魔法少女リリカルなのはHERO Tの名を持つ少女   作:陽炎=蜻蛉

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最近、自律神経を整える音楽を出勤前に聞いています。そうでもしないと苦しいからです。と思っていたら今度は子守唄のASMRにハマりそうです。戻れるなら小学校からやり直したい。


母として

 

『寛容の心…心を…大きく持ちなさい…自分の…時間…自分の…人生に…』

 

「うえぇん…グリーン先生…」

 

「よしよし…お鼻チンして。」 

 

「なのはママもヨシヨシ…」

 

「にゃはは…ありがとう、ヴィヴィオ。」

 

ボロボロ泣いているカスミと、ホロリと涙を見せるなのはにティッシュを渡しつつ、抱き寄せるフェイト。今日はあいにくの雨ということで、夕ご飯の後、皆んなで海外ドラマを観ていたのだが、主人公が脳腫瘍で亡くなるシーンでカスミが大号泣したので、慌てて慰めている最中である。

 

「最後にレイチェルと仲直りできて良かったね…本当に。」

 

「ぐすっ…うん…喧嘩したまま死んじゃうなんて…悲しすぎるから…」

 

「仲直り…か。」

 

「どうしたの、フェイトママ?」

 

ヴィヴィオが不思議そうにフェイトの顔を見上げると、慌てて何でもないよと否定する。

ドラマは、主人公の娘、レイチェルが風船を空に向けて飛ばすシーンで幕を閉じた。様々な思いを父に向けて伝えるかのように。

 

「さ、2人とも、丁度寝る時間だよ?」

 

「うん!皆んなで寝よ〜」

 

「ひっぐ…ぞうだね…」

 

「カスミ、もう一回お鼻かもうね。」 

 

というわけで、ベッドインする一同。最初は狭くなるかと思われたキングサイズの4人使用も今や慣れたものだ。

 

「今日はどんな夢が見れるかな〜?」

 

「狼さんに追いかけられる怖い夢かもしれないよ〜?」

 

「むぅ…ママとカスミが一緒なら怖くないもん!」

 

「あはは…流石に素でオオカミの相手するのは無理かな…でも、どうせ見るなら良い夢が見たいな…」

 

「じゃあ良い夢が見れるように、私が子守唄、歌ってもいいかな?」

 

フェイトの意外な提案に、2人の娘は喜んで同意した。なのはも是非聴きたいと嬉しそうだ。3人が目を閉じたのを確認すると、軽く咳払いをし、フェイトは歌い始める。

 

ぼくはくま くま くま くま
車じゃないよ くま くま くま
歩けないけど踊れるよ
しゃべれないけど歌えるよ
ぼくはくま くま くま くま

 

ぼくはくま くま くま くま
けんかはやだよ くま くま くま
ライバルは海老フライだよ
ゼンセはきっとチョコレート
ぼくはくま くま くま くま

 

美しくも優しく、包み込むような歌声に、カスミとヴィヴィオはあっという間に眠りにつくのだった。

 

「おやすみ…良い夢を見てね。」

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…私…」

 

ふと気がつくと、カスミは綺麗な草原に立っていた。周りには様々な動物が走り回っている。すると、カスミの視界がふわっと遮られた。

 

「だーれだ?」

 

「ふぇっ⁉︎」

 

後ろから聞こえる声は、フェイトにとても似ていた。しかしそれにしては、声が自分と同じくらいの歳のものに聞こえる。思考をフル回転させると、カスミは一つの答えに辿り着いた。写真に写っていた、フェイトとそっくりの少女、確かその名は。

 

「アリシア…さん?」  

 

「ふふっ、せいか〜い!」

 

視界が戻ると、カスミの目の前に立っていたのは、自分と同じくらいの背丈をしたフェイトそっくりの少女、アリシア・テスタロッサだった。

 

「こんにちは、カスミちゃん。」

 

「初めまして…」

 

