魔法少女リリカルなのはHERO Tの名を持つ少女 作:陽炎=蜻蛉
「ソニックシューター・アサルト、ファイア‼︎」
カスミの手から放たれるのは赤色の爆撃弾、しかし狙っている相手はそれを軽々とかわしていく。
「まだまだ!その程度じゃ、上位クラスは怯みもしないわよ!」
「は、はいっ!」
返す刀で放たれた拡散弾を必死に回避しながら、カスミは全力で走り回る。
(ギンガさん、鬼すぎるって〜ッ‼︎)
区立中央スポーツセンターにて、今日もカスミの特訓は行われていた。目的は魔力弾系統と打撃技を強化すること。特技を徹底的に伸ばしていくノーヴェの方針に照らし合わせた結果、カスミが目指すタイプは遠近両方で戦うオールラウンダー型と判明し、それに合わせてノーヴェがコーチを探してくれることなっていた。
〜1週間前〜
「今回の特訓期間中は個別指導になる。で、ヴィヴィオはアタシ、コロナはオットー、リオにはディエチがコーチとして専属になる。で、カスミの担当は…お、来た来た。」
「ごめん、皆んな!お待たせしました!」
声のする方へ一同が目を向けると、走ってきた1人の女性。
「ギンガさん!」
「オールラウンダータイプの特訓なら、打撃も砲撃も一流のギン姉が適任だ。ごめんな、仕事で忙しいところ。」
「平気よ。有給も有り余ってるくらいだし、可愛い子供たちのためなら、いくらでも頑張っちゃうから。」
これでコーチ陣が揃った。ノーヴェは改めて、初等科一同に自身の想いを伝える。
「残りの期間はそう長くないが、お前らなら必ず予想を覆すくらい成長
してくれると信じてる。辛い特訓になるかもしれない。けど、それを乗り越えた時、その積み上げたモノが必ず助けてくれる。いけるな?」
『はい‼︎」
「よし、それじゃ各自移動しよう。ギン姉、センターの方は手配してるから宜しくな。」
「ええ、任せて。じゃあ、カスミいきましょうか。」
「はい、楽しみです。」
ギンガと一緒に、スポーツセンターにやってきたカスミ。まずは、ノーヴェから渡されたカリキュラムデータを確認しながら話し合う。
「カスミ、特訓を始める前に、まず貴方の伸ばさなきゃいけないと思うところってどこだと思う?」
「えーと…技のレパートリーと、全体的な出力でしょうか?」
「うん、正解よ。じゃあ、誰にも負けない!ってポイントはあるかしら?」
「決め技の魔力砲撃です。ティアさんと撃ち合えたくらいですから、自信はあります。あとは…機動力でしょうか。」
「そう!貴方の強さは一撃必殺の魔力砲撃も勿論だけど、一番はスピードよ。フェイトさんのように、攻撃される前に畳み掛けて、一気に勝負を決めるスタイル、名付けるなら…」
「アグレッシブヒッター…ですかね?」
「フフッ、そうね。だから、スペシウムブラスターはあくまで最後の切り札にしておいて、それ以外の分野を強化していく必要があるの。大変だと思うけど、もしそれが出来たら…」
ギンガはそっとカスミに耳打ちする。それは、カスミにとっては夢のような話だったようだ。
「やります!絶対やります!」
「OK!なら、マリーさんから貰ったこれを付けてもらうわね。」
ギンガから渡されたのは、バンドのようなもの。これを左手にはめてみると、急にその体が重くなった。
「うわっ!これ…すっごい…重い…!しかも…なんか魔力も上手く…」
「魔力負荷のバンドよ。負荷と解放を繰り返せば、持てる魔力量も大幅に伸びていくわ。大変だろうけど、頑張れる?」
「もち…ろんです…!」
「その意気や良し!じゃあ早速始めましょう!」
「お願いします‼︎」
こうして始まった猛特訓。だが、魔力制御を行いながらの特訓に加え、相手は戦闘機人かつ歴戦の猛者でもあるギンガともなれば、それは地獄に等しい練習だった。
「カスミ〜!まだまだ倒れるには早いわよ〜!」
「は…はいぃぃ‼︎」
何度もボロボロになり、時には厳しさのあまり泣きそうになった。しかし、カスミの精神は決して折れなかった。全ては、ヴィヴィオたちと一緒に本番で躍動するために。そうして、倒れて、立ち上がり、負荷をかけ、解放することを続けて遂に1ヶ月が経過した今、カスミは確かな成長を実感していた。
「行くよ、カスミ!ディバイン…!」
(打たれる前に打つ!)
