喧嘩する程仲が良いとは言いますが、ウマ娘が殴り合いしたらヤバそうですよね。
「さぁ、仲直りを始めますわよ?」
そう宣言をしたファインモーションがドヤ顔で仁王立ちする中、リアルデュークとメジロマックイーンの口喧嘩は加速して行く。
「……ボク、困らない、別にしなくて良い。」
「わ、私は……こ、これでもお姉ちゃんですし、リアさんが態度を改めるなら、考え無くも有りませんわっ!」
「マックイーンが謝る、なら考える」
「私には何も非はありませんし、リアさんが反省しない限り仲直りなんて有り得ませんわ。」
お互いに譲らない2人の姿を見て、何故か得意気な表情のファインモーションが大きく頷きながら口を開く。
「……成る程成る程、私の思った通りですわ。 では、そんなお二人にご提案が有りますの。」
自信満々なファインモーションの言う事に2人が注目すると、そんな2人の様子を見て更に自信を深めたファインモーションが、右手の人差し指を顔の前に立てると、自信満々に提案した。
「お二人とも、姉妹を辞めましょ? リアさんは、私がお姉ちゃんになりますので、一緒に楽しく2人で暮らしましょう。 マックイーンさんは……別に1人でも問題は無いでしょうから、このままリアさんと離れて他人になりましょうね? はい、これで問題は解決ですね?」
急にサバサバと話し出したファインモーションの態度とその提案内容に動揺を隠しきれないまま、マックイーンが焦った様子で反論し始めた。
「な、何を急に言っておりますの? 姉妹を辞めるとか、他人になるとか、訳がわかりませんですわ!」
「リアさんは、私がお姉ちゃんでは不満ですか?」
反論するマックイーンを敢えて無視しているのか、リアルデュークに優しく問いかけるファインモーション、その姿をキツい眼差しで見詰めるマックイーン。
「……姉なる、意味不明。」
「では、私からリアさんにプレゼンをしましょう。」
話にあまりついて行けていないのか、ぽかんとした顔で言うリアルデュークの頭を撫でながらファインモーションが笑顔で話す。
「……プレゼン?」
「はい、まずは私がリアさんのお姉ちゃんになった場合ですが……」
「……なた場合?」
首を傾げて見詰めるリアルデュークを見ながらもファインモーションは、少しだけ貯めを作った後に、自信満々に握り拳を作ってドヤ顔で話し出した。
「とある方主導とはなりますが、徹底的に甘やかしてあげます。 我が家の財力と権力を駆使して、それはもうとことん甘やかしますわ。 その結果もし、人として1人では生きられない駄目ウマ娘になったとしても、我が家が責任を持って面倒を見ますので、将来的にも何も心配はありません。」
「「……駄目ウマ娘……」」
ファインモーションのプレゼンを聞いて同じ呟きをしたが、リアルデュークの目には歓喜の光が宿り、マックイーンの目には嫌悪の感情が宿っていた。
「はい、駄目ウマ娘になる可能性についても、あの方はこれはこれでとても可愛らしいリアルデュークさんを見る事が出来ると、そう仰っておりましたわ。」
「……天国?」
「はい、天国ですよ?」
期待に満ち溢れ、笑顔で問いかけるリアルデュークに、清々しい程の笑顔で答えるファインモーション、そんな2人を見ながら険の有る眼差しと声でマックイーンが問いかける。
「……因みに、そのとある方とは?」
「私のご友人であるスーパークリークさんで……「駄目です! あの方は駄目です!」」
ファインモーションの口からその名前が出た途端に、マックイーンが焦った様子で必死になって反対する。
だが、そんなマックイーンの様子など意に介さないのか、ファインモーションが淡々とマックイーンに話す。
「駄目も何も、マックイーンさんはもう他人ですから、何も言う権利は有りませんよ?」
「何を勝手な事ばかり仰っておられるのかしら? 姉妹を辞める? 姉になる? そんな事、私達学生が勝手に出来る訳が有りませんですわっ!」
ファインモーションの態度と言葉に、苛立ちを隠し切れなくなったマックイーンが大きな声で怒鳴り声を上げたが、それを気にせずにリアルデュークへと、トドメとばかりにファインモーションが笑顔で話しかける。