フェイトから聞いた話では、アリシアは既に亡くなっているはず。ということは。

 

「え、まさか私死んだんですか?」

 

「うん…人の一生ってあっという間だよね…」

 

ガクリと膝から崩れ落ちるカスミ、一体何故こうなってしまったのか考えようとしたが。

 

「…なーんてね!冗談!」

 

ぺろっと舌を出したアリシアに思わずひっくり返るカスミ。母の姉だった人は、中々にハードなジョークを言ってくれるようだ。

 

「こら、アリシア。折角のお客さんをからかっちゃダメですよ?」

 

すると、アリシアの保護者と思わしき、茶髪の女性が現れた。

 

「あなたは…?」

 

「カスミ、初めまして。フェイトの教育係をしていたリニスと申します。」

 

リニス、名前だけは聞いたことがある。フェイトのデバイス、バルディッシュを制作した人物であり、フェイトの育ての親でもあった人。

 

「貴方が…でも、フェイトママが持ってる写真に写っていなかったのは…」

 

「あの時点では私はただの猫でしたから。」

 

理解が追いつかないカスミに、リニスは噛み砕いて説明してくれた。ある事故でアリシアと一緒に命を落とした後、プレシアの手で使い魔として蘇ったということを。

 

「じゃあここは…夢の世界?」

 

「はい。今回カスミと会えたのは奇跡に近いことなんです。夢の世界は何でもありですからね。それに起きれば、殆ど夢の内容は忘れてしまいます。」

 

虚数空間がどんな世界なのかは分からないが、きっと現実には存在できないところなのだろう。だから、夢の世界であれば確率次第でこうして会える、カスミはそう解釈した。

 

「なら…いるんですよね?プレシアさんも。」

 

「はい、勿論。」

 

「会わせてほしいです。この夢がいつ終わるかもわからないので。」

 

寧ろ会わせてあげたいと言うリニスの案内で、アリシアと一緒にプレシアが住む小屋に到着すると、カスミは扉をノックした。

 

「プレシア、お客様ですよ。」

 

「リニス…貴方はまた勝手…に…」

 

扉を開け、カスミの姿を視認したプレシアは、何故かフリーズしてしまった。

 

「は、初めましてプレシアさん…カスミ・テスタロッサ・ハラオウンです。」

 

「フェイト…の…どうして…?」

 

「一つの奇跡、ですよ。」

 

フリーズ状態から被りを振って、プレシアは中へ3人を入れる。リニスとアリシアが遊んでいる間、カスミはプレシアと話していた。フェイトのこと、JS事件のこと、ヴィヴィオのこと、プレシアはその一つ一つを嬉しそうに聞いていた。まるで、あの時出来なかったことを少しでも埋めるように。

 

「カスミちゃん、ひとつ聞いてもいいかしら?」

 

「ええ…何でしょう?」

 

「私がかつてフェイトにしてきたことは…知ってる?」

 

「あー….はい。だいぶ酷いことしてましたよね。鞭で一杯叩いたり、大嫌いって言ったり。アルフさんから聞きました、鬼ババァだって。」

 

グサリという効果音がプレシアに突き刺さったような気がするが、気にせずカスミは続ける。

 

「でも…ママは今でも貴方のこと、母さんって呼んでます。大切な1人目の、自分をこの世に生み出してくれたお母さんだって。だからこうして会って、ママの仇だなんて言うつもりはありません。」

 

「そう…貴方の顔を見た時、正直殴られる覚悟だったわ。貴方は優しい子ね。」

 

「ただ…この夢もきっと終わって、記憶から消えてしまうと思います。だから一言、ママにメッセージをくれませんか?この夢を少しでも伝えるために。」

 

本人も気づいていたが、カスミの体は既に光となり始めていた。どうやら、体が完全に消える時、夢は終わるようだ。

 

「カスミちゃん、今からいう言葉は…フェイトへの言葉と思って聞いてくれる?私にはそんな資格はないだろうけど。」

 