「ジェットステップ‼︎」
ギンガが放とうとした砲撃がチャージを終える前に、カスミは空中を蹴って勢いよく接近すると、右の拳を握った。
「ゼロ・ブラスト‼︎」
放たれた右ストレートは、ギンガの腹を捉えた…かに見えた。
「おっと!危ない危ない…!」
「ゼェ…ハァッ…」
寸前でそのストレートは、ギンガの左手によって止められていた。しかし、煙と火花が上がるほどの威力であった。とはいえ、反動のダメージも加わりもう息も絶え絶えとなったところで、終了のブザーが鳴り響く。
「うん、レパートリーだけじゃなく、出力も安定したね。今のゼロ・ブラスト、お見事だったわ。これでカリキュラムは合格よ!おめでとう、カスミ!」
「ハァッ…ハァッ…ありがとう…ございました…きゅう…」
何度目か分からない、バタりと仰向けに寝転がるカスミに寄り添うように、ギンガも傍に座る。今日は貸し切り状態なので、人目を気にする必要もない。
「それにしても、あんなに小さかったカスミが、本当に逞しくなったね。」
「いやいや、六課の先輩方と比べたら全然です。でも、大分良い感じになってきた気はします。」
「そうね、最初は制御バンド1個でも泣きそうになってたのに、今じゃ4つ付けてあの動きが出来るんだから凄いわ。」
カスミは仰向けからゆっくりと起き上がると、ギンガに深く頭を下げた。
「忙しい中時間作っていただいて、本当にありがとうございました。師匠がどうしてギンガさんにお願いしたのか、やっと分かった気がします。」
苦しい中でも笑顔を見せるカスミに、ギンガは嬉しそうに抱きしめることで返す。
「ありがとう、そう言ってくれるだけで、私も引き受けた甲斐があったわ。本番もしっかり頑張ってね!」
「はい!」
しっかりと返事をした直後、カスミのお腹の音が鳴り、瞬時にその顔は赤くなる。
「あはは…良かったら車で送っていこうか?歩いてる途中で倒れたりしたら大変よね?」
「うぅ…ご厚意に甘えさせてください…」
帰りの車内で、カスミは思うところが一つだけあったので聞いてみることにした。
「でも、どうして今回引き受けてくれたんですか?」
「それはね…カスミの成長を見たかったのが一つなんだけど、一番はあの時のお礼かな。」
「あの時…あ。」
カスミの脳裏によぎったのは、ギンガとスバルを助けるために、カスミが鬼神のような強さを発揮した、JS事件での戦いだった。
「あれから4年経ったけど、もしあの時拉致されていたら…スバルと一緒にきっと大変なことになっていた気がする。改めて、あの時助けてくれてありがとう。」
「良いんですよ、もう過ぎたことですし。それに、あの時私がボコボコにした人達が今や私たちの師匠なんですから。」
「フフ、そう考えると、本当に不思議な話よね。あ、そろそろかな…」
ゆっくりと停車し、目的地の高町家に到着する。玄関前では、なのはとヴィヴィオが待ってくれていた。妹も無事に特訓を終えたようだ。
