掻き、苦笑いを浮かべて『ごめん、ごめん』と、軽く謝るライアンを見ていたが、痛みもすぐに収まった為、今度甘味を奢らせることで取り敢えず鉾を納めることとした。

 「••••••で、噂のライアンの特別ちゃんは、実際のところどうなのよ?」

 「特別かぁ、確かにあの子は色んな意味で特別だね。 特にマックイーンがご執心でね? 本邸に来ると、良く2人一緒に居たよ?」

 「••••••あのマックイーンが?」

 「そう、あのマックイーンが、だよ? よほど気が合ったのか、何だかんだと言いながら、自分からあの子の世話を焼いているマックイーンの姿はさ、まるで本当の姉妹みたいだったよ。 何時ものお上品な姿じゃなくてさ、あの子が何かしらやらかす度にお姉さんぶって諭すんだけどさ、結局自分も巻き込まれて、良く一緒にお祖母様に怒られているみたいだよ?」

 「••••••あの優等生のマックイーンが••••••」

 驚きを露わにするドーベルと、そのドーベルを見てイタズラが成功したかの様に笑うライアン、そんな2人が準備を終えて、アップを兼ねて庭の外周を走っている頃、別邸の正門前にリムジンが止まり、出迎えのメイド数名が緊張しながら後部座席のドアを開ける。

 「お嬢様?••••••ひっ!」

 中々降りて来ない車内の様子を見て、思わず小さな悲鳴にも似た声をあげてメイドが口元を手で押さえる。

 その視線の先には、両腕を組んで空気椅子を行っている、見た目幼女のウマ娘が居た。

 幼女は、その閉じていた瞼を開けると、驚き固まっているメイドの方を見てニヒルに笑った。

 「••••••ここが新天地、ボクの伝説が始まる」

 「••••••良いからサッサと降りてくれません事?」

 更に幼女の隣、メイドからは見え辛い位置から少し呆れた様子で、マックイーンが幼女に声をかけている。

 「何事も最初が肝心。師匠もこう言っていた。『もし、過ちを犯す自由がないのならば、自由を持つ価値はない』と!」

 「それ、マハトマ・ガンジーの言葉ですし、貴女は意味を履き違えていますわ!」

 「だからこそ、ボクは何時も自由!」

 「••••••ですから、サッサと、降りなさいって、言ってますでしょ!」

 マックイーンが力を込めて横から押すが、全くビクともしない空気椅子状態の幼女を見て、メイド達がドン引きしていると、更に一台の高級車が乗り付けて来た。

 屋敷の方から執事長が慌てた様子で走って来る間に、高級車の運転をしていたスーツ姿の若い女性が、慣れた手付きで後部ドアを開ける。

 そして中から出て来た人物を見て、正門前に居たメイド達は先程よりももっと大きな驚きに包まれた。

 トレセン学園の制服を身に纏い、鹿毛のロングヘアーに、前髪は焦げ茶色で、そこに三日月のような白い一房のメッシュを垂らしているその姿は、日本のウマ娘ファンならば子供でも知っているレベルの有名人、『七冠戴く"絶対"の皇帝。』シンボリルドルフその人であった。

 その場に居たメイド達は、表面的には平静を保っていたが、内心で黄色い悲鳴をあげていた。(その場に居たウマ娘のメイドさんは、皆尻尾ブンブンであった)

 「し、シンボリ様、出迎えが遅れ、誠に申し訳ございませんでした。 して、此度はどの様な?」

 「あぁ、済まない。 どうやら少しだけ迷惑をかけてしまったね? 出迎え云々は此方が事前連絡を怠ったせいなので、気にしないで貰いたい。 逆に此方が迷惑をかけた身だ、どうか謝罪を受け取って貰えると有り難い。」

 ルドルフは、頭を下げようとした執事を片手をあげる事で制止し、執事達に微笑んだ。

 「••••••お気遣い、感謝致します」

 ルドルフの気遣いに感謝の意を示すと、未だ車から降りずに騒いでいる自身が仕える家のご令嬢達を見て溜め息をこぼす。

 「••••••お嬢様方、あまりお行儀の悪いことばかりされますなら、此方にも考えがありますぞ?」

 軽く頭痛でもするのか、額に手を当てて頭を振りながら騒いでいる2人の下へ行った執事は、どう見ても淑女じゃ無いご令嬢達にそう声をかけた。

 「そ、そうね••••••執事の言うとお「••••••チョビヒゲ」••••••ブフッ!」

 「••••••リアお嬢様?」

 「••••••撫で肩••••••肩パッド!」

 「••••••むんっ!」

 「あぁっ!リアさん!」

 無言で幼女の顔面を鷲掴みにすると、そのまま車内から引っ張り出して天高く突き上げた執事は、静かにマックイーンに語り掛ける。

 「••••••マックイーンお嬢様は、お一人で降りれますか? もし、手伝いが必要ならばこの執事、まだ片手が空いておりますので、お手伝い致しますが?」

 「だ、大丈夫ですわ! お、降りれますから••••••」

 声を震わせながら、急いで車から降りたマックイーンは、先程から力が抜けてぷらんとしているリアルデュークを見る。

 「し、執事! リアさんがっ! リアさんがぷらぷら揺れてますわ! 早く降ろさないと!」

 「••••••大丈夫でございます」

 「で、でもっ!」

 「大丈夫でございます」

 「••••••そ、そうね。 完全に脱力していて意識が無さそうですが、だ、大丈夫よね?」

 「大丈夫でございます」

 「相変らず愉快だな、君達は」

 暫し後ろから見ていたルドルフは、笑いながら声をかけて来た。

 「これはお見苦しい所をお見せしました。」

 手にしていた幼女を車内に投げ捨てて、ルドルフの方に向き直って頭を下げる執事の後ろでは、マックイーンが涙目で幼女の介抱をしている。

 「••••••それで、その子がラモーヌが言っていた子なのかな?」

 車内で気を失い涎を垂らして横になっている幼女を一瞥したルドルフは、執事にそう問いかけた。

 「ラモーヌさまがルドルフ様に何を言われたかはわかりませんが、実際は年相応の元気なお嬢様でございます。」

 「••••••我がシンボリ家とメジロ家は、それなりに気心が知れた仲だったと思うのだが?」

 「••••••それこそ、わたくしごとき使用人に話される事では無いかと」

 「あらあら、あまりうちの執事さんを困らせないで貰えるかしら、ルナさん?」

 「••••••ラモーヌ、以前にも言ったが、この年で幼名で呼ばれるのはあまり好きでは無い、少し配慮して貰えないだろうか?」

 騒ぎを聞き付けたのか、この時間は自室で絵を描いている筈のラモーヌがいつの間にか来ており、ルドルフを揶揄う。

 「取り敢えず、うちの子が延びてるみたいね? マックイーン、何時迄もオロオロしない、そこのとっくに気が付いているけど、空気を読んで寝ているリアさんを部屋に運んであげなさい。 執事、お客様を応接室へご案内して••••••ルドルフは大人しく執事の案内を受けなさい。」

 「今起きたんだよ、ラモーヌ姉様!ほんとだよ?」

 「ハイハイ、わかったからマックイーンとお部屋で遊んであげなさい?」

 「ちょっと、姉様! それ逆ですわ! 私が••••••」

 騒がしく喚きながらマックイーン達がこの場から退場し、それを持ってルドルフ達も場所を変るのだった。

 

 






子供って、懐かない人にはとことん懐かないみたいです。

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