魔法少女リリカルなのはHERO Tの名を持つ少女   作:陽炎=蜻蛉

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一度言ったことは取り消せない、頭では分かっていても、つい口に出してしまうことがあります。それが良い方向か悪い方向のどちらに転ぶのかは明確なデータでもない限り分かりません。ただ一つ言えるのは、後者の場合、大抵は後悔と共にトラウマとなる可能性が高いと言うことです。


第3話「殺意の拳と反撃の翼」

 

 

「さあ、どうぞ入って。」

 

「お邪魔します。」  

 

「大したものはないけど…ジュースでいい?」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

なのはたちを見送った後、カスミはギンガと一緒に部屋に入っていた。綺麗好きなのか、あちこち整理整頓されており、しっかり綺麗に使おうと少し体が固くなってしまう。

 

「そんなに緊張しないで。数時間でなのはさん達も帰ってくるだろうから。」

 

「そ、そうですね。ゆっくり待つに越したことないですし。」

 

なのはのお手製ジュースもいいが、市販のものも大好きなカスミ。飲みながらふと、写真立てが目に入ったので近づいて見ると、そこには家族全員で撮ったであろう光景が写っていた。

 

「ギンガさん、この方がお母さんですか?」

 

「うん、クイント母さん。私とスバルが物心ついた頃に亡くなった。血が繋がってるわけじゃないんだけどね。」

 

「えっ…?」

 

「あっ…そうか、カスミは知らないんだっけ。」

 

ギンガはカスミに語ってくれた。自分とスバルは戦闘機人と呼ばれる、人体に機械が一部融合したサイボーグであること、天涯孤独となりかけた際に子供がいなかったナカジマ夫妻が引き取り育ててくれたこと、両親が本当の子どものように接してくれたことを。

 

「普通の人と生まれ方は違うけど、私もスバルも沢山の愛情を貰ってきたわ。もし運命が違っていたら…私もスバルも、なのはさんたちの敵になっていたかもしれない。」

 

「運命…ですか」

 

「そう。カスミはフェイトさんに出会えたから、今こうして私とお話しできてる。ヴィヴィオも同じ。なのはさんたちが保護していなければ、今どうなっていたか分からない。命あればこそ、私たちは前に進まないとね。」

 

人生とは選択の連続、時には理不尽と思われることも、自分の力だけでは越えられないことも当然起こる。それでも生命ある限り生きていかなければならない。ギンガはまた一つ、カスミに大切なことを教えてくれた。

 

「さ!難しい話はこれくらいにして、ボードゲームでもしよっか。」

 

「はい、喜んでお相手します。」

 

オセロなら負けないよ、とギンガが奥の部屋に行こうとした時だった。

 

『敵機襲来!敵機襲来!各員は直ちに戦闘態勢の準備‼︎』

 

「…思ったより早かったわね。」

 

ギンガは手にしたオセロボードを戻すと、カスミに目線を合わせる。

 

「カスミ、私も皆んなを守らなきゃいけない。避難経路は事前に用意してる。この部屋が危なくなったらすぐにこのルートで避難して。」

 

ギンガはブリッツキャリバーを使ってモニター形式の避難経路をカスミに見せたが。

 

「待ってください!私も…私も戦います!私にだって力があるんです!」

 

「ダメよ!フェイトさんと約束したの。貴方を絶対に守るって。とにかく今は逃げて!」

 

「でもーー」

 

乾いた音が響く。カスミは左の頬が熱くなるのを感じた。ふとギンガの顔を見ると、既に涙目になっていた。そして間髪入れずに抱き寄せられる。

 

「痛くしてごめんね。でも、今は自分の命を第一に考えなさい。終わったら必ず会いましょう。」

 

「…はい!」

 

カスミの頭を優しく撫でると、ギンガは走りながらセットアップして、猛スピードで戦場へと駆けていった。カスミも避難ルートに従って、全力で走っていく。

 

 

 

 

 

「3対1か…大分キツイわね。」

 

「タイプゼロ・ファースト、再度警告だ。大人しく我々についてくるならば攻撃はしない。」

 