「おかえり、カスミ!」
「ギンガ、色々とありがとね。」
「いえいえ、私もこの1ヶ月、沢山楽しませてもらいましたから。」
「ギンガさん、良かったら一緒に夕ご飯食べませんか?」
「ありがとう、カスミ。ただ、この後お仕事残ってるから、また今度にさせてもらうわ。」
一緒に食事ができず、残念そうな顔をするカスミだが、それを和らげるようにギンガはハグをする。
「辛い時の方が多かったと思うけど、本当に1ヶ月よく頑張ったわ。その成果、存分に発揮してくれるって信じてるからね。約束よ?」
「はい…!勿論です…!」
これまでの特訓の日々を思い出し、色々な感情がごちゃ混ぜになったのか、涙を見せるカスミ。ほのぼのとした、とても良い雰囲気…だったはずが、瞬間的に走った冷たさに気づいたなのはが、恐る恐る指摘する。
「あの、ギンガ…後ろ…」
「え…?」
ふと振り返ると、そこにはワナワナと体を震わせている、世界で誰よりも娘を愛する父親兼母親、フェイトさんがいた。
「フェイトママ、今日ちょうど出張から帰る日だったんだ…」
「にゃはは…お、おかえり、フェイトちゃん…」
「ただいま、皆んな。後でお土産も用意してるからね。それはそうと、ギンガ…どうして、私のカスミにハグなんてしてるのかな…?そして何でカスミは泣いてるのかな?」
この感じはまさか、と思い娘2人はなのはの方に視線を向ける。
「もしかしてなのはママ、ギンガさんが特訓の先生だってこと…」
「伝えてなかったの⁉︎」
「…いや〜…つい、うっかり…ね?」
『うっかりで済む話じゃないよ〜っ‼︎』
その後、自宅前で真・ソニックフォームにセットアップしようとするフェイトを残る高町家の3人で必死に宥めすかしながら、ギンガは無事に帰るのだった。そして、その日の夜。
「いよいよ明日だね、ヴィヴィオ。」
「うん、組み合わせ、どんな風になってるのか気になるな。」
「いきなり姉妹で当たったりしてね?」
「まあ、流石にそれは確率がすぎるってやつだね。でも、もしそうなってもお互い頑張ろうね。」
「勿論だよ!さ、しっかり寝ときましょう。」
「そうしましょう、そうしましょう…」
疲れもあり、十分な睡眠を取って迎えた、インターミドル選考会当日、カスミはアインハルト、コロナと同じ1組に選出された。ヴィヴィオは4組、リオは5組となる。
「…被りすぎじゃないですかね。」
「正式なチームじゃないから、普通に混ぜられたのかもな…とはいえ、勝ち続ければいずれは当たるんだ。全員、切り替えてけよ。」
『はい!』
会場に移動して開会式を終えた後、すぐに選考会が始まった。
「セイヤァッッ‼︎」
一撃あれば十分、そう言わんばかりにカスミは拳の一撃で相手をリングアウトさせつつ、己の体の軽さに驚いていた。
(これが、特訓の成果の一つか…でも、もっと…もっと上に…!)