「はい…勿論、伝えます。」 

 

プレシアは目を閉じ、深呼吸してから言葉を紡ぎ出す。

 

「貴方を否定して、手を伸ばせなくて、愛せなくて、ごめんなさい。今更愛してるなんて言っても…きっと嘘になる。だから、貴方は自分の人生を存分に生きて。生まれてきてくれて、ありがとう。」

 

その瞳には涙が光っていた。それはこれまでのことへの後悔か、それとも娘と孫娘への感謝か、きっと今ならば。

 

大切な言葉を受け取ったカスミは、残された時間の中で、必死に言葉を紡ぐ。カスミの瞳にもまた涙が光っていた。

 

「こちらこそ、貴方がいなければ、私はここに来ることは出来なかった。貴方がいたから、フェイトママたちに会えた。ありがとう…プレシアママ!」

 

涙を堪えて、飛び切りの笑顔を向ける。これが、今できるただ一つのことだと信じて。すると、消えかけているカスミの体をプレシアがそっと抱きしめた。

 

「フェイト達と仲良くね…元気でね…カスミ…‼︎」

 

「うん…また…またいつか会おうね…!」

 

その言葉を最後に、カスミの体は消えていった。まるで最初からいなかったかのように、何一つ残すことなく。

 

「行っちゃいましたね…ちゃんと伝えられましたか?」

 

「ええ…あの子がきてくれて、本当に良かったわ。きっと…大丈夫。」

 

「今度はフェイトも一緒に来てくれたら良いね、ママ!」

 

はしゃぐアリシアに同意するように、プレシアは彼女を抱っこするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…スミ!カスミ!」

 

「……フェイトママ?」

 

「よかった…寝てるのに泣いてたから、悪い夢を見てるのかなって…」

 

ホッとしたフェイトはカスミの背中を優しく撫でる。その心地よさに身を預けつつ、カスミはすべきことを思い出す。

 

「ママ、私ね…プレシアさんに会ったの。アリシアさんやリニスさんにも。きっと、ママが子守唄歌ってくれたから会えたの。」

 

「え…?本当に?」

 

「うん…沢山お話しして…それで……最後に……そう、フェイトママに伝えてほしいことがあるって。えーと…ね……」

 

夢の記憶は時間が経てば経つほど忘れてしまう。こうして思い出そうとしている間にも。カスミは必死に夢を辿り、一節を絞り出す。

 

“貴方は自分の人生を存分に生きて。生まれてきてくれて、ありがとう”

 

一言一句違わずに言えただろうか。不安になりつつ、見上げてみると、フェイトは泣いていた。声を上げることなく、静かに涙を流していた。そして、いつものようにカスミをそっと抱き寄せる。

 

「ありがとう、カスミ…ママ、凄く嬉しい。」

 

「うん…良かった。ママが喜んでくれて。」

 

互いに笑いつつ時計を見ると、時刻は6時。太陽が丁度上がっていた。

 

「もう少し寝る?」

 

「ううん、折角起きたんだし、フェイトママと一緒に朝ごはん作りたいな。」

 

「そっか…よし!じゃあ、一緒に作ろうね。」

 

「うん!」

 

その日の朝ご飯、フェイト特製の卵焼きと、カスミが頑張って作った目玉焼きは、なのはとヴィヴィオが絶賛する出来栄えだったそうな。




ということで、夢の中で亡くなった人たちにカスミが出会う回でした。プレシアが単なる悪女と言い切れないのは、余りにも壮絶で理不尽な形で娘アリシアを失ったことが大きいでしょう。フェイトにしてきた仕打ちは許せるものではありませんが、今回の夢の世界のように、幸せに暮らせていたらと祈るばかりです。

フェイトが子守唄を歌えるのは、育児書を沢山読んでいた過程で覚えたということでお願いします。宇多田さんの曲にしたのは、個人的な趣味でございます。深い意味はありません。
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