「お断りよ。貴方達に従うくらいならここで砕け散った方がマシだわ。」

 

「テメェ…死ぬ気か?ならスクラップ手前にしてやるよ!」

 

「負けると分かっていても戦わなければならない時がある…それが今ってだけよ‼︎」 

 

「だったらアタシも参加するよ、ギン姉‼︎」

 

「スバル‼︎」

 

「これで3対2…っすね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ…ハァッ…!侵略の範囲はどこまで広がってるの…⁉︎」

 

避難ルート通りに逃げていたカスミだが、ガジェットによる魔力砲撃の嵐があちこちに襲いかかってきており、足も限界に近づいていた。

 

「安全な場所なんてどこに…」

 

周囲を見渡すと、明らかに光の漏れ出ているトンネルがあった。避難ルートも走っているうちに忘れてしまった今、頼るべきものはもはや自分の直感しかない。

 

「全力疾走ダアァァァァァァァァ‼︎」

 

太ももを強く叩いて気合いを入れると、カスミはその光の方向へ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

「スバル!まだいけるわね?」

 

「勿論!ギン姉と一緒なら、数の不利なんて覆せるよ!」

 

「まさか、これほどまでに強いとは…」 

 

「チンク姉、まじでヤバいっすよこの2人!」

 

「うるせぇぞウェンディ!回収は絶対に成功させるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ハァッ…ハァッ…もうちょい…もう少しで外に…)

 

息切れ寸前のカスミが漸くトンネルを抜けたその時だった。

 

「喰らいやがれェェェェェェェェッッ‼︎」

 

「させるかァァァァッ‼︎」

 

スバルの魔力弾と赤い髪のスバルというべき襲撃者の魔力弾がぶつかり、それが流れ弾となってカスミの前に飛んできたのだ。 

 

(えっ…………?)

 

「カスミ、危ないッッ‼︎」

 

カスミの姿に気づいたギンガはバリアを展開する余裕もなく彼女を護るように立ち塞がり、そして。 

 

 

 

 

「ギンガ…さん…?」

 

我に帰った時、カスミの体はギンガの被弾出血による返り血で赤く染まっていた。

 

「大…丈夫…?ごめんね…結局危ないところに巻き込んで…」

 

「ギンガさん!急いで…手当て…!」

 

せめて止血だけでもとカスミは着ていた服を千切ろうとしたが、ギンガがそれを制止する。

 

「ダメ…とにかく逃げて…このままじゃ貴方も攫われてしまう…お願い…」

 

「でも!」

 

カスミが言う前に、そっとギンガの右手が頬を撫でる。さっきのビンタと真逆、けれど伝える意味は同じ。

 

「カ…スミ…逃げ…て…」

 

その言葉を最後にギンガは意識を失い崩れ落ちた。

 

「ギン姉ーーーーッッ‼︎」

 

「隙だらけなんだよおおおォォッッ‼︎」

 

(しまっーーー)

 

ギンガに一瞬気を取られたスバル、そしてギンガの離脱で生まれた数的不利の拡大、その隙を襲撃者は見逃さなかった。3人の連携によって生まれた攻撃がスバルを地面に叩き伏せる。

 

「がはっ!」

 

「スバルさん‼︎」

 

声をかけるが返事がない。スバルもまた一時的に意識を失ってしまった。ギンガとは違って致命と言えるほどのダメージではなさそうだが、今はそれどころではない。

 

「大分きつかったですけど、結果的には…好都合っすね。タイプゼロが2体も回収できるなんて。」

 

「ハァッ…ハァッ…1体だけの予定だったが…予定変更だ。ドクターの手にかかれば、大きな戦力になる。」

 

「散々てこずらせやがって…!おい、そこのガキ!大人しくしてりゃ、お前は見逃してやるから動くなよ?」

 

近づいてくる襲撃者たち、助けてくれる人はもう誰もいない。下手に抵抗すれば、自分も攫われてしまうかもしれない。

 

(どうすれば…どうすればいいの…)