各リングでの結果、チームナカジマの5人全員が、ルーキーでの最高地点、スーパーノービスクラスからスタートを決めることに成功。そして、1週間後のSNクラス初戦を秒殺KOで飾ると、続くエリートクラスでも、その快進撃は止まらない。
「ソニックシューター・アサルト、ファイアッッ‼︎」
「は、速すぎ…!キャアァッ!」
高速で放つ魔力弾の嵐の前に相手はなす術もなく吹き飛ばされていく。
「ジェットステップ!」
そして、体勢が崩れたところを追撃し、最後は。
「ゼロ・ブラスト‼︎」
ギンガとの特訓の末に編み出した新技、至近距離から放つ魔力拳でフィニッシュを決めた。
【カスミ選手、エリートクラス初参戦で衝撃の15秒KO勝ちです‼︎】
「よくやった!流石だ、ギン姉にお願いして正解だったみたいだな。」
「はい!新技もいい感じにフィットしてくれてます!」
ハイタッチを決めつつ、笑顔のカスミ。モニターで確認する限り、ヴィヴィオたちも順調に勝ち上がっているようだ。
「ささ、皆んな2回戦突破記念に撮りましょ!」
「ミウラさんも良かったら一緒に!」
「はい、喜んで!スターセイバー、撮影お願いね!」
ヴィータとザフィーラの教え子にして、八神家の秘蔵っ子、ミウラ・リナルディともこの2週間ですっかり仲良くなっており、6人で集合写真を撮る。
「祝、2回戦突破!次も全員頑張りましょう!」
『オーーッッ‼︎』
さて、全員の勝ち残りが決まったところで、ノーヴェは5人を集め、いつものミーティングが始まった。
「まずは2回戦突破、おめでとう。皆んな特訓の成果が十分に出てる、この調子で次も…と行きたいんだが…」
ノーヴェが珍しく言葉を濁した。不思議に思う一同だが、ディードとオットーがその先を補足する。
「まず、次の試合は来週、シード選手同士のプライムマッチの後に始まります。」
「それぞれの予定組み合わせですが…」
①リオvsプライムマッチ(ハリーvsエルス)の勝者
②ヴィヴィオvsミウラ
③カスミvsヤディル・ローズ(前年地区予選ベスト4)
「カスミお嬢様の相手は、射撃系統特化の強豪ですが、ギンガお姉様との特訓の成果を発揮できれば、必ず勝てます!」
「ええ、まだまだ負けるわけにはいきませんから、頑張りますよ。」
「で…1組第3試合は…」
一拍置いた後、ノーヴェは短く告げた。
「アインハルトvsコロナ、同チーム内での対決になる。」
「という訳で、今週はそれぞれ個別練習になっちゃいました。」
「あらあら…組が同じだからいずれはと思ってたけど、思ったより早かったのね。」
学校終わりに管理局に立ち寄ったカスミは、待ち合わせしていたギンガと話していた。
「ギンガさんに特訓していただいたおかげで、大分自信は付きましたけど…もしかしたら次、どっちかに当たるかもしれません。」
「同じ組なんだから当然よね。でも、勝ち続けるってことはそういうことなのよ。はい、オレンジジュースどうぞ?」
「ありがとうございます。」
4年以上の付き合いでカスミの好きなジャンルは把握している。今日はQooのオレンジ缶だ。
「大好きなお友達が相手になったとしても、気後れしちゃダメよ? ウジウジしてたら、フェイトさんみたいにお尻引っ叩いちゃうからね。」
「はは、手厳しい…でも、大丈夫です。1人でも生き残れば、それがチームの勝利になりますから。」
すっかりチーム意識が板についたね、偉い偉いと頭を撫でていると、部下の女性が大急ぎで駆け寄ってきた。
「ギンガさん!ごめんなさい、ちょっと緊急の案件が…」
「了解!ちょっと待ってて!」
「すみません!お仕事中なのに…」
「大丈夫!貴方は大切な教え子なんだから。今週末の試合は観に行けないけど、来週はカスミが勝つって信じて、予定空けておくからね。」
それを聞いて、カスミの顔はパァッと明るくなる。
「はい!絶対…勝ちます!少しだけ待っててくださいね!」
慌てずに帰るのよ〜!と3人目のママのような言葉を背中に受けつつ、カスミは帰宅するのだった。
