今回は少し長めです。
「役立たず、必要無い! こうなたらボクの閃きに期待! ここ歩けば良い感じに閃く! ボク天才、きっと大丈夫!」
「ちょっと、そこのキミ?」
何時も通り午後の授業をサボったリアルデュークが、学園近くの商店街をブツブツ言いながら歩いていると、紺色の制服を着た中年の男に声をかけられた。
「……ナンパ、興味ない、他当たるが吉。」
そう言って男の脇を通り抜け様とするリアルデュークを見て、男が慌てた様子で引き止めてきた。
「いやいや、キミみたいな幼女をナンパしたら逆に逮捕されちゃうよ。 そうじゃなくてね、お嬢ちゃんはこんな時間に何でこんな所を歩いているのかな?」
「ボク、ナンパに構う時間無い。」
リアルデュークが男に再度拒絶を告げるが、男は辺りをキョロキョロと見渡しながら更に質問をしてきた。
「ん〜、お父さんかお母さんは何処かな? それとも別の家族の人と一緒なのかな?」
「ボク、急いでる。 邪魔良くない。」
「……こりゃ迷子かなぁ? 一応保護しておくか……」
リアルデュークの頑なな態度を見た男が小さく呟くと、如何にもな作り笑顔になってリアルデュークと目線を合わせる為にしゃがむ。
「お嬢ちゃん、ご家族の方が迎えに来る迄、おじさんと交番で待ってようか?」
「……ボク迷子違う!」
「うんうん、きっとお母さん達が迷子なんだねぇ、だから交番に行って待っていてあげようね? ほら、行くよ?」
「……人攫い!」
リアルデュークの話を聞いている様な態度を取りつつ、男は実際には聞き流しながら逃げられ無い様にかリアルデュークの小さな手を掴む。
すると、その様子を見たリアルデュークが大きな声で叫ぶ。
その叫びを聞いた周りの人達がざわつき始めると、男が慌てて訂正を始める。
「いやいや違うから、おじさんは警察官だから! 正義の味方だから!」
「……怪しい大人、みんなそう言う聞いた。 警官国家の犬、市民の味方違う、聞いた事ある!」
「いや、何か辛辣だなぁ? 君の周りって何か政治に不満がある人の集まりか何かかな?」
「警官のコスプレ、悪人の証! 警察手帳チラ見せ、詐欺してる!」
ここまでのやり取りで何事かと集まってきた人達が、男を見て騒ぎ始める。
「ちょっと、アレって……」
中には手持ちの携帯電話で何処かに連絡を始める人も出始めた。
「いや、キミなんて事言うんだい! ちょっと、違います! コスプレじゃなくて本物ですよ! そもそもチラ見せなんてして無いから!」
「あんなに慌てて、きっと取り繕うのに必死なんですわ。」
「いや、だから違うから!」
そんな周りに焦りながら必死に弁明する男を見たリアルデュークが、更に調子に乗って提案する。
「フッ、そんな慌てる、底が浅い証拠! でも、今ならお菓子あるなら交番行っても良い!」
「何か面倒臭いお嬢ちゃんだなぁもうっ! 分かった、ちゃんとお菓子あげるから!」
「……まぁ、あんな小さな子をお菓子で誘惑して……」
2人の会話を聞いた野次馬がヒソヒソと話す声が聞こえた男が更に焦りながら声を上げて叫ぶ。
「違うから! 本物の警察官ですから! 迷子を保護するだけですから!」
「お菓子はポテチ希望!」
「あぁもう! 声かけなければ良かった!」
その後、男の弁明は通報を受けた同僚が来るまで続いた。
「ウマウマ、ポテチ最強!」
「あぁ、そんな食べ方したら……もう、あんまり床に食べカス落とさないでね?」
あれから無事に交番に着いたリアルデュークは、通報を受けて来た応援の若い女性警察官に世話をされながら、口いっぱいのポテチを堪能して居た。
「それで、お嬢ちゃん……いい加減名前だけでも教えて貰えないかな?」
「うぃ? ボクリアルデューク! ジュースくれたら名前教える!」
「……あはは、そうかそうか、じゃあジュースあげないとな?」
疲れ切った様子の中年の警察官からの質問に、得意顔でリアルデュークが取り引きを持ち掛けると、それを聞いた男が思わずといった感じで笑いながら応じた。
「今持って来るから、少しだけ待っててね?」
そんなリアルデュークに笑いを堪えながら、女性警官がジュースを取りに交番の奥へと消える。
「えっと、名前はリアルデューク、近くの学園に所属と……おい、この近くに初等部のある学園ってあったか?」
「学園ですか? この近くだとトレセン学園しか有りませんが?」
「だよなぁ?」
2人で聞き取りをした内容を精査していると、紙袋を持った初老の男が交番に入ってきた。
「……おはよう。 今日も何事も無さそうだな?って、迷子かい?」
「あ、谷さんお疲れ様です。 今日は非番じゃなかったですか?」
「あぁ、ちょっと近くに用事があったからさ。 これ、みんなで食べてよ。」