「あ、因みにリアさん」
「……うぃ?」
「毎日お菓子もゲームもやりたい放題ですよ? 限定版だろうと、最新機種だろうと、プレミア品だろうと、私が必ず手に入れて差し上げますわ。」
「なるっ! 妹なるっ! 乗るしか無い、このビッグウェーブにっ!」
ファインモーションからのトドメの一撃に、目を輝かせて即答する幼女が1人。
「リアさん! 貴女、今ご自分が何を言っているのか理解していらっしゃるのですか!」
そんなリアルデュークの姿を見て、眦を上げてキツく当たるマックイーン。
そんなマックイーンの方を見て、何故か勝者の態度でリアルデュークが口を開く。
「……他人に言われる、意味不明。」
その態度に更に怒ったマックイーンが売り言葉に買い言葉で言い棄てる。
「……そうですの、なら他人の私だって、知らない幼女がどうなろうと知った事では有りませんですわ。 せいぜい後から後悔するといいですわっ!」
「後悔、そっちがするっ!」
「いいえ、私が貴女の事で後悔なんてする訳が有りませんですわ! 逆に、貴女の行動で受ける迷惑が無くなってせいせいしますわ。」
「むっっきぃぃっ! 謝っても許さない! 後から泣きつく駄目!」
「其方こそ、後から泣きついて来ても知りませんですわ!」
「はい、そこまでです!」
子供の喧嘩レベルになった言い争いを柏手一つで黙らせると、ファインモーションが和かに宣言した。
「……では、お話も纏まった事ですし、リアさんは貰って行きますね?」
「どうぞ、熨斗をつけて差し上げますわっ!」
「ては、失礼します。 さぁ、リアさん、お姉ちゃんと一緒に行きましょうね?」
「……うぃ。」
ファインモーションに優しく肩に手を回されて部屋の外へと誘導されながらリアルデュークは、一瞬だけマックイーンの方を寂しそうに見たが、その瞳は明後日の方を見ており、自身を見て居ないことを確認すると、すぐに視線を戻して促されるままに歩き始めた。
そんなリアルデュークの様子を、こっそりと横目で確認したファインモーションがマックイーンに話し掛ける。
「あ、そうそう、もしリアさんに会いたくなったら此方の番号におかけ下さいね?」
そう言って番号の書かれたメモを床に投げて行くファインモーションの背中を睨みながら、マックイーンが叫ぶ。
「……っ! 別に会いたくなる事なんて有り得ませんですわ!」
「そうですか……では、これで失礼します。」
2人が出て行ったドアを眺めながら、マックイーンは1人応接室に佇む。
「…………また1人、ですわね。」
小さく震える呟きは誰も聞く事も無く、部屋の中で静かに消えて行った。
メジロマックイーン、ターフの名優、メジロの至宝、現役最強のステイヤー様々な二つ名を与えられ、URAでも屈指の知名度を誇るウマ娘である。
彼女のストイックな性格が影響してか、練習へ取り組むその姿勢はメディアでも度々取り上げられており、ウマ娘ファンの中でも玄人気質のファンが多い事でも有名である。
そんな彼女だが、復帰後の秋のレースでは今までに見た事が無いくらい精彩を欠いていた。
『あぁっと、メジロマックイーン、まさかまさかの秋の天皇賞12着です! 遂に、遂にその連対記録も途切れてしまった。 会場内に響く響めきが、まさに観客の皆さんの心情を表しております……』
マックイーンが1人、レース後の控え室に戻ってくると、室内で待っていたと思われるトレーナーが、深刻な表情で両肩を掴んで来た。
「マックイーンっ! 何処か痛めたのか? 痛みの強さは? 何処が痛むんだ?」
マックイーンは、突然の事にびっくりしながらも、勤めて冷静な動作で自分を心配するトレーナーを宥める。
「トレーナーさん……私は何とも有りませんですわ。 今日のレースは……ちょっとだけ、そう、ちょっとだけ計算違いをしてしまっただけですわ!」
「……そうか、いや、何処も痛くないなら良いんだ。 ただ、念の為この後病院で診て貰うぞ?」
「全く、トレーナーさんってば、心配性ですのね?」
