朝起きたら婚約者になっていたヤンデレクール美人と添い遂げるまで。   作:沙悟寺 綾太郎

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第11話

決起集会。そう言えば聞こえはいいもので、実際はただサークルの活動費を使って酒を飲むだけのただの飲み会であることなど大学生であれば誰だって知っている。

 

「ほら、卯花も飲め飲めー」

 

 学校から一駅先の行きつけの居酒屋。6人がけの座敷に座って、はや二時間も経てば、部長は出来上がり始める。

 

「飲んでますって。というか、やっぱ今日の会は人が少ないですね」

 

「そりゃまあ、元々今動けるのは八人だけだからなぁ。それに紫苑を含めても九人。その中から、五人集まれただけでも奇跡だろぅ?」

 

「まりりぶちょー。頭ぁー、頭撫でてぇー」

 

「はいはい。ちょっと待ちなぁ? ……よしよし」

 

 部長も結構忙しそうだ。砂橋め、ついに飲み会デビューか。まあ、確かにこの人数なら付いてくるのも頷ける。

 飲み会に参加しているのは、俺、部長、先輩、砂橋………………えーと、誰だっけ?

 

「うーん。俺は唯一名前を思い出せないそいつの顔をじっと見つめる」

 

「卯花君! 酷いでやんす! 毛山! 武! でやんすよ! 地の文が声に出てるでやんす!」

 

「いや? 知ってたし? てか、何? 地の文って。毛山君って変わってるね」

 

「それはオタクに対してこれ以上ない暴言でやんすよ!」

 

「ごめんごめん。いやぁ、ノリいいね」

 

 俺もどうやら少し酔っているらしい。既にビール三杯。割とお腹いっぱいだ。

 突然。ぐい、ぐいっと。腕を引かれる。

 

「どうしました?」

 

「……むぅ」

 

 赤くなった頬をパンパンに膨らませ、怒りをアピールする先輩。まるで、リスのよう。

 

「ずっと考えていたの。なぜ、貴方は下の名前で呼んでくれないのか」

 

「おぉ、突然ですね」

 

 確かにいつか指摘されるような気はしていた。が、まさかこのタイミングだとは。

 

「あの、先輩? 大丈夫ですか? 目、座ってますけど……」

 

「ふん。名前も呼んでくれないのに、心配はしてくれるのね」

 

 そう言って、肩に頭を乗せてくる。どうにも、行動と言葉が合致していない。

 

「酔ってます?」

 

「酔ってないもん」

 

 もん? 確定だな。こりゃ、酔ってる。まあ、それはそれとして本題は。

 

「──結局、犯人見つけられませんでしたね」

 

 しんと空気が重くなる。それもそのはず、この三日、それらしい奴を見つけることができず、球技大会を明日に控えた今日この時を迎えている。

 

 一体、誰が? どうやって?

 疑問は未だ絶えないが、我々テニス部はそれ以降被害に遭うことがなかったのは、不幸中の幸いと言える。

 

 ちなみに、サッカー部の連中なぞ、部室にくさや納豆爆弾を投げ込まれた挙句、主要メンバーは全員がバナナの皮で負傷している。

 

「卯花」

 

「はい?」

 

「一発芸」

 

「はぁ!?」

 

「ここは飲みの席だぜ? 萎えるようなこと言ってんじゃねぇ! 

 お前がズリセンこいてる時に人妻五十路ババアの全裸がおかずの上に表示されたらいやだろうがぁ! EDになるだろ! 普通!」

 

 マジで何言ってんだ。こいつ。俺が嫌なのはババアよりもその左隅にある、あまりにも小さい×ボタンだ。

 

「そうだー、そうだー」

 

 そして、砂橋。部長の言葉だからと言って何にでも乗っかるのはやめろ。というか、酔っているのか? ……いや、あいつさっきから酒頼んでなくね?

 

「茉利理。その心配は不要よ」

 

「え? 先輩?」

 

 まさかそっちから助け舟が出るとは思わなかった。

 

「その時は、私が手伝うもの」

 

 どや顔だ。可愛いではある。

 あぁ。なんか、そのうち社会的に死にそう。

 

「う、卯花君……うすうす思って、その人とそういう関係だったんでやんすか?」

 

「いや、違う……はずなんだけどな」

 

 まだギリギリのところで踏み留まっているはず……。少なくともまだしてない。

 

「り、リア充め! 爆発しろでやんすぅ!」

 

 乱痴気騒ぎが一時間ほど続いて、夜10時を超えた辺りで今日は解散することになった。

 

俺は酔った先輩と手を組んで……というか、右腕の関節を決めれながら。

部長は酔い潰れた砂橋(飲んでない)を背負って。

モブは1人なんとも言えない哀愁を漂わせながら。

それぞれの帰路に着いた。

 

「先輩、マンション。着きましたよ」

 

 歩くこと20分。先輩のマンションに到着する。

 

「ええ。着いたわね」

 

「あのぉ、帰らないんですか?」

 

 先輩はマンションを遠巻きに眺めるだけで、頑なに入ろうとしない。

 

「明日は、球技大会です。ゆっくり自分の部屋で休んだほうが良くないですか?」

 

「でも、ここ三日は礼君と一緒に寝れてないもの。それじゃ、疲労以前の問題よ」

 

 酔っているからか、いつもの五割り増しで甘えてくる。まるで、猫のように腕に抱き着いたまま離れてくれない。

 

「うーん、じゃあ……泊まりますか? 今日」

 

「ええ。貴方の部屋でもいいかしら」

 

「はい、大丈夫……はっ! 少しだけ時間をください!」

 

