魔法少女リリカルなのはHERO Tの名を持つ少女 作:陽炎=蜻蛉
(ここは…どこ…?)
気がつくと、カスミがいたのは真っ白な空間に幾つもの数字が動いている光景だった。
「ここは人工知能ゼアの内部だよ。立てる?」
呼びかけと共に差し出された手。それを握ったカスミが見た顔は。
「あなたは…!」
カスミは知っている、この青年のことを。そしてカスミは瞬間的に思い出す。今まで自分が想像から生み出した力は全てこの人の変身した姿に通ずることを。
「初めまして、カスミちゃん。イズから話は聞いた。本当は色んなことを聞きたいけど、今はそれどころじゃないよね?」
青年が映像モニターを開くと、そこに映るのはドライバーを介しての戦闘映像。なのはは未だヴィヴィオと戦っている。
「なのはママ…!」
「まさかヘルライズキーを自分から生成するとは思わなかった。それだけヴィヴィオちゃんを助けたかったんだね?だいぶ無茶してたみたいだけど…」
「でも私…結局何もできなかった…ヴィヴィオを助けるために必死でやったけど…やっぱり想像だけじゃ…足りなかった…!」
悔しさに震えるカスミ。そんな彼女の左手をナビゲーターのような格好をした女性がそっと包む
「それでも貴方は全力で戦いました。大切な存在を守るために。それは絶対に揺るがない事実ですよ、カスミ様。」
「イズ、ドライバーの準備は大丈夫?」
「はい、100%カスミ様が安全に稼働できるよう、また戦闘後は自動的に社長に返却がされるように調整済みです。」
「OK!」
青年は笑みを浮かべると、2人の会話の意味を今ひとつ図りかねているカスミに告げた。
「カスミちゃん、俺とイズで創り出したこの力で、ヴィヴィオちゃんを助けるんだ。今の君なら必ず使いこなせる。」
「どうしてそこまで…」
「俺は沢山の人を笑顔にしたいんだ。だから、目の前で悲しんでいる人たちを放っておけない。ここで倒れたら、君はずっと後悔すると思う。だから助けたいんだ。」
その言葉には強く固い信念が感じ取れた。幾千もの戦いを乗り越えてきた彼だからこそ、その言葉には重みがあった。
「社長、時間がありません。カスミ様、どうぞこちらを。」
イズと呼ばれる女性から手渡されたのは、新しいドライバーとキー。カスミは確かにそれを受け取った。
「カスミちゃん、最後に一つだけ聞かせて。君の夢を。」
カスミと目線を合わせた青年の問いかけに、カスミは笑顔でハッキリと宣言する。
「私の夢は…家族全員でまた笑って暮らすことです!」
直後、カスミの意識は急激に落ち始める。最後に聞こえたのは、青年の面白くないギャグとイズの解説だった。
(はは…やっぱり社長のギャグは…)
「私…は…」
目を覚ましたカスミは、体に新しいドライバーが、右手には新しいキーがあることに気づいた。なぜ再びこうなったのかは分からない。けれど、目の前でなのはとヴィヴィオは必死に戦っている今、やることは決まっている。
「まだ…戦えるんだね…私。」
なすべき事はただ一つ。愛する妹を助ける事。そのためなら、何度だって跳べる‼︎
『ゼロツージャンプ‼︎』
『Let’s give you power! Let's give you power!』
キーの展開と同時に、ゆりかごの天井を突き破って、2匹の巨大なバッタが姿を現した。
『カスミ⁉︎』
それは、攻撃と防御に必死になっている二人が思わず動きを止めるほどの光景。
「変身‼︎」
『ゼロツーライズ!』
『Road to glory has to lead to growin'path to change one to two!』
『仮面ライダーゼロツー!it's never over.』
身に纏ったのは、黄色と赤を基調とした外装、首元に巻かれた真紅のマフラー。そして見開かれた瞳の色は赤、だが殺意に満ちていたあの時とは違う、絶対にヴィヴィオを助けるという決意に連なる情熱の焔の色。
「なのはママ、大丈夫?」
「はは…カスミこそ…くっ…!」
防御一辺倒の戦いを強いられ、ブラスターモードを気合いで維持してきたなのはの体力も限界が近づいていた。
「なのはママ、少しだけ休んでて。私もヴィヴィオとお話ししたいから…姉として!」
言うが早いか、カスミはヴィヴィオに向けて真っ直ぐ駆け出す。
「ダメ!カスミ!来ちゃダメエェッッ‼︎」
悲鳴を上げるヴィヴィオから放たれた魔力弾、対してカスミの眼前に無数の可能性から連なる選択肢が表示される。
(弾き飛ばしながら背面キック!)