マックイーンの冷静な様子に安堵したのか、深い息を吐いてから真面目な顔でそう話すトレーナーに対してマックイーンは、何となく小さな罪悪感みたいな物を感じながらも、出来るだけ今の自身の心理状態を悟られない様に、勤めて普段通りの言葉をかけた。
「いや、心配にもなるだろう?」
「……そうですわね、今日の様な不甲斐ない走りをお見せした以上は、そう思われるのも無理は有りませんですわ。 ですが、次こそはトレーナーさんが安心する走りをお見せ致しますわ。」
「いや、俺はお前が無事に走ってくれればそれで別に良いんだが……」
「ならば何も問題は有りませんですわ。」
何となく普段との違いを感じたトレーナーだったが、マックイーンの態度を見て、今は深く問い正すのは違うと思い、その日はそのまま病院で検査をして解散となった。
それから数日後のとある日、何やらソワソワしているゴールドシップが部室に1人で居たトレーナーに問い掛けていた。
「なぁ、トレーナー? やっぱマックイーンおかしくねぇか?」
「……そうだな。」
書類仕事の為に机で作業をしていたトレーナーが、ゴールドシップの問い掛けに生返事をすると、その態度を見てゴールドシップが不満気に話してくる。
「そうだなってよぉ、気付いてんなら何とかしてやれねぇのかよ?」
「そう言ってもなぁ、本人が大丈夫だの一点張りなんだから、周りから何か言っても無駄だ。 せめて何が原因なのかわかれば、対策も取れるんだがなぁ。」
作業の手を止めて頭をかきながら困りきった表情で話すトレーナーに、ゴールドシップが思い当たることを話す。
「原因って言うと、やっぱアレじゃねぇか? トレーナーがスイーツ禁止してるから、ストレス溜まって調子崩したんじゃね?」
「いや、俺は別にスイーツ禁止なんて言ってないぞ?」
「でもよぉ、テイオーの奴がマックイーンが全然甘い物食べてないって不思議がっていたぞ? アイツ、虫歯にでもなってるんじゃねぇか?」
正解を見つけたと言わんばかりに話すゴールドシップを見ながらも、考えを纏め切れないトレーナーが自身なさ気に呟く。
「いや、まさかそんな子供みたいな理由で……」
「トレーナーは忘れてっかも知れねぇけどよ、アタシ等全員まだ学生だかんな? 年齢的にもまだ子供だぞ?」
そんなトレーナーの呟きに、違和感を感じてゴールドシップが注意する。
「……なら」
「んっ? どした?」
「虫歯なら不味い事になっていると思う。 このまま放置した場合、走る事も難しくなる……と、思う。」
急に真面目な表情になって話すトレーナーの話を聞いたゴールドシップが驚いた表情になろうとしたその時、部室のドアが勢いよく開くと、外からウマ娘が凄い勢いで部室に飛び込んで来ると、そのままトレーナーの襟首を持って前後に振り始めた。
「ちょっとトレーナーっ! マックイーンが走れなくなるってどう言う事さっ?」
「と、トウカイテイオー、ちょっと、落ち着けっ! ゆ、揺らすなっ!」
「おいおい、落ち着けってテイオー!」
必死になってトウカイテイオーを宥めるトレーナーだったが、益々トレーナーを前後に振る速度は加速して行った。
「これがっ! 落ち着いてっ! いられる訳っ! 無いでしょっ!」
「おいおいテイオー、ちょっと落ち着こうぜ? じゃないとソレから出ちゃいけないモノが出てくんぞ?」
流石にヤバそうだと思ったゴールドシップが、テイオーを止めようと近づいた時、遂に限界を迎えたトレーナーの口元からキラキラが飛び出した。
「あ、何か出たっ! うわっ、汚い!」
「うへっ、マジで出てんじゃねぇか! テイオーてめぇ、ソレこっち向けんじゃねぇっ!」
咄嗟にキラキラを避けたテイオーが、掴んでいたトレーナーをゴールドシップの方に放り投げると、嫌悪感を示したゴールドシップがトレーナーを床に投げ捨てた。
「ちーっすっ! トレーナー、そろそろアップ終わるんで、指導お願いする……って、トレーナー!」
練習の準備が終わってトレーナーを呼びに来たウォッカが部室に顔を出すと、そこにはキラキラまみれで意識無く床に転がるトレーナーと、それを嫌な顔をして見ているゴールドシップとトウカイテイオーがいた。
「2人とも何やってるんっすか!」
仲直り……仲直りってなんでしょ?