 そう言えば、昨日見たAVが机の上に出したままだ! これを勘づかれれば……まずい。

しかも、俺のならば、破壊されたとて血の涙を流すだけで済むが、生憎あれは晶から借りた珠玉の一品。もしも何かあれば……うん。エンコ詰めなきゃ。

 

「……何か、隠し事かしら?」

 

 ぎろり。先輩の瞳が鈍く光る。確実に、疑っている目だ。 

 

「た、大したことじゃないんですよぉ? ほんと些細なことで……」

 

「なら大丈夫よね? 待たなくても」

 

 威圧感のある笑顔だ。正直、言い訳したとて勝てる気がしない。たとえ、部屋が散らかっているからと話したところで、なら掃除を手伝うと返されるのが関の山。

 

「くぅぅ。隠し事は……ありません!」

 

 小指とバイバイする覚悟をして、俺はそのまま先輩を部屋に上げた。

 

………

……

 

「えーと、これは何?」

 

 ワンルームの部屋の中心。例のブツを指先で摘み上げた先輩は白い目を向けてきた。

 

「……えっちなビデオ、です」

 

 正座のまま、俺は言った。フローリングにこれは結構来るものがある。

 

「タイトル。読み上げてくれる?」

 

 やばい。流石に地獄がすぎる。だが、従うしかない。

 

「早く」

 

「──人妻教師の昼下がり、淫獄の調教劇……でございます」

 

 ああ。AVのタイトルはなぜこうもイカれているのか。 

 

「礼君はこういうのが好きなのかしら?」

 

「……嫌いではありません。しかしっ! それはあくまでフィクションだからいいんです! その女優は先輩と比べれば、スッポンのようなもの!」

 

 ……あくまで、比喩であり、内容とは一切関係ない。

 

「……そう。これは片しておくから、先に風呂に入ってしまいなさい。明日は早いのでしょ?」

 

「は、はい! わかりました! 失礼します!」

 

 ほっ。どうやら破壊はされなさそうだ。

 クローゼットから服を引っ張り出して俺はそそくさと風呂場へと向かう。

 唯一、この部屋を借りるにあたって譲れなかった部分。それは風呂トイレが別である点。

 

「ふー、助かった」

 

 頭にお湯をかけて、シャンプーを付ける。とはいえ、これからはAVをどうしたものか。またバレればあんな羞恥プレイまがいのことが待っている。

その時。

 ──ぽよん。背中に柔らかい感覚。

 

「体、洗ってあげる」

 

「っっっ!?」

  

 

 ぞわっと背筋が震える。ま、まさか。

 

「せ、先輩。その、何をしているのでしょうか……はっ!?」

 

言って、振り返った俺の目が捉えたのは、白く艶やかな先輩の肩。

ほんのりと上気した頬。凹凸のはっきりとした体を包むバスタオル。

そして何よりも。

 

「……その眼鏡。どうしたんですか?」

 

「ただの気まぐれよ。なんとなく……」

 

 わざわざ風呂場に眼鏡。

 

「うはっ!?」

  

 先輩の双丘がまた強く押し付けられる。タオル一枚挟んでいるとはいえ、その破壊力は凄まじい。

 

「ちょ、ちょっと! タイム!」

 

「ダメ」

 

「うそーん」

 

 もにゅもにゅと柔らかい感覚が続く。よもや、酔った先輩がこんなにもアグレッシブだとは。だが、あまりの急展開で逆に少し冷静になってきた。なんとなく先輩の感情が読めたかもしれない。

 

「あの先輩……嫉妬してます?」

 

「してないわ」

 

即答だった。ますます怪しい。やっぱり急な眼鏡といい。先程のやつに対抗意識を燃やしているような気がした。

 

「とりあえず、出ていただく訳には?」

 

「私じゃ、興奮しない?」

 

「そんなわけないですよ! 興奮するから困っているんです!」

 

 必死にそう伝えると、ようやく先輩は満足げな顔をした。

 

「……そう。なら良かったわ」

 

「ええ。なので……ひん!?」

「ダメよ」

 結局、先輩は出てはくれなかった。俺の全身くまなく洗うまでは。

………

……

 

「……もう、お嫁に行けない」

 

 風呂から上がり、とりあえずベッドに腰を下ろした俺は天井を見上げていった。

 

「大丈夫よ。私がもらってあげるから」

 

「え、あ、はい」

  責任を取るのは、男の仕事だと思っていたが、そうではなかったらしい。

「にしても、明日はどうなってしまうのかしらね」

 先輩はごく自然に隣に座ってくる。なんか、自分と同じシャンプーの匂いがするって、えっちだ。

 

「礼君? どうかした?」

 

「いえ、少しエッチな想像を……」

 

 何で口に出したのだろうか。

 

「なら、する? ここでいまから」

 

「え……それはその」

 

正直、したいのは山々なのだが……。

 

「分かってる。冗談よ、それより先に惚れてもらわなきゃいけないものね」

 

「はい、答えが出たらお願いします。……それより先に先輩の期待を裏切ってしまったら、すみま……っ」

 

 裏切る。

途中までを口に出した瞬間、はっとした。

『──被害者と容疑者。この二つは、いかなる場合も対比関係にあるわけではない』。

 ああ。そうだ。そういえば、盲点だった。

 

「すみません! 先輩! ちょっと電話をしてきます!」

 

「急にどうしたの?」

 

「俺たち、想定すらしてませんでしたよね。テニス部内に、犯人がいるかもってことを」

 

 ああ。もしも、この仮説が当たっているとするならば。

 明日、勝つのは不可能かもしれない。

 

 

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