無数の予測結果から弾き出された結論は、カスミを思い通りの結果に導いた。
「なっ…⁉︎ うわあっ!」
ヴィヴィオの視点からすれば、カスミが魔力弾を弾き飛ばしたと同時に後ろから凄まじい速度のキックが飛んできたのだ。
(出来た!これならいける!)
自分の思い通りに体が動く。予測した通りにヴィヴィオが攻撃し、それに対して無数の選択肢を同時に幾らでも選ぶことができる。将棋で例えるなら、向こうが一手動く間に十手かつ毎回最善手を打つことができるのだ。
「ヴィヴィオ!絶対に助けるよ!」
「ダメなの…止められない!」
「いいえ絶対に止めてみせる‼︎」
そしてヴィヴィオが纏う聖王の鎧は、魔王と呼ばれたなのはの砲撃すら、まともにダメージを通さないほどの頑強さを誇るが、駆動路がヴィータによって破壊された今、もう変換術式は使えない。
『ゼロツーインパクト‼︎』
「オオオオリャアァァァァッッ‼︎」
頑強な鎧であるが故にノックバックなどの機能は無いのか、ヴィヴィオは目にも見えない速度で繰り出される無数の攻撃の前に、遂に片膝をついた。
「ぐっ…!」
「散々ボコボコにされた分は、これで許してあげる。」
「このまま…私を倒して…」
「それは無理だよ。お返しはしても、私の目的は貴方を倒すことじゃないから。」
この力も後どれくらい持つか分からない。今はアドレナリンが全開の感覚も合わさって最高潮だが、この状態がずっと続く保証もない。
「どうして…どうして、そんなにボロボロになってまでヴィヴィオを助けようとするの…?」
「決まってるじゃない、お姉ちゃんだからだよ。」
「カスミは…知らないよね、私が生まれた目的。なのはママたちは、きっともう皆んな知ってる。ここに来て、全部分かったの。」
「目的…?」
ヴィヴィオは語る。自分が遥か昔の人物のクローンであり、望まれたのは人としてではなくゆりかごを動かす器としての役目であったこと。本当の母などおらず、なのはやフェイトに懐いていたのは魔法のデータ収集のためだったこと。
「結局私は…作り物の身体と偽物の記憶を持った…ただのコピーでしかなかった!」
「…それは違うよ。」
「違わないよッッ‼︎」
否定の叫びと共に放たれた魔力砲撃、再度選択して対応しようとするカスミだったが。
(…ッ⁉︎ やばい!)
肉体の疲労ゆえか選択通りの行動を取れず、ヴィヴィオが放ったバインドに拘束されてしまう。このままでは砲撃は直撃…しかし。
「レイジングハート!」
『了解。相殺します!』
なのはが放った魔力砲撃が見事に直撃を防いでくれた。
「助かった…ありがとう、なのはママ。」
「こちらこそだよ。カスミのおかげで少し休めた。もう大丈夫!」
口ではそう言っても、2人の身体はもう傷だらけである。何度も無理をして、何度も倒れて、その度に立ち上がってきた。その姿にヴィヴィオの心は限界に達していた。
「もうやめて……私なんか見捨てて逃げて…!コピーの私に生きる価値なんて無い!私は…っ!私は…っ!この世界にいちゃいけない子なんだよっっ‼︎」
瞬間、カスミの体は動いていた。予測ではなく、本能で動いていた。
「嫌…来ないで…!来ないでェェェェッッ‼︎」
自分の意思では止められない攻撃を強引にかき消し、ヴィヴィオに急接近すると、繰り出された拳を完全に受け止める。
「悲しいこと…言わないで…!出自だの目的だの、そんなものにずっと囚われないで!」
「だって…!私は…!」
「ヴィヴィオにも自分の心があるじゃない!自分の意思があるじゃない!今必死で運命と戦ってる貴方が…作り物なわけ、ないじゃない……‼︎」
「……ッッ‼︎」
「私たち…皆んなで約束したでしょ? 帰ってきたらみんなでご飯食べようって。あ、でもピーマンは食べてあげないからね?」
「ヴィヴィオ…生まれ方が違っても、今のヴィヴィオは、そうやって泣いてるヴィヴィオは、偽物でも作り物でもない!」
なのはとヴィヴィオが一緒に過ごした時間は決して長いわけではない。親が見つかるまで守り抜く、なのはにとって初めはその認識だった。けれどその短い時間の中で、どれだけの大切な思い出が紡がれただろう。
「甘えん坊ですぐ泣くのも、転んでも1人じゃ起きられないのも、ピーマン嫌いなのも、私が寂しい時に良い子ってしてくれるのも…全部、私の大事なヴィヴィオだよ!」
ピクニックで一緒に食べたサンドイッチ、眠る前にした思い出話、そして…あの日交わした約束。気が付けば芽生えていた、母としての愛情を、今の己の気持ちを、ぶつけていく。
「だから!だから…生きる価値が無いなんて、いちゃいけない子だなんて…言わないで!ホントの気持ち…ママたちに教えて?」
なのはは1人の母として、心から愛する娘に問いかける。そして、ヴィヴィオが出した答えは。
「私は…なのはママも、フェイトママも、カスミも…皆んな大好き!大好きだから…ずっとずっと、一緒にいたい!ママ…お姉ちゃん…助けて……ッッ‼︎」
返ってきたのは、大粒の涙を流すヴィヴィオの心からの叫び。それを受け取った二人は少し笑みを浮かべると。
「OK!絶対に助けるよ!」
「うん…いつだって…!」
『どんな時だって‼︎‼︎』
二人の声が合わさったとほぼ同時、なのはのレストリクトロックが彼女の動きを一時的に制限する。それに合わせてカスミがなのはに最終作戦を共有した。
「なのはママ、私がさっきの右ストレートと同じ要領でレリックを抽出したら、私ごと撃ち抜いて!」
「カスミ…!」
それは、迷いなく告げられた捨て身の作戦、だがカスミの覚悟などとうに決まっているであろう笑顔を見れば、なのはの答えもまた一つしかない!
「…了解!2人ともちょっとだけ…痛いの、我慢できる?」
「うん…!」「当たり前だよ!」
『ゼロツービックバン!』
瞬間、カスミの体は空高く跳ね上がった。
「狙いはヴィヴィオの体内レリック一点のみ!」
砂浜で終わるはずだった人生を、もう一度始めさせてくれた愛する1人目の母、厳しくも温かい愛情をくれた2人目の母、心から愛する可愛い妹、そしてこれまで出会った人たちへ、感謝も、謝罪も、愛情も、全ての想いをこの一撃に込めて。
「ハアァァァァァァァァッッ‼︎」
『ゼロツービックバン!』
放たれた蹴り技は一ミリの誤差を起こすことなくレリックの抽出に成功する。
「なのはママ!ぶっ飛ばせェェェェェッッ‼︎」
「全力全開‼︎」
そして、カスミの叫びに応えるように、なのはもまた全てを込めた一撃を放つ。
「スターライト・ブレイカーーーーーッッッッ‼︎‼︎」
剥き出しとなったヒビ入りのレリックをなのは渾身の必殺砲撃が捉え、今度こそ粉々に破壊する‼︎
「ウアアァァァァァッッッ‼︎」
ダメージは尋常ではない。ヴィヴィオの悲鳴を、苦しみを和らげるようにカスミはその体を抱きしめた。
砂塵が巻き上がるゆりかご内部で、殆どの力を使い果たしたなのはは、レイジングハートを杖代わりにして立ち上がると、何とか歩を進める。
「ヴィヴィオ…カスミ…!」
目の前には爆心地を思わせるほどの巨大なクレーターは相当な威力を思わせる。それでも2人が生きていることを信じて、何度も名前を呼ぶなのは。すると。
「待って!来ないで!」
「ヴィヴィオ⁉︎」
「自分で立つって…約束…したから…」
砂塵が消えた時、2人は元の小さな姿に戻っていた。ヴィヴィオが岩を頼りに何とか立っているのを見て、必死に体を動かそうとするカスミだが、こちらは立つことすらままならない。
「立て…る…?カス…ミ…」
「ハァっ…ハァっ……ごめん、ちょっと無理かも…はは…最後の一欠片まで使い切って…あれ…?」
気づけば、ドライバーもキーも姿形を消していた。まるで最初から無かったかのように。だが後悔はない。力を失った代わりに、かけがえの無い大切な存在を守ることができたのだから。
とはいえ、ずっと立てないのはまずいと思っていると、目の前に手が差し伸べられる。
「カスミ…一人じゃ…ダメでも…」
「ヴィヴィオ…」
転んで泣きじゃくっていた彼女に手を差し伸べたあの時。記憶を消されても、心身を滅茶苦茶にされても、ヴィヴィオはカスミの言葉を覚えていてくれたのだ。
