混ぜるな危険って、混ぜてみたくなりますよね?
タマモクロスにリアルデュークのことを相談してから既に一週間の月日が経ち、サロメは今日も千尋の指導の下、練習に勤しんでいた。
「サロメ、ラスト一本、今度は本番のつもりで走りなさい!」
「はいっ! ……ダァァァァァァアッ!」
千尋の檄を受け、ラストスパートをかけるサロメを観察しながら、手元のメモに走り書きをする千尋は、何度か満足そうに頷きながら手元のストップウォッチの数字を見て手答えを感じていた。
「……うん、これなら来週のデビュー戦、十分圏内を狙えるわね?」
「本当ですか! 私、無事にメイクデビューを勝って、トレーナーさんに初勝利を捧げますわ!」
練習を終え戻って来たサロメに笑顔でそう述べる千尋を見ながら、嬉しそうに答えるサロメ、そんなサロメにトウカイテイオーが声を掛けてくる。
「うんうん、サロメはトレーナー想いの良いウマ娘だねー? 僕の時は勝って当然なんて思っていたからさ、トレーナーに勝利を捧げるなんて考えた事も無かったよ。」
「トレーナーさんにはお世話になっておりますから、私が出来る数少ない恩返しですわ!」
声を掛けて来たトウカイテイオーに対して和かに返答をしていると、タイミングを見計らっていたかの様に、今度はシンボリルドルフが口を挟んで来た。
「本当に、サロメ君は良い子だな? まさに温厚篤実(おんこうとくじつ)、温柔敦厚(おんじゅうとんこう)とはキミの事だな? どこぞの引き篭もりとはやはり違うな……まさか練習どころか、学園の授業にすら出て居ないとは……流石にこの状況は放置して良いものではないな? そう思うだろう、副会長?」
そう言って眉根を寄せるルドルフからの問い掛けに、いつもと同じく冷静な態度で側に控えて居たエアグルーヴが思案顔で口を開いた。
「確かに、放置して良いものではありませんが、会長が出張る必要は有りません。 仕事も溜まっておりますので、こんな所で油を売って無いで生徒会室へお戻り下さい。」
「しかし、私は全てのウマ娘の幸せを願ってこの職に着いたのだよ? 明らかに発生している問題を放置してはおけまい?」
エアグルーヴの反応が何時も通り過ぎたのが原因なのか、少しだけ不機嫌な声色でルドルフが反論するが、当のエアグルーヴは態度を崩さずに更なる自論を展開する。
「この問題については、ご身内やトレーナーの責任の範囲内でしょう。 我々生徒会や学園が先に手を出しては、彼女達の迷惑となる恐れがありますので、我々は要請があるまで静観するのが通りかと。」
「いや、しかしだな……」
「かーいちょ? 何だったら僕が会長の代わりに、リアルデュークを部屋から引っ張って来ようか?」
エアグルーヴにやや押され気味なルドルフを見たトウカイテイオーが助け船を出してくるも、ルドルフはそれに対しては困り顔になってしまう。
「それは助かるが、しかし、レースを控えているテイオーの手を煩わせるのは……」
「ならば会長、アイツにやらせましょう。 もう1人の副会長で、今日も仕事をして居ないブライアンです。 たまには役に立って貰いましょう。」
「ブライアン君か、彼女なら大丈夫だな? ならば、この件は彼女に任せてみよう。 悪いが、至急連絡をして貰っても良いだろうか?」
エアグルーヴの解決策にルドルフも妙案と思ったのか、声を弾ませて決断をくだす。
「はい、それではこの件はその様に処理致します。 では、生徒会室へ戻りましょう。 それでは後の事はメールにてご連絡差し上げますので、千尋トレーナー、我々はこれにて失礼します。 サロメさんも、メイクデビュー、頑張って下さい。」
「そ、そうだな。 まだまだ仕事も山積みな事だし、我々はこれで失礼させて頂こう。 千尋トレーナー、サロメ君、君達の貴重な時間を使わせて済まなかったね? メイクデビュー、私も応援している、是非素晴らしいレースを見せてくれ。 では、失礼する。」