 

その時、カスミの脳裏に一つの光景が浮かぶ。まるで大切な存在を奪われた時にどうすればいいか、啓示するように。

 

(ああ…そうか…どうすればいいかなんて…最初から分かってたじゃん…私…)

 

3人が近づこうとした瞬間、カスミは自らの額を地面に叩きつけた。

 

「なっ…⁉︎」

 

そしてゆっくりと立ち上がり、襲撃者3人に向き直り、呟く。

 

「殺す。」

 

『アークドライバー』

 

赤い光と共に、カスミの体には再びベルトが巻かれていた。しかし今度のベルトは人命救助の時とはまるで違う、白と赤と黒だけのベルト、右手に握るは同色のキー。額から流れるのは自傷によって生まれた血。そしてカスミの瞳は…殺意に満ちた赤に染まる。

 

『アークワン!』

 

周囲が赤いオーラと解読不能な黒の文字で満たされていく。その中でカスミは静かに宣言した。

 

「変身。」

 

『シンギュライズ!

破壊…破滅…絶望…滅亡せよ…!

コンクルージョン・ワン!』

 

 

 

「なんだ…⁉︎ 急に姿が…!」

 

「カス…ミ……?」

 

ノックダウンの衝撃から意識が戻ったスバルは見た。全身から殺意を迸らせる外装を身に纏ったカスミの姿を。

 

だが、襲撃者たちにとって殺意しか感じさせないカスミの表情は、3人に恐怖という感情を芽生えさせた。それに目もくれず、一歩ずつ近づくと同時に叩きつけるようにベルトのボタンを押し続けるカスミ。

 

『悪意』『恐怖』『憤怒』『憎悪』『絶望』『闘争』『殺意』

 

「マズイ!皆んなシールドを!」

 

「スバルさんとギンガさんの仇だ…!」

 

『パーフェクト・コンクリュージョン・ラーニング・セブン』

 

「砕け散レェェェェェェェェッッッッ‼︎‼︎」

 

大地に振り下ろした右拳から放たれた赤黒い衝撃波は、展開したシールドを粉々に破壊した上で襲撃者3人に襲いかかった。

 

 

「グアアアアッッッ⁉︎」

 

「い、息が…出来っ…⁉︎」

 

「何だ…コレ…は……⁉︎」

 

『パーフェクト・コンクリュージョン』

 

 

襲撃犯3人は、襲いかかる地獄のような激痛に苛まれ、断末魔の絶叫を上げた後に地に臥した。時間にして僅かに10秒。

 

「地獄へ…堕ちろ!」

 

カスミは倒れたナンバーズたちを憎しみを込めて蹴り飛ばすと、スバルの方へ視線を向けた。

 

「…スバルさん、ギンガさんをお願いします。今ならまだ間に合います。」

 

「ま、待って…!」

 

スバルの声に返答する間も無く、カスミは空中へ高く飛び立っていく。

 

「殺す…!殺す…!コロスッッッッ‼︎‼︎」

 

ヴィヴィオはどこだ、奴らの仲間はどこだ、見つけ次第仲間は皆殺しにしてやる、全員に地獄を見せてやる、最早殺意だけに支配されたカスミは、もう一度ボタンを押そうと手を伸ばすが。

 

「うっ…⁉︎」

 

全身が痺れるような感覚が襲い掛かった。それでも強引に右腕を動かそうとしたカスミだったが、今度はドライバーが異音を立てて消えた。

 

(変身…が…っ!)