「有難うございます、今丁度迷子の対応中でして……」
交番の面々と親し気に話して居た谷と呼ばれた男が、リアルデュークを見て少し驚きながらも表情を和らげて話しかける。
「……おや? リアちゃんじゃないか?」
「……お前誰?」
思いがけないリアルデュークの冷めた反応に、一瞬固まりながらも谷は自分を指差しながら必死にアピールを始める。
「谷おじさんだよ、ほら、千尋のお父さんの。」
「何故千尋知っている? ストーカー?」
変質者を見る様な目で見てくるリアルデュークに、谷が慌てながら弁明を続ける。
「いや、今も言ったけど千尋は娘だよ。」
「千尋の父?」
「そう、父だよ、久しぶりだねぇ?」
ようやく納得したリアルデュークを見て安堵した谷に、先程までリアルデュークの相手をしていた女性警官が声を掛ける。
「谷さんこの子知ってるんですか?」
「ああ、前に話した事あっただろう? 娘が担当している子だよ。」
「って事はつまり、この子ってトレセン学園のウマ娘なんですか? 凄いなぁ、ウマ娘の中でもエリートじゃないですか!」
谷の話に吃驚したその女性警官が思わず言った言葉に谷が反応する。
「……エリートねぇ。 あんまり好きじゃないな、その言い方は。」
「あ、済みません。 つい興奮してしまいました。」
「ああいや、別に咎めている訳じゃ無いんだよ。 ただね、トレセン学園だけがウマ娘の進む道では無いからね。 ウマ娘だって、走る以外の色々な道が有ると個人的に思っているだけなんだよ。」
谷に咎められて済まなさそうにする女性警官を助ける為か、中年の警察官が谷の話に横槍を入れる。
「谷さん、そんな事よりリアちゃんの事任せても大丈夫?」
「あぁ、娘に連絡を取ってみるよ。」
同僚の言葉に、軽い気持ちで千尋と連絡を取ろうとすると、それを見たリアルデュークが慌てて谷の腕を押さえる。
「連絡駄目! ボク困る!」
「おや? それはどうしてだい? 娘と喧嘩でもしたかな?」
リアルデュークの行動にびっくりしながらも、谷が腕を掴まれたまま問いかける。
「喧嘩違う、でも迷惑!」
「ん〜、リアちゃんは千尋の事苦手なのかな? それとも、何か困っているのかな?」
「苦手違う、でも困ってる。」
眉を顰めて必死に話すリアルデュークを見て、何かしらの事情がある事を察した谷が話を聞く為にリアルデュークを椅子に座らせ、対面に椅子を持って来て自分も座り、優しく先を促した。
「さて、詳しい話を聞かせてくれるかな?」
谷にそう促されたリアルデュークがぽつりぽつりと話始めた。
リアルデュークが話終わってから数分後、リアルデュークのあまり要領を得ない話を聞き終わり、その内容を精査した谷が腕を組んで難しい表情で口を開く。
「……成る程ねぇ。 相手はあの三冠かぁ。」
「勝てない困る。 でも勝ち方わかんない。」
俯きながら元気無く答えるリアルデュークを見て、困り顔の谷が頭をかきながら尋ねる。
「ん〜、そう言う時こそトレーナーの出番なんだがなぁ……娘には、千尋には言えないんだよね?」
「千尋言う、怒られる。」
「……ん〜、仕方ないかぁ。 リアちゃん、おじさんから一つ提案が有るんだが、聞いてみるかい?」
ウマ耳をペタンと垂れさせ、目に見えて元気無く項垂れるリアルデュークを前に、渋々といった感じで谷が提案する。
「うぃ?」
「今日だけ、今回のレースだけだが、おじさんがリアちゃんのトレーナーをしてあげよう。」
「父トレーナー?」
「そう、これでも一応トレーナー資格は持っているんだよ? 流石に中央のじゃないけど、今回の件に関してなら問題無いさ。」
「父トレーナー、三冠勝てる?」
「そうだねぇ、まぁ、状況を整えられれば勝てないまでも、リアちゃんなら簡単に負ける事は無いんじゃないかなと思うよ?」
そう優しく語る谷を真っ直ぐに見たリアルデュークが笑顔で叫ぶ。
「父採用! すぐ準備する!」
「いやいや、まずは千尋に許可を貰わないといけないよ?」
「許可?」
谷は、自身の言葉に首を傾げたリアルデュークに対して、子供に言って聞かせる様にゆっくりと説明を始める。
「そう、リアちゃんと千尋は契約を結んでいるから、他のトレーナーが勝手にやると契約違反になるんだ。 だから千尋にちゃんと説明して許可を得てから準備開始になるんだよ。」
「許可……千尋、怒られる?」
「リアちゃんは何で千尋が怒ると思うんだい?」
少し涙目になって聞いてくるリアルデュークの頭を優しく撫でて落ち着かせながら目で優しく先を促す谷を見詰めながら、たどたどしくもリアルデュークが理由を話始める。
「約束、守って無い。 千尋一度もボクの所来ない。」
