魔法少女リリカルなのはHERO Tの名を持つ少女 作:陽炎=蜻蛉
ノーヴェの夢
『…………』
カスミ・T・ハラオウンは帰り道、途中のエレベーターに閉じ込められていた。隣にいるのは、愛する妹、ヴィヴィオにストライクアーツを教えているノーヴェ。そう、JS事件の際、カスミが怒りのままにフルボッコにした1人である。
「し、修理の方、10分くらいだそうですよ…?」
「そ、そうか…ずっと閉じ込められるよりマシだな…ハハ…」
今でこそ、更生組のナンバーズ達はそれぞれの場所で頑張っている。勿論、ノーヴェもその一人であるのは言うまでもない。ただ…
『気まずい……』
カスミからすれば、散々に痛めつけたことが尾を引いているし、ノーヴェにしても色々と迷惑をかけたことが重荷となって、お互い会話らしきものも出来ずに時間だけが過ぎていた。すると…
「…ヴィヴィオは、どうですか?格闘技、楽しくやれてますか?」
「あ、ああ!荒削りなところもあるけど、順調に上手くなってるよ。」
「良かった……あの子、いつも楽しそうに貴方とのトレーニングの話してるから、聞いてる私も嬉しくなるんです。」
「…そっか。カスミも一緒にやらないのか?」
ノーヴェの何気ない質問。妹大好きのカスミからすれば、一緒に始めていてもおかしくないのだが。
「…怖いんです。最初は楽しくても、いざ戦いになって追い込まれた時に、あの日みたいなことが起きたらと思うと。」
「お互い、大分トラウマになっちまったな…アタシ達はもう何とも思ってないから気にすんな…って言っても無理、だよな。」
「あはは…私もナンバーズの皆さんのこと、もう変に思ったりしてないんですけどね…どうしたものやら…」
アークワンとなった時、カスミは殺意のままにノーヴェたちを叩きのめした。次の目的が決まっていたために、殺すまでには至らなかったが、もし一歩間違えていれば。そんな恐怖ゆえにカスミは一歩引いていた。
再び訪れる沈黙、今度はノーヴェが口を開く。
「アタシはさ、楽しそうに練習してるヴィヴィオたちを見ていて、羨ましくなる時があるんだ。」
「戦闘機人…だからですか?スバルさんは参加しなかったって言ってました。」
「半分正解。確かに選手として参加はできないけどそれ以上に…一緒に競い合える同年代の友だちがいるのが羨ましい。」
「……友だち。」
「もし、チビ達に格闘技を教えることが、戦うことしか選択肢が無いと思っていたアタシ達を救ってくれた、ナカジマ家の皆んなへの恩返しになるなら、今の仕事を続けてもいいのかなって思うんだ。そしていつか、チビ達と一緒に頂点まで駆け上がりたい、それがアタシの夢なんだ。」
すると、止まっていたエレベーターが漸く動き出し、無事にドアが開く。
「ま、何にせよ生きてる限りは前を見たほうが絶対楽しいってことだな! じゃあ、アタシは先に失礼するぜ。」
ノーヴェが笑顔で発した言葉、そしてその大きな背中にハッとなるカスミ。その姿はまるで、かつてのギンガのようだった。
「あの…ノーヴェさん!」
初めて、カスミがノーヴェを名前で呼んだ。
「私にも…格闘技を教えてもらえませんか?」
「いいのか…?怖いんじゃないのか?」
「怖いですよ、今も。でも…いつか本番で、ママたちが見ている前で、ヴィヴィオと真剣勝負がしたいんです!」
カスミの脳裏に浮かんだビジョンには、決勝戦で対峙する姉妹の姿があった。見守る母達、大歓声が上がる中で笑う、ボロボロの二人、そして最後の力を振り絞って二人は激突するーーそんな光景。
「良いんだな?アタシの練習は厳しいぜ?」
「ハハ…望むところです!」
覚悟を示すように、カスミは拳を突き出す。ノーヴェはニッと笑うと、拳を突き合わせた。
「これからよろしくな、カスミ!」
「はい!」
あの日の痛みを乗り越えて。いつか夢の舞台で大好きな人と競うために。
「あ、でも教えてもらうのにノーヴェさんってのもアレですし、これからは師匠って呼ばせていただきますね!」
「師匠はやめてくれ…そんな高尚じゃねえ…」
「じゃあ先生!」
「だああもう!そんな敬われても何も出さないからな〜!」
…まだ少し時間はかかりそうである。
記念すべき初回はコーチであるノーヴェとのお話でした。StS編とVivid編での変化が最も大きいのは彼女で間違いないでしょう。常に教え子達のことを第一に考え行動する彼女が、後にジムを設立するほどに規模を拡大できたのも頷けます。
次回は、カスミが兄姉と慕うエリオ、キャロとのお話です。では、またお会いしましょう。