いよいよ本番です!
見事な秋晴れの中、ここトレセン学園のグラウンドでは大勢の学生達が集まり、その時が訪れるのを今か今かと待ち望んでいた。
グラウンドには臨時の放送席まで用意されており、そこからグラウンドのコース外に集まっている生徒達へ向けて有志による放送が流れていた。
『さぁ、急遽開催が決まりました今レースですが、今回のレースはタイマン勝負となります。 その気になる対戦カードの1人目は……何と何と、あのレジェンド三冠ウマ娘、影さえも踏ませぬ怪物と呼ばれた現副会長! ナリタブライアンだぁぁああっ! そして、その我等が副会長、伝説の三冠ウマ娘に挑むのは……毎回毎回お騒がせ、通り名はメジロのやべぇ奴! その小さな身体に規格外のパワーを秘めた暴君、リアルデュークだぁぁああっ! その規格外のパワーは三冠ウマ娘に届くのか?今から楽しみであります!』
レースの準備の為にスタート地点で仲間と作業していたタマモクロスが、有志による放送を聞いて顔を顰めながらぼやいていた。
「……何時の間にかなんちゅう通り名付けられてんねん?」
「まぁ、リアさん色々やってますから……」
「まぁ、トレーナーの私が言える事じゃ無いけど、入学してから騒ぎしか起こしていないものねぇ?」
「私は、エネルギッシュでとても楽しい方だと思います。」
そのタマモクロスのぼやきを聞いたサロメ、千尋、ファインモーションの3名がそれぞれタマモクロスに答える。
『……と、言う訳でして、今回のレースもリアルデューク陣営肝入りのやべぇルールとなっております。 果たして副会長はこの条件下で勝つことが出来るのか? リアルデュークは無事、狙い通りにあの三冠ウマ娘を倒すのか? 実に楽しみな内容となっております。』
「そろそろ時間やなぁ……さっさと終わらせるで?」
「「「は〜い」」」
無責任に盛り上がる観客達を見ながら、4人は急ピッチで作業を進めるのであった。
リアルデューク側から指定された時間にグラウンドに来たブライアンは、コースに設置された物を見て荒れ狂っていた。
「ふざけるなっ! 何だアレは?」
「ふむ、どうやらリアルデューク側が用意した物らしいな。 恐らくは貴様とのレースで使用するつもりなんだろう。」
冷静にコースに設置された物を見ながらエアグルーヴが憶測を口にする。
「レースで使用? あんな物どう使うと言うんだ?」
「それについてはこれから説明があるらしい。」
荒れるブライアンを気にせずにウマホを見ながらルドルフがブライアンに声をかける。
「馬鹿を言うな! 私はレースをしに来たんだ、見世物になりに来た訳では無い!」
「ふふ、だから言っただろう? ちゃんとした真面目な勝負になれば良いな?とな。」
声を荒げるブライアンの姿を見て、肩を竦めながら話すルドルフだったが、その声と表情は何故か少し楽し気だった。
「……兎に角、こんなモノはマトモな勝負じゃ無い! 私は帰らせて貰う!」
「な、貴様! 自分から吹っ掛けた勝負を反故にするつもりか!」
「私は、ウマ娘としての勝負を提案したんだ、これはウマ娘の勝負じゃ無い!」
短気を起こすブライアンをエアグルーヴが詰問していると、1人の初老の男こと谷がブライアンを煽る様な態度で声をかけて来た。
「おいおい、ウマ娘の勝負じゃ無いとは随分な言い草じゃないか?」
「……誰だ貴様は?」
「モノを知らないみたいだから説明してやるよ、アレはソリって言ってな? アレに鉄アレイなんかの重りを乗せて引っ張るんだよ。 お前さんがこれからやるばんえいレース、歴としたウマ娘のレース内容だよ。」
「あははははっ……成る程、流石はリアルデューク君達だ。 ちゃんと勝てる可能性がある勝負に落とし込んできたな。」
谷の発言を聞いたルドルフが堪え切れずといった形で笑いながら話すと、それを見たブライアンが忌々し気に谷を睨んで言い切る。
「私はばんえいとか言う得体の知れないモノなんぞ、一切やるつもりは無い。」
「だが、芝コース以外の設定は相手に丸投げしたのだろう? ならブライアン、貴様の怠慢だ。 面倒臭がらずにちゃんと距離や条件を指定するべきだったな?」
そうエアグルーヴがブライアンの拙さを指摘していると、ルドルフが眼光鋭く言い放つ。
「そうだな、確かに今回は身から出た錆と言える。 そうである以上、私としてはこう言うしか無いな……言い訳って良いわけ?とな!」