そして、それぞれが様々な思いを抱えながら迎えたチームナカジマ三回戦の日。
「ライジングインパクト‼︎」
【カスミ選手、ここで必殺の蹴り技が炸裂!ローズ選手、これは…立てない!】
チーム1番手で出撃したカスミは、射撃特化型のローズ相手に、ジェットステップとハイジャンプによる機動力を活かした戦法で翻弄。秒殺記録こそ途切れたものの、最後は被弾覚悟で放ったライジングインパクトが見事にローズを捉えた。
【カスミ選手、見事に3回戦も突破!初出場のスーパールーキーの快進撃はどこまで続くのでしょうか⁉︎】
湧き上がる歓声に手を振って応えつつ、カスミの胸に去来するのは、ギンガとの約束。
(ギンガさん、楽しみにしててください。絶対に次も勝ちますから。)
時間の関係でなのはやフェイトたちは間に合わなかったものの、まだまだ次の試合も見てもらえるチャンスが出来たとポジディブに捉えて、カスミは控え室に戻るのだった。
その後は、喉が枯れかけるほどにそれぞれの応援役として声を張り上げたが、コロナはアインハルトに、ヴィヴィオはミウラに、リオはハリーに敗れ、結果として初等科チームはこれでカスミを残すのみとなった。
「残るは私とアインハルトさんだけ…か。」
「私の次の相手はトップシードのジーク選手…次元世界最強と称される一昨年のチャンピオンで、カスミさんは…」
「セカンドシードで、昨年の都市本戦3位、ヴィクトーリア選手ですね。連続で同士討ちにならなかったとはいえ…お互い、結構ヤバい感じですか?」
「…正直、怖さはあります。でも、相手が誰であろうと、全部ぶつけて勝ちにいくつもりです。」
本当に凄い人だ、と内心思いつつ、私も頑張りますよと返した。
「皆んな〜!車で送ってくから乗ってね〜!」
『はーいっ!』
「アインハルトさん、お互い準決勝で会いましょうね。」
「ええ、勿論!」
グッと拳を合わせて、今日はお開きとなった。その帰りの車内でのこと、既に眠ってしまった3人に聞こえないように念話で母たちに話しかける。
(ママ…私、なんだか重いもの背負ったみたい。)
(1日で5人から2人だもんね…やっぱり辛い?)
(うん、でも…それが勝負ってことでもあるから。今の私に出来るのは、勝利を目指すことだけ。次も楽しみにしててね。)
そういうと、少しだけ眠らせてと先に眠った3人に続いて目を閉じた。
(カスミ、大丈夫かな?変にプレッシャー感じてなければいいけど…)
(もし、危なそうなら明日ノーヴェに連絡しておくよ。最近、色々と頑張りすぎてるしね。)
翌朝、いつも通りのジョギングに駆けていくカスミ。しかし、今日隣にヴィヴィオはいない。敗退した3人はこの日、ノーヴェから完全オフが命じられているからだ。
(師匠は気を遣って休まないかなんて言ってくれたけど…1日も無駄にしたくない。)
とはいえ、気合いが入りすぎて空回りしたのか、この日はジョギングどころか全力のランニングになってしまい、試合翌日の体には響いたようだ。
「足がが…ランニングなんてするんじゃなかった…」
家に戻ってシャワーを浴びた後は、ママたちお手製のスペシャルモーニングを食べて、いつも通りの登校、教室では4人全員クラスメートから質問攻めにあったりとすっかり時の人である。ただ、カスミは授業を受ける中で3人との温度差を肌で感じ取っていた。
(皆んな…やっぱり…)
「カスミさん?少し上の空になっていませんか?」
「あっ…す、すみません!つい…」
「珍しいですね。でも勝ち残った選手でも、授業はしっかり受けないといけませんよ?」
「うぅ…はい…」
苦笑いしつつも、先生に注意されるのが寧ろありがたいと思う。その後はいつも通りみんなとお昼を食べて、また授業を受けて…なんて事はない、いつも通りの流れ。ただ、下校時間以降の各メンバーの行動は異なってくる。
「じゃあ私、ヴィクターさんの試合動画見て、師匠たちと対策考えてくるね!」
「うん!気をつけてね!」
「シャンテさんの分も頑張ろう!」
「あ、でもママたち心配するから、あんまり遅くまではダメだよ!」