 

ドライバーが消滅したことで、変身は強制的に解除されてしまった。そして、先ほどカスミは空中に浮遊している途中。

 

「ーーーーーーーッッッ⁉︎」

 

高高度からの落下の恐怖、死への絶望、全てを認識する前に、限界を迎えたカスミの意識はプツリと途切れた。

 

「カスミーーーーーーーーッッ‼︎」

 

もう助けに行くだけの力も残っていないスバルの悲痛な叫びも虚しく、その肉体は海へと落下していった。

 

 

 

 

 

「馬鹿な…私の最高傑作たちがいとも簡単に…⁉︎」

 

全てを見ていたスカリエッティは戦慄した。自分が殺されるかもしれないという恐怖からではない。自らの技術の全てを、画面の前の少女はたった一撃で否定したのだ。

 

「ドクター、残念ですが3人は見捨てましょう。丁度向こうの主力勢が戻りますし、ゆりかごの鍵は回収できましたので。」

 

「あ…ああ…そうだな。残念だが…」

 

(全くタイプゼロの回収もできないなんて、使えない連中だこと。あの力は気になるけど、長く保たないなら我々の脅威になるはずもない。)

 

思考を回すクアットロだが、その足が震えていたことに気づくものは本人を含めて誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「酷い…あちこちやられてる………えっ………」

 

敵勢力の撤退後、周囲の捜索にあたっていたフェイトは、砂浜に倒れている少女を捉えた。

 

「まさか……ッ!」

 

急接近し抱き抱えた少女は間違いなく。

 

「カスミ!しっかりして!カスミッ!カスミーーーーーーッッ‼︎」

 

即座に救難信号を飛ばし、駆けつけた医療班の手でカスミは搬送されていった。

 

 

 

被害状況

・地上本部:壊滅

・負傷者多数(死亡者は0)

・行方不明者:1名

 

この日以降、機動六課は戦艦アースラに拠点を移し、反撃に向けての作戦を練ることとなる。

 

 

 

 

「フェイトちゃん、ヴィヴィオもカスミも…」

 

「うん…こんなことになるなんて…」 

 

機動六課に戻ってきた2人の母は、目の前が真っ暗になりそうな精神状態であった。ヴィヴィオは敵組織に連れ去られ、カスミはまた病院送り、とても正気を保てる状況ではない。

 

「あの、なのはさん、フェイトさん…ちょっといいですか?」

 

「スバル…」

 

「どうしたの?」

 

「2人にもちゃんと知っておいてほしいんや。カスミがどうして倒れていたのか。スバルが全部教えてくれた。」

 

「はやてちゃん…」

 

別室へと移動した一同の前で、スバルのマッハキャリバーを解析した映像が映し出される。

 

「これが…カスミ…?」

 

「嘘…嘘だよ…こんな…」

 

「ギン姉が倒れた直後にカスミの姿が変化したと思ったら一瞬で…」

 

そこには、圧倒的な力を以って襲撃者3名を叩きのめしたカスミの姿が映し出されていた。いつもの彼女の姿とはかけ離れている。

 

「3名だけ拘束できたのはカスミが頑張っていたからや。ただ…」

 

「その後、アタシにギン姉を託して、声をかける間もなく飛び立ったと思ったら…」

 

映像は変身が解けたカスミが海に落下するところで終わっていた。

 

「カスミの容態は…?」

 

「大丈夫。先生曰く、額の負傷以外は特に問題無いみたいや。ついさっき、目を覚ましたって連絡があったで。」

 

ほっと胸を撫で下ろす一同。しかし、ヴィヴィオが連れ去られたことを知ったらカスミの精神は保つだろうか。

 

「私…病院に行ってきます。」

 

「フェイトちゃん、私も行くよ。」

 

言うが早いか、2人は病院に向かっていった。

 

「スバル、ギンガの方はどうや?」

 

「カスミのおかげでなんとか間に合いました。ただ…当分は戦線離脱だって…」

 

「そうか…色々と皆んなに背負わせてしもたな…堪忍や…」

 

はやてもまた涙を堪えていた。大勢の命が危険にさらされたにも関わらず、何も出来なかった自分への情けなさゆえに。

 

 

 

10分とかからず、病室へとやってきた2人。頭に包帯を巻いたカスミは、ずっと外を眺めていた。 

 

「カスミ…」

 

「…何しに来たの?身体のことなら平気。別にどこも痛くないし。それに…見たんでしょ二人とも、昨日の私を。」

 

余りにも冷たい声。そこに内在するのは怒りか悲しみか、或いは。

 