「そうか、約束破っちゃったのかい?」
「……うぃ。 千尋怒ってる、だから部屋来ない。 でも、デリケートなボク、怒られる嫌。」
「じゃあ、千尋が許してくれたら、今後は約束を守ると誓えるかい?」
「……前向きに善処する。」
ちゃんとリアルデュークと目線を合わせて確認してくる谷の目を見ながらリアルデュークがそう答えると、その答えを聞いた谷が思わずと言った感じで笑いながらいつの間にか交番の入り口に居た女性に声をかける。
「そうかそうか、前向きか! だ、そうだぞ千尋?」
「……リアちゃん。」
「……あばばばば、ち、千尋? 怒られる嫌!」
谷の言葉に促される様に入り口を見たリアルデュークが、慌てて椅子から降りて谷の後ろに隠れる。
「大丈夫、大丈夫だから。 一旦落ち着こうかリアちゃん。 千尋も、黙って無いでちゃんと言葉で伝えなさい。」
谷は、自身の後ろに隠れたリアルデュークを宥めながらも、黙って立つ自分の娘に声をかける。
「えっと、その……わ、私の指導が合わないなら、言ってくれればちゃんとリアちゃんに合うトレーナーさんを探すから遠慮なく言ってね?」
俯きながら自信無さ気に話す千尋に、谷が語気を強くして叱る。
「……そうじゃ無いだろう、千尋?」
父親からの言葉に、ハッとした顔をした千尋が意を決した表情でリアルデュークに語りかける。
「……い、今の無し。 あのね、私にリアちゃんの話を聞かせて? 頼り無いかもだけど、私には貴女の感じた事や想い、些細な事でも良いからもっとちゃんと貴女というウマ娘の事を知りたいの……だって、私はまだ貴女のトレーナーだから! だから、もう一度ちゃんとリアちゃんと向き合いたいの!」
「……ボク、謝る。 だから、力貸す!」
「えっと、話はタマモクロスさんから聞いてあるけど……」
僅かながらも関係修復が出来た事に安堵する千尋だったが、リアルデュークの現状を思い出して困惑していると、谷が笑顔でリアルデュークに話しかけてきた。
「なら、話は早いな?」
「父が何とかする! 千尋、協力する!」
「って事で、今日一日だけお父さんトレーナー復帰だ!」
急に明るくなった場の雰囲気に戸惑う千尋を横目に盛り上がるリアルデュークと谷の姿を見て、更に困惑する千尋だった。
「ええっ、復活って何? てかお父さん、仕事とか大丈夫なの?」
「今日は非番だから大丈夫だ、今も近くに寄ったから来てみただけだしな?」
「なら大丈夫かな……って、お父さんがトレーナーしていたの何十年前だっけ?」
「千尋が産まれた年に転職したから……」
「やっぱり言わなくていいっ!」
転職した年=自分の年齢と気付いた千尋が慌てて父親を止めると、何故か察したリアルデュークが楽し気に口を開く。
「……妖怪いけず後家と同じと「フンッ!」うぐっ!」
「誰が妖怪よ! 勝手に人を不名誉な名前の妖怪にするんじゃありません!」
余計な事を言い掛けたリアルデュークを右手で物理的に止めて、高く掲げた右腕の先でぷらぷらしている幼女に軽く説教をする千尋、そんな2人を見て笑いながら谷が早速2人に指示を出す。
「相変わらずのやり取りだが、仲は復活したみたいだな? で、話を戻すが、千尋は至急この資材と組み立てを手伝ってくれる人を集めてくれ、その間にリアちゃんにちょっとトレーニングをするから。」
「……ちょっとお父さん、これ、本気なの?」
走り書きされたメモを読んでそう尋ねる千尋に、谷は楽しそうに答える。
「今のリアちゃんがあの三冠ウマ娘に挑むなら、勝機はこれしか無いだろう? 少なくとも普通に走るよりは勝負になるだろうさ。 それに、これは此方の得意分野だしな?」
「う〜ん、確かにこれならって感じだけど、これやったら私が周りからかなりの不評を買うんだけど?」
自分の父親がこれからやろうとしている事を想像した千尋が、嫌そうな顔をするのを見た谷が腰に両手を当ててドヤ顔で答える。
「自分の愛バの為なら、自分の評価なんてそのくらいどうと言う事はない……それが、トレーナーってもんだろう?」
「確かに、その通りだよ。 私、今から学園に戻って準備するから、お父さん達も遅れずにちゃんと来てね? 時間とかは後からメールするから!」
父親からの言葉を受け、何かのスイッチが入った千尋がやる気を漲らせて交番から出て行った。
「……さて、リアちゃん? ジャイアントキリングの始まりだ! 気合い入れていくぞ?」
「ぉおっ! 何か面倒臭そう……だけど、兎に角凄い自信っ!」
交番から出て行く娘の後ろ姿を見送った谷は一息つくと、リアルデュークに向かって気合いの入った顔でそう宣言するのだった。
漸く幼女のRTAに光明が差しました。
幼女はやる気です。