「あ、かいちょー、僕も一緒に行くってば! それじゃ、サロメも頑張ってね?」
「あ、はい、有難う御座います。」
そう言って去っていく3人の後ろ姿を眺めながら、千尋とサロメの2人は首を傾げながらボヤいた。
「……結局、何をしに来たのかしら?」
「……わかりませんが、取り敢えず頑張ります。」
ルドルフ達がサロメ達の所を去ってから小一時間後、近所の猛禽カフェで寛いで居た所をエアグルーヴに捕まったナリタブライアンが、少々の抵抗の後に渋々と生徒会室に連れられて行くと、そこには満面の笑みを浮かべたルドルフの姿があった。
その姿を見て、嫌な予感がしたブライアンは、勧められるまま溜息混じりに席に着いた。
……それから小一時間後、ソファに座るブライアンが一言。
「……断る。」
「なっ! ブライアン、お前!」
ブライアンの即答に声を荒げるエアグルーヴを制して、ルドルフが自分を睨むブライアンに残念そうに話しかける。
「……そうか、断るか……この仕事を受けてくれている間は、他の仕事からは外れてこれに専念して貰おうと思っていたが、嫌ならば仕方ないな。」
「当然だ。」
「ブライアン、貴様!」
尚も態度を崩さないブライアンを見て、今にも掴み掛からんと目を釣り上げるエアグルーヴ。
「ならば仕方がないな、この件はエアグルーヴに任せるとして、その間の仕事はブライアンと私の2人で処理するとしよう。」
「……仕方ありませんか。」
ルドルフはそんな2人の様子を見て、やれやれと言わんばかりに、隣に座っているエアグルーヴに話しかけると、話を聞いたエアグルーヴも仕方ないとばかりに了承する。
「……待て、何故私がそんな面倒な事をしなければならない!」
だが、2人のやり取りを聞いたブライアンが、立ち上がらんばかりに焦った様子で叫ぶと、ルドルフが肩を竦める。
「何故とは、異な事を言うね? 先程も言った通り、この仕事を受けてくれている間は、他の仕事からは外れて貰うと言っただろう? 1人仕事から外れる以上、その仕事は残った2人が分担するのが筋だろう。」
「……成る程、ブライアンが会長の補佐をやれるかは些か不安では有りますが、他でも無い会長の指示です、微力ながら全力で勤めましょう。」
「いや、待て……分かった、私が引き受ける。 だから仕事を増やすのは無しだ……良いな?」
「そうか、引き受けてくれるか! 君ならば一念通天(いちねんつうてん)し、勇往邁進(ゆうおうまいしん)して事に当たってくれると信じているよ。」
「ブライアン、会長の信頼にきちんと応えるんだぞ?」
焦った様子のまま、慌てて言うブライアンに笑顔で話しながらルドルフがエアグルーヴに目で合図を行うと、意図を察したエアグルーヴも笑顔でブライアンを励まし始める。
ブライアンは、そんな2人に胡乱げな目を向けて大きな溜息を一つ吐くと、2人を睨みながら低い声色で確認した。
「……納得はいかないが、やるからにはちゃんとやる。 だが、やり方は私に一任して貰うぞ?」
「あぁ、勿論だとも! 我々で手伝える事が有れば遠慮なく言ってくれ、出来る範囲内で最大限の努力をすると誓おう。 エアグルーヴも、それで良いかな?」
「はい、会長の決定に従います。」
「では決まりだね? ブライアン、リアルデュークのこと、宜しく頼んだよ?」
「分かった、任せろ。 色々と腑に落ちないが、やる以上はそれなりにやってやる。」
話が纏まり先程までの何処か張り詰めた空気が霧散した生徒会室で、椅子を引っ張って来て出窓からグラウンドを眺めていたトウカイテイオーがボンヤリと室内を見て居た。
「……僕はその人選ってさ、色々な意味でミステイクだと思うなぁ。 まぁ、面白そうだから良いかなあ?」
トウカイテイオーの小さな呟きは、室内の人々に届く事は無かった。
ニート対怪物です。
果たしてニートは生き残れるのでしょうか?