「どう、フェイトママ? 殺意の塊だった私の姿は。やっぱり私は、誰一人守れないし、みんなを傷つけることしかできない。ああ…でもそれはママたちも一緒だよね。ヴィヴィオを守ってくれなかったんだから。」

 

顔を向けた時、母達は愕然とした。瞳から光が消えている。まるで絶望の色をした瞳。それは初めて会った時に戻ってしまったかのようで。これが、先日まで弾けるような笑顔で暮らしていた少女の姿だと誰が分かるのだろう。

 

「カスミ…!でも!」

 

「もう帰って!信じてたのに!絶対守るって約束したのに!嘘つき‼︎ 大っ嫌い‼︎」

 

溜まっていた感情が爆発し、何もかも遮るようにカスミは大好きな母たちさえも拒絶して、ベッドを被ってしまった。

 

どれだけ大人らしく見えても、カスミはまだ子ども。絶対に守るという約束を破った、その事実は幼い彼女にとって大きすぎた。その姿を前にしては、二人もただ引き下がる他なく。

 

「ごめんね…ごめんね…カスミ…!」

 

去り際のフェイトの声は今にも泣き出しそうなほどに震えていた。それを支えるようになのはに連れられて去っていった。

 

二人が去った後、看護師が心配して病室に入ろうとした時、彼女は聞いた。噛み殺すような泣き声を。

 

「ぐっ……‼︎ なにが…!何が姉だ……‼︎ 」

 

 

 

 

 

アースラに戻る道中、2人の母は約束を交わした。

 

「フェイトちゃん、必ず、必ずヴィヴィオたちを助けるよ。」

 

「勿論…ちゃんとカスミに謝れるように、必ず決着をつけてみせる。」

 

その後、はやてが中心となって立案された作戦の決行日時は翌日の昼と決まった。昨日撃墜されたスバル、エリオ、キャロも戦線復帰し、チームスターズ・ライトニングは全員が揃うことになる。

 

 

 

 

その日の夜、何とか歩けるようになったギンガは、スバル伝でフェイトからの手紙を受け取った。

 

「これは…カスミ宛の?」

 

「うん、今の様子じゃきっと受け取ってくれないだろうからって。」

 

「分かったわ。あの子もきっと今、後悔してると思う。」

 

「え?」

 

「看護師さんから聞いたの。2人が帰った後、ずっと泣いていたんだって。ママ達に大嫌いなんて言ってしまったこと…」

 

「…そっか。じゃあ、アタシはそろそろ帰るね。」

 

「あ、待ってスバル!」

 

振り返ったスバルにギンガは自らのデバイス、ブリッツキャリバーを手渡した。

 

「母さんと私の思いも一緒に、暴れてきなさい!」

 

「ギン姉…!ありがとう!」

 

 

 

 

迎えた翌日、作戦決行の合図と共に戦士達は飛び立っていった。制限は一切なし、全員が全力全開の状態で突撃していく。  

 

「………………」

 

カスミはその光景を病院の屋上から座って眺めていた。既に身体は十分に動くと自分では分かっている、しかし精神は完全に乱れていた。大好きな母達を罵倒し追い出したのだ。その罪悪感がカスミを動けなくしていた。そこへ。

 

「カスミ!」

 

「ギンガさん…もう大丈夫なんですか?」

 

「ええ、カスミが守ってくれたおかげよ。改めてありがとう。」

 

「…私は奴らをを殺すつもりで変身しただけですよ。結果的にはお二人を守れましたけど…」

 

声もいまだに暗いままなカスミを見て、ギンガは隣に座ると、フェイトからの託されたものを渡した。

 

「これ、フェイトさんから。もしカスミがママたちのこと嫌いじゃなければ、ちゃんと読んであげなさい。」

 

「手紙…?」

 

訝しげにそれを開いたカスミ、そこに記されていたのは。

 

 

 

〜カスミへ〜

 

これからママたちは、ヴィヴィオや攫われた人たちを全員取り戻してきます。でもその前に、ママからカスミに伝えたいことがあります。本当は直接会って話したかったんだけど、無理に入ってカスミに嫌な思いはさせたくないから、今回はお手紙で伝えるね。