「……会長。」
「これが噂の……」
その瞬間、空気が死んだ。
「クソッ!……分かった、やる。 だからこれ以上変なこと言って妙な空気にするな!」
「それでは、レース用のハーネスはこれね? 付け方は会長さんが知っているから付けて貰ってね? 大丈夫、レース前にきちんと装具の確認はするから……それじゃあ会長さん、あとはお願いしますね。」
「あぁ、任せて貰おう!」
話は纏まったと見た谷が手に持っていた装具をルドルフに渡すと、軽く手を振りリアルデューク達の方へと去って行った。
残された3人の間では、ブライアンがルドルフに詰め寄っていた。
「……ちょっと待て、何でそんな事アンタが知っているんだ?」
「何でと言われても、私も彼女達の友人の1人として準備を手伝ったからね。 ああ、装具の装着については大丈夫だ、既に説明も受けて何度か装着の練習もしてあるから何も問題は無い。」
「いや、そうじゃ無くて、アンタ自分の立場を少しは考慮しろよ!」
叫ぶブライアンに対し、自信満々で答えるルドルフを相手にして、更に苛つき叫ぶブライアン。
「大丈夫、生徒会長ではなくあくまでも1人の友人と言う立場で少しだけ行った事だからね。 しかし、ばんえい競走とは……話には聞いていたが、興味本位で実際に装具を付けてみたが、年甲斐も無く何故か少しだけワクワクしてしまったよ。」
「だから、自分の立場を少しは考えろ!」
ブライアン達がグラウンドで騒ぐ中、リアルデュークはレースの準備から先に戻ってきたクリーク、サロメの2人とスタート地点近くの芝生にファインモーションの部下達が用意した玉座に座ってとことん調子に乗っていた。
「三冠、過去の栄光! これからはボクの時代! ジャイアンキリングして最強なる!」
「ジャイアンじゃ無くて、ジャイアントですよリアさん!」
玉座の左側に立つサロメがそう注意すると、玉座の右側に立つクリークがリアルデュークの頭を撫でながら褒めちぎる。
「まぁ、リアちゃんは凄いのねぇ? じゃあ、レースの前に英気を養わないといけませんねぇ?」
「クリークママ、ご馳走用意すると吉!」
クリークの合図で黒服達がリアルデュークの前にテーブルと各種料理をセッティングする。
「はぁいっ! そう思ってリアちゃんの好きな物いっぱい用意しましたからねぇ? はい、あ〜んっ?」
「……んぐっ、うまうまっ! 次はジュース希望!」
クリークとサロメの世話と料理の数々を堪能するリアルデュークは、これから行うレースを忘れたかの様に満足そうに寛いで居た。
準備の終わったタマモクロス達が集合場所に行ってみると、そこではいつも通り調子に乗る幼女と、それを甲斐甲斐しく世話をするクリーク、満更でも無い顔でクリークの補佐をするサロメの姿があった。
「……あんたら何してんねん?」
その光景を見たタマモクロスが、心底呆れたという顔と声で問い掛けると、若干のバツの悪さがあるのかサロメがおずおずといった感じでタマモクロスとリアルデューク達を交互に見ながら答える。
「えっとこれは、その……そ、そうですわ、トレーナーさんのお父様からの指示なんですわ。」
「こないに自堕落な指示あるんか?」
ジト目になったタマモクロスが腕を組んでサロメを見ながら話すと、サロメが焦りながらも説明を始めた。
「えっとですね、お父様が仰るにはリアさんは調子に乗せないと実力を発揮出来ないタイプらしく、レース前に出来るだけ調子に乗せて欲しいと言う指示なんですわ。」
「……そない言うたかて、アレは乗せ過ぎちゃうんか?」
「……リアさんって、すぐに乗りますから……」
呆れるタマモクロスと苦笑いを浮かべるサロメが2人でリアルデュークの様子を見ていると、ファインモーションが慌てた様子で走って来た。
「あ〜っ! クリークさんだけ狡いですわ! 私も甘やかします!」
「ファインさん、今は私が甘やかす時間です!」
「クリークさんは何時もやっているんですから、今くらい良いじゃないですか!」
何やら揉め始めたリアルデューク達を眺めていたサロメのウマホがアラームを鳴らす。
「そろそろ準備せなあかん時間やな? アレ、さっさと撤収するで!」
「はい!」
アラームを聞いた2人は、そう言うと気合を入れてリアルデューク達の下へと向かった。
調子に乗った幼女は、果たしてどの程度戦えるんでしょうか?