「分かってる!じゃ、リオ、コロナ、また明日!」
3人に見送られて、ノーヴェやアインハルトと合流しようとしたカスミだが、アリアの着信音である『M87』が鳴り響いた。
「…師匠から?」
【もしもし、カスミ?】
「どうしたんですか、これからミカヤさんたちと一緒に練習じゃ…」
【結論から言うぞ、今日はもう休め。】
「えっ⁉︎」
【なのはさんから聞いたぜ?今日の朝、気合い入りすぎてジョギングどころか、ランニングしてたって? 最近、ギン姉との特訓含めてオーバーワーク気味だ。今日くらいは休んでおけ。】
「でも…!」
【カスミ、時々遊んだり、休むことも勝つために必要なことなんだ。練習一辺倒で体を壊したら元も子もない。師匠としての命令だ。いいな?】
その声色は怒り等ではなく、ひたすらにカスミの身を案じてくれているもの、それではカスミも反論のしようがない。気持ちだけでは動けないことは、自分が一番わかっていたはずだ。
「…分かりました。じゃあ明日、ミカヤさんのところで。」
【おう!また明日な。】
通話を終えると、カスミはぐるっと首を回して、この後どうするか思案するが、特に何も思いつかない。
「あ、そうだ。」
いつも皆んなと走る時、ノーヴェたちが買ってくれるアイス屋さんがあるのを思い出したカスミは、そちらへ向かうことにした。
「こんにちは〜」
「あら、カスミちゃん!今日は1人?」
「はい、練習予定だったんですけど、師匠から休むように言われちゃって。ヴィヴィオたちの分も買いたいんですけど、一ついくらですか?」
すると、店主のサーヤは4本のアイスを袋詰めして渡してくれた。戸惑うカスミに、サーヤは優しく告げる。
「カスミちゃんたちへのサービスよ。皆んなこの数ヶ月、本当に頑張ってたから。ノーヴェさんたちも楽しそうに言ってたわ、あの子たちがどんどん伸びていくのが自分たちの幸せでもあるんですって。」
「そう…ですか。ありがとうございます!」
「次の試合も頑張ってね、カスミちゃん!」
「はい!」
ご厚意に預かる形で受け取ると、カスミはアリアにお願いして、クリスの位置情報を確認する、丁度近くの砂浜にいるようだ。少し歩くと、妹の姿を視認する。
「えっと…あ、いた…皆んな一緒…」
ヴィヴィオだけでなく、リオとコロナも一緒だ。ただ、明らかに空気が違うと判断したカスミは、3人にバレないように近くの茂みに隠れる。
そして、カスミは見てしまった。声をあげて泣きじゃくる3人の姿を。負けて悔しくないはずが無い、もっと勝ちたかったに決まっている、けれど、3人とも次の戦いがあるカスミのために気を遣ってくれていたのだ。
「絶対…負けられない…!」
自分の心の奥底に、燃えるような何かを感じたカスミは、4本のうち1本を手に取ると、一気にそれを飲み込む。大好きなりんご味だが、あまり味を感じなかった。
「カスミちゃん、大丈夫?」
すると、茂みに隠れていたカスミを心配したのか、サーヤが声をかけてくれた。勿論、ヴィヴィオたちに気づかれないように小声である。
「サーヤさん、この3本…ヴィヴィオたちに渡してもらえますか?」
我儘を言ってごめんなさい、と謝るカスミに、サーヤは変わらぬ優しさで対応してくれた。
「分かったわ、ヴィヴィオちゃんたちが落ち着いたら、渡しておくわね。カスミちゃんも気をつけて帰ってね。」
「すみません、色々とありがとうございます。」
気づかれぬように、ひっそりと茂みから離れ、帰路に着くカスミ。
(必ず勝つ…誰が相手であろうと。それがヴィヴィオたちのために今出来ることなんだ!)
カスミとアインハルト、2人が挑む4回戦は3日後、果たしてどんな戦いとなるのだろうか。
原作とは違い、インターミドルのシード枠を増やしています。高校野球で例えるなら、ジークが大阪桐蔭、ヴィクターが履正社といったところでしょうか。そうするとカスミは、多分上記2強時代の金光あたりでしょうか。
次回、敗れた仲間たちの夢を背負うべく、カスミの特訓第二弾が始まります。相手は、心から愛する1人目のママです。