 

カスミ、昨日言ってたよね?自分には守る力なんて無い、傷つけることしか出来ないって。でもそれは違うよ。カスミはあの時、必死でスバルとギンガを守ってくれた。もしカスミがいなかったら、スバルやギンガだけじゃなく、他の人たちも危なかったかもしれない。皆んなを助けてくれて、ありがとう。

 

あと、スバルから聞いたよ。先日の火災事件で女の子とお母さんを助けたんだよね。無茶をしたのをママたちに叱られるのがイヤだから内緒にしてって言ったみたいだけど、私もなのはも嬉しかったよ。貴方は立派なヒーローだって、ママたちは誇りに思っています。

 

最後に、ママからカスミに一つだけお願いがあります。この戦いが終わったら皆んなで美味しいご飯、沢山食べようね。カスミが皆んなを守ってくれた分、あの時ママたちが約束を守れなかった分、全員で戦ってくるからね。

 

大好きだよ、カスミ。   フェイトより

 

 

 

「…フェイト、ママ…」

 

手紙は既に字がふやけていた。カスミの涙が止まらない。あれだけ酷いことを言って突き放した後悔を包み込むように、フェイトの愛情がカスミの精神に浸透していく。そして目を閉じると、そこには新たな決意が炎の如く揺らめいていた。

 

「ギンガさん…私、行きます。ゆりかごに。」

 

両頬を叩いて目を開いた時、その瞳には光が戻っていた。もう、絶望に堕ちていた姿はどこにもない。

 

「…本当に行くのね?向こうは戦場よ?」

 

「分かってます。でも、今私がやるべきことは…ここで待つことじゃないんです。」

 

カスミは迷うことなく、頭の包帯を取り外した。まだ傷は完治しておらず、額の傷跡も痛々しいが知ったことではない。

 

ギンガは困ったなという感じに苦笑いした。

 

「ホント、そうやって無茶するところ、私を含めて、みんなに似ちゃったのね。でも…ここで止めたって聞かないわよね。もしスバルがピンチになったら、私だって飛び出すと思うから。」

 

カスミは一礼すると、少しギンガと距離をとった。そして胸に手を当てて、祈る。

 

「お願い…私にもう一度…力を貸して!」

 

力が無ければ大好きな妹を助けられないというのならば、何度だってこの身を捧げる。その覚悟に、カスミの内に眠っていた力は、ベルトとマゼンタのキーアイテムを生成する事で応えてくれた。

 

『ウィング!オーソライズ!』

 

ボタンを押すと、病院の上空からマゼンタ色の隼が飛来してきた。即座にキーを水平に伸ばして叫ぶ。

 

「変身‼︎」

 

『プログライズ!

 

Fly to the sky!フライングファルコン!

"Spread your wings and prepare for a force."』

 

マゼンタ色の外装を身につけた姿に変化した後、カスミはギンガの方へ視線を向け短く、しかしハッキリと伝える。

 

「行ってきます、ギンガさん。」

 

「行ってらっしゃい!必ず、必ず帰ってきてね!約束よ!」

 

「はい!」

 

勢いよく駆け出すと、ゆりかごに向けて空高く羽ばたいていった。

 

「待ってて…ヴィヴィオ‼︎」

 

 

 

ゆりかご軌道ポイント到達まで1時間57分

 

 




JS事件1日目の戦い、如何でしたか? 

ギンガとスバルがナンバーズ3人と戦闘したら間違いなく互角以上に戦えると考え、また敗北するとしたら姉妹の連携が崩れた時だろうということで、今回はこのような展開となりました。また、アークワンの必殺技を滅亡のラーニングエンドではなくセブンで止めたのは、タイトルの通り殺意による力がどれほどか表したかったのが理由です。

さて、次回戦場に降り立つカスミ、行き先はスカリエッティと激突したフェイトの方か、それともなのはがいるゆりかごの玉座か、それではまた次回お会いしましょう。
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