「そうだね…二人なら…きっと出来る…!」
最後の力を振り絞って手を掴むと、ゆっくりと、弱々しい動きながらも立ち上がる。なのはは涙を止める暇もなく駆け寄ると、二人を強く、強く抱きしめた。もう二度と大切な娘たちをこんな悲しい目に遭わせないという想いを込めて、強く、強く。
その後、危うくゆりかご内に閉じ込められかけるなのは達だったが、駆けつけたスバルたちの奮闘により無事に全員が救出され、カスミはその道中で、無事にフェイトたちと再会することができた。
『カスミ!』
「フェイトママ!エリ兄!キャロ姉!」
3人の顔を視認した途端、カスミの瞳から大粒の涙が溢れた。あれだけ冷静な見立てをし、最後は気合いで戦い抜いた戦士の顔とは思えない。けれど、彼女もまた一人の少女なのだ。
「ごめんなさい…!勝手なことして、無茶してごめんなさい…!」
「大丈夫…!何も怒ってないよ…!無事に帰ってきてくれて、ありがとうカスミ…‼︎」
何度も病室での件や勝手に抜け出したことを泣きながら謝るカスミを、無事でいてくれて良かったと泣きながら抱きしめるフェイト。その姿にエリオやキャロも涙した…のは良いのだが。
「あの…フェイトママ、前よりもっと沢山の人に抱っこ見られちゃってるんですが。」
「ダメッ!我儘は聞きません!一杯悪い子だったんだから!」
「カスミ、今は言うこと聞いといた方がいいよ?」
「そうそう、私たちもすご〜く心配したんだからね?」
過保護がより加速していそうな号泣中の母に、勝手に出撃して無茶をしたことを優しく咎める兄と姉、正直恥ずかしいが、これも頑張ったご褒美と思うことにして、存分に甘えるのだった。
〜カスミのその後〜
退院後、フェイトとの養子縁組が成立したことに伴い、カスミ・テスタロッサ・ハラオウンと改名、正式な親子の関係を持つこととなった。
その後ヴィヴィオと同じ魔法学院に入学し、魔力運用等の基礎を学びつつ、将来はフェイトと同じ執務官となることを夢見ている。
そして、さらに月日は流れ…
「さて…それじゃ、今日も行きますか!」
「カスミ、ちゃんと水着入れた?今日水泳の授業だけど。」
「げっ!ごめんヴィヴィオ、助かった!」
「にゃはは…どっちがお姉さんか分からないね?」
「むうぅ…いつもはちゃんとしてるもん。」
4年生となった2人は、今日も登校前の準備をしていた。JS事件から数年の時が経過し、家族4人での暮らしが実現している。
「はい、カスミ。慌てて溺れたりしないようにね?」
「ありがと!よし…改めて準備完了!じゃあママ!いつものやろう!」
「うん、二人ともおいで?」
なのはの呼び声に合わせて、ヴィヴィオはなのはと、カスミはフェイトとハグを交わした。今日も元気に頑張れるように、そんな願いを込めてのおまじない。
「充填完了!」「今日も一日頑張ろう!」
「じゃあ2人とも、行ってらっしゃい!」
「今日はまっすぐ帰ってきてね〜!」
『はーい!行ってきま〜す‼︎』
母達に見送られて、仲良し姉妹は元気に大地を駆けていく、きっとこれからも。
JS事件編、これにて終幕です。冒頭の或人やイズとの会話が現実か、カスミの想像のどちらなのかは、読んでいただいた皆様に判断をお任せします。
さて、カスミは自身が持つ力を最後まで否定されなかったことが、最終決戦での活躍に繋がりました。それは母であるフェイトだけでなく、ギンガやスバル、カスミの頑張りを見ていた人たちのおかげでもあります。
「いい仕事は誰かが必ず見ていてくれる」
私が尊敬する野村克也氏の師、評論家の草柳大蔵氏の言葉です。カスミの物語を書き直すにあたって、この言葉を一つのテーマとしたいと思い、無事1つの章を書き終えることができました。
これで、STSの物語は終幕ですが、次回からはvividの世界に舞台を移し、新しい物語を始めようと思っています。カスミとヴィヴィオ、この姉妹を中心に始まる世界を今しばらくお待ちいただけると幸いです。
それでは、ここまでお読みいただいた皆様、